山田祥平のRe:config.sys

空飛ぶ音楽

 出先で音楽を聴くという行為にはいろんな目的がある。好きな音楽で気分をリフレッシュしたいといったことから、周りの騒音を打ち消したいといったことまで、目的はそのときどきで異なる。それでも、多少はまともな音で聴きたいというのは本音。今回は、昨今の音楽再生事情を考えてみたい。

Android OがLDACをサポート

 Googleが次期モバイルOS、Android OのDeveloper Previewを公開した。オーディオ的な要素としては、ソニーとの協力によってBluetoothでLDACコーデックがサポートされることになるようだ。Andoroidスマートフォンでは、Qualcommのプッシュも大きかったのだろうことからapt-Xを多くのデバイスがサポートしてきた。ここにきてちょっと流れが変わるかもしれない。

 過去バージョンの経緯から想像するに、Android Oは、5月に一般向けのプレビューが始まり、夏の終わり、秋の初めごろに完成、順次各社のデバイスがアップデートされるといったところだろうか。現行のAndoroid NことNougatへの移行の様子を見ていると、エンドユーザーが自分のスマートフォンでAndroid Oを普通に使えるようになるのは来年(2018年)の今頃かもしれない。

 iPhoneに関してもいろんな噂が飛び交っている。iPhoneは現行世代の製品で、本体のイヤフォンジャックを撤廃した。それでどうやって音楽を聴くかというと、Lightning端子を使った変換ケーブルを介してイヤフォンをつなぐのだ。製品にはこの変換ケーブルがデフォルトで同梱されている。

 コネクタ部分にはデジタル信号をアナログ信号に変換するDACとアナログアンプが内蔵されていて、それで通常のイヤフォンを接続して音楽を楽しめるようになっている。そして、今後、このLightning端子が廃止されてUSB Type-Cになるとかならないとか、いろいろな噂が蔓延している。

 個人的には、外で音楽を楽しむときにはiPhoneを使っている。音源は現時点でCDがベストという方針なので、そのCDから音楽を取り込むためにはPCが便利だし、その音楽管理と、デバイスとしてのiPhoneへの音楽データ転送にはiTunesが便利だ。

 いろんなソリューションを試してはいるが、今のところiTunesに勝るものはまだない。だから、iPhoneでの音楽再生を少しでもいい音で聴きたいというのがささやかな願いでもある。

 ところが、iPhone 7に付属している変換アダプタの音質はお世辞にも素晴らしいとはいえない。あの小さなスペースにDACとアナログアンプを実装しているのは、まるで魔法のようだと感心するが、もうちょっと欲張ってほしかったとも思う。

 今後は、Androidスマートフォンにおいてもイヤフォンジャックがなくなるトレンドも見えてきているので、いよいよ次善の策を考える必要が出てきた。

良いも悪いもコーデック次第

 デジタルオーディオデバイスでの音楽再生の音の良さを決める要素はいくつかある。まず、当然のことだが音源ソースとなるファイル。ビットレートが高いほうがいいわけだが、まあ、256Kbps程度あればよしとしよう。

 いわゆるハイレゾ音源はビットレートを極限まで高くしたものでサンプリング周波数も高い。とにかく保存する音源については、できるだけ情報量の多いものにしておくことがポイントだ。今はともかく、現物のCDと同じ情報量を持つデータをファイルとして保存しておくことができれば、10年先、20年先に、その時点の環境にふさわしい音源を確保するためにリッピングのやり直しというめんどうは少なくとも回避できる。

 まともな音源が用意できれば、次は、その再生環境だ。デジタルプレーヤーとしてのスマートフォンで再生された音楽は、最終的にはアナログ信号に変換され、アナログアンプで増幅されてイヤフォンやスピーカーなどを駆動する。最終的に耳に入る音は、ここで空気の振動となる。だからイヤフォンやスピーカーが違うだけで、音はコロリと変わる。そこをおろそかにすると損をする。

 さらに重要な要素となるのはデジタル信号がDACに入るタイミングと、アナログアンプに入るタイミング、そしてその伝送路だ。

 デジタル信号の伝送路は今のところ有線と無線に大別できる。モバイルオーディオで無線の場合、Bluetoothが使われるのが一般的だ。

 Bluetoothを伝送路として使う場合、プレーヤーの中で電波に乗せるときに、音楽データはいったんDACでアナログにされ、別の方法で圧縮梱包されて電波に乗る。この圧縮の方法をコーデックと呼ぶ。

 Bluetoothオーディオで使われてきたコーデックはSBCだったが、効率優先のコーデックだったために遅延や周波数帯域の点でデジタルなのに音が劣化という印象は否めなかった。Bluetoothオーディオは音が悪すぎて話にならない、だから無線はダメという、もっともらしい都市伝説はSBCコーデックが犯人だといってもいい。

 今、一般的に使われるコーデックがiPhoneならAAC、Androidならapt-Xになったことで、音質は飛躍的に改善された。受信側にしっかりした電源を持ったちゃんとしたアナログアンプがあれば十分に妥協できるものになっている。昨年(2016年)登場したapt-X HDは、さらに高音質を手に入れた。

 また、LDACはソニーが開発したコーデックで、ハイレゾ音源をそのまま梱包できる。小さな箱に大きな情報は入らないが、大きな箱なら小さな情報も大きな情報も入る。まるでAmazonの段ボール箱のような理屈だが、とにかく、音楽データを再サンプリングしないでそのまま伝送してしまえる点が有利で、それが高音質を支えている。Android Oは、どうやら新たにこのコーデックをサポートするようになるようだ。

空飛ぶ音楽を良い音で楽しむために

 いずれにしても、情報量の多い音源を、高い品質のまま伝送できるコーデックで伝送し、余裕のあるアナログアンプで増幅した信号を優れたイヤフォンで再生できれば、耳に入る音は良い音として聞こえる。

 それをなんとかしようと、あれこれ製品を物色しているわけだが、今のところの選択肢としては、受信側にレシーバデバイスと一般的なイヤフォンを組み合わせて使う方法と、レシーバデバイス内蔵のイヤフォン、ヘッドフォンを使う方法がある。

 手元には昔から愛用しているイヤフォンがそれなりの数あるので、それを使い続けたいという気持ちもある。

 そんな事情を背景に、オーディオ再生環境改善のためのアイテムをいろいろと試してみることにした。

 今、この手のデバイスにもっとも熱心に取り組んでいるのは、意外にもソフトバンクだ。SoftBank SELECTIONとして、「動くひとの、音」をキーメッセージにしたBluetoothオーディオのブランド「GLIDiC」を立ち上げるなど、力の入れようがわかるというものだ。

 これらのブランドを含めて、いろいろと試してみた。次回は具体的に各製品の特徴とインプレッションをお届けしたい。