山田祥平のRe:config.sys

PCをブックリーダーとして使うテクニック




 書籍の“自炊”(購入した本を自分でスキャンして電子化する)がブームのようになっている。電子書籍が標準化され、どんなデバイスでも容易に楽しめるようになるまでには、まだ時間がかかりそうだが、古くからのPCユーザーは、いろんな方法で本を楽しんでいるということだ。今回は、PCでの読書に便利なユーティリティを紹介したい。

●こんなソフトが欲しかった

 今週、今まで欲しくてたまらなかった機能を持つフリーのソフトウェアが立て続けに2本、「窓の杜」で紹介された。

 1つは、「KeyMouXr」で、このソフトを使うと、Ctrlキーと各種キーのコンビネーションを、別のコンビネーションに割り当てることができる。エディタやワープロなどは、マクロ等を使って自分の使いやすいキーコンビネーションを構成しているのだが、メールや予定の管理に使っているOutlookは、セキュリティ強化のために、2007バージョン以降でマクロによるキー割り当てができなくなってしまっていた。個人的には、メールを書く際の効率が大幅に落ちてしまっていた状態がここ数年続いていたのだが、このソフトによって、あっさりとそれが解消してしまった。

 もう1つのソフトは「MagRoleArrow」で、こちらは、マウスポインタの移動方向を90度単位で回転させることができるというものだ。同種のソフトとして、「MouseRotate」の存在は知っていて、それなりに便利に使っていたのだが、今回紹介されたMagRoleArrowでは、あらかじめ指定しておいたキーコンビネーションで、ワンタッチでポインタの移動方向を回転させることができる。

 そして、この2つのソフトを組み合わせることで、PDFリーダーとしてのノートPCの使い勝手をグンと向上させることができたのだ。ここ数年では、かなりうれしい出来事だ。

●ワンタッチでノートPCを縦に使う

 電子書籍リーダーとして、iPadやiPhoneが話題になることが多いが、その魅力的な特徴の1つとして、加速度センサーを使い、本体を回転させると、画面の縦横が自動的に切り替わる機能がある。ソニーのVAIO Pや先日出荷が開始された東芝のlibrettoも、この機能が実装されている。

 書籍をスキャンした自炊PDFは縦長のものがほとんどなので、ディスプレイをポートレート(縦位置)で使いたい。また、インターネットブラウザなども縦で表示する方が使いやすいことが多いので、仕事部屋のメイン環境でも、マルチディスプレイのうち1台はポートレート固定で使っている。

 個人的にはこうした機器を実装したモバイルPCが出てくる前から、同じようなことを自前でやってきていて、ノートPCを本のように縦に持ってPDFを読んできた。でも、そのための準備がとてもめんどうだったのだ。

 モバイルノートPCを縦に使うための準備は、次のようなイメージだ。

1. Alt+Ctrl+→ で画面の方向をディスプレイ右を上に変更する(ビデオドライバにその機能がない場合はiRotateでできるようにしておく)。
2. 縦にした状態でタッチパッドを使えるようにするためにマウスポインタの移動方向をパッドの右が上に変更する。

 この状態で、ノートPCをディスプレイを左にして縦に構えると、右手の親指でパッドやボタンを操作しながらPDFを読むことができる。Adobe Readerでは、Ctrl+Lでページの表示が最大化され、スペースキーや矢印キーでページ送りができるので、めんどうな場合はタッチパッドを使わないことも多かった。もちろん、元の状態に戻すためにも、この2ステップが必要だ。

 だが、KeyMouXrはその不便を一気に解消してくれた。というのも、このソフトは、1のキーコンビネーションに、複数のキーコンビネーションを定義することができ、それらを順に実行することができるからだ。

 すなわち、2ステップが必要だった画面方向の変更と、マウスポインタの移動方向変更を、ワンタッチでできるようにしてくれる。単一のショートカットでマウスポインタの移動方向を変更できるMagRoleArrowあってのことだ。たったそれだけのことだが、使い勝手は大幅に高まる。

 手元の環境では、ポートレート使用開始にCtrl+Pを割り当てて快適に使えている。ほとんどのアプリケーションでCtrl+Pは印刷に割り当てられているが、モバイルノートPCから印刷をすることはまずないので不便はない。ランドスケープ使用に戻すためにCtrl+Lを使いたいのだが、Adobe Readerではこれが全画面表示へのショートカットになっている。だが、ここでも、KeyMouXrが役に立つ。あらかじめ、Ctrl+L以外のコンビネーションにCtrl+Lを割り当てておけばいいのだ。ぼくは、Ctrl+Enterにこの全画面表示を割り当てた。

 縦方向のディスプレイは、ブラウザを使う際にも便利だ。KeyMouXrは、アプリケーションごとに異なるキーバインドを定義できるので、iexplorer.exeにも同様のバインドを割り当ててみたが、うまく作動するときとしないときがある。ここは1つ不具合解消を期待したいところだ。

 本を読むためだけに、複雑なパスワードを入れてログオンするのがめんどうなら、権限の低い限定アカウントを作り、簡単なユーザー名とパスワードでログインできるようにしておけばいい。

●ソフトがかなえる自由度の高さ

 こうしてPCは、願いをかなえるソフトウェアを見つけることさえできれば、それだけで大幅に使い勝手が高まる。いわば、何でもありの世界だ。自分自身にプログラミングの能力があれば、さらに自由度は高くなるだろう。たとえば、今回は、複数のソフトの組み合わせで、やりたいことをかなえたが、画面方向、マウスポインタ方向、方向キーの向き、スクロールのためのパッドエッジの位置などの組み合わせを一気に変更するアプリケーションなども、今後は出てくるかもしれない。巨大なPDFをサクサク読むには、やはりPCの処理能力が頼りになる。

 iPadやiPhone、そして、Android携帯電話などで、アプリを入れることで世界が変わることを知ったユーザーらが、もっと便利で楽しいことを求めてPCに回帰してくるというのもアリかもしれない。やはり競合ではなく協調が重要だ。適材適所でさまざまなデバイスを使い分け、それらのデバイスが異なっても、標準化された同じコンテンツを楽しみたい。現時点でそれをかなえるファイル形式はPDFとJPEGくらいかもしれないが、この先どうなるかはわからない。とにかく早くデファクトスタンダードが決まってほしいというのが正直なところだ。