山田祥平のRe:config.sys

InstantGoにGoサイン

 Haswellこと第4世代Coreプロセッサの世代では、PCもスマートフォンのようにネットワークにつながったままでいられる夢のような世界がもたらされる。その言葉を信じてHaswellを待っていた。にもかかわらず、Haswellは出たのに、待てど暮らせどそんな世界はやってこなかった。でも、今、ようやく離陸の準備が整ったようだ。

ソニーのフライング

 ソニーがVAIO新商品発表会を開催、この秋から冬にかけての新製品を披露した。同社の場合は、Windows 8.1の発売を間近に控えているにもかかわらず、ほとんどすべての製品がWindows 8プリインストールでの出荷となる。8.1はアップデートであり、それをするかしないかはユーザーにゆだねるという方針なのだそうだ。

 だが、1機種だけ、Windows 8.1プリインストールで出荷される製品がある。「VAIO Duo 13」がそうだ。Surf Slider方式を採用した2-in-1 UltrabookでLTE搭載モデルも店頭販売モデルとして用意される。製品のSIMスロットには最初からSIMが装着されていて、KDDIのデータシェアプランが利用できるという。

 この機種だけが、Windows 8.1プリインストールとなっている理由は、InstantGo対応のためだ。

 詳しい方なら、エッ? と思うかもしれない。というのも、VAIO Duo 13は、すでに6月に製品が出荷されていて、プリインストールはもちろんWindows 8。にもかかわらず、InstantGoに対応していたからだ。その当時、InstantGoは、Connected Standbyと呼ばれていた。

 だが、どうやら、これはフライングに近いものだったようなのだ。

 発表会で壇上に立ったソニー株式会社 業務執行役員SVP VAIO&Mobile事業本部 本部長の赤羽良介氏は、ソニーにとってInstantGoは極めて重要な要素であり、それをIntelがHaswellでWindows 8.1から正式にサポートするということで、VAIO Duo 13だけをWindows 8.1で出荷することになることを明かした。

 これについては、Intelにも確認したが、Windows 8.1からの正式サポートというのは事実だということだ。同様の確認をMicrosoftにもしているが、この原稿を書いている時点でまだ回答は得られていない。

 赤羽氏は、InstantGoについて、非常に難しい技術であり、実現には並々ならぬ努力が必要で、実装に際しては、当然、IntelとMicrosoftにサポートしてもらい、それに加えて、デバイスベンダー各社のサポートがなければ実現できなかったことだという。そして、今後はできるだけ他の機種にも展開していきたいとした。ちなみに、無線WANについては、スマートフォンと違い、ノイズ発生源の多いPCではなかなか難しいが、できるだけたくさんの機種で対応していきたいとした。

 発表会後、説明員に詳細を聞いたところ「Windows 8搭載VAIO Duo 13では、ソニーが独自にIntelやMicrosoft、そしてデバイスベンダー各社の協力を仰いでInstantGoを実現した。その成果はソニーから各社にフィードバックした。そして、IntelとMicrosoftは、そのフィードバックを受けて正式サポートに踏み切った。結果として、今後は、これまでの成果や実装ノウハウが各PCベンダーにも還元されることになり、対応機種がどんどん出てくるだろう」ということだった。

 つまり、VAIO Duo 13は、栄えある最初のInstantGo対応機ではあったが、Windows 8の時点では非公式対応であったということだ。それが、ついに、公式の対応となるわけだ。

Connected Standbyという名で呼ばれていました

 Windows 8.1 64bit版でVAIO Duo 13に実装されるInstantGoだが、Haswellより前のプロセッサでは、Clover Trail世代のAtomにおいて、Windows 8 32bit版での対応は済んでいた。各社のClover Trailタブレットはすでに対応した状態で出荷されているし、後継のBay Trail-T搭載機は、この秋冬モデルとして各社が準備しているようだ。

 特に、ソニーと同日に発表された富士通の「ARROWS Tab QH55/M」は意欲的な製品で、飛躍的に処理性能の高まったBay Trail-Tをうまく活用し魅力的な仕上がりになっている。今後のモバイルPCにおいて、InstantGoは必須だと思うし、GPSがついていないモバイルPCは考えられない。指紋センサーはあった方がいい。Micro USBで充電できるのがありがたい。フルサイズのUSB端子がついていたら便利だ。防水防塵なら安心だ……と、こうだったらいいのにという要素がことごとく実現されている。とりあえず、発表モデルでは無線WAN対応がないのが惜しいところだ。

 ソニーがVAIO Duo 13にLTE対応機を用意したのは当然といえば当然だ。しかもLTE対応機ならセットでGPSもついてくる。InstantGoに対応している以上、常にネットワークにつながっていなければ意味がない。無線WAN対応がなければ無線LANでの接続になってしまうが、そのためには別途モバイルルーターなどを用意しなければならない。それではせっかくのInstantGoが台無しだ。自宅やオフィスでは無線LAN、無線LANが使えないところではLTEという運用をすれば、Windows 8.1の従量制課金接続に設定しておくことで7GB/月といったデータ通信量規制もなんとか回避できるだろう。無線LANと無線WANの切り替えをどのようにして対処するかといった問題も残るが、Windows 8以降は、スマートフォンのように無線LANがつながっている時には無線WANを使わない機構が実装されている。Windowsでは、有線LAN、無線LAN、無線WANの順序でネットワークに接続されるからだ。これなら、すべての通信をオンにしておけば、何でつながっているかを意識することなくInstantGoの機能をフル活用できるはずだ。

目覚まし時計にもならないPCは意味がない

 なぜ、それほどInstantGoが重要なのか。InstantGo環境下でPCをスリープさせた場合、従来のクラッシックデスクトップのプロセスは全停止する。だが、新しいUI下のストアアプリは、スリープ中も、必要なネットワーク通信をOSにゆだねておき、最新の状態に維持される。

 これでメールやインスタントメッセージの着信をスマートフォンのように通知することができるし、音楽プレーヤーはスリープ中も音楽を奏で続ける。目覚まし時計だって時間がくればちゃんと鳴って起こしてくれる。

 でも、実は、これらのことが実現されても、現実としてはそんなに嬉しくないかもしれない。一般的にはポケットの中のスマートフォンで現象に気付き、それをトリガーにモバイルPCを取り出して何らかの作業に着手するだろうからだ。

 それでも、スリープから復帰したとたんに大量のメールがすでにダウンロード済みというのは気持ちがいい。スリープさせたまま持ち出したのに、出先で使おうとしたら、SkyDriveとのファイル同期がすでに終了しているというのはうれしい。SkyDriveのInstantGo対応については、まだ、不明なところも多いので、実際にどうなるのかは分からないが、理想的にはそう振る舞うべきだ。

 さらにはLINEも、PCだけは特別扱いで、スマートフォンとは別にWindows PCでのマルチデバイスで使える。しかも、スマートフォンと違って、新たに使い始めても、過去のコミュニケーション履歴がすべてダウンロードできるので、使い勝手としてはスマートフォン以上に便利だ。Skypeが想像以上に使い勝手が悪くなっている今、インスタントメッセージの常用プラットフォームを模索しているが、個人的にはFacebookメッセンジャーとLINEが有力だ。そしてこれらがInstantGoをどう使ってくるかが興味深い。

 VAIO Duo 13に文句があるとすれば、1.3kgを超える重量だろうか。今となってはとても1kgを超えるPCを持ち歩く気になれない。本当なら、「VAIO Pro 11」あたりで実現してほしかったとも思う。

 ともあれ、ソニーがまず先走り、後追いでIntelとMicrosoftがその功績を認めて公式サポートに踏み切るという図式に、今のソニーが持つ勢いを感じる。NECパーソナルコンピュータ、東芝、富士通、パナソニックといった国内ベンダーも、早急に追随して欲しい。

 InstantGo、GPS、無線WANは必須機能だ。それらが1つでも欠けるPCをモバイルPCと呼んではならない。近い将来、必ず、そういう日がやってくる。

(山田 祥平)