山田祥平のRe:config.sys

クラウドライブの時代




 Microsoftの「SkyDrive」、Googleの「Googleドライブ」。両巨人がようやく重い腰をあげてくれた。両者ともに、クラウド基盤のストレージサービスだ。今回は、これらのサービスについて考えてみることにしよう。

●ストレージサービスのリフレッシュ

 両サービスともに、突然始まったわけではない。SkyDriveはWebサービスとともに、Windows Live Meshの同期フォルダとして、GoogleドライブはGoogleドキュメントという形で、これまでも提供されていたサービスをリフレッシュしたものと考えていいだろう。

 これまでこれらのサービスを利用していたユーザーにとっては、改悪である点もあれば、改良である点もある。たとえばMeshの機能の1つであったリモート接続の機能はMeshをアンインストールすると使えなくなってしまう。クラウドでの保存をせずに、ピア・ツー・ピアで同期する機能もMeshならではだった。

 まず、SkyDriveは無料で7GBの容量が提供され、PCの任意のフォルダ内容を同期させることができる。これまではMeshユーティリティを使い、クラウドストレージだったSkyDriveの特別に確保された別領域5GBだけが同期フォルダとして設定され、その枠内で同期をしていたが、今回の刷新でメインの領域すべてが同期の対象となった。ただし、これまで25GBまで無料だったSkyDriveは7GBまでとなり実質的に減量となっている。これまでのユーザーは25GBが無償で確保されるようだ。別枠だった同期フォルダ5GB分がどのような扱いになるのかは今の時点では不明だ。25GB固定だったものが7GBまで無料、それを超えて同期させたい場合は、有料で容量を追加購入することができるようになった。これはこれで朗報だ。料金は、

20GB追加 - 800円/年
50GB追加 - 2,000円/年
100GB追加 - 4,000円/年

となっている。今のところ、それ以上の容量追加はできないので、ぼくの場合は、手元のデータすべてを丸ごと預けてしまうというのは容量的にちょっと難しいという印象を持っている。

 一方、Googleドライブは、これまでGoogleドキュメントとして提供してきたものに同期機能を追加した形だ。有料の容量追加も、

25GB - $2.49/月(+25GB for Drive and Picasa、Gmail storage 30GB)
100GB - $4.99/月(+100GB for Drive and Picasa、Gmail storage will be 30GB)
200GB -$9.99/月
400GB - $19.99 /月
1TB - $49.99 /月
2TB - $99.99 /月
4TB - $199.99 /月
8TB - $399.99 /月
16TB - $799.99 /月

となっている。金額はともかく、これだけの容量を設定できるのであれば個人で困ることはないだろう。ただ、コスト面では従来に比べて倍近い値上げになっている。

 ぼくは、Gmailの容量が7GBに達してしまったので、20GBの追加容量を契約していたのだが、その価格は年間$5だった。他のプランを挙げておくと、

20GB - $5/年
80GB - $20/年
200GB - $50/年
400GB - $100/年
1TB - $256/年
2TB - $512/年
4TB - $1,024/年
8TB - $2,048/年
16TB - $4,096/年

だったのだ。年払いだったのが月払いとなり、1TBで比較すると年当たりのコストは$256から$599.88へと倍以上の値上げになっていることがわかる。

 旧プランの契約は年ごとの自動更新でずっと維持することができるのだが、いったん新プランに移行してしまうともう戻れない。だから容量を増やしたいときには新プランに移行するしかない。こんなことになるなら、とっとと1TBのプランにしておけばよかったと後悔している。Googleドライブの噂は前からあった。まさか値上げがあるとは思ってもみなかったので、サービスが開始してから変更しようと思っていたのだ。きっと値下げもあるだろうとタカをくくっていた。

 個人的な事情としては、大物はiTunesのライブラリが百数十GB、デジカメ写真が700GB程度あり、他のファイルを含めても1TBあれば事足りるが、年間5万円近いコストはちょっと躊躇してしまう。一昨日までなら半額だったのにと思うと余計に悔しい。

●丸ごと全部か一部のみか

 コストの問題はさておき、SkyDriveとGoogleドライブを比べたとき、その思想の違いは、SkyDriveが丸ごと全部であり、Googleドライブは選択的であるという点にある。つまり、同期するフォルダをPCごとにGoogleドライブは選択できるが、SkyDriveではそれができないということだ。

 複数台のPCが手元にあって、それぞれのPCで同期するフォルダを区別したい場合は、Googleドライブを使うしかない。たとえば、ぼくの場合は、700GB近いデジカメ写真があるのだが、それを全部のモバイルPCに入れて持ち歩く必要はないし、モバイルPC側にも、そんなストレージの余裕はない。SkyDriveの最大容量が100GBとなっているのは、そのあたりの事情もあるのだろう。逆にいえば、Googleドライブのように数TBの容量が提供される可能性は薄いということなのかもしれない。

 スマートフォン連携はどうなっているかというと、現時点で、GoogleドライブについてはiOS用アプリがなく、SkyDriveについてはAndoroidアプリがない。ただ、どちらもブラウザを使っての操作が可能なので、リリースまではその環境を使えばいいと思ったのだが、GoogleドライブはiOSのSafariではうまく使えないようだ。また、iOS版のSkyDriveアプリでShiftJISのテキストファイルを開こうとすると、文字化けを起こす不具合もある。いろいろな点が落ち着くまでには、もう少し時間がかかるようだ。

 両サービスともSDKやAPIが公開されているので、純正アプリにこだわらなければ、使いやすいユーティリティが、これからどんどん出てくることが期待できる。現時点でも、Android用のBrowser for SkyDriveといったアプリが公開されている。

●ローカルディスクはクラウドのキャッシュ

 個人が複数台のデバイスを使うのが当たり前のようになり、どのデバイスを使うときでも同じデータを参照したいのは必然のニーズだ。DropBoxやEvernoteは、こうしたニーズに的確に応えてきたわけだが、プラットフォームとして複雑になりすぎたようにも感じている。その点、今回の両サービスは、ファイルやフォルダを同一に保つというシンプルな考え方がわかりやすい。ただ、またファイルの概念が押しつけられる懸念もあり、スマートフォンのユーザーにファイルの概念を強要することには問題があるかもしれない。

 SkyDriveについてはWindows 8との統合も期待が大きい。同じファイルの編集が競合してしまった場合、現時点ではコンピュータ名がファイル名に付加された別バージョンが保存されるようになっているが、その排他処理は、もっと合理的な方法で解決できるようになるのだろう。バージョンの履歴をとれることに魅力を感じるユーザーもいるはずだ。

 クラウドにデータを置くことで、少なくとも自己責任でバックアップをとりながらデータの安全性を確保するよりは、ずっとラクで安心だ。銀行がつぶれる時代なので、なんともいえないが、GoogleやMicrosoftがこれらのデータを失う事態に陥るよりは、バックアップともども自宅に置いておくことの方がリスクは大きいと思う。

 こうしたサービスの一般化によって、データの移行という煩雑で面倒くさいことからユーザーは解放される。それによって、PCの買い換えや買い増しのハードルが、これまでよりもずっと低くなるのは明らかで、それがなんらかのムーブメントにつながるかもしれない。それはそれで悪いことではないんじゃないか。