山田祥平のRe:config.sys
「Galaxy Note 3」が目指す掌のアクセラレータ
(2013/9/27 06:00)
マルチデバイスの時代ではあるが、ポケットやハンドバッグの中に一定のポジションを確保し、ほとんど肌身離さず持ち歩かれるのは、なんといってもスマートフォンだ。TVよりも、PCよりも、また、タブレットよりも、1日の中で、その画面を見ている時間が最も長くなりつつある。その時間を、いかに充実したものにするか。それが、「Galaxy Note 3」の挑むテーマだ。
制約なしのスマートフリーダムを実現するGalaxy Note 3
9月25日、Samsungが韓国・ソウルにおいて、プレスイベント「Galaxy Note 3 + Gear WORLDTOUR 2013」を開催、世界各国での発売開始を大々的にアナウンスした。
Galaxy Note 3は5.7型の画面を持つスマートフォン、「Galaxy Gear」は腕時計型のコンパニオンデバイスだ。双方ともに、先のIFAで発表されていたが、いよいよ販売が開始され、本格的に始動したことになる。
イベントの冒頭で壇上に立ったDJ Lee氏(イ・ドンジュ氏 SAMSUNG ELECTRONICS CO., LTD. 社長/無線事業部 戦略マーケティング室長)は、この2つのデバイスが、最高の技術とイノベーションによって開発され、個人を表現するためのもっとも素晴らしい製品に仕上がったとアピールした。また、ポケットやハンドバッグの中の本体を取り出すことなく、さまざまなことができるGearとの組み合わせは、制約なしのスマートフリーダムを実現し、コミュニケーションに多くの変革をもたらすだろうとアピールした。
スマートフォンの画面は大サイズ化のトレンドが進んでいるが、Galaxy Note 3の画面は、その中でもさらに大きい部類で、先代よりさらに大型化して5.7型に達した。ペンの機能を重視しているのもGalaxy Noteの大きな特徴だが、その使い勝手を高めるためにも画面は、携帯性を犠牲にしないことを前提にある程度大きい方が有利だ。
同社では、Galaxy Noteなどのスマートフォンをマスターデバイス、Gearをコンパニオンデバイスと位置づけ、その連携により、これまでとは全く違ったスマートフォン体験を提案しようとしている。5.7型はポケットに十分収まるサイズではあるが、それさえ取り出すのが面倒だというときもある。そのために、スマートフォンをポケットに入れたままで、Gearが通話や通知の確認、ちょっとしたシーンの撮影、音楽プレーヤーの再生コントロールなど、本来ならスマートフォンが必要となる各種の作業ができるようにするわけだ。Gearの重量は72gで一般的に使われている多くの腕時計よりもずっと軽いという。Samsungでは、これを、スマートフォン操作シーンにおける両手の解放とする。
個人的に初代「Galaxy Note」のユーザーであり、今なお、海外出張時に愛用している立場としては、あの5.3型アスペクト比16:10の画面の魅力は捨てがたいものがあって、Note IIはパスしてしまったが、とりあえずは、16:9の画面のトレンドは続きそうで、購入後2年が経過しようとしている今、そろそろ買い替えの必要性を感じている。
7~8型タブレットの存在感を希薄にする可用性
イベント後、一部のプレス向けに、マーケティング担当者や、製品のデザインやUXを担当した同社メンバーらによるブリーフィングがあり、Note 3が先代のNote IIのユーザーフィードバックを徹底的に分析して開発されたことが明らかにされた。こうした点ではワールドワイド展開により圧倒的な生産台数とそのユーザー数を頼れる同社は強い。
ペンの活用シーンでは、画面の横幅が広い方が有利ではないかと質問してみたところ、さまざまな検討の結果、現時点では持ちやすさなどとのバランスなどを含め、16:9がベストであると判断したそうだ。また、ユーザー調査では、マルチタスク、マルチウィンドウによる併行アプリ操作のニーズが高く、その場合は16:9が縦に分割されて使われることになる。となるとアスペクト比は4:3となり、なじみ深いスクエアのアスペクト比になる。こうしたシーンでは、ホームボタン等をハードウェアとして持ち、画面を占有しないGalaxyシリーズは有利だ。
手のひらの延長としてスマートフォンを考えた場合、やはり、手のひらにすっぽりと収まるサイズ感は重要だ。そういう意味ではGalaxy Note 3は、ちょっと手に余る印象がある。だが、いざアプリを使い始めると、やはりこのくらいのサイズ感があったほうが圧倒的に使い勝手がいいことが分かる。手のひらを延長するだけではなく、その世界を拡張していく感覚が得られるのだ。
そして、こうなると、7~8型タブレットの存在感が急速に減衰する。Samsungはあらゆるニーズに応じるために、各種サイズのデバイスをすべて揃える戦略で製品開発を進めているベンダーだ。同社のスマートフォンフラグシップには、NoteとSの2種類があり、その画面サイズは異なるが、Noteにはより小さなGearを、Sにはより大きな画面を持つタブレットをコンパニオンにするという選択肢が提案されている。つまり、Sは手のひらを延長し、Noteは手のひらを拡張するというわけだ。そして、この2つのラインアップを半年ごと交互に刷新し、ユーザーニーズにしっかりと応えていくというのが現時点での同社の戦略だ。ちなみに、GearはGalaxy S3やS4への対応も予定されている。つまるところ、デバイスの組み合わせは自由自在でユーザーの選択肢は豊富だ。
SML相対性理論
Galaxy Note 3に気になるところがあるとすれば、ペンの有用性をアピールするばかりに、ペンでしかできない作業を作ってしまっている点だ。例えば、ペンを画面上でホバーさせてペンボタンを押すと、エアコマンドと呼ばれるコンテキストメニューが表示され、その時できることを素早く実行することができる。この操作は、ペンがないとできない。また、スクラップアプリなどで画面上の領域を切り取ったりする場合も、範囲指定ができるのはペンだけだ。
さらには、専用アプリとペンの世界観を強烈に打ち出すあまり、その結果、ユーザーはSamsungの世界と、Androidの世界を行ったり来たりすることになる。例えば、インテント、いわゆる共有の機能も二重に持つことになり、アプリのデータを、別のアプリに送るような作業でも、独自の作法を身につける必要がある。その背後には、パワフルなスマートフォンだけで、すべてを完結させようとしている意図が感じられるのだ。
デジタルの時代、そしてクラウドの時代だ。そこでは、デバイスごとに得手不得手はあるだろう。それは間違いない。だが、NoteだってGearが補えばさらに使い勝手がよくなるのだ。同じように、Noteにないものを大きな画面のタブレットやPCが補うシナリオを想定してもいいんじゃないか。
多分、ポケットに入れてもあまり負担を感じず、それでいて片手でもなんとか操作できる絶妙なサイズ感を持つNote 3を常時携帯しようというユーザーは、7~8型のタブレットを中途半端な存在と感じるだろう。オンリーワンでもあまり困らないからだ。たとえ、もう1台を追加するとしても、10型以上のタブレットだし、もしかしたら、Windows PCを携行するかもしれない。それらに適した仕事を奪い取ることが、Noteの未来に繋がるとは思えない。
Note 3は素晴らしいデバイスだと受け止めている。この時代に、バッテリ交換ができることもすごい。防水よりも、さらなる薄型化よりも、バッテリを交換できるようにすることを選んだのは、ある意味で現時点でのスマートフォンを知り尽くし、本当に実際に使っている人たちが作っているバックグラウンドの凄みを感じた。バッテリがなくなれば交換すればいいという割り切り。バッテリ節約のために使い勝手を損なうスタミナ運用は本末転倒という開き直り。バッテリでバッテリを充電するモバイルバッテリへの憤り。バッテリ単体充電器もオプションで用意し、バッテリの心配をすることなく思う存分デバイスを使える安心感は何にも代えがたい。2年前に買った初代Noteを、ぼくが未だに使えているのは、交換可能なバッテリを複数枚使い回してきたからだ。
と、ここまで書いたところで、パナソニックモバイルコミュニケーションズが日本国内の個人ユーザー向け携帯電話端末事業を休止するというニュースが飛び込んできた。いったい、日本のスマートフォンはどうなっていくのだろう。最強のデバイスを見たあとだけに複雑な心境だ。