山田祥平のRe:config.sys

Surface 2は、Microsoftをどう変えるのか

 日本マイクロソフトが「Surface 2」、「Surface Pro 2」の日本発売を発表した。初代「Surface Pro」の米国での発売は今年(2013年)の2月だったが、日本ではそれがずっとあとにずれこんだため、「Surface Pro 2」については、わずかな期間での代替わりとなる。今回は、ハードウェアカンパニーでもあるMicrosoftの新デバイス登場の背景について考えてみよう。

バッテリ性能とラップトップにこだわるSurface

 Surfaceが発表されたのは、Windows 8リリースのタイミングで、2012年の秋になる。最初にWindows RT搭載の「Surface RT」が発売され、年が明けて2月になって、Windows 8 64bit版をプリインストールしたSurface Proが発売されている。

 今回は、Surface RTから「RT」がとれて、「Surface 2」となったARM版と、IA版としてのSurface Proの後継となるSurface Pro 2が日本でも同時に発売されることになる。米国では10月22日の発売だが、日本では10月25日と、わずか3日遅れの発売だ。

 新しくなったSurfaceは、見かけの点では、初代とほとんど変わらない。だが、半年以上も、このカテゴリでトップの座を守り続けてきたデバイスとして、正当な進化を果たした製品だといえそうだ。

 関係者に話をきいたところ、初代Surface、特にSurface Proに対して、2つの特筆すべき要望があったという。

 まずは、バッテリの寿命が短すぎるというものだ。これについては、Haswellこと、第4世代のCoreプロセッサを搭載することで、かなりの改善が図られた。同社の言い分では、75%もバッテリ駆動時間が増えたという。

 この数字を聴く限り、IntelのHaswellが、いかに各種のデバイスを進化させたかが想像できるというものだ。Microsoft以外にも、OEM各社の話を聞く限り、このプロセッサは、とにかく素晴らしいという声のオンパレードだ。なにしろ、プロセッサを入れ替えるだけに近い改訂で基本性能を大きく向上させることができるからだ。

 だが、それでもバッテリ駆動時間が不十分という顧客もいるということで、Microsoftでは、パワーカバーと呼ばれるオプションを用意した。これを装着することで、30Wh分のバッテリを追加できるようになっている。

 もう1つの要望は、とにかく膝の上で使いたいというものだった。Surfaceはキックスタンドと呼ばれるギミックが装備されていて、タブレットでありながら自立するのが特徴だが、そのキックスタンドにもう1つのアングルを追加、従来の40度に加えて、24度を追加したのだ。これで、比較的低いところに画面が位置する膝のせスタイルでも視認性は高くなった。また、マグネットで強力にタッチカバーやタイプカバーがくっつくため、膝の上で使ったときの使いやすさが増している。さらに、タイプカバーについては、従来の1.5倍の堅さにして、膝の上でクラムシェルノートPCのように使う場合の安定感を高めている。

孤独だった初代Surfaceプロジェクト

 実は、初代Surfaceと今回のSurface 2には、その出自に大きな違いがある。というのも、初代の誕生は、Microsoft社内において、きわめて機密性が高いプロジェクトで、それに関わる社員は、こうした製品をMicrosoftが作っているという秘密を、何が何でも守り通さなければならなかったからだ。

 そのことは、必然的に、他の部署の協力を仰ぐことができないというデメリットがある。他の部署に相談するためには、プロジェクトの存在を明かさなければならいからだ。ある意味でOEM各社よりも不利だ。

 だが、今度は違う、Surface 2は、堂々と後継製品を作るというスタンスを公にでき、関連セクションの協力を得ることができた。たとえば、今回のSurfaceには、SkyDrive 200GB分を2年間使えるクーポンと、Skypeの世界61カ国固定電話かけ放題プランがついてくる。こうした施策を実施できるのも、Microsoft社内における各セクションと連携が堂々とできたからこそだ。

 気になるWANへの対応だが、噂レベルではLTE搭載機が出るといった声も聞こえてくる。少なくとも、後にLTEモデルが出るということは決まっているようだった。ただし、日本における予定は決まっておらず、とりあえず、スマートフォンのテザリングやモバイルルーターなどで代替して欲しいということだった。

Windowsはキーボードなしではありえない

 今回からARM版Windowsであることを意味するRTの呼称が消えたわけだが、Microsoftにとって、RTはまだまだ重要な位置付けにあるのだという。というのも、Windowsはオールインワンだが、あまりにも複雑で、その複雑さを嫌うユーザー層が存在するからなのだそうだ。また、一部の顧客については、Windowsのすべての機能はいらない、いや、あっては困るという層も存在するのだという。特に、企業顧客などについては、必須アプリともいえるOfficeは使えないと困るが、それ以外のアプリは、むしろ使えない方が好ましいという考え方もあるわけだ。

 初代Surfaceの計画時、最初はごく普通のタブレットで、キックスタンドも装備されていなかったものからのスタートだったという。だが、顧客ニーズを調べていくうちに、ピュアタブレットは決してユーザーが求めているものではないということがわかってきた。

 Microsoftの強みは、こうした顧客の意見を収集するための手段を持っていることだ。ベンダーを問わず、Windowsが動くあらゆるハードウェアの使い勝手について、顧客の声がきける。そして、最終的な目的は、Windows搭載PCを使ってもらい、知的活動の生産性を上げてもらうことだ。そして、そのためには、絶対にキーボードが必要だという結論に落ち着いた。

 Surfaceには、タッチカバーとタイプカバー、2種類のキーボードがオプションとして用意されているが、最初に計画されたキーボードはタッチカバーの方だった。そのコードネームは「OneThing」で、数多くの競合他社がいる市場の中で差別化された製品になるという願いを込めたものだったらしい。

気になるOEMとの関係

 今後、Surfaceについては、7~8型液晶の製品も考えているという。常に、ユーザーの要望をウォッチし続け、それを製品に反映していく。これまでは、OEM各社にまかせっきりだったハードウェアを含んだユーザビリティを、別のアプローチで叶えていくこと。それがSurfaceに課せられた使命だ。どんなに工夫を凝らしても、Windowsというオペレーティングシステムだけではできないこともある。それを補うのがハードウェアであり、それをMicrosoftは今までOEM各社にそっくりゆだねてきた。そこにちょっとしたジレンマもあったに違いない。

 ただ、Microsoftを支えてきたOEM各社はたまらないと思うかもしれない。Surface 2は、初代に対して価格据え置きに近い。いや、性能の向上や為替レートを考えれば、日本の場合は、どちらかといえば値下げといってもいい。この価格は決して安いとはいえないものの、年間8,000円のSkyDrive 200GBを2年間、合計16,000円分というのはOEM各社には難しい施策だ。Windows 8.1では、OSとSkyDriveの統合によって、ローカルストレージが少なくても、かなり実用的な環境を作れる下地があるだけに、この施策の影響は少なくないのではないだろうか。

 その一方で、実機で確認したところ、Surface Pro 2は、例えば、最新の機能であるInstantGoに対応していない。OME各社の中では、すでにソニーが「VAIO Duo 13」で製品化、Surface Pro 2と、ほぼ同じタイミングで発売されることが決まっている。もし、Surfaceの部隊が、OSの部隊と、もっと緻密に連携することができていれば、真っ先にサポートすることだってできたかもしれない。

 それができなかったのか。あるいはあえてやらなかったのか。今後のWindowsが、MicrosoftがSurfaceというハードウェアを擁するようになったことで、どのように変わっていくのか、あるいは変わらないのかを注意深く見守っていかなければなるまい。よくなる分には歓迎だが、一歩間違えば、OEM各社の豊富なハードウェア選択肢というWindowsの最大のメリットを失うことにもなりかねないからだ。

(山田 祥平)