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【特別編】世界最小最軽量929gへの道

〜レッツノートSZ5開発者インタビュー

 パナソニックのレッツノートSZ5は、「軽量」、「長時間」、「頑丈」、「高性能」のすべてを満たしながら12.1型スクリーン、光学式ドライブ内蔵で世界最軽量の約929gを実現したモバイルノートPCだ。

 ベストセラーのSXシリーズから、何も失うことなく驚異的な進化を遂げ、20%を超えるダイエットを実現したこの製品はどうやって開発されたのか。開発に関わったパナソニック AVCネットワークス社 ITプロダクツ事業部テクノロジーセンター レッツノートプロジェクトリーダーの坂田厚志氏、機構設計担当の田中慎太郎氏(モバイル開発部機構設計1課)に話を訊いてきた。

パナソニック AVCネットワークス社 ITプロダクツ事業部テクノロジーセンター レッツノートプロジェクトリーダー 坂田厚志氏
機構設計担当 田中慎太郎氏(モバイル開発部機構設計1課)

――SZ5はSXシリーズの後継となりますが、SXシリーズの初代機SX1は2012年2月の発売ですね。第2世代のCoreプロセッサ搭載、つまりSandyBridgeプラットフォームでした。直近のSX4は第5世代ですから、その間、ほぼ同じ筐体で3年半というのはかなり長いインターバルに感じます。何か、変えてはならないという不文律でもあるのでしょうか。

坂田氏: 頑固に変えないという宿命があるわけではありません。今、レッツノートはSZ、MX、LX、RZという4つのシリーズがありますが、SX1の前年(2011年)に世に出した15.6型のB10が、モバイルノートとしてはたまたま大きすぎたということで、そこまで大きくなくていいのでLX、タッチができるものとしてMXといったシリーズを用意しています。

 これらを順にモデルチェンジしていくと、どうしても、そのくらいのインターバルが必要になります。やはり、現在の体制では2台同時は無理ですね。

――SXからSZになりましたが、基本的にS型番シリーズはレッツノートの中核をなす存在ですよね。割合としてはどのくらいなのでしょうか。

坂田氏: Sの占める割合は、レッツノート全体のほぼ半分を少し切る程度でしょうか。2台に1台とまではいきませんが、相当の割合を占めるレッツノートの代名詞といってもいいシリーズです。お客様のご要望もSシリーズに対するものが集中してきます。ヒアリング自体はいろいろやっているのですが、やはり軽量化を望まれる声は各方面から聞こえてきます。重量を減らそうと、試行錯誤はしてきましたし、LXではどうしよう、MXではどうしようと、いろいろと知恵を絞ってきています。

 素材を変えたらどうかとか、いや、マグネシウムを使った王道で軽くしようとか、手法を変えてみたらどうだろうなど、試行錯誤を繰り返してきました。

あと200g - マグネシウム天板を0.55mmから0.45mmにして40g減量

0.45mm肉厚の天板。塗装によって微妙に重量は異なる。凝った塗装の方が重くなるという

――そしてSX4シリーズの1,170gから、今回のSZ5シリーズの929gへと、実に241gのダイエットを遂げました。20%を超えるダイエットで驚異的です。どんな魔法を使ったのでしょうか。

田中氏: 基本的にはRZの手法を踏襲しています。原型はRZ5なんですね。もっとも最近出たのが先秋のRZでしたから、それをブラッシュアップしていく方向で考えました。

 ただ、RZとまったく同じことができないんですよ。RZよりもフットプリントが大きいからなんです。そこに大きな壁がありました。このサイズになると部品としてのモノづくりが、いきなりやりにくくなってきます。

 例えば、天板を作るとします。製造の過程では溶けたマグネシウムが向こう側に通っていくんですが、RZの時のように、はいできあがりというわけにはいかないんです。溶けた金属はドロドロしているのですが、鋳造は物理的なサイズによってどの長さまでいけるかが決まります。ちょっとでも長いと歩留まりは落ちていきます。今回はできたからといって、次のLXでは無理になります。って、次のモデルチェンジがLXだってバレバレですね(笑)。

 いずれにしても、今回は、ボンネットを凹ませる工夫をしましたが、その結果、鋳造時に溶けたマグネシウムがうまく流れなくなってしまいました。仮に流れたとしても部品が上方向に反ってしまうんです。少し分厚いのならいいですが、0.45mmですからかなり薄いです。出来上がったものは、上に反ったり、凹んだりまちまちな結果になり、均質化が難しいことが分かりました。

 だったら、ボンネット部分を凹ませるチャレンジをしてみようと思いつきました。全部が凹むようにすればうまくいくんじゃないかというわけです。上に反るとベコベコになるんですが、内側に反れば目立たない。そこで、意図的にちょっと凹ませた形状でやってみたら、良品率が格段に上がったんです。普通、鋳造というのはイメージとしては真っ直ぐのものを作るのですが、明示的に凹ませたのは初めてです。

 その結果、天板についてはSXの0.55mmから、今回は0.45mmにして10g単位で減らすことができました。今回は最初に重量スペックを決めました。それを実現するにはどこからやるかということなのですが、肉厚0.45mmでやることは決まっていたのに、最初にぶちあたった絶対無理という壁がここでした。

 ただ、この手法は自分の感覚では6割くらいの勝算がありました。心配はちょっと反らせるつもりがすごく反ってしまったらどうしようというところですね。いろんな形状の手当てを考えたましたが、ひょっとしたらと思って提案してみたところ、メーカー側もそれは面白いということで、やってみたらできたといったところです。

あと200g - ドライブ関連重量はまさかの±ゼロg

――企業向けの光学ドライブなしのモデルは80g軽いんですね。この重量のインパクトは大きいように感じます。

坂田氏: 軽くするためにはフットプリントを小さくする必要があるので、ドライブを真ん中に置くことになりました。ちょうど基板の下にドライブの一部を潜り込ませるイメージです。前のSXでは部品としてのドライブは45gだったのですが、20gの蓋があったり、金具があったりで、関連重量を全部合計すると、SZ5とほぼ同等か、SXの方が軽いくらいでした。フットプリントの削減には貢献していますが、ドライブでのダイエットはプラスマイナスゼロという感じに終わっています。

ドライブと基盤を重ね合わせることでフットプリントを小さくした
手前部分のトレイの幅よりユニットの幅の方が狭いことがわかる
ドライブは基板下部に潜り込むように実装されている
ドライブユニットの外装は極限まで削り取られている
削り取ったことで基板の下部に潜る
結果としてこれだけの横幅を節約できた

あと140g - 液晶スクリーン関連で60g減量

――今回は、16:9ではなく16:10の12.1型液晶です。使い勝手は飛躍的に高まりましたね。

坂田氏: 液晶ユニットはガラスの厚みを削っています。約0.2mmです。前は0.3mmでしたが、それだけで15〜20g減りました。そのほか、構成要素を見直しています。中のシートや導光板、プリズムシートなどに軽く薄いものを使っています。

 それが重量に効いてくるのは分かっていますが、薄くすることでたわみやすくなってしまいます。柔らかくなり曲がりやすいからです。それが液晶に衝撃が加わった時に、割れるか割れないかという結果に繋がります。それでも、合計で50〜60gを削ることができました。

田中氏: ここだけの話ですが、実はSXシリーズの重量は、最終的に1,150gくらいになっていました。公称値が1,170gでしたから、20gの余裕があったことになりますね。

あと90g - SSDをM.2に変更して50g減量

坂田氏: ストレージの軽量化ですが、これは簡単でした。部品を変えるだけですから、最初から見込みの中に入っていた要素です。SXのSSDモデルは、ケースに入ったパーツを使っていましたが、今回はM.2になったのでそれだけです。

あと50g - 部品の見直しでユニット全体を40g減量

――かなり929gに近づいてきました、そこから先はどうしましたか。

田中氏: まず、樹脂部品をなくすこと、さらにシートを減らすことを考えました。大きかったのはファンですね。SXではヒートパイプで熱を逃がしていたのですが、このパーツ、銅製なので一番重いんです。

 結果としてファンを基板の上に載せてしまおうということにしました。これでヒートパイプがずいぶん短くなって軽量化に貢献しています。

 さらに今回はスロットのないオンボードメモリのみの構成です。ユーザー側での増設はできませんが、片側だけでもスロットが8gありますから、2基あった部品を減らせたことも大きかったですね。これで、ユニット全体で考えたときに40g軽くなっています。

実機の上にマザーボードを重ねてみると位置関係がよく分かる。ファンのヒートシンクを最短ですませている
基板の上に置かれたファンユニット

あと20g - 機構全体を見直して30g減量

田中氏: 残りはその他もろもろですね。外からメモリを増設するための蓋もありません。とにかく部品点数が減っていますし、今回はドライブも外せない機構です。また、企業向けのスマートカバーを付けるための蓋もありません。これらをまとめると、20gから30gをダイエットできています。

あと20g - バッテリは以前と同じで±ゼロg

――バッテリ駆動時間が延びていますが、容量に変更はありましたか。

坂田氏: Sバッテリが4セルで、Lバッテリが6セルですが、サイズはまったく同じです。今回はセル当たりの容量は以前と同じです。容量の大きなセルを使うと重くなりますし、実績があってこなれているというメリットを取りました。

 それでもバッテリ駆動時間が思った以上に延びています。液晶の消費電力とともにSkylakeプラットフォームの影響が大きいですね。以前12時間だったものが14時間にまで延びています。メモリがLPDDR3になったことも含めて省電力に貢献できています。プラットフォームとしてはあまり問題はなかったですね。

あと15g - キーボードの見直しで5g減量

――今回、叩いてみたところキーボードの感触がとてもよくなったと感じました。何が変わったのでしょうか。

田中氏: そう言えばパーツとしてのキーボードが5g減っていますね。ただ前と同じものを作ろうとしただけなんですが、減量は必要ですから、ベース部分は穴だらけです。

 とにかく2mmというストロークを変えずに薄くしようとしたのですが、結果、キーボード全体を0.2か0.3mmだけ薄くすることができました。同様に、キートップの厚みも薄くしてあります。

 構造としてパンタグラフは同じなんですが、それをひっかける部品としてのホルダーを今回はインサート成型で実装しました。キートップをひっかける部分を一体化したんです。目的は全体を薄くするためなのですが、これまでは溶着していたプロセスを、型で流し込むようにしています。もしかしたら、その結果、キートップが揺れにくくなったように感じるのかもしれません。材質としては同じです。キーストローク1.5mmの最高打鍵感はRZのものだと思います。それにより近づけることはできるはずだと考えていました。

 でも、出来上がった物のこの打ちやすさは、正直なところ意図したものではありませんでした。とにかくRZのキーボードを踏襲したら、それがいい結果に結びついたということなのでしょうね。最終的に打ちやすさを示すフィーリングカーブはSXとほとんど同じにできました。

キーボードも軽量化のために穴だらけ
キートップをささえるのはパンタグラフだがホルダーがインサート成型されている
打鍵感のよいSZ5のキーボード。さまざまな要素がいい方に転んだ
SX4のキーボードではパーツとしてホルダーがパーツとして後付けで使われていた
SZ5のキーボードではホルダーがインサート成型で一体化されている

えっ? 900g? - 補強のために30gを戻す

――あと15gというところまで来ました。その後がものすごく大変だったとか。

坂田氏: いえ、ここまでのことをやってみたところ、最初の試作機は900gを切るところまで来ていました。このままだと899gとかで出せるんじゃないかとも思っていたくらいです。

 ただ、お馴染みの落下試験などで、最初はよく壊れていました。軽くしたことの副作用があちこちに出た結果です。さすがに外装だけで40gも軽くなると補強も必要になるということですね。量産の前段階ですから、そこにさまざまな補強パーツのために30g足して前と同じ強度を確保しました。それで出来上がったのが929gの製品です。

 今回は、かなり無茶なところからスタートしたように思いますね。でも、考えていることは全部やったはずです。これからはこの製品のフィードバックをいただき、次のモデルチェンジに向けて地道にやっていきますよ。

――ありがとうございました。

(山田 祥平)