大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

新春恒例企画:2007年のキーワードは、レッドソックス!?




 2007年、大きな注目を集めているのが日本プロ野球界の至宝、松坂大輔投手の米大リーグへの挑戦だ。

 ストーブリーグの話題も、松坂投手のRed Sox入団に集中。米大リーグの名門Red Soxは、独占交渉権の獲得に約5,111万ドル(約60億円)を投じ、さらに、6年間の推定年俸が5,200万ドル(約61億円)とするなど、その高い評価にも注目が集まった。

 米国では、Red Soxが本拠とするBostonへの松坂投手による経済効果を、年間7,500万ドル(約86億円)と試算。日本からの観光客増加にも期待を寄せているという。

 そして、2007年のIT業界およびデジタル家電業界のキーワードも、「Boston Red Sox」となりそうだ。

 新年恒例の言葉遊びで、2007年を占ってみたい。



●「B」は“Blu-ray&HD DVD”

 まずは、Boston Red Soxの「B」からいってみよう。

 「B」には、Blu-ray&HD DVDの次世代光ディスクを巡る争いを挙げておきたい。

 2006年は、主要各社から両規格のレコーダが登場。さらには、PCにもドライブが標準搭載されるなど、次世代光ディスクを巡る争いは、規格論争による卓上の争いから、実際の製品投入による現実の争いへとシフトしてきた。2007年は、これがさらに激化し、具体的なシェア争いへと移行するだろう。ゲーム専用機、デジタル家電、PCと、両陣営の戦いの舞台は広がっており、2007年年末にはどちらが主導権を握るのかといった点でも、ある程度の方向が見える可能性もありそうだ。

●「O」は“OS”

 「O」は、OSである。1月30日に個人向け製品が発売となるWindows Vistaは、まさに2007年の柱。1月15日には、マイクロソフトから最終的な製品発表があり、PCベンダー各社からもVistaを搭載したPC新製品が相次いで発表される予定だ。低迷するPC業界を活性化することができるかどうかに注目が集まる。そして、OSでは、もう1つ、Mac OS X 10.5となる"Leopard"が投入される。1月9日から米サンフランシスコで開催されるMacWorldでは、同時に発表される「iPhone」や「iTV」といった新たな製品とともに目玉の1つとなるのは間違いない。また、エンタープライズ系のOSでは、「HP-UX 11i」が、2007年には第3世代へと進化することが明らかになっている。

●さまざまな意味を持つ“S”

 「S」には、さまざまな意味がある。携帯電話との連動が促進されているSNSは、2007年はさらに利用者が拡大し、コミュニケーション手段としての定着が見込まれるほか、投入が遅れているキヤノンおよび東芝の次世代薄型TVの「SED」も2007年後半の発売が見込まれ、2008年の量産へとつなげることになる。また、「Security」「SMB(中堅/中小企業)」マーケットは、エンタープライズ分野において需要拡大が見込まれる領域だ。そして、「SaaS(Software as a Service)」「SOA」も、2007年のエンタープライズ分野を俯瞰する上で欠かせないキーワードだろう。

 こうした数々の「S」の中で、あえて取り上げておきたいのが、携帯電話におけるSIMロック解除の動きだ。携帯電話各社は、インセンティブ制度の見直しとともに、SIMロック解除には慎重な姿勢を崩していないが、2006年に総務省が発表した「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方について 新競争促進プログラム2010」では、携帯電話端末販売におけるインセンティブ制度およびSIMロック解除に関しての検証が必要と指摘されており、同省では、これらの問題に関して、2007年夏にも方向性を出すとしている。携帯電話事業者にとっては、ビジネスモデルの転換をも余儀なくされる大問題。事業者にとっては、2006年のMNP以上に波乱の1年になりそうだ。

●「T」は“TV”

 「T」は、TVのTである。薄型TVの価格下落は、2007年も続くことは明らか。年率25~30%の価格下落が維持されることになりそうだ。とくに、価格下落に大きな要素となるのが新工場の稼働。生産効率を高めた工場において、コスト競争力を持ったパネルが生産され、それが薄型TVの最終価格に反映されるからだ。

 2006年8月に稼働したシャープの亀山第2工場は、2007年3月には月産3万枚の生産体制へと拡大。パナソニックも尼崎第2工場を2007年7月に稼働。ソニーも、韓国サムスンと合弁で稼働させているS-LCDで、2007年秋にも第8世代によるパネル生産を開始する予定だ。

 こうした動きとともに、2007年は、薄型TVのフルハイビジョン化の動きも見逃せないものとなりそうだ。

●2つめの「O」は“On Demand”

 2つめの「O」は、On Demandとしたい。2006年は、動画配信が一般に普及した1年であることは誰もが認めるところ。YouTubeが世界規模で普及したほか、日本においても、GyaoやYahoo! 動画などの動きが見られている。さらに、TV局がオンデマンド型の動画配信に着手するなど、2007年は、動画配信がますます広がる1年になるだろう。

●「N」は“NGN(Next Generation Network)”

 「N」は、「NGN(Next Generation Network)」である。2006年12月には、NTT東西が、東京と大阪でそれぞれNGNのフィールド・トライアルを開始。NECやソニー、パナソニックなど12社がこれに参加することが発表されている。2007年には、一般ユーザーを対象にした実験も開始される予定で、これを踏まえて、2007年度下期には実用化に踏み出すことになる。まさにNGN元年と呼ぶにふさわしい1年になりそうだ。

●「R」は“Remote Control”

 都市名が終わったところで、後半は、チーム名のRed Soxである。

 「Red Sox」の「R」は、Remote Control。いわばリモコンである。いまさら、なぜリモコンかと思う読者もいるだろう。しかし、2007年はリモコン大革命の1年となりそうなのだ。2006年の年末商戦で、家電メーカー各社が提案してきたのが、1つのリモコンで複数の機器を制御するリンク機能だった。松下電器の「VIERA LINK」や、シャープの「ファミリンク」がそれだ。HDMIケーブルによってデジタル家電機器を結ぶことで、あたかも1つの機器のようにして、TV、レコーダ、オーディオ機器が連動するようになる。これによって、セット販売が増加する動きも見られ、低迷していたDVDレコーダが、年末商戦で再浮上。一部販売店では、薄型TVとDVDレコーダとのセット販売の比率が3割に達するといった例も見られている。2007年のデジタル家電メーカー各社の提案は、リモコン1つで複数の機器を制御するリンク機能の争いになってくるのは間違いないだろう。

●「E」は“Eco&UD”

 「E」は、「Eco&UD」である。とくに、白物家電業界において、これは欠かすことができないキーワードとなっている。エコという観点では、機器そのものの省電力化や節水といった機能だけでなく、温暖化防止効率、資源効率など環境全般に配慮した製品づくりが求められている。一方、UD(ユニバーサルデザイン)は、高齢化社会を迎えて、あらゆる人が使いやすいものづくりが求められていることを背景にしたものだ。2006年10月にスタートした家電Watchの創刊記念企画で、家電メーカー各社のトップインタビューを試みたが、各社トップが異口同音に話していたのが、Eco&UDであったことは印象深かった。これは、2007年の家電製品市場においては必須課題となるだろう。

●「D」は“Digital Broadcasting”

 「D」は、Digital Broadcasting。つまり、地上デジタル放送である。2006年12月には、全国の都道府県庁所在地をはじめ、84%の世帯をカバー。これを踏み台として、薄型TVの普及にも拍車がかかることになりそうだ。また、ワンセグ放送の動きも、視聴を可能にする携帯電話や自動車搭載型TV、携帯型ゲーム専用機を増加させることにつながっている。一方で、2007年秋は、BSアナログハイビジョン放送が終了し、2007年12月から、3つの局で、BSデジタルハイビジョン放送が開始される予定である。

●「SOX」は“日本版SOX法”

 最後の3文字である「SOX」はそのままでいきたい。ズバリ、日本版SOX法である。2006年から、SOX法に関するセミナーはいずれも満杯という状態が続いているように、企業の経営層や情報システム部門にとっては最大の関心事。2008年4月以降の事業年度からの開始に向けて、2007年は、企業にとって、日本版SOX法への対応準備が重要な取り組み。ITベンダーやシステムインテグレータにとっては、大きなビジネスチャンスが待っているともいえる。

 このように、2007年のIT業界、デジタル家電業界の話題は目白押しであり、まさに、楽しみな1年となりそうである。

 そして、このキーワードの中に含まれなかったものとして、特筆しておきたいのが、高速電力線通信である。

 コンセントのある場所ならば、データ通信が可能になる高速電力線通信は、家庭内におけるネットワーク環境としては手軽なものといえる。高速電力線通信は、一般的に「PLC」と呼ばれるが、この頭文字の「P」は、松坂投手のポジションである「Pitcher」の「P」でもある。松坂投手の1年目からの活躍に期待して、最後に、あえて、「P」を付け加えてみた。ややこじつけではあるが、ご勘弁いただきたい。

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(2007年1月5日)

[Text by 大河原克行]


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