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CESで思った「あると邪魔だがないと困る」、それがPC

 毎年頭恒例のCES取材。今年(2015年)もラスベガスにやってきた。2000年以降、15回目の参加になるが、今年はちょっとした違和感を感じている。だからこそ、毎年同じ場所にやってきて同じことをするのは重要だ。このもやもやは一体何なのかを考えてみた。

ぼくらのCESはどこに行った

 ラスベガスに到着早々、体調を崩してしまい、ラスベガス滞在期間の前半は、幸か不幸か、ホテルの部屋で長い時間を過ごした。出席するプレスイベントも最低限に絞り、夜もさっさと部屋に戻った。おかげで、仰向けに横たわって、部屋の白い天井を見つめながら、いろいろと考え事をするゆっくりした時間を持てたのはケガの功名とも言えると、自分で自分を納得させている。

 さて、そのCESだが、本来の会期が始まり、会場を少しウロウロしながら今回のコラムタイトルの通り、いつもと違う印象を受けている。その違和感の筆頭は、PCはどこにいったのだろうということだ。この15年、ぼくの知っているCESの中で、もっともPCの存在感が希薄になっているのではないだろうか。もはや、探さないと存在を確認できない。

 もちろん、探せば話題はたくさんある。特に、IntelがCESにあわせてBroadwellこと14nmプロセスの第5世代Coreプロセッサを発表したことから、それを搭載した各社のPC新製品が勢揃いしてお披露目されてもいる。ただ、Intel CEOのブライアン・クルザニッチ氏による基調講演では、その新プロセッサについては一切触れられることなく、話題はIoTやRealSenseのに終始した。同社が考えるコンピューティングにおけるPCは、数あるデバイスの1つに過ぎないという扱いだ。同社は次のコンシューマテクノロジの主役はウェアラブルであると断言する。Computing Unleashed、つまり、コンピューティングの存在を意識しないコンピュータとのインタラクションが同社が今取り組んでいるテーマだ。

 PCがコモディティと呼ばれるようになって久しいが、ぼくらの暮らしの中でPCが担ってきた役割は、その多くを他のデバイスに譲り渡すことになってしまっている。それでもPCはあると邪魔だがないと困る存在として生き続けている。

デバイス輪廻

 ぼくがCESに通うようになった2000年頃は、PCやIT関連の展示会と言えば、同じラスベガスで毎年開催されていたCOMDEXがその筆頭だった。乗ったタクシーの乗務員に、CES PeopleはジェントルだがCOMDEX Peopleはひどいとまで言われる始末で、COMDEXとCESはまるで別のイベントだった。

 ところがCOMDEXが終焉し、CESにCOMDEX Peopleが押し寄せることになったのがこの10年だ。極端に言えば新参者が荒らしたこの10年間のCES。だからこそ、この半端ないアウェイ感というわけだ。CESが変わったんじゃない。ぼくらがCESに乱入しただけの時期が続いていただけで、それが収束したのが今年ということかもしれない。

 そして、今年のCESの話題はというと、今まで冷蔵庫や掃除機、エアコンなどを使うときに考えもしなかったセキュリティや、クルマの自動運転などが一気に台頭している。そういう意味では家電やクルマといった耐久消費財がCESの主役に戻ってきただけだとも考えることができる。もう、メインの会場に残っているCOMDEX PeopleはIntelだけだ。MicrosoftもHPもDellも、そしてLenovoもいない。CESのメイン会場を占拠していたかつての巨人たちは、すでにCESの主役ではなくなっているわけだ。

 でも、長い歴史の中では、クルマ社会は今なお健在だし、高度成長時代の1950年代頃を振り返れば、白黒TV、洗濯機、冷蔵庫などは、三種の神器と呼ばれていたくらいだ。つまり、時代を支えるテクノロジは主役を交代しながら結局はグルグル回っているだけであるともいえる。だから、後10年もすれば、またPCが主役を担当する時代がやってくるというのは、決して笑い話ではないわけだ。

 そんなことを考えながら年頭の恒例行事としてのCESでの時間を過ごし、ゆっくりと考え事ができた次第だ。頭の中に浮かんだ万ごとは、今年の執筆活動に順次活かしていきたいと思う。

CESとラスベガスと通信と

 さて、CES期間中のラスベガスだが、その通信事情は今年はどうか。少なくとも大手のキャリアを使う限り、以前のようににっちもさっちもいかないという状況ではなくなっているのはさすがだ。

 今年は、いろいろと悪あがきを試してみた。

 個人的に、海外においてはできるだけ現地のキャリアのサービスをプリペイドSIMを使って利用するようにしている。キャリア選びのポイントは、多少価格は高くなってもできるだけその地域の最大手キャリアを選ぶということだ。日本であれば「腐ってもドコモ」といったところだろうか。

 米国内におけるドコモ的存在はVerizonだ。ただ、このキャリアのサービスはCDMA2000によるもので、それをプリペイド利用するのはハードルが高かった。ただ、同社が「4G SIM Activation Kit」という製品を用意していて、さらに、対応端末を自前で用意するBYODを認めていることが渡米前に分かっていた。

 サービスを利用するための費用は45ドル/月で無制限の通話とSMS、そして500MBのデータ通信だ。さすがにこれではデータ量が足りないが、5ドルで500MB(有効期限30日)、10ドルで1GB(同90日)、20ドルで3GB(同90日)を追加できる。米国出張が平均1週間だとすると、そのたびに65ドル程度の費用がかかるが、その金額でVerizonの強大なネットワークが通話を含めて利用できるのなら納得できる。プリペイドなので、うまく工夫して残高不足にしておけば使わない月のコストはかからないはずだ。年間、3回程度は渡米しているので、なんとかなるだろうという胸算用をしていた。

 この対応BYOD端末というのは、基本的にVerizonブランドの端末だ。「Galaxy」シリーズなども含まれているが、それを調達するのは難しい。だが、iPhoneなら不可能ではない。手元には秋に入手したSIMフリーの「iPhone 6 Plus」もあり、対応周波数的にはVerizonのネットワークで使えるはずだ。

 今回は、これでなんとかVerizonを使えるようにすることをもくろみ、現地入りして少し動いてみた。

 iPhone 6 Plusを持って、Verizonのショップを訪ね、サービス利用の可否を尋ねてみると、できるかもしれないという。だが、設定メニューでIMEIを調べ、データベース照会するものの、残念ながら対象外という結果になってしまった。

 日本で購入したSIMフリー iPhone 6 Plusは、モデルがA1524だが、これが米国で発売されていないからだと思われる。

 がっかりしてホテルに戻り、なんとかiPhoneをVerizonで使えないかといろいろと悪あがきを試行した。とりあえず通話は諦めるしかない。秋に交通事故に遭ったこともあり、回線交換通話ができないことには不安も残るのだが仕方がない。

 Verizonのネットワークでデータ通信をするには、iPadのプリペイドプランを使うのがもっとも簡単だ。持参しているiPad Airは、昨年(2014年)のCESのときに購入したもので、Verizonのnano SIMが装着されている。このSIMを装着したiPadでOne Dayプランを申し込む。これが5ドル/日で300MBだ。決済にはインターナショナルクレジットカードが使えないので、最寄りのコンビニでVISAギフトカードを買ってくる。今回は100ドルをチャージしたカードを手数料込み104.95ドルで購入した。これで100ドルをあたかも米国内で発行されたクレジットカードであるかのように使える。

 プランを有効にするとiPadでVerizonのLTE/CDMAネットワークが使えるようになった。さすがの速さを実感できる。ここでiPadからSIMを抜き、iPhone 6 Plusに装着すると、そのままデータ通信ができることが確認できた。当然、通話はできないが、iPhoneだけを使うのならこれで十分だ。ただしテザリングができない。このアカウントではインターネット共有ができない旨のメッセージが表示される。

 そこで、そのプランが切れるのを待ち、1GB/月で20ドルのプランを試してみた。もうやけくそだ。結果は同じで、やはりテザリングはできなかった。

 ところが、その翌日、あろうことか、米国内で、SIMフリーiPhoneの発売が開始されたのだ。なんというタイミングだろう。もちろんそのモデルはA1524だ。

 そこで、もう一度Verizonのサイトを開き、サポートのページからLIVE chatでオペレータを呼び出して詳細を聞いてみた。筆談や身振り手振りに頼れない電話での英会話に自信がない場合は、文字によるチャットの方がずっとコミュニケーションがしやすい。AppleがSIMフリーiPhoneとして、A1524の発売を開始したことを伝え、プリペイドサービスとの互換性を聞いてみると、オペレータは手元のiPhoneのIMEIをたずねて照会してくれたが、結果は残念ながらNGだった。オペレータによれば、発売されたばかりだからという可能性が高く、次回に渡米する春頃にはOKになるかというと、おそらく大丈夫ではないかと応えてくれた。

 その言葉を信じて次回渡米時にチャレンジすることにしよう。

 そんなわけで、スーツケースからWiMAX内蔵PCを取り出し、今年の秋には終了するとされているClear WiMAXのWeek Passを申し込んだ。外出時は、いつものようにT-Mobileの3ドル/1日プランで乗り切る。通話とSMSが無制限、データは200MBまで4Gスピードのプランだ。

 余分な投資は必要だったが、いろんなことが分かってよかった。こうしたエネルギーや費用のことを考えると、実は、日本で借りるレンタルルータがもっともリーズナブルかもしれないなとも思ったりする。願わくば、音声通話つきのSIMのみをレンタルするようなサービスが出てきてほしいものだ。

 というわけでCESで始まった2015年。なにやら波瀾万丈な予感もあるが、今年も、この連載をご愛読いただきたい。

(山田 祥平)