ソニーは、ミニノートPCから液晶一体型PC、デスクトップPCにいたるまで、非常に幅広い製品ラインナップを展開している。これまで、デスクトップPCのフラッグシップモデルとして、タワー型の「VAIO type R」が発売されていた。 2006年秋モデルの第2弾として登場した「VAIO type R master」は、筐体の設計や内部構造が一新され、まさに次世代のフラッグシップモデルの名にふさわしい製品となっている。 今回は、VAIO type R masterの市販モデル「VGC-RM70DPL4」を試用する機会を得たので、さっそくレビューしていきたい。 ●2つのユニットで自由なレイアウトを実現 VAIO type R master(以下type R master)の最大の特徴は、本体が2つのユニットから構成される「ツインユニット・コンセプト」を採用したことだ。type R masterは、マザーボードやHDDなどを内蔵するメインユニットと、光学ドライブやカードリーダ、USB 2.0、IEEE 1394などのポート類を備えたアクセスユニットから構成されている。 メインユニットとアクセスユニットは、長さ1.8mのケーブル1本で接続されているため、設置の自由度も高い。両ユニットとも、縦置きも横置きもできるように設計されているので、さまざまなレイアウトが実現できる。メインユニットとアクセスユニットを並べて設置してもいいし、アクセスユニットのみ机の上に置いて、大きなメインユニットは机の下に置くのもいいだろう。 アクセスユニットはスリムだが、耐荷重20kgを実現しているため、24型クラスの大型液晶ディスプレイを上に載せることも可能だ。アクセスユニットには縦置き用スタンドも付属している。メインユニットとアクセスユニットにはそれぞれ電源スイッチが用意されており、どちらからでも電源のON/OFFが可能だ。 メインユニットのサイズは約430×440.5×140mm(幅×奥行き×高さ)、重さは約15kg、アクセスユニットのサイズは約430×290.5×64mm(同)、重さは約6kgである。メインユニットとアクセスユニットの幅は同じ430mmだが、奥行きはメインユニットのほうが150mmほど大きい。
●microBTXフォームファクタを初採用 type R masterは、VAIOシリーズのフラッグシップモデルらしく、基本性能も高い。従来のtype Rでは、CPUとしてPentium D 940(VAIO・OWNER・MADEモデルでは、他のCPUの選択も可能)、type R masterでは、最新のCore 2 Duoが採用されている。 今回レビューしたモデルでは、Core 2 Duo E6600(2.4GHz)が搭載されている(市販モデルの下位モデルではCore 2 Duo E6300を搭載)。type R masterでは、Core 2 Duoを搭載したことで、Pentium D搭載のtype Rに比べて、HDV編集やTMPGEnc XPressでのMPEG-2エンコードにかかる時間が25~40%も短縮されているという。 なお、VAIO・OWNER・MADEモデルでは、Core 2 Extreme X6800やCore 2 Duo E6700といった、さらに上位のCPUも選択できる。 チップセットとしては、Intel P965 Expressを採用。メモリはDDR2-667対応で、1GB(512MB×2)のメモリが標準実装されているが、最大3GBまで増設が可能だ。type R masterでは、筐体デザインが一新されたことに伴い、マザーボードのフォームファクタも、従来のMicroATXからmicroBTXに変更されている。ソニーのVAIOシリーズで、BTXを採用したのは、type R masterが初となる。 ツインユニット・コンセプトの採用によって、メインユニット内部に光学ドライブを搭載する必要がなくなり、ケース内部には余裕がある。そのため、長さ300mm程度のフルサイズPCI/PCI Expressカードの装着できるほか、PCI Express x16スロットに2スロット占有タイプのビデオカードを装着することも可能だ。HDD用の3.5インチドライブベイは4つあり、最大4台のHDDを搭載できるが、実はもう2台分の3.5インチドライブベイが用意されており、メーカーの動作保証外ではあるが、HDDを6台内蔵することもできる。 ケースファンは、前面に80mm角ファンと120mm角ファンが1基ずつ搭載されている。どちらも吸気ファンで、前面吸気、背面排気というBTXの基本思想に基づいている。CPUクーラーにはファンが装着されていないが、120mm角ファンとエアダクトで繋がれており、効率よく冷却できるようになっている。HDD用ブラケットには静音シートが貼られているほか、フロントパネルの形状がノイズを減衰させるように設計されているなど、静音性にもこだわっており、従来のtype Rを上回る静音性を実現しているという。
●デジタルチューナ1基とアナログチューナ2基を搭載 type R masterは、TV録画機能についても、非常に贅沢な仕様になっている。上位モデルのVGC-RM70DPL4では、地上/BS/110度CSデジタルチューナ1基と、地上アナログチューナを2基搭載し、アナログ放送の2番組同時録画も可能だ。赤外線リモコンが付属しており、家電感覚で操作を行なえる。Blu-ray Discドライブを搭載しており、ハイビジョン放送もそのままの画質で、Blu-ray Discにムーブすることが可能だ。グラフィックス機能に関しては、GeForce 7600 GT搭載ビデオカードを搭載。最新のゲームソフトも快適に遊べるパフォーマンスを実現している。 HDDは250GB HDDを2台搭載しており、合計500GBの大容量を実現。RAID 0構成で、ディスク性能も高い。HDD用3.5インチドライブベイは、フロントパネルからドライバーを使わずに着脱できるように設計されているので、HDD交換や増設なども楽にできる。
●アクセスユニットには光学ドライブを2台内蔵可能 次は、アクセスユニットの内部を見てみよう。メインユニットとアクセスユニットは、専用ケーブルで接続されるが、このケーブルによって、PCI Expressの信号とオーディオ信号、サウスブリッジのICH8RがサポートするUSB 2.0の信号が伝送されている。アクセスユニットには、PCI Express-PCIブリッジやUSBコントローラなどが内蔵されており、光学ドライブやUSB 2.0、IEEE 1394などのインターフェイスをサポートする仕組みだ。なお、ICH8RがサポートするUSBの信号をケーブルで伝送している理由は、サスペンド中のキーボードやマウスによるレジュームに対応するためである。 アクセスユニットには、5インチドライブベイが2つ用意されており、光学ドライブやリムーバブルHDDケースなどを2台内蔵することが可能だ。なお、店頭モデルのVGC-RM70DP4では、Blu-ray Discドライブが1台あらかじめ装着されている。シリアルATAだけでなく、従来のIDE(パラレルATA)インターフェイスも用意されているので、シリアルATA/パラレルATAを問わず、ドライブを利用できる。 インターフェイスは、アクセスユニット、メインユニットともに充実している。アクセスユニットのフロントパネルの扉を開けると、スマートメディア/xD-Picture Cardスロット、CFスロット、メモリースティックスロット、SDメモリーカード/MMCスロット、IEEE 1394(4ピン)、USB 2.0×2、ヘッドフォン出力、マイク入力(ステレオ)にアクセスできる。また、アクセスユニットのリアパネルには、PCカードスロットとUSB 2.0×2(キーボード/マウス用)が用意されている。 メインユニットのフロントパネルには、USB 2.0×4とIEEE 1394ポート、オーディオ/ビデオ入力があり、リアパネルには、TVアンテナ入力、BS/110度CSデジタルアンテナ入力、地上デジタルアンテナ入力、DVI-D(HDCP対応)、DVI-I、ビデオ出力、USB 2.0×4、パラレルポート、LAN、モデム、IEEE 1394(6ピン)、オーディオ入出力、B-CASカードスロットなどが用意されている。
●WUXGA表示対応の高品位24型ワイド液晶ディスプレイが付属 type R master VGC-RM70DPL4は、24型ワイド液晶ディスプレイとのセットモデルとなっている。この24型ワイド液晶ディスプレイ(SDM-P246W)は、type R masterにあわせて登場した新モデルであり、こちらもハイスペックな製品となっている。解像度は1,920×1,200ドット(WUXGA表示)対応で、地上デジタルやBSデジタルなどのハイビジョン放送もドットバイドットで、画質を損なうことなく表示が可能だ。XGA表示に比べれば、一度に表示できる情報量は実に約2.93倍にもなる。 コントラストは1,000:1と高く、視野角も上下/左右178度と広い。さらに、PC用液晶ディスプレイではまだ搭載製品が少ないオーバードライブ回路(中間調の応答速度を上げる技術)を搭載し、Gray to Grayで6msの応答速度を実現。動画表示の際の残像感を大幅に低減している。 また、内部10bit演算を採用しており、滑らかな階調表現を実現。入力端子もデジタル×2、アナログ×1と充実しており、KVM機能(キーボード/ビデオ/マウス切り換え機能)も搭載している。DVI-HDCPにも対応しているので、次世代DVDソフトの再生もデジタル経由で行なえる。実際にハイビジョン放送の表示を行なってみたが、発色も鮮やかで、表示品位には満足できる。 このようにSDM-P246Wは、非常に高性能な液晶ディスプレイなのだが、現時点では単体販売はされておらず、type R masterとセットで購入するしかない(type R masterのVAIO・OWNER・MADEモデルでもSDM-P246Wの追加が可能だが、単体では選べない)。このディスプレイだけ欲しいというニーズも確実にあると思われるので、単体発売されることを望む。
●新型キーボードやマウスの出来も秀逸 type R masterには、新デザインのキーボードとマウスが付属する。キーボードは、キータッチもしっかりしており、剛性も高いので、快適にタイピングが行なえる。パームレストは広げることで、キーボードカバーになるように設計されている。また、キーボードにはFeliCaポートも搭載されており、EdyカードやSuicaなどの読み取りが可能だ。マウスも新しくなり、光沢面にも強いレーザー方式の新型が付属する。 さらに、ビデオ編集に便利なジョグコントローラや本格的なステレオスピーカーも付属している。プリインストールされている「Adobe Premiere Pro」や「TMPGEnc for VAIOシリーズ」、「DVgate Plus」などが、ジョグコントローラでの操作に対応しており、快適にビデオ編集を行なえる。
【10月31日訂正】製品発表時、付属レーザーマウスの分解能は1,000dpiとしておりましたが、メーカーより800dpiのとの訂正発表がありました。 ●クリエイター向けの本格的なソフトが多数プリインストール
type R master(市販モデルのVGC-RM70DPL4)は、プリインストールソフトも充実している。デジタル放送視聴/録画用ソフトの「StationTV Digital for VAIO Ver.5.0」やBlu-ray Disc対応の「Ulead BD DiscRecorder for VAIO」、「WinDVD BD for VAIO」がプリインストールされており、市販のBDソフトも再生できる。 また、プロ向けの本格的ビデオ編集ソフト「Adobe Premiere Pro 2.0日本語版」(下位モデルではエントリー向けの「Adobe Premiere Elements 2.0日本語版」がプリインストール)や「TMPGEcn 4.0 XPress for VAIO」、HDVファイルのサウンド編集に対応した「DigiOnSound5 for VAIO(HDV対応版)」など、マルチメディアクリエイター向けソフトが多数プリインストールされている。ジョグコントローラが標準で付属していることからもわかるように、マルチメディアクリエイター向けPCとしての性格が強い。 いくつかベンチマークを実行したので、参考にしてもらいたい。フラッグシップモデルだけあり、市販PCの中ではトップクラスのパフォーマンスである。
【表】ベンチマーク結果
VGC-RM70DPL4の実勢価格は55万円前後とされており、かなり高価な製品である。しかし、ツインユニット・コンセプトをはじめ、使い勝手や機能を高めるために、さまざまな工夫と技術が凝らされている。 付属の24型ワイド高解像度液晶ディスプレイは、VAIO・OWNER・MADEモデルで追加すると15万円プラスになることや、プリインストールされている「Adobe Premiere Pro 2.0日本語版」の実勢価格は10万円前後であることなどを考えると、フルセットで55万円という価格に見合う価値は十分あるといえる。 もちろん、PCでメールチェックやWebブラウズ、ちょっとした文書作成程度しかしないのなら、type R masterのようなハイエンドマシンは必要ない。type R masterは、「master」という言葉からもわかるように、ビデオ編集のような高いマシンスペックを要求される仕事をしているその道の達人に向けた製品なのだ。
□ソニーのホームページ (2006年10月19日) [Reported by 石井英男]
【PC Watchホームページ】
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