山田祥平のRe:config.sys

今年のiPodファミリーは1回休み?




 9月を迎え、毎年恒例のiPodファミリー関連のアップデートが行なわれ、各製品の新機種が発表になった。また、iTunesでは、AppleによるSNSとでもいうべきサービス「Ping」が新機能として加わっている。今回は、この一連のアップデートについて考えてみる。

●ちょっと期待はずれかiPod

 日本時間の9月2日、午前2時頃から各関連サイトのリロードを繰り返しながら、Appleの発表の概要を知った。今年は新製品イベント基調講演のビデオ配信も行なわれていたようだが、手元の環境では、ついぞ、つながらなかった。

 ニュースサイトでiPod shuffle、iPod nano、iPod touch、Apple TVなどの新製品の概要を知り、PingやAirPlayなどに対応したiTunes 10のリリースも知る。ところが、午前3時を過ぎても、4時を過ぎてもiTunes 10がソフトウェア更新にひっかからない。Appleのサイトは、日本サイト、米国サイトともに、まだダウンロードサービスが始まっていない。

 リロードを繰り返しながら、朝7時まで待ったがアップデートモジュールが入手できなかったので、ちょっとだけ横になってから、朝10時から都心で開催されたAppleイベントにでかけた。

 このイベントは、深夜、どうしても配信を受けることができなかったスティーブ・ジョブスCEOの基調講演の様子が1時間以上にわたって上映され、そのあとは、お約束の実機を手にとって実際に操作できるハンズオンタイムという段取りで進行した。

 結局、ぼくは、当日午後、新宿の量販店に赴き、iPod touchの64GBを予約してきた。予約時の店員の話では、「おそらく出荷は9月の下旬、でも、Appleさんのことだから、どうなるかわからない」ということだった。今日から予約開始で、ぼくが店を訪れた14時頃の時点で、結構な量の予約が入っているという。

 スペックなどについては、深夜の時点でほぼわかっていた。GPSがついていないこと、静止画撮影時の解像度がたかだか70万画素程度しかないこと、また、写真撮影時の補助光としてのLEDライトもない、AF機構もないことなどを知り、ちょっとがっかりしていた。

 それでも、現役のiPod touchユーザーとしては、内蔵マイクがついたこと、そして、まがりなりにもカメラがついたことをうらやましく思った。これで、音声入力関連のアプリケーションや、カメラを必要とするバーコードリーダー、AR関連のアプリケーションが使えるようになるかもしれない。現行のiPod touchでは、こうしたハードウェアに依存するアプリケーションが使えなかったので、ちょっとくやしい思いをしていたのだ。

 発表直後にAppleのオンラインストアで予約したり、朝一でショップに立ち寄って予約を入れるほどの衝動は起こらなかった。でも、実際にハンズオンタイムに実機をさわってみて、数値以上に薄く軽く感じたし、操作の際のキビキビ感が気持ちよく、そのまま予約することを決めてしまった。プア・マンズ・iPhoneオーナーと言われるのも仕方ない。

 ハンズオンコーナーでは、小さくなりすぎたと話題になっているiPod nanoも体験してきた。個人的には、これはこれで悪くないと感じたけれど、予約するまでには至らなかった。小さいiPodは、新譜だけを入れるなどして、ジムでのトレーニングやウォーキング時に使うと便利なことはわかっているが、それらの役割は、最近、別のデジタルオーディオプレーヤーに頼っている。たとえば、ソニーのプレーヤー一体型防水ヘッドフォンなどを気に入って使っている。

 iTunesから直接AACファイルをドラッグして再生できるプレーヤーが増えてきていること、また、Windows 7のトランスコード機能によって、AACファイルを転送時に自動変換できるようになったことなども大きい。iPod以外でiTunes管理下の音楽を楽しめるようになったことで、ハードウェアの選択肢が増えたといってもいい。これはWindows 7の功績だ。そして、今回のiPod nanoは、結構気に入りはしたものの購入には至らなかったということだ。もし、これから暑くなる春の時期なら買っていたかもしれない。でも、これから秋が過ぎ、冬がやってくる。ボディが小さい分にはうれしいが、そんなに小さくなくても上着のポケットに入ればそれでいい。それよりも、アーティスト名などの視認性のほうが重要だと判断したまでだ。なにせ、基調講演では、ジョブスCEOもメガネをはずしてディスプレイを凝視しながら操作していた。老眼にはつらそうということがそれでわかった。

●SNSのリアリティ

 さて、鳴り物入りで始まったAppleのソーシャルネットワークサービス「Ping」。これは、iTunes 10の新機能の1つでもある。

 iTunes 10は、夕方帰宅した18時過ぎの時点でも、まだ、ソフトウェア更新にひっかからなかった。昼間、外出先でノートPCを使ってチェックしたときには、サイトで入手が可能になっていることを確認していたため、ファイルをダウンロードして上書きインストールした。

 アップデートしたiTunesを起動すると、ウィンドウ右側のSTOREカテゴリの一項目として、Pingが表示されている。これをクリックすると、「Pingをオンにする」のボタンが表示され、Apple IDとパスワードを入れて手続きを進める。

 さらに、プロフィールを入れれば作業は完了だ。ここでは好きなジャンルを最大3項目チェックしておく必要があるが、最初から「サウンドトラック」「ポップ」「歌謡曲」がチェックされていた。なんだか余計なお世話だ。サウンドトラックなんて、ほとんど持っていないのになぜなんだろうか。

 気になったのは、自分の情報を入れるプロセスで、

「ここに入力される情報は公開されます。iTunesアカウント情報のPingセクションでいつでもプロフィールをオフに設定することができます」

「入力された名前は、お客様のアカウントお支払い情報にも使われています。これまでニックネームを使って表示されていたアカウントのアクティビティ(お客様が書かれたレビューなど)で、ニックネームのかわりにここに表示される名前が使われるようになります。これまでに書かれたレビューをiTunes Storeから削除する場合は、アカウント画面で「レビューの管理」をクリックしてください」

といった但し書きがある。

 つまり、基本的にこのサービスは公開される実名で参加してほしいということのようなのだ。ここで、ニックネームを使うこともできるのだが、そうすると、アカウント支払い情報もニックネームになってしまう。このあたりの事情を認識していないと、あとで、おかしなことになってしまいそうだ。まあ、このあたりに欧米人と日本人のSNSに対する認識の違いを感じるのだが、抵抗のない人も増えてきているんだろうか。

●CDから取り込んだ曲にも「いいね」と言いたい

 PingがSNSとして、どのように育っていくのかはまだ見えない。基本的な仕組みとしては、自分の好みのアーティスト、または、自分と同じ嗜好を持っているらしきユーザーを見つけてフォローしていくプロセスを繰り返す。

 自分や他のユーザー、アーティストのアクティビティとして、いいと思った曲に対して「いいね」を投稿するなり、コメントを書き込むなりしていくことで、自分自身のユーザーとしての性格付けが進んでいく。そのことで、自分がフォローしているユーザーが購入した曲などがお薦めされ、購入リンクが表示され、その場で曲を購入することができる。

 いってみれば、以前からある「Geniusのおすすめ」の生身の人間版だと思えばいいだろう。Geniusが統計的な手法で客観的に曲を推薦するのに対して、Pingではユーザーが積極的に自分でいいと思ったかどうか、そして、それを声を大にして訴える「いいね」のアクションが曲の選択基準になる。

 いやだなと思うのは、基本的にiTunes Store主導型で、最初にありきは曲の購入であるという点だ。自分がCDをリッピングして取り込んだ曲も、iTunesストアで、それを探し出してから「いいね」を投稿する必要がある。基本的に、iTunesストアの全曲に「いいね」ボタンがついているようだが、そんなめんどうなことはいちいちやっていられない。まして、自分が持っているCDがiTunesストアにない場合は、「いいね」と言うことさえできないのだ。

 ちなみに、このサービスにはアーティストも数多く参加している。本当に本人が書いたかどうかはわからないけれど、自分の楽曲に、コメントをつけてあったりする。そのアーティストをフォローすることで、他のフォロアーなどとも関連づけられ、次第に好みの似通った共同体が築かれていくのだろう。

 個人的には、iTunes Storeで楽曲を購入することはまれで、ほとんどが、CD、それも通販どころか、リアル店舗でのジャケ買い、衝動買いなので、このコミュニティを大事に思うことは当分の間なさそうだ。

 ハードウェア、ソフトウェア、今年のiPodは、なんとなく1回休みという印象が強い。楽しみなのは、iPadのOSアップデートくらいだろうか。OSのバージョン違いから、その操作感の違いにイライラすることも多いiPod touchとiPadだが、さて、どうなりますことやら。