山田祥平のRe:config.sys

USB Type-C 世界制覇への道を拓く

 USB Type-Cの時代がやって来ようとしている。でも、新しい規格が一般に浸透するまでは混沌とした状況が続き、エンドユーザーを苦しめる。それがお約束だ。この状況、いったいいつ頃収束するのだろう。

dynabook V が電源供給に USB Type-C採用

 東芝の新ノートPC dynabook Vが発表された。12.5型の液晶が360度回転するタイプの2in1 PCで、15.4mmの薄さながら、17時間ものバッテリ駆動を実現するという。しかも急速充電に対応し、仕様では出かける前の15分で3.5時間分、昼休みの1時間で11時間分を確保できる。話半分だとしても魅力的な利便性だ。

 重量は1,099gと、驚くような軽さではない。同社によれば1kgを切ることも考えたそうだが、バッテリ駆動時間を優先したそうだ。また、液晶回転機構を信頼性の高いものにするための2軸ヒンジがけっこうな重量を占めているとも言う。

 実機を手元で一定期間使ってみたわけではないので、実際の使い勝手についてはまだ未知数だが、本体を実際に触ってみた限りは、きわめて意欲的な製品に感じる。個人的に残念なのは、画面の縦横比が相変わらず16:9である点くらいで、かなり気になる製品だ。

 本体拡張用のインターフェイスとしてUSB 3.0とThunderbolt 3(USB Type-C)の端子をそれぞれ1個ずつしか持たない。あとは音声入出力のためのジャックのみだ。つまり、電源入力のための端子を装備していない。MacBookやHuaweiのMateBookの前例があるとは言え、dynabookもついにという意味で、これにはちょっと驚いた。

 電源についてはUSB Power Delivery(USB PD)を使うそうだ。製品には45WのACアダプタが添付される。AC側は脱着可能だがDC側はケーブルが直付けになっている。ケーブルはけっこう太い。何しろ、規格的には15V/3Aが通るのだ。さらに、この製品の端子は、Thunderbolt 3端子でもある。このように、両端のデバイスがネゴシエーションして、USB規格以外の信号をやり取りできるAlternate Modeが使えるのもUSB Type-Cの特徴だ。

 充電しながら各種の機器が使えるように、製品には拡張用アダプタが同梱される。本体付属のACアダプタでこのアダプタに電源を供給し、やはり直付けされたType-Cケーブルを本体に装着すると、Gigabit Ethernet、HDMI出力、ミニD-Sub15ピン、もう1つのUSB 3.0が使えるようになる。どうせならここにもUSB Type-Cを1つ、欲を言えばSDカードスロットがあれば良かったと思う。

祈らなくても良いように

 USB 3.0をなくしてしまうのは現時点のタイミングでは時期尚早という判断なのだろう。また、USB Type-Cに接続されるケーブルがアダプタ直付けなのは、エンドユーザーが規格に準拠していないケーブルを使ってトラブルを起こさないようにということだと思われる。

 USB Type-C端子しか装備していないデバイスとしては、スマートフォンが先行している。その充電がうまくいくかどうかは、今のところギャンブルのようなものだ。

 というのも、充電が正しく行なわれるためには、ACアダプタ、ケーブル、デバイスの3つの要素が完全に整合しなければならない。

 しかも、デバイスは、各社各様の急速充電規格を使っていたりする。USB Type-C端子を持っているからといってUSB PDに対応しているとは限らない。ややこしい話だが USB Type-C充電の規格もあって、コネクタの形状だけでは分からないのだ。

 ケーブルはケーブルで、太くなることを嫌い、従来のような細いケーブルの先にUSB Type-Cのコネクタを付けただけということもあるし、Micro USBのコネクタにアダプタを装着してUSB Type-Cに変換しているだけという場合もある。

 こうした状況だから、端子がUSB Type-Cであるからといって、さまざまな拡張ができるかどうかはまったく保証されないわけだ。充電はもちろん、Alternate Modeがうまく機能するかどうかも博打だと言える。だが、特に充電は鬼門だ。データは流れるか流れないかのどちらかだが、充電は速い、遅い、できない、そして最悪、壊れる、燃えるといった複数の段階がある。

 その混乱を避けて、Googleは、ハードウェア開発者向けのドキュメントの中で、USB Type-Cコネクタを持つデバイスは、独自の充電規格を使わないように強く求めているが、それも、今後の混乱、そして、最悪の場合の発火や発煙などの事故を最大限に回避できるようにするためなのだろう。将来のAndroidは、USB Type-C充電やPDなどとの互換性が必須となるとされている。

 また、先日、Qualcommは、Quick Charge 4を発表した。Snapdragon 835 以降のプロセッサ搭載デバイスで使えるようだが、「USB Type-C and USB Power Delivery (USB PD) compliant」と明言している。

 電源は左のデバイスから右のデバイスへと流れ、データのやり取りのためのホストは右のデバイスでペリフェラルが左になる。しかも、そのケーブル内を流れるデータはUSBとは異なる規格といったややこしさの中で、ユーザーが混乱することなく、まさに、プラグすればプレイできる環境になれるかどうか。もうそれは、1998年頃のUSBの“Plug&Pray”(挿して祈る)を思い出させる。

でかける前にちょっと充電、それがこれからの当たり前

 東芝のようなベンダーがUSB Type-Cによる電源供給を採用したことは大きな一歩でもある。その一方で、ケーブル直付けのアダプタは標準規格という点で、恐る恐るの第一歩だ。好きなアダプタと好きなデバイスを好きなケーブルで結べば適切な規格でやり取りができるというのが理想だからだ。

 スマートフォンのUSB Type-C端子にUSB PD対応ケーブルは太くて取り回しがしにくい。寝モバするにもやっかいだ。スマートフォンにしてもPCにしても、これからは大手のベンダーが、続々とType-C対応を表明してくるだろう。サードパーティも対応製品を出してくるはずだし、既に、世の中には数多くの製品が存在する。100均グッズであろうと、著名ベンダーの高額製品であったとしても、とにかく製品には、その製品が何の規格に対応しているのかをきちんと明記するようにして欲しい。そうしなければ、せっかくの標準規格が台なしだ。もはや、プラグの形状だけでは何に使えるのかがエンドユーザーには分からないのだ。

 いずれにしても、今回のdynabook Vは、「いつもACでバッテリフル、持ち出す時だけバッテリ」という当たり前を、「いつもバッテリ、でかける前にちょっと充電」というフェイズに切り替える提案だ。その急速充電でもバッテリの劣化が最小限に抑えられるようにさまざまな工夫がされているという。そんな便利な世界へのフライトがうまく離陸できるように、各方面には努力を怠ることのないようお願いしたいと思う。