Microsoftのビル・ゲイツ会長兼CSA、Intelのポール・オッテリーニ社長兼COO、HP(ヒューレット・パッカード)のカーリー・フィオリーナ会長兼CEO、Dellのマイケル・デル会長兼CEO……いずれもIT業界を代表する企業のトップで、この4人がそろえばIT業界のほぼ半分を自由にできるだろうという顔ぶれだ。International CESでは、この4人がいずれも講演し、IT業界によるデジタルホームの実現を訴えた。 日本では、ソニーや松下電器などの家電メーカーを中心に語られることが多いデジタル家電だが、International CESで見えてきた新しい姿は、IT業界のメーカーによるIT技術を応用した多数のデジタル家電の登場だ。そういったデジタル家電の登場により、家庭のリビングを巡る争いは、家電業界、IT業界が入り乱れてリビングへの進出を目指す“大競争時代”の到来とも言える。 今回は、筆者がInternational CESで感じた、デジタル家電のこれからについてまとめていきたい。 ●水平分業ビジネスモデルをデジタル家電にもたらすIT業界
2001年のCESでは、Intelのクレイグ・バレット社長兼CEO(当時、現CEO)の基調講演の後、報道陣向けのQ&Aが行なわれた。 そこで、バレット氏が「家電は日本のメーカーが強いところなので、そこと連携してやっていかなければいけない」と言っていたのをよく覚えている。その次の日に行なわれたビル・ゲイツ会長兼CEO(当時、現会長兼CSA)の基調講演でも、盛んに日本メーカーを意識した発言があったのをよく覚えている。あの段階ではIntelも、Microsoftも、日本の家電メーカーを取り込むことに熱心なんだな、というのが筆者の印象だった。 だが、今年のCESを終えてみて、筆者の認識は改めなければならない、と考えるようになった。MicrosoftやIntelは、おそらく日本の家電メーカーを頼りにすることをあきらめ、日本の家電メーカーではない、デジタル家電メーカーを育てようと考えているという印象を持った。それを強く印象づけたのは、DellやHPといったIT業界の巨大セットメーカーによるデジタル家電への参入だと思う。彼らが、デジタル家電という新たな市場に乗り出すにあたり、MicrosoftやIntelというパートナーとある程度の話がついていると考えるのは自然なことだろう。 MicrosoftがOSやソフトウェアを作り、Intelがムーアの法則を生かして強力な半導体を製造、そしてDellやHPなどのセットメーカーがデバイスを組み立てて販売する……これから彼らがデジタル家電で目指していることは、まさにIT業界で言う水平分業モデルに他ならない。
Intelのオッテリーニ社長はCESの講演で「ムーアの法則をデジタル家電にも適用することで、これまで開発に3~5年かかっていた開発サイクルは、9カ月~2年程度に短縮されるだろう」と指摘している。 水平分業モデルでは、MicrosoftやソフトウェアベンダはソフトウェアやOSを、Intelなどの半導体ベンダは半導体を製造し、セットメーカーはそれらを組み合わせてハードウェアを販売していくというモデルになっていく。それぞれが平行して開発をしていくことで、単一メーカーが開発する場合に比べて開発サイクルが短くなり、かつ低コストが実現できるというわけだ。 オッテリーニ氏のいうことが実現すれば、家電にもドッグイヤー時代が到来し、これまでの常識があっという間に崩れていく、ダイナミックな市場の変化が起きてくる可能性がでてくる。 ●PCセントリック、家電セントリックという議論は無意味に
日本の家電メーカーは、ソニーのユビキタスバリューネットワーク構想に代表されるような、独自の家電ネットワーク化構想を語ってきた。ただし、各メーカーともビジョンこそ語るものの、それがどのようなネットワークで、他社もそうしたネットワークに入れるのかなどは説明されてこなかった。このため、一般的な理解としては、同じメーカーの機器同士のクローズド(独自)ネットワークと理解されている。 だが、おそらく、メーカー独自のクローズドネットワーク環境というのも存在し得ないというのも、CESで見えてきたもう1つの流れだ。 各社は盛んにTCP/IPネットワークでデジタル機器同士を接続するというデモを行なっていた。例えば、MicrosoftはWindows Media Connectテクノロジという構想を明らかにし、Windows XPが動作するPCにインストールされたホームサーバーソフトに対して、家電メーカーやIT関連メーカーなどが製造するセットトップボックスがIP接続するというデモを行なった。 また、東芝はホームAVサーバーの試作機を公開したが、このホームAVサーバーはクライアントになるデジタル家電やPCからアクセスを受けるサーバー機能のほか、Windows Media Connectのサーバーに対してアクセスするというクライアント機能も有していた。 Windows Media Connectテクノロジや東芝のデモなどは、Intel、松下電器、Microsoft、ソニーなどを中心としたDHWG(Digital Home Working Group)が策定した、デジタル家電やPCなどの間におけるデータのやりとりに関するガイドラインに準拠しており、オープンな仕様に基づいたものとなっている。 このデモが垣間見せていることは、将来家庭にあるデジタル家電は、サーバーにもなるし、クライアントにもなりうるということだ。つまり、家庭内にあるデバイス、それはデジタル家電であっても、PCであっても、それぞれがオープンネットワーク上でピアツーピアで接続され、ユーザーは、どのデバイスにアクセスしているのかも意識することなくコンテンツにシームレスにアクセスできる。こういう世界では、それがPCセントリックであるのか、家電セントリックであるのかという議論はもはや無意味だろう。 日本の家電メーカーは、オープンネットワークこそ生き残る道だということに早く気付き、その上で勝負するという姿勢に転換するべきだ。CESでは、ソニーの機器にメモリースティックスロットしかない、松下電器の機器にはSDカードスロットしかないということは相変わらずだった。ところが、Samsungのブースに置いてあったAVサーバーには、すべてのメモリカード用のスロットがついていた。 どちらがユーザーのためであり、どちらがユーザーに受け入れられるかは、今更ここで強調するまでもないだろう。
●日本の家電メーカーは付加価値の高い製品に焦点をあてるべき
IT業界が水平分業モデルをデジタル家電にも持ち込むことに成功すれば、高コスト体質の日本の家電メーカーが太刀打ち出来なくなるという可能性もある。すでに、こうした市場の転換は、IT業界では、'80~'90年代にPCで経験してきたものだ。 また、家電の世界においてもオープンネットワークが構築され、どのデバイスもシームレスに接続されるようになれば、日本の家電メーカーがもくろんでいたような“囲い込み”は成功しないことになるし、そうした考えは早いうちに捨てた方がいいだろう。 それでは、もしそうなったら日本の家電メーカーの将来は暗いのだろうか? いやいや、そんなことはない。日本の家電メーカーが持つ強みというのは、高いクオリティの製品を作ったり、新しいアプリケーション(使い方)をいち早くユーザーに提案したり、というところにある。 いい例は、日本のコンシューマ向けPCだ。日本のコンシューマ向けPCは、非常に洗練された優れた製品になっている。というのも、米国ではMicrosoftがWindows XP Media Center Editionをリリースしたことでようやっと登場しつつあるTV機能というのを、国内では3~4年前から搭載している。 また、ホームネットワークソフトウェアも、2年ほど前から搭載しているなど、常に新しい使い方をユーザーに提案してきた。そのほかにも、いち早く省スペースデスクトップの筐体を採用するなど、クオリティという点でも米国のデスクトップPCと明らかに一線を画している。有り体に言えば付加価値が高いのだ。だから、米国メーカーのデスクトップPCに比べて高い価格の製品であっても、ユーザーに受け入れられてきた。 デジタル家電でも、こうした日本メーカーの強みが生かせるように進化していけばよい。昨日発表されたソニーの新しいエアボードがそうであるように、使い勝手や、外出先から家のテレビが見れるといった新しいアプリケーションを提案し、付加価値の高い製品を作ることが日本の家電メーカーが生き残る道だと思うのだが、いかがだろうか。 □2004 International CES レポートリンク集(AV)
(2004年1月21日) [Reported by 笠原一輝]
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