山田祥平のRe:config.sys

Surface Pro 4、そのモバイルの点と線

 そのデビュー時には、さまざまな議論を巻き起こしたMicrosoftのファーストパーティハードウェアとしてのSurfaceも、いつの間にか第4世代のハードウェアとなり、すっかりPCシーンに定着した様相だ。世代を重ねるごとに、細かい部分が少しずつ改良され、より洗練されたPCへの変貌を遂げている。

Surfaceのチックタック

 発売されたばかりの「Surface Pro 4」は、どちらかと言えばSurface Pro 3のマイナーチェンジのように見える。だが、良いところを残し、刷新できるところには思い切って手を入れるという方針はうまくいっている。この手法はまるでiPhoneのようだ。例えばiPhone 6と6Sでは見た目はほとんど変わらないが、内容的には別物というほどに手が入っている。あるいはIntelのチックタックもそうだ。

 同様に、Surface Pro 3に対するSurface Pro 4の完成度は格段に高いレベルにあると言えるだろう。そういう意味では偶数世代のSurface Proは、かなりお買い得だ。ただ、このサイクルがこれからも続くのかというと、それは分からない。特に、IntelのSkylakeプロセッサの後継が、どのようなタイミングで、どのような感じで登場するかも大きな影響を及ぼすだろう。

 Microsoftも、こうしてファーストパーティハードウェアの刷新を重ねてきて、水平分業されたハードウェアとしてのPCの産業構造が、まずは、Intelの動向に大きな影響を受けることを身をもって分かってきたんじゃないだろうか。

 Surface Pro 3とSurface Pro 4ではどこが変わったのかに注目する際には、何が変わらなかったのかということについて考えることも重要だ。それは、Surface Proのコンセプトを象徴する部分でもあるからだ。

 2013年に登場した初代Surface Pro、同年のSurface Pro 2は907g、アスペクト比16:9で10.6型液晶のタブレットだった。それが、Surface Pro 3でアスペクト比3:2の12型となり800gに減量した。たぶん、Surface Pro 3のタイミングで、Microsoftは、ピュアモバイルを諦めたのだと思う。

 今回のSurface Pro 4では、12型液晶はわずかに大きくなり12.3型となったが、アスペクト比3:2を変えず解像度は向上している。にも関わらず、本体の縦横サイズは同一、厚みは9.1mmから8.4mmへとスリム化している。重量も786gまで減量した。

キックスタンドはSurfaceのアイデンティティ

 個人的にSurfaceは自立する板だと思っている。それは初代から変わらないし、モバイルを捨てたSurface Pro 3以降も、そのコンセプトは引き継がれ、タブレットとしての使い勝手を大きく高めている。Surface Proにとって、キックスタンドの存在は、とても重要な要素だ。

 さらに、タイプカバー。画面を保護するためのカバーを兼ね、Surface Proとはマグネットで装着する。最新世代のタイプカバーの重量は295gで、Surface Pro 4本体と合わせると、1,081gとなる。12型タッチ液晶のノートPCとして考えると、重くもなく軽くもないといったところだろうか。机相当のスペースを確保できる場所での利用は全く問題ないが、モバイル利用では装着がマグネットでは、いつ外れるのかわからない不安感がつきまとう。外れたら本体は落下してしまうのだ。また、キックスタンドの不安要素として、たとえば机の手前部分にスペースを確保しようとして、本体を向こう側に寄せたときに机から落ちてしまう可能性、そして、もちろん、膝の上で使うときの不安定さはいうまでもない。常に、気を遣う必要がある。

 タイプカバーのキータッチは先代と比べて格段に良くなっている。キートップの間隔が広くなったことも功を奏している。ただ、これは好みにもよるが、個人的にはキーを叩いたときの返りが強すぎるようにも感じる。時折、叩いたはずのキーが叩かれていないことがまれに起こるのだ。返りの強さというよりも、叩いたことが検知されるときの荷重値が影響しているかもしれない。ここは、キータッチの快適さとのバランスの関係もあり、難しいところなのだろう。

 キータッチの向上に加えて、タッチパッドの操作感も改良されている。摩擦係数が低くなり、サラサラと操作ができるのは気持ちがいい。サイズも一回り大きくなっている。ただ、サイズは前のままでも良かったようにも思う。タイプ時の誤タッチを誘発しやすくなるからだ。

 全体的には大きく進化はしているが、ここは1つ、もう一歩の前進を求めたい。とは言うものの、タッチカバーを使わずに、好みのキーボードとマウスを使うというのもありだろう。あるいはマウスではなくペンだけという選択肢もある。タッチカバーはあくまでもオプションであるという位置付けなのだから。

こんにちは赤外線カメラ、さよならWindowsボタン

 見た目では何も変わっていないように見えるSurface Pro 4の大きな変化は、まず、本体からWindowsボタンが消えたことだ。Surface Pro 3では短辺右側にあったが、Surface Pro 4にはそれがない。これによって、Surfaceをタブレットとして使うときの心理的な垣根を取り払うことに成功している。少なくとも、本体を縦に構えるか、横に構えるか、どちらを上にするかといったことを、ほとんど気にしなくなったと自分で使っていて実感する。それに、Surface Pro 3では、横位置で使っているときに、スクロール操作などで画面を触っているときに、つい、Windowsキーを触ってしまうということがよく起こっていたが、それが皆無になったのはうれしい。

 もちろん、電源ボタンやボリュームキー、各種端子などは定位置にあり、構え方によって相対的な位置が変わってしまうが、それらを使いたいときにはキックスタンドで自立させていることが多く、必然的に定位置にあるので問題がない。

 もう1つの大きな変化は、赤外線カメラが搭載されたことで、前面カメラがWindows Helloのための認証デバイスとして使えるようになったことだ。その便利さは圧巻だ。もう、それだけでSurface Pro 3をSurface Pro 4に買い替えたくなるくらいだ。

 スリープ状態のタブレットを起こすために、電源ボタンを押すなり、タイプカバーが装着されていれば任意のキーを叩くことで、カメラがオンになって登録された顔を探す。そして、本人であると認証されれば、パスワードやPINの入力をしなくてもロックが解除される。これは実に便利で手軽だ。ただ、ロック画面の解除は手動になってしまうことが多く、スワイプするだけとはいえ、ちょっとわずらわしい。それには理由があって、以前、この連載でも紹介した

 また、Surface Pro 4のみならず、Surface Proはスリープからの復帰が遅いのが持病だ。それに、数時間スリープさせたままの状態が続くと自動的に休止状態に入るため1日の最初の使い始めのときにはストレスを感じる。顔認証に要する時間も決して速いとは言えず、スルリとサインインという具合にはいかないのは残念だ。Windows Helloそのものの処理は瞬時だと思われるので、スリープからの復帰という処理と何らかの関係があるのかもしれない。そのあたりは、これからのファームウェア等のチューニングで改善されていってほしい。

Surface Pro 3が好きなら、Surface Pro 4はもっと好きになれる

 たぶん、現時点で比較されやすいのはAppleのiPad Proかもしれない。iPad Proは、アスペクト比4:3の12.9型液晶。重量は713gでSurface Pro 4よりも70g以上軽く、厚みも1.5mm薄い。それだけ違うだけで、iPad Proにはずいぶん軽快感がある。

 片やモバイルOS、片やフルPC OSということで、本当は比べる方がおかしいのだが、コンシューマとはそういうものだ。画面のタッチで操作ができるタブレットということから同じ土俵に上がっているということなのだろう。かつてはMacBookと比較されることが多かったSurface Proだが、iPad Proとの比較という新たなステージでの真っ向勝負のフェイズに達したのは皮肉な展開だ。

 米国では同時に発表発売されたSurface Bookがあるため、Surface Pro 4は、余計に、iPad Proと比べられるようになっているのだろう。iPadと外付けキーボードを併用しているユーザー層が多いことを考えると、それも理解できる。

 Surface Pro 4は、任意の場所まで軽快に持ち運び、腰を据えて使う「点のモバイル」という使い方では完成の域に達している。キックスタンドなどの仕掛けも使い勝手を格段に高めている。初代Surface Pro、Surface Pro 2よりも液晶サイズが大きくなったところで、このユーセージモデルは不動のものになったといえるだろう。

 その一方で「線のモバイル」はどうか。例えば電車の中で立ったまま使うといった用途だ。あるいは、何らかの事情で、立ったまま、歩きながら、何かの作業が必要な場合などである。縦でも横でも使いやすいアスペクト比、手で支えながら使ってもさほど負担がない重量などでそこはクリアできている。

 これらについては、Surface Pro 3で既に実現されていたことかもしれないが、Surface Pro 4では、より洗練された形に進化しているといえる。だから、Surface Pro 3に魅力を感じていたユーザーは、Surface Pro 4の仕上がりにきっと満足するはずだ。もちろんぼく自身もそうだ。そこには、作る側がちゃんと日常的に使っているという気配が感じられる。

 Surfaceがこれからクリアしていかなければならないのは、この「点」と「線」をいかにシームレスなものにするかではないか。公園のベンチ、電車の座席、セミナーや講演会などの椅子席といった場所での使い勝手をどのように確保するか。それをキックスタンドの改良やキーボードの装着方法といった方法で訴求するのか、それとも、ペンをもっと強く訴求していくのか。

 少なくとも現時点では、クラムシェルやYOGA機構のノートPCではなく、Surfaceを選ぶ理由を、ユーザー自身が熟考する必要がある。新しいペンの書き味は確かに素晴らしいし、Skylakeの処理性能も申し分ない。公称9時間のバッテリ駆動は話半分と納得するにしても、完成の域に達したこのハードウェアを、どう演出するかを、ソフトウェアでさらに洗練できる可能性こそがMicrosoftという企業の強みではないか。

 少なくとも今は、Surface Pro 5の姿は見えない。作っている側も、同じジレンマを感じているのだろう。その1つの解がSurface Bookだったのではないか。

(山田 祥平)