山田祥平のRe:config.sys

マルチデバイス対応で嬉しいロジクールのウルトラタッチマウス

 スマートフォン、タブレット、ノートPCと、デバイスはさまざまだが、個人が複数のデバイスを携行するのが当たり前になってきた。このトレンドは、今後、ますます上昇の傾向がある。ロジクールの「ウルトラスリムタッチマウス T630」は、まさに、このトレンドにマッチした製品だ。今回は、そのインプレッションをお届けしよう。

アナログ感覚でPCを切り替え

 有線マウスの時代は、異なるPCで愛用のマウスを使いたいときには、USBケーブルを差し替えるだけでよかった。専用のトランシーバがついているものも同様で、USB端子からトランシーバを抜き、それを差し替えればいい。

 だが、人間は勝手なもので、それさえ面倒になっていく。また、最近は、Bluetooth内蔵のPCが当たり前になってきていて、マウスのようなHIDもまた、Bluetooth対応のものが増えてきた。

 Bluetoothでの接続では、使う前にペアリングという儀式が必要となる。多くの製品では、マウス底面などに装備された小さなコネクトボタンを長押しして待ち受け状態にし、PC側で接続のための操作をしてペアリングする。慣れればなんということもない作業だが、これはこれで結構面倒くさい。

 デバイスによってはBluetoothのマルチペアリングの機能を持つものもある。だが、マウスはこの機能には向いていない。2台のPCとペアリングできたとして、2台ともPCが操作可能な状態になっている場合に、どちらに接続すればいいのかわからないからだ。

 ロジクールのウルトラスリムタッチマウス T630は、底面にスイッチを用意し、それを切り替えることで、2台のPCと接続できる。実にアナログだ。

 PC 1とPC 2の切り替えができるスライドスイッチが用意され、それを切り替えて、あらかじめ2台、別々のPCとペアリングしておくことで、使いたいPCの側にスイッチをスライドさせれば、そのPCの操作ができるようになるというものだ。マウスの電源を入れっぱなしでも、この切り替え機能は有効で、目の前に両方のPCがある場合も、スイッチの切り替えだけで操作するPCを切り替えることができる。ロジクールでは、この機能をEasy-Swithテクノロジーと呼んでいる。

各種のジェスチャに対応

 このマウスは、通常のモバイルマウスとして見た場合も秀逸だ。重量は70gと携帯性には全く問題がない。フットプリントは名刺よりも一回り小さく、また、薄さ18.1mmとかなり薄い。厚みがないため、一般的なマウスに慣れていると、掌で覆ったときに、掌と本体の間に空洞ができるので、若干不安になってしまうくらいだ。

 ボタンは装備されていない。というのも、ほんの少し出っ張った底面がマウス本体の内側に押し込まれることで、マウスの押し下げを検知する仕組みになっているからだ。それも、左クリック、右クリック、中央クリックを検知するので不便はない。

 また、表面がタッチに対応し、1本指による水平、垂直スクロール、また、右エッジスワイプでチャーム表示、左エッジスワイプでアプリケーション切り替えができる。さらに、ブラウザの戻る/進むなどもサポートしている。また、2本指のダブルタップで、スタート画面、デスクトップ画面への推移など機能は豊富だ。

 これら1本指、2本指のスワイプに割り当てる機能は、同社のマウス用ユーティリティ「SetPoint」を入手してインストールすれば、ある程度自由に設定することができる。

 スワイプの操作は親指と薬指でマウスを挟むような格好となる。つまり、マウスが動かないように、しっかりつまんで固定するわけだ。こうして固定しなければ、マウス本体が軽すぎて、いっしょに動いてしまうのだ。

 人差し指1本はともかく2本指の右から左へのスワイプは中指と薬指を離す方向になり、ぼくとしては苦手だ。だから、この操作は水平スクロールをあきらめて1本指に割り当ててしまった。こうした柔軟な対応ができるのはうれしい。

 電源は内蔵のバッテリを使う。Micro USBケーブルでPCなどと接続することになるわけだが、約1時間の動作に必要な電力をわずか1分で確保できる急速充電対応だ。これなら、カバンの中に入れっぱなしで、いざ使おうと思ったときにバッテリが空で困るということもない。ケーブルがなければ手も足も出ないということになってしまうが、個人的にはスマートフォンの充電用にいつもカバンの中に入っているし、いざとなれば、百均でだって手に入る。

中途半端なタッチ操作をマウスが補う

 毎日の外出では、仕事である限り、必ずPCを携行するが、実は、そんなにマウスが欲しいと思うシーンに出くわすわけではない。だが、コーヒーショップなどでテーブルを確保し、ちょっとややこしいことをやろうとした場合にマウスが欲しくなることがある。

 というのも、Windows 8以降、OSがタッチに対応したのはいいものの、タッチではできないこと、あるいは、難しいことがあったりするからだ。例えば、細い境界線や、ドラッグ操作などは、マウスがあった方が圧倒的にやりやすい。また、文字列などを選択後の右クリックなども、アプリによってはタッチの長押しを認識してくれないことがあって困る場面がある。

 そんなときのために、カバンの中にはBluetoothマウスを忍ばせているのだが、持ち歩くPCが、その日によって違うために、使うたびにペアリングをやり直す必要があった。でも、このマウスがあれば、少なくとも2台のPCはスイッチの切り替えだけで対応できる。スライドパッドを装備したPCもあるので、普段の持ち歩きには、2台分でそれなりに事が足りる。

 ただ、Windows 8が出てから1年が経過し、Windows 8.1の配布も始まっている今、それでもまだ、標準的なジェスチャが規定されていないのは困ったものだと思う。

 例えば、このマウスでブラウザを操作する場合、左から右へのスワイプで進む、右から左へのスワイプで戻るとなっている。ところが、新しいUIのInternet Explorerでは、左から右へのスワイプで戻る、右から左へのスワイプが進むなのだ。感覚的に逆なのだ。個人的にはロジクールの操作の方が自然だと思うが、これは慣れ次第だ。とにかく、全く正反対であるというところが問題だ。もちろん、これは、ロジクールの責任ではないが、このままでは、ユーザーが混乱するだけだ。ここはひとつ、上から目線でかまわないから、Microsoftに統一の方向性を打ち出してほしいと思う。

 マルチペアリングしてスイッチで切り替えというのはわかりやすいソリューションだが、そろそろマウスのようなデバイスにもNFCを内蔵し、PCにかざせばその場で使えるようになるといったものが出てきている。これもまた素晴らしい。ただ、NFCを内蔵したPC本体が、まだまだ少ないため、その機能を活かせないのは残念だ。

 この製品は、こうした過渡期の環境を支えるデバイスとして、この先しばらく愛用することになりそうだ。マウスは、直接、人間の手にふれるものであるだけに、自分自身の手に馴染むものが使いやすいし、操作する上での気持ちの良さにも直接影響を与えるデバイスだ。だからこそ、使いやすいものを選びたい。そのためにも、選択肢は多ければ多いほどいい。

(山田 祥平)