最初に断っておきたい。 この記事の内容は、どちらかというと、一般ユーザーを対象にしたものではない。 主に、PC業界を対象にしたものであり、とりわけ販売店を対象にしたものだと思ってもらって良い。 最近、業界関係者からこのコラムを読んでいるという声を数多くいただいていることから、あえて業界紙の観点で記事をまとめて見た。一般ユーザーには、その点を考慮した上でお読みいただきたい。 ●販売店向けの情報が満載だったJCSSAの新春セミナー
そのため、一般のセミナーでは語られないような、業界関係者を対象にした内容に及ぶことも多い。PCメーカーの販売店支援策であったり、具体的な販売店向けキャンペーンであったり、なかには、プレス発表されていないような今後の事業方針が語られることすらある。 今年のセミナーでは、マイクロソフトの執行役専務ゼネラルビジネス担当の眞柄泰利氏が、「Windows Vista が拓く新しいビジネスチャンス」をテーマに講演を行なったほか、PCメーカー7社による「2007年の製品・販売戦略」に関するプレゼンテーションが行なわれ、業界インサイダー情報ともいえる内容が、一部メーカーから公開された。
本稿では、マイクロソフトの眞柄執行役専務による講演にスポットを当てるが、講演の冒頭に、「ここに300人の聴講者がいるが、これだけで3億円の市場が新たに創出できる」と眞柄執行役専務が切り出したように、販売店に対するマイクロソフトからのメッセージという、やはり、同協会主催のセミナー特有の内容になったといえる。 ●Vistaをきっかけに創出する新市場
それには1つの根拠があった。 セミナーにおいて、眞柄執行役専務は、Vistaのデモストレーションを行なってみせた。だが、この内容は、Vistaの機能を紹介するものではなく、Vistaがどんな機器と連動し、それがどんなメリットをもたらすか、という内容だった。 具体的には、ハイビジョン規格のビデオカメラで撮影した映像を、Vistaで搭載したPCで編集し、それをHD DVDに焼いて、HD DVDプレーヤーで再生。これを大画面のハイビジョン対応液晶TVに映し出す。また、PCに蓄積されたコンテンツを、無線LANを通じて、Xbox 360に配信。これをXbox 360のMedia Center機能を使って、リモコン操作でTVに映し出す、といった具合だ。 Vistaの細かな機能を1つ1つ説明するのではなく、この一連のデモを見せることで、ハイビジョンの世界が訪れている現在、そのハイビジョンの世界を中核機器としてコントロールすることができるのがVista搭載PCであるということを、示したのだ。 裏を返せば、Vista搭載PCを販売することで、家の中のAV機器をハイビジョンに置き換えるきっかけを作ることができ、そこに量販店のビジネスチャンスが広がるという提案でもある。 Vista搭載PCだけを売るのでは、量販店にとっては利益が少ない。だが、複合提案を行なえば、利益幅は広がる。そのシナリオ提案が講演の狙いだったといえよう。 ●300人で3億円の新市場を創出できる理由 販売店が聴講者ということもあり、眞柄執行役専務は、「ぜひ、この構成で、私に見積もりを提出してください」といいながら、それぞれの機器の具体的な価格について言及しはじめた。 中核に据えたWindows Vista対応PCが380,000円としたのをはじめ、ハイビジョンカムコーダーが99,800円、薄型液晶TVが478,000円、HD DVDプレーヤー54,800円など。このデモストレーションで利用したPCおよびデジタル機器の総額は1,358,380円(約135万円)。 「だいたいここから2割引きが相場」として、眞柄執行役専務がはじき出したのが1,086,704円(約100万円)。Vista搭載PCが約38万円であることに比較すると、新たな利用環境の提案で3倍規模の市場が創出できるという計算だ。
「もろちん、すべての人がここまで機器を取り揃えるとは考えていない。だが、Vistaには、それだけの市場を創出するきっかけがある」ということだ。 300人の販売店聴講者が、38万円のVista搭載PCを1台ずつ販売しても約1億円。しかし、システムまで含めて100万円規模の商談へと広げることができれば、3億円の市場が創出できるという計算だ。 残念ながら、マイクロソフトでは、国内におけるWindows Vistaの出荷計画を明らかにしていない。また、眞柄執行役専務の3倍に需要を広げるシナリオをベースに、実際に市場全体に当てはめて、どれだけの新規需要が創出できるのか、といった数字も算出はしていない。 マイクロソフトによると、現在の国内で稼働しているビジネスPCは3,400万台、家庭向けPCは3,000万台と想定しており、そのうち、Windows XPより前のOSを使用しているPCは、ビジネスPCでは31%にあたる1,100万台、家庭向けPCでは30%の900万台だという。 まずは、こうしたWindows XP以前のOSを利用しているユーザーこそが、Vistaへの買い換えターゲットとなる。このうち個人ユーザーの3分の1が乗り換えたとしても、300万台×38万円で、1兆1,400億円の市場を創出。さらに、これを3倍にする利用提案が成功したとすれば、3兆円を越える需要が創出できるという計算だ。 このほかにも、ビジネスPCの買い替え需要、そして、Windows XPからの乗り換えを図るユーザーも少なくないはずだ。 Vistaにはこれだけのビジネスチャンスがある。 「本当は昨年末の段階で、PCを買い換えたかったというXP以前のPCユーザーも少なくないだろう。PC環境を変えることで、デジタルライフスタイルが大きく変革するという提案を、ぜひユーザーの方々に勧めてもらいたい」と、眞柄執行役専務はいう。 ●「ガジェット」は大きなビジネスチャンスに
それが、「ガジェット」である。 ウィンドウズサイドバーに表示されるガジェットは、おまけツールとしての感覚があるだろうが、別の観点から見れば、「ここはビジネスチャンスの宝庫でもある」と眞柄執行役専務は位置づける。 ガジェットには、時計やカレンダー、株価情報を表示するといったさまざまなツールが提供されるが、これを利用してビジネスが創出できるというのだ。 例えば、販売店がPCを販売する際に、標準機能として販売店の情報が表示されるガジェットツールを追加しておけば、PC購入後もユーザーに対して自動的に情報を配信し、リピーターへとつなげる仕掛けが可能になる。 また、ガジェットそのものを販売するというビジネスモデルも可能だ。時計のガジェットも、高級時計メーカーが、自社の時計のデザインを模したガジェットを提供すれば、これを有償で頒布することも可能だろう。 また、ソフトメーカーも、ソフトをインストールした段階でガジェットを追加する仕掛けを用意すれば、やはりユーザーとの接点を維持することが可能になる。
「ガジェットの開発は簡単なものならば、50万円程度でできるだろう。単なるお遊びツールと片づけるのではなく、ここにビジネスチャンスがあることを知り、知恵を絞ってみるべきだ」と眞柄執行役専務は語る。 ●2006年度見通しは下方修正か
さらに、業界関係者の声をまとめると、1月下旬に発表される社団法人電子情報技術産業協会の最新四半期および2006年暦年のPC出荷実績発表の場では、2006年度のPC出荷見通しが下方修正されるのはほぼ決定的と見られ、Vista発売を前にして、市場に水を指す形になるのは避けられそうにない。
PC業界は、Windows Vistaの発売をテコに、市場を活性化したいところ。そのためには、Vista搭載PCの販売に終始するのではなく、もっと知恵を使った販売展開が必要ではないだろうか。
□JCSSAのホームページ (2007年1月17日) [Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
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