1カ月集中講座

無線LANルーターの基礎から活用までを見直す 第4回

~オンラインサービス活用のためのルーター設定

 特定のテーマを1カ月に渡って掘り下げ、理解を深める1カ月集中講座。今月は注目が高まっている無線LANルーターについて取り上げている。今回は、オンラインサービスを使うためのルーター設定について紹介したい。

 OSにオンラインストレージが付いてきたり、文書作成アプリがWeb上で無料で使えたり、インターネットを介して動画やゲームを楽しんだりと、10年前から見ると夢のような現在だが、ルーターの設定をちょっと見直すことで、さらに便利に、快適になる。

オンラインストレージのルーター設定

 オンラインストレージはインターネット経由でどこからでも利用できるファイルの保管庫だ。速度面ではPCに内蔵されたSSDやHDDに遠く及ばないが、容量面では無料のプランでも10GBを超えるサービスが登場している。音楽、ビデオ用途としては物足りないが、プライベートな写真や書類の保管庫としては0円利用でも実用に耐えうる。

 特に効果的なのがバックアップ用途で、ファイル保護のための対策が取られているので、メンテナンスを怠っている個人のPCよりも信頼できるし、サービスによってはファイルの編集履歴が残るメリットもある。さらに、バックアップ用途であれば専用の同期アプリを使えば遅さを実感することもない。

オンラインストレージを使用する際に1度は確認しておきたいのがルーターのファイアウォール系の設定。とはいえ、初期状態でフィルタ設定が入っている製品は少数派だ
オンラインストレージのアプリはPCの内蔵ストレージに同期用のフォルダを作成する
赤線で囲ったのがオンラインストレージアプリのアイコン。上から「Amazon Cloud Drive」、「OneDrive」、「box」、「BitCasa」、「Dropbox」、「Google Drive」。無料プランだけでも初期容量の総計は84GB
Google Driveが使用するアドレスとポート。Googleドキュメントやスプレッドシートも使用するポートは同じだ
Dropboxが使用するアドレスとポート。同一LAN内での同期を高速化する「LAN同期」は17500番ポートを使用

 オンラインストレージと関係するルーター設定は、パケットフィルタやポートフィルタなど、ファイアウォール系の設定だ。使用するポートは「tcp 80(http)」と「tcp 443(https)」なので、ルーターの初期設定で遮断されていることはない(遮断されているとルーターの管理画面も開けない)。

 うまく動作しない場合は誤って設定を変更しているか、PCにインストールされているファイアウォールでアプリケーションの通信が許可されていないかだろう。アドレスでブロックする設定になっている可能性もあるが、その場合誤って設定を変更している可能性が高い。

【表1】主要なオンラインストレージの使用ポート
使用ポート80(http)443(https)その他
OneDrive
Google Drive
Dropbox17500(LAN内)
box
Bitcasa

ストリーミングサービスのルーター設定

 ネットワークの速度は十分速いのにビデオや音声のストリーミング再生が途切れる、といったケースで効果的なのが、QoS設定の見直しだ。QoS(Quality of Service)はストリーミングのように速度を維持する必要がある通信の優先度を上げ、それ以外の通信の優先度を下げることで、限られた資源をうまく活用して破綻の無い快適な結果を得るための規格だ。製品によっては「TVモード」「優先制御」などとも呼ばれている。

QoSの設定例1(ネットギア製品)。ポート番号と優先度を指定して設定を追加する。使用するポートはあらかじめ調べておく必要がある
QoSの設定例2(バッファロー製品)。用途別に優先度を割り当てられるので初心者にも向いている。ポート番号別に優先度を設定することも可能
無線LANルーターのWMM(Wi-Fi Multi Media)設定画面例。QoSのようなポート単位での設定はない

 QoSはポート単位で優先度を設定する。ネットワークの通信はポート番号ごとに用途が割り当てられているので、その番号を基に優先度を調節すれば、ストリーミングの優先度を上げて、ブラウジングの優先度を下げるといったことが可能だ。ポート番号でQoSの設定をする場合、例えばUstreamならtcpの80、443、1935、6667(チャット用)の優先度を、ニコ生であればtcpの80、843、1935、2805~2899を見直せば良い。もっとも、ストリーミングと言っても何種類ものポートが使われているので、最近では設定を簡単にするためにポート単位ではなく用途別に指定できる製品も登場している。

 QoSの仕組みを無線通信で活用するためにできた規格がWMM(Wi-Fi Multi Media)だ。WMMでは用途別に優先度が割り当て済みなのでユーザーが細かな設定をする必要はない。あるとすればWMM機能のオン/オフ切り替えくらいで、iPhoneやiPadなど常時オンになっている製品もある。

 WMMを利用するには、無線LAN親機と無線LAN子機の両方がWMMに対応している必要がある。IEEE 802.11nはIEEE 802.11e(WMMはこの11eのサブセット)の対応が必要なので、11n対応以降の無線LANルーターであればWMMは利用できることになるが、実際に対応しているかどうかはマニュアルや仕様表で確認するべきだ。常時オンになっている製品の場合管理画面ではWMMの対応状況は確認できない。

オンラインゲームのルーター設定

 オンラインゲームについては、種類にもよるがストリーミング以上に応答速度が求められる場面が少なくない。応答速度が重視されない場面でも、時折反応が遅くなるより、遅滞なく進行していく方が快適なはずだ。オンラインゲームに関わるルーターの設定は、UPnP、ファイアウォール系、そしてQoSの設定だ。

UPnPはポート転送の設定画面例(バッファロー)。オン・オフ切り替えのみなので管理画面はシンプルなものが多い

 オンラインゲームではゲームに使用している機器同士がインターネット経由で直接通信する場面があるのでUPnP(Universal Plug and Play)対応は必須と言っていいだろう。初期設定ではオフになっていることがあるので管理画面を開いて確認する必要がある。UPnPが搭載されていない場合は、ポート転送(ポート変換、ポートフォワードとも呼ばれる)機能を使った設定変更が必要だ。もっとも、最近ではUPnPを搭載していない製品を探す方が難しいくらいだ。

 それから、使用するポートがファイアウォールで遮断されない設定を変更して、さらに、QoSで使用するポートの優先度を高めに設定しておけば準備は万端だと言える。ただし、ファイアウォールの設定については、誤って設定してしまうリスクを考えると、普段ルーターの管理画面を開かないような人は無理にいじらない方がよいだろう。QoSの設定については、使用するポートの優先度を上げるだけであれば、ポート番号が違っていたとしても実害はないので、チャレンジしてみるのも悪くないかもしれない。

 なお、オンラインゲームが使用するポートは通常公開されているが、公開されていないからと言ってログ情報などを基にQoSやファイアウォールの設定をするのは禁物だ。と言うのも、使用しているポートは必ずしも固定ではないので、せっかく設定しても効果出ない場合があるからだ。また、安全のためにも非公式な情報を鵜呑みにして設定することがないようにしたい。

 注意点として、UPnPが外部との通信を簡易化する機能であるため、セキュリティ上の弱点となる場合がある。場合によってはUPnPをオフにするようにメーカーやセキュリティ会社から警告が出されることがある。早めに対応できるようにこまめな情報収集と管理画面の使い方を忘れないようにしたい。

Facebook Wi-Fiに見るゲストアクセス管理の可能性

 最近はスマートフォンでテザリングができるようになり、有料のWi-Fiサービスがエリアを広げてきたこともあってか、無料のWi-Fiサービスは日本国内では目立たない印象がある。「Facebook Wi-Fi」はFacebookユーザーに無料のWi-Fiを提供するサービスで、飲食店など店舗向けのものだ。これまでも店舗ホームページに誘導後、無料のWi-Fiを提供する仕組みはあったが、Facbook Wi-FiはSNSと連携していることで、メールアドレスに留まらない「つながり」ができることがメリットになる。

Feacebook Wi-Fi。店舗向けのサービスで、Facebookの専用ページでチェックインしたユーザーに無料のWi-Fiを提供する
Facebook Wi-Fiに対応した製品の管理画面例。店舗向けとはいえ、一般家庭でも使える製品にも搭載されている

 残念ながらFacebook Wi-Fiは店舗向けのサービスなのだが、SNS連携のユーザー認証ができるようになれば、大雑把な管理になりがちなゲストアクセスを簡単かつ、きめ細かに管理できるようになる可能性があると思うので、発展に期待したい。

(井上 繁樹)