大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

2004年のIT産業の行方を占う!?
1年、1週間、1日、1時間から1を引くと


 2004年のパソコン産業は、昨年以上に明るい兆しが見られそうだ。

 昨年暮れに、大手パソコンメーカーの社長や業界幹部などに相次いで取材をしたが、2004年の抱負については、明確な自らのビジョンを語る経営者が多かった。これは、一昨年とはまったく異なる傾向だ。

 一昨年後半、業界幹部に2003年の抱負を聞くと、決まって出た言葉が、業界全体の低迷ぶりについてだった。固有のメーカーの戦略を質問したとしても、業界全体の低迷ぶりを危惧する声が相次いだほどだから、いまから振り返れば異常ともいえた。それだけに、自らの戦略よりも長期化する低迷ぶりの方が気になって仕方がなかったのだろう。

 実際、2003年を振り返ると、パソコン本体だけを見ても、そそられるような製品があまりにも少なかったのがわかる。CentrinoやHTテクノロジ、64bit CPUの登場といった技術的進化はあったが、製品企画として驚くようなものは見当たらない。それは携帯電話の新製品において、ユニークな製品企画が相次いだのに比べると一目瞭然だろう。

 これは、裏を返せば、パソコンメーカー各社が、不透明なパソコン市況を前に、勝負に出るようなユニークな製品や、戦略的製品を投入するのを控え、比較的無難な製品投入に終始したのが原因だったとはいえまいか。昨年7~9月になってようやく市況が好転したのを受けて、11月頃から投入が始まった第2次冬モデルの新製品のなかで、ユニークな製品企画といえるものが一部登場したにすぎず、年間を通じれば、不作の1年といえる。

 だが、昨年暮れ時点での各社首脳の声を聞くと、今年は状況が一変しそうだ。

 冒頭にも触れたように、市況の不透明感については、誰も話題には出さず、むしろ、自らの方針を、前面に打ち出した回答ばかりが相次いだ。それだけ、自らの戦略が推進できる環境まで市況が回復したと判断しているのだろう。

 それならば、昨年後半から一部メーカーが投入しはじめたユニークな製品企画の動きに、さらに拍車がかかる可能性もある。今年、各社から投入されるパソコンには期待してもよさそうだ、という判断がここからもできるだろう。個人的にも、今年は各社の奮闘ぶりにかなり期待しているのである。


●今年のIT産業は「364、6、23、59」

 ところで、2004年はITを取り巻く動向はどうなるのか、そして、どんな年になるだろうか。新年恒例の「言葉遊び」から見ると、今年は「364、6、23、59」という数字に表わすことができそうだ。なにも脈絡のない数字のように見えるが、この数字の羅列にはひとつの公式がある。

 1年は365日、1週間は7日間、一日は24時間、1時間は60分だが、そこからそれぞれ1ずつ引いた数字が、この364、6、23、59となる。実は、この数字が、今年のキーナンバーだ(今年は、うるう年のため1年間は366日なのだが、まぁご勘弁いただきたい)。

 では、それぞれの数字の意味を見てみよう。

 “364”は、今年普及が期待されるものを示す数字が隠されている。

 364を3と64に分けた場合、3は第3世代携帯電話。そして、64は64bit CPUだ。

 第3世代携帯電話は、auがすで累計1,000万台を突破、それを猛追しているドコモも今年3月までの年度出荷計画を200万台に上方修正するなど動きが活発化しているが、2004年は、ドコモの立川敬二社長も、「FOMAにとって、ホップ、ステップ、ジャンプのジャンプの年に当たる」と位置づけており、さらなる飛躍が期待される。これに関連して様々なサービスが開始されるのは明らかで、携帯電話市場は、ますます賑やかな1年となるだろう。残念ながら、今年もパソコン業界以上の話題を振りまくのは間違いなさそうだ。

 64bit CPUは、2003年の段階でCPUベンダー各社から出揃ったが、今年後半にはかなりのサーバー、クライアントに搭載されることになるだろう。64bit CPU本格普及元年といってもいい1年になると予測できる。読者のなかにも、すでに64bitの世界を体感している人もいるだろう。これが、どれだけ身近なものになるのか期待したいところだ。

 2つめの“6”は、規格という側面からの動向を捉えたものだ。ITを取り巻く様々な規格の行方のなかでも、今年はIPプロトコルであるIPv6が、いよいよ地に足が着いた動きが開始されるとされる点だ。この6は、IPv6の6としておきたい。昨年までは、実証実験や相互運用性などを保証ロゴ認定プログラムの実施などにとどまっていたが、デジタル家電製品などにもIPv6モジュールが搭載されはじめるなどの動きが加速することになりそうだ。本格的な活用は2005年とする声もあるが、IPv6が例年以上の注目を集めるのは間違いない。

 3つめの“23”は、デジタル家電を巡る争いを示す。この数字を聞いて、ピンと来た人も多いだろう。次世代ディスクとして先行しているBlue-Rayは23GB。これが今年、どこまで現実のものとなって我々の目の前に登場するかはぜひ注目したいところだ。

 現時点では、ソニーが45万円の価格で昨年春に投入した製品だけに留まっているが、今週、米国で開催されるCESにおいて、Blue-Ray陣営から何かしらの発表が行われるのは明らかだ。その発表内容次第では、我々の身近に利用できる光ディスクのひとつとして、ググッと近寄る可能性もある。

 当然、片面15GB、両面30GBのHD DVDも、今年は具体的な製品が投入されることになる。HD DVDの旗振り役の1社である東芝の岡村正社長も、2004年の製品投入を明言しており、Blue-Ray陣営とHD DVD陣営が、いよいよ製品投入を行った上での争いを繰り広げることになる。

 4つめの“59”だが、ここでは、パソコンの市場動向の側面から捉えてみたい。

 “5”は、2000年問題を機に導入されたパソコン、サーバーが5年リースの終了時期を迎え、リプレースが集中すると見られることだ。

 そして、“9”は、パソコン普及のスプリングボードとなったWindows 95の発売から9年目を迎え、企業のクライアントPCとして依然として利用されているこれらのパソコンが、同様に最終段階のリプレース時期へと突入することだ。

 業界関係者の間では、2004年が過去最大の企業向けパソコンのリプレース時期になると予測する声もあり、とくに、Windows 95からの置き換え、2000年を前後して導入されたパソコンの置き換えによる需要拡大に期待が集まっている。

 この背景には、セキュリティ対策に神経を尖らせる企業側が、最新のセキュリティ環境を実現するには、最新OSへの移行が不可欠と判断しはじめていること、企業の情報化投資抑制がやや緩和傾向にあることなどがあげられる。また、IT投資減税が今年も対象年度に入っていることや、ノートパソコンを中心としたさらなるパソコンの低価格化傾向もプラス要素に働きそうだ。

 国内出荷全体の約65%を占めている企業向けパソコンの需要が拡大すれば、個人消費がやや停滞したとしてもパソコン出荷全体のプラスに転じることになるため、業界側も企業におけるリプレース需要の拡大には大きな期待を寄せている。

●明るい兆しのなかで魅力的なパソコン投入に期待

 2004年は、やや明るい兆しのなかでスタートを切ったといえる。

 株価も今年中盤以降は、13,000円台まで回復するとの見通しもあり、高い失業率とは裏腹に景気が回復基調であることを強調するアナリストも増えてきた。

 気になるのは、パソコン部門が、依然として収益性の問題を指摘されたり、一部の企業においては構造改革の対象とされている点だ。

 また、ユビキタス社会のなかでは必要不可欠とされるパソコンだが、携帯電話やデジタル家電の高機能化という動きも見られ、各社のなかにおけるパソコン事業の「立ち位置」も難しくなっているとはいえまいか。

 果たして、今年はパソコン業界にとって、当初の見込み通り明るい1年になるのか。

 とりあえず、パソコンメーカー各社には、2003年の不調を取り戻すような魅力的なパソコン投入を期待したい。

□関連記事
【2003年1月6日】【大河原】パソコン産業は今年も低迷するのか
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0106/gyokai44.htm
【2002年1月7日】【大河原】今年のキーワードは「BMW」と「AUDI」だ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0107/gyokai19.htm

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(2004年1月5日)

[Text by 大河原克行]


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