山田祥平のRe:config.sys

手のひらの中で電波が見えてメールが読める、そしてつぶやけるルーター




 なんだか今年はスマートフォン周辺が実にエキサイティングだ。そして、年の瀬も迫った12月になって、真打ちともいえるソリューションが2社から登場した。1つはイー・モバイルの「Pocket WiFi S(S31HW)」で、もう1つが日本通信の「IDEOS」だ。今回は発売前のIDEOSを試してみることができたので、そのインプレッションをお届けしよう。

●双子端末でもコンセプトが違う

 はっきりいって、Pocket WiFi SとIDEOSは、まるっきり同じハードウェアだ。もちろん、イー・モバイルと日本通信では使う周波数帯が異なるため、RF部分については個々のキャリアに合わせてある。そういう意味では、クワッドバンド対応で、いわゆるドコモの800MHz対応できるIDEOSにはお得感がある。Pocket WiFi Sの3Gは1.7GHzと2.1GHzのデュアルバンドだからだ。残念ながら試用機はトリプルバンド対応のもので、実際の接続を体験することはできなかったが、実際に販売される端末はクワッドバンドだということだ。

 それ以外の部分にについては、Pocket WiFi Sが専用のテザリング用ウィジェットを用意し、タップ1つでルーターをスタートできるようにしてあるのに対して、IDEOSは、Android OS標準のテザリングを使えるとアピールするのみで特にアプリなどを用意しない代わりに、3G回線交換での通話に加えて、サービス契約によって3Gデータ通信でのIP電話機能をサポートし、050番号による通話を可能にしている。このあたりは、過去に「もしもしDoccica」などのサービスで実績を持つ日本通信ならではの取り組みだ。今から思えば、あのサービスは、今回の取り組みに対する布石だったのかもしれない。

 こうした点に違いこそあれ、両機はほとんど素のままのAndroid OS 2.2が稼働する重量約100gのコンパクトなスマートフォンである。

 普段から1GHzクラスのプロセッサを搭載したスマートフォンを使い慣れていると、どちらもきわめてモッサリとした印象を受ける。特に、スタンバイから復帰させたときのもたつきには、ちょっとしたイライラさえ感じるくらいだ。また、QVGA(240×320)の2.8型液晶も小さい。表示される文字が小さく、アプリに文字サイズの変更機能がなければ老眼にはつらいものがある。さらに本体メモリが256MBというのも、たくさんアプリを入れたい場合には物足りない。Android用アプリは、まだ、SDカードに逃がせるものが少ないからだ。このあたりを理解し、大きな期待をせずに購入しないと後悔することになるだろう。

 両者ともにSIMロックフリーのスマートフォンでありながら、コンセプトの点ではイー・モバイルはサービスと回線、そしてハードウェアをセットにして売っている。その一方で、日本通信は端末をサービスと回線から切り離して売る。そういう違いもあるわけだ。だから、そのことを十分に吟味して価格を考えなければならない。

 それにイー・モバイルはこの端末を「スマートフォンにもなるイー・モバイル用ルーター」として売るのだし、日本通信は純粋な「たまたまルーターにもなるSIMロックフリースマートフォン」として売る。端末の入手元として日本通信を選んだとしても、ユーザーはその端末をどのサービス、回線で使うかを自由に選ぶことができるのだ。あらゆるキャリアに対応できる可能性を考えれば、クワッドバンド対応は心強い。

●新しい当たり前を提案する日本通信

 さて、ここから先は、IDEOSだけにしぼって話を進めることにする。国内のスマートフォン市場が、“スマートフォンのガラケー化”に一気に向かっているのに対して、この端末は実にストイックだ。日本通信のbマーケット価格では26,800円となっているが、探せば、すでにそれを大きく下回る価格で流通し始めているようだ。そして、そのパッケージを購入することで、端末の入った箱が手元に残る。箱の中には端末以外にb-mobileSIM U300のSIMが同梱され、10日間はそれを使ってデータ通信ができる。10日間を過ぎたあと(過ぎなくても)、どのキャリアでこの端末を使うかを決めるのはユーザー自身だ。WiFiのみで使うと決めるのなら、キャリアと契約する必要はない。もちろんその場合の維持費はゼロだ。

 電機屋でプレーヤーを買って、ミュージックショップでCDを買い、音楽を楽しむ。その昔の当たり前が、今はいろんなところで通用しなくなっている。電話屋で電話機を買って、キャリアショップでサービスや回線を買って通信を楽しむ。その当たり前を新しい当たり前として提供しようというのが日本通信の提案だ。

 さて、日本通信では、この端末をあくまでもコストパフォーマンスの高いスマートフォンとして売りたいのだろうけれど、キャリアを問わずに使える3Gルーターとしての機能を期待するユーザーも多いだろう。どのキャリアであれ、納得のいく価格で提供されるサービスと契約し、そのSIMを装着すれば3Gルーターとして機能し、日常的に持ち歩いているすべての機器がWiFiでインターネットにつながるのだ。

 さらに、ポータブルルーターの多くが、現在のステータスを知るためにLEDのインジケータを解読したり、ブラウザで接続したりしなければならないのに対して、こちらは、すべてがしっかり見える。まさにスマートルーターだ。ワンタッチでルーター機能、すなわちOS標準のテザリング機能をオンにするアプリもたくさんある。

 個人的に、ポータブルルーターは、連続してどれだけの通信ができるかよりも、どれだけ待機できるかの方が使い勝手に影響すると思っている。たとえば、IDEOSとiPod touch、そしてノートPCを持ち歩いているユーザーが、1時間に1度、いずれかのデバイスで10分程度の通信をして、あとは待機させっぱなしといった使い方ができるかどうかだ。使うたびにルーターの電源をオンにするとか、端末を操作して機能を有効にするなんてことはめんどうくさくてやっていられない。

 IDEOSのバッテリ容量を100%まで充電した状態で、テザリング機能をオンにして放置してみたところ、7時間経過した時点でバッテリの残り容量は30%だった。この間、多少はアプリを使ったりはしたし、他のデバイスを接続もしてみたが、ずっと使いっぱなしというわけではない。ほとんど待機していたといってもいいだろう。このペースでバッテリを消費していくとすれば、8〜9時間程度は待機できる。これなら毎日の外出には十分だし、心配なら、職場などで多少の追加充電をすればいい。そういう意味では現在市場で手に入るポータブルルーターの中でも優秀な部類に入る。ただ、調子に乗ってTwitterを頻繁に読み書きしたりするなどアプリを長時間使おうものなら、バッテリはどんどん減っていってしまう。

 スマートフォンとしての能力は、期待以上でもないし期待以下でもないが、ルーターとしての機能は、高級スマートフォンに劣らない。手元のガラケーのWiFiアクセスポイントモードをオンして持ち歩いた場合には、電話の着信以外のことは何もできなくなってしまうし、メールも届かない。それに何もしていないのにバッテリだってみるみる消費していく。これでは待機しっぱなしでの使い方は無理だ。その点、Android OS標準のテザリング機能は、それを有効にしても、他の機能にまったく影響を与えない。影響があるのは、WiFiクライアントとして、他のアクセスポイントにつなげなくなるということだけだ。

●ボトルネックの解消で、よりリーズナブルなサービスへ

 日本通信では、キャリアは自由といってもb-mobileSIM U300で使うユーザーが少なくないと見ているという。ただ、都市部においては、このサービスの帯域制限である300kbpsが確保されないことが少なくない。それが不満で他のキャリアに乗り換えていくユーザーもいる。同社では、ボトルネックになっている部分の特定はすでにできていて、それを解消すべく、今、全力で、ネットワークインフラの改良作業を進めているそうだ。同社とドコモとの間で、ユーザー数の増減に応じて、臨機応変に卸される帯域の増減ができればいいのだが、現時点では、その都度の手続きに1カ月程度を要するため、スピーディな対処ができない状況だということも、加入者の不満に影響を与えているのかもしれない。

 実際問題として、本当にコンスタントに300kbpsが確保できるのなら、モバイルでのインターネット利用はそんなに不満を感じることはないのだ。レイテンシが極端に大きくなったり、数百bpsまで落ちる帯域の不安定さえなければ、支払うコストに見合ったリーズナブルなサービスだ。だからこそ、ここはひとつ、同社にはがんばってほしいと思う。


 ということで、個人的にはスマートデバイスで始まり、スマートデバイスで終わる1年だった。ゆくデバイス、くるデバイス、いろいろあったが、十分に楽しめた。さて、来年はどんな年になるのだろう。どうかよいお年をお迎えください。メリークリスマス & ハッピーニューイヤー!!