山田祥平のRe:config.sys

さよならテキスト、またきてファイル

 テキストファイルはつぶしがきく。でも、その愛用してきたテキストファイルをやめようかとも思っている。その踏ん切りがつかないままに、結構な時間が過ぎた。なぜ、そんなに迷うのだろうか。

簡単に開ける四半世紀前のテキストファイル

 今、手元に残っている自分の最古のテキストファイルは、日常の環境を検索する限り、1987年に作成したもののようだ。当時は、拡張子をつけていなかったのだが、今でも普通に開いて読むことができるし、その内容もちゃんと検索にひっかかる。

 実は、1986年に作成したファイルも発見したのだが、拡張子として.mpがついていることから、それらはMicrosoftの表計算ソフトMultiplanのものだったことがわかる。残念ながら、そのファイルを今、簡単に開くことはできない。

 テキスト形式なら、四半世紀前のファイルでもすぐに開ける。永遠に大丈夫だと思ったMultiplanのファイルが今開けないことを考えると、Lotus 1-2-3やExcelが、Multiplan形式をサポートしている間になんとかしておくべきだったと、ちょっと反省もしている。

 それ以前のファイルは、HDDの中ではなく、これまた骨董品的な存在であるフロッピーディスクに格納された状態で倉庫に眠っている。おそらく、それを読み出す術はもうないわけで、持っている意味もないのかもしれない。

ファイル単位の排他制御の不便

 今、クラウドの時代がやってきて、マルチデバイスの時代でもある。それでも色んな考えがあって、とにかく文書を作るという目的においては、できるだけテキストファイルで作るようにしてきた。

 もちろん、印刷を前提とした文書はWordで作るし、プレゼンテーション資料はPowerPoint、計算が必要な文書はExcelなど、Officeアプリは普通に使っている。だが、装飾が必要のない今書いているような原稿、そして、取材などでのメモについてはテキストファイルでやってきた。

 今後も、原稿に関してはテキストファイルをやめるつもりはない。ただ、納品後の原稿が変更履歴がわかる形のコメントつきでWordファイルになって戻ってくることもある。その場合は、素直にそのファイルに加筆修正する。

 でも、これら原稿の元となるメモ書きについてはどうしようかとずっと迷い続けているのだ。

 迷うようになった理由は、メモをWindows、Android、iOSという常用している3種類のOS下でとるようになったからだ。ある時はノートPCを使うし、仕事場ではデスクトップPCを使う。これらはWindowsだ。電車の中ではスマートフォンを使うからAndroid、コーヒーショップなどではiPadを使うこともある。こちらはiOSだ。

 それぞれのOSで、DropboxやEvernoteといったアプリを使えばテキストファイルのままでも運用はできるかもしれない。SkyDriveやGoogleドライブも頼もしい存在だ。だが、困るのは、1つのメモファイルを、同時に複数のデバイスで開いてしまうことが多くなっきたことだ。

 デバイス間でファイルを同期することはできる。だから、テキストファイルであっても何の問題もない。ところが、ファイルはファイル単位で排他制御が行なわれるため、デバイスAとデバイスBで異なる内容を書き込んでしまった場合、競合が起こってしまい、結果としてファイルが2つできてしまう。

 そうならないように気をつければいいのだが、なかなかそうはいかない。たとえば、数日間にわたるカンファレンスで、1つのメモファイルにメモを取り続けているとしよう。毎日、部屋に戻り、その日のメモを別のPCで開き、気がついたことがあれば、修正を加えたりもする。でも、カンファレンス会場に携行するノートPCでは、そのファイルは開きっぱなしだ。こんな具合だから簡単に競合が起こってしまう。

 でかける寸前までまとめの作業をしていたプランについても、移動中の電車の中で新しいアイディアがわいて、スマートフォンで追記するかもしれない。でも、自宅のPCでは、そのファイルが開きっぱなしになっている。そこでもやっぱり競合が起こる。

 こうした不便を回避するのに、今、最も適したソリューションは、OfficeアプリのOneNoteか、GoogleドライブでGoogleドキュメントを使うかだ。

 これらを使うことで、どのデバイスからどんなタイミングで書き込みをしても、辻褄を合わせて追記内容が反映される。しかもほぼリアルタイムだ。もちろん、Windows、Android、iOS、どの環境からでもいい。いわゆる共有文書とちがって、メモについては、書き込むのが自分だけなので、リアルタイムで変更が反映されても混乱することはない。しかも、両方とも、保存ということを意識しなくていい。更新内容は自動的に保存されるからだ。

 双方を試験的に運用してみる限り、オフライン時の使い勝手を考えると、ローカルにキャッシュを持ち、ネットワークのことを気にしないで使えるOneNoteの方が使い勝手はよさそうだ。

検索の不便

 以前、Googleドライブのブリーフィングに出席した際、担当プロダクトマネージャのScott Johnston氏から聞いた話では、Googleの共同創業者でありCEOのLarry Page氏は、テキストファイルが大好きなのだという。そして、ことあるたびに、Googleドライブにテキストファイルを扱う機能を作るように要求するのだそうだ。

 そもそもGoogleドライブは、スマートフォンや、タブレット、ノートPCなど複数のデバイスから同時にアクセスするのが便利なように開発されたのだという。人々が複数のデバイスを使うようになると、どのコンテンツがどのデバイスにあるのかを把握するのが大変になってくる。わずらわしいことを考えずに、いつでもどこでも必要なコンテンツにアクセスできるようにしようというのがGoogleドライブが目指すテーマだ。

 テキストファイルの扱いについて、Larry Page氏が不満を持つ気持ちはとてもよくわかる。Googleドライブにおけるテキスト形式のファイルはとても使い勝手が悪いのだ。AndroidやiOSではビルトインエディタもないので、別のアプリで開く必要がある。それはそれで使い勝手がよい場合もあるのでいいとしても、編集結果を同じファイルに書き戻しができないのが痛い。

 Johnston氏によれば、テキストファイルの重要性は分かっていても、優先順位を考えると他の機能の充実のためにリソースが必要で、後回しになっているという。CEOの要望も反映できないというのだから、当分、この状態が続くのだろう。

 だとしたら、今のところはOneNoteを使っておくしかないのか。

 だが、心配は、かつてのMultiplan形式のように、将来的に読めなくなってしまう可能性だ。さらに、他のファイルを含めた串刺し検索ができない点が痛い。もちろん、OneNote内での検索はできるし、その検索機能は実に柔軟なものなのだが、OneNoteのファイルはOS標準の検索機能の対象にはならないのだ。

 こうしたこともあって、メモに関して常用するファイルの形式が定まらないまま迷い続けている。多くのメモは、一定期間が過ぎてしまえば更新することはなくなり、参照するだけになるので、ランニング用にOneNoteを使い、アーカイブする代わりにテキストファイルにして従来のフォルダに入れておこうかとも思ったりもするのだが、それはそれで面倒だし、それによって失われてしまう情報もある。

 どれをとっても、今のところは帯に短したすきに長し。結論が出るまでには、まだ少し時間がかかりそうだ。いいソリューションがあれば、ぜひ、お知らせいただきたい。

(山田 祥平)