山田祥平のRe:config.sys
祈りなさい、されば繋がるPlug&Pray2.0
(2015/3/20 06:00)
機器と機器を結ぶとき、人間はずっとインとアウトを考えなければならなかった。でも、デバイスの多様化によって、インとアウトの関係は複雑化し、しかも曖昧になりつつある。そんなトレンドの中で、USBのような汎用的な接続規格はどのような方向に向かうのだろうか。
受けと送りを引き受けるデュアルロール
新たに発表された「MacBook」が、いち早くUSB Type-Cを採用したことが話題になっている。USB Type-Cケーブルは、両端のプラグが同じで、しかも裏表どちらの向きにも挿し込めるリバーシブルが特徴だ。
これまでのUSBは、リバーシブルどころか、AコネクタとBコネクタが厳密に区別されていて、ホストとデバイスの関係を意識することを人間に求めてきた。つまり、ホストの要求に従って、デバイスがそれに応えるという図式だ。デバイスとしてのUSBメモリをホストとしてのPCに装着すれば、その読み書きができるというのはその典型だ。
ところが、スマートフォンで一般的に使われるようになったUSB OTG(On The Go)によって、この図式にちょっとした変化が起こった。
スマートフォンをPCに接続するとき、PCがホストでスマートフォンがデバイスとなり、例えば、PCからスマートフォンを扱うことができるようになる。ところが、OTG対応のUSBメモリを、同じMicro USBプラグでスマートフォンと接続すると、スマートフォンがホストになり、USBメモリはデバイスになるのだ。このとき、スマートフォンは、接続された機器に応じてホストとデバイスの2通りの役割を果たす。
これが「デュアルロール(二役)」だ。そして、USB Type-C の普及は、この「デュアルロール」をますます促進することになるだろう。さらに、Altenateモードがサポートされ、線上を、USB以外のプロトコルを使った信号を流せる。DisplayPort、Thunderbolt、MHLといった映像/音声の出力規格は、この仕組みを使っている。
また電源としても機能し、これまでのようにデバイスにバスパワーとして電源を供給することができるのはもちろん、スマートフォンを充電するように、この端子を使って電源を確保することもできる。だからDC入力端子もいらなくなる。
つまり、ケーブルの種類は1つ、端子の形状も同じ、裏表も無関係で、何も考えずに機器間を接続すればそれで何とかなってしまうというのが、これからのPlug&Playになるわけだ。
ノートPCの購入に際して、機器を選択する際に、この製品はHDMI端子があるとかないとか、USBで充電できるとかできないとか、フルサイズのUSB端子がいくつあるかとか、電源アダプタの入力プラグの形状はどうかなどなど、いろいろなことを気にしていたわけだが、今後、デバイスに装備される端子の種類はUSB Type-Cのみになるだろう。もう、出張に持ち出したACアダプタが別の機器用のものだったといった失敗はなくなる。もちろん、その端子に担わせる役割は、機器ベンダーに委ねられることになるが、機器の拡張性はUSB Type-C端子がいくつあるかということだけに依存するようになるだろう。
新型のMacBookは、唯一、オーディオ出力用端子が装備されているが、場合によってはここもUSB Type-Cに置き換わってしまうかもしれない。必然的にイヤフォンそのものも、お馴染みのステレオミニプラグではなくなり、USB Type-Cプラグを持つようになるわけだ。
15年かけて普及したUSBが新しくなる
USBが一気に普及したのは、トランスルーセントの「iMac」が、その入出力をUSBに一本化した1998年頃で、WindowsについてはWindows 98 SEで正式サポートしている。本格的な普及は、2000年以降のUSB 2.0以降で、以来、15年間をかけて誰もが知っているポピュラーな汎用規格に成長した。
初期のUSBは、プラグ&プレイをサポートしながらも、プラグを挿してもうまくドライバがインストールされないなどのトラブルが頻出し、Play(実行する)をPray(祈る)と置き換えたジョークもよく耳にした。
冒頭のタイトルは、このジョークをもじったものだが、USB Type-Cによって、ようやくプラグ&プレイ2.0といってもいい環境が実現されようとしているのは実にうれしいことだ。
今週、中国・深センで開催されているMicrosoftのハードウェア開発者向け会議WinHECでは、Windows 10に関するさまざまな発表があり、個々のセッションではWindows 10がサポートするさまざまな技術について詳細が紹介されているようだ。セッションのスライドをダウンロードしてチェックしてみると、USB Type-Cについてのものも見つかる。4月に開催が予定されている開発者向けの会議//buildまでは、このカンファレンスでのセッションスライドが、とりあえずのリファレンスとなるだろう。
ちなみに、同じ種類のWindows PC間をUSB Type-Cケーブルで接続した場合、Windows 10はそれをエラーとして認識して修復するそうだ。ここはもうちょっと何とかならなかったものかと思う。
汎用化によるいいこと悪いこと
入出力の方向を考えなくてもいいということの便利さを知ったのは、有線LANのHubで、用意されているポートのどこにストレートケーブルやクロスケーブルを装着しても正常に機能するようになった時のことだ。いわゆる“Auto-MDIX”として知られる機能だ。この機能のおかげで、少なくともネットワーク機器の接続についてはミスがゼロになった。かろうじて残っているのは有線Hub付きルーターで、こればかりは、WAN側とLAN側を意識しなければならない。だが、多くのデバイスが有線LANポートを装備しなくなってきている今、この先はどのような実装になるのだろう。
とにもかくにも、世の中は汎用的なものですべてが完結するのがいい。いわゆるプロプライエタリなものを排除することで、いわゆる混乱と訣別できるからだ。専用ケーブルがないと充電もできないデバイスは世の中から消えてなくなればいい。そうすれば、出先でバッテリ切れを起こして悲しい思いをしなくても済むようになる。
ただ、心配なのは、汎用的なケーブル類のすべてが規格に完全に準拠した安全性の高いものであるかどうかを判別しにくくなる点だ。
例えば、iPhoneで使われているLightningプラグは、Appleが供給し、正規にその供給を受けたベンダーだけが独自のケーブルに仕立てることができる。製品化には認証(MFI)が必要で、誰もが自由に製品を作れるわけではない。これによって、Appleは、勝手ケーブルが世の中に流通して充電時の発火やバッテリへの負担過といったトラブルが起こらないようなコントロールをしている。
その一方で、今や、100円ショップでもカンタンに手に入るMicro USBケーブルは、その品質という点でまちまちだ。普通に充電できていると思っていても、それはただ運がいいだけかもしれないと考えると、ちょっと怖くなる。
認証の必要なLightningと、それがいらないMicro USB。価格差もものすごい。このすべてがUSB Type-Cとして一本化されるようなことがあれば、この世界のエコシステムはどのようになるのだろう。
今、量販店頭にはあらゆる用途のためのケーブル類が溢れていて、形状、オスメス、材質、品質、互換性と、注意深くパッケージを選ばないと目的を達せない。だが、今後は、ケーブルを選ぶに際して考えなければならないのは、その長さくらいになるのだとしたら、喜ばしいことであると同時に、どれを選ぶかが消費者の自己責任になる。まさに接続して祈るということが笑い話にならなくなる可能性もあるということだ。
プラグ&プレイはこれでようやく2.0。祈らなくてもいい時代は、まだ、少し先になりそうだ。