会場:Las Vegas Convention Centerなど 1月9日(現地時間) 開催 ついにPC業界の巨人Intelが同社の最も強力な武器を手に家電業界へ殴り込みをかける。まさにそんな印象だったのが、Intelの社長兼COOである、ポール・オッテリーニ氏の業界向け講演(Industry Insider)だった。 Intelは同社が新たに設立した家電向けの部門CEG(Consumer Electronics Group)がこれまで開発コードネーム“Cayley”と呼ばれてきたLCOS(Liquid Crystal on Silicon)技術を利用した大画面テレビ向けのマイクロディスプレイコントローラを、家電メーカーに対して提供していくことを明らかにした。 また、オッテリーニ氏は同社の家庭向けリファレンスデザイン“Entertainment PC”の構想や、次世代モバイルPC向けCPU“Dothan”を利用したリファレンスデザインなどを公開した。 ●PC業界を牽引してきたムーアの法則が家電業界を変える 講演の冒頭でオッテリーニ氏は、「ムーアの法則はPC市場を劇的に進化させてきた」と、同社が“IT業界のエンジン”と呼称する“ムーアの法則”について語り出した。 ムーアの法則とは、同社の名誉会長であるゴードン・ムーア氏が提唱した法則で、シリコンに集積できるトランジスタの数(=性能)は18カ月から2年で倍になるというものだ。Intelをはじめとした半導体メーカー各社はこれまでこれを実現してきた。これが、PC業界の劇的な成長の基礎となってきたのだ。「PCは'81年にリリースされたIBM PCから比べて10年後には30倍も高速になった。さらに今はそれから100倍も高速になっている」と述べ、PCの爆発的な進化について説明した。 「家電業界も着実な進歩をしてきた'80年代のCDプレーヤーから始まり、DVDやHDDレコーダなどへ進化を続けてきた。しかし、ここ最近では新しい技術は皆PCから始まっている。液晶ディスプレイ、HDD、無線LANもPCからだ」と、PCとデジタル家電の対比をはじめ「PCの進化は家電のそれを上回っている」と指摘した。その理由こそがムーアの法則の存在だとオッテリーニ氏は強調する。 「ムーアの法則により、シリコンの性能は18カ月~2年で倍になる。これにより処理能力や機能を指数関数的に増やしていける。これをデジタル家電にも適用することで、家電市場は大きく変わっていくだろう」と同氏は語り、その具体的な効果として、カスタムのASIC(Application Specific Integrated Circuit)を使っていたこれまでの新製品は、市場投入までに平均して3~5年程の時間がかかっていたのに対して、Intelなどが提供するジェネラルなASICを利用することで、9カ月~2年程度と、PCと同じような開発サイクルで製品を市場に投入できるようになるはずだと指摘した。
●大画面ディスプレイ向けマイクロコントローラでデジタル家電市場に参入 オッテリーニ氏は、Intelが本格的にデジタル家電市場に乗り出していく第1弾の製品として、これまで“Cayley”の開発コードネームで呼んできたLCOS(Liquid Crystal on Silicon)テクノロジと呼ばれる技術を発表した。 これは、大画面ディスプレイ用のマイクロコントローラで、大画面ディスプレイの表示性能を格段に向上させるという。「LCOSを採用することで、家電ベンダはシリコンの開発に煩わされることはなくなり、使い勝手の改善など、ソフトウェアや製品のデザインなどに焦点を当てることができる」と、家電メーカーがLCOSを利用するメリットを強調する。 オッテリーニ氏によればLCOSに対応したシリコンは最初は0.18μmで製造されるが、来年の半ばには0.13μmへと移行することになるという。 「これらによりマイクロプロセッサ同様、表示品質などがどんどん改善され、コストも低下していく」とし、ムーアの法則を適用することで、PCに起きたような劇的な性能向上やコストの低下をデジタル家電にももたらすことができると強調した。 オッテリーニ氏は「LCOSを搭載した製品は2004年の終わりに登場し、2005年には50型のHDTVが1,800ドル(日本円で約20万円)まで低下するだろう」との見通しを明らかにした。
●エクステンデッドPCからリビングへ入るエンターテインメントPCへ オッテリーニ氏はリビングについてもふれ、「エンターテインメントPC(Entertainment PC)」という新しいPCの概念を提案した。 エンターテインメントPCとは、テレビなどへの出力が可能なスリム筐体で、リビングに置いて利用する。Intelは、3年前にInternational CESでクレイグ・バレットCEO(当時は社長兼CEO)が行なった基調講演の中で、エクステンデッドPC(Extended PC)という概念を公開し、PCをハブにして様々なデバイスが接続されるというビジョンを提唱したが、今回のエンターテインメントPCはそれをさらにリビングに入れてホームサーバーとして使おうというものだ。 ただ、日本のPCユーザーである筆者の目から見れば、「それって日本で売ってるコンシューマ向けPCじゃん」というのが偽らざる心境だ。そういう意味では、特に目新しいわけではないが、米国ではそうしたPCの使い方がまだ一般的ではないため、このような提案になったのだろう。 なお、このエンターテインメントPCは、チップセットにはIntelが第2四半期にリリースを予定しているGrantsdaleが採用されている。サウスブリッジには、Caswellという開発コードネームで呼ばれる、IEEE 802.11gに対応した無線LANコントローラがバンドルされたICH6Wを搭載するため、標準で無線LANのアクセスポイントとして動作することになる。
●3DグラフィックスをサポートしたPDAのリファレンスデザイン“Carbonado”を公開 このほかにもオッテリーニ氏は、同社が2月にリリースを予定している次世代Pentium MであるDothan、そして今年後半に投入を予定しているPCI Expressに対応したPentium M用チップセットのAlviso、17型ディスプレイ、Calexico2(11a/b/gトライモード対応無線LAN)などが搭載されたコンセプトモデルを公開した。
このコンセプトモデルはキーボードがワイヤレスになっており、リモコンを取り外して利用できるという、家庭内におけるクライアントとしての用途を考えているという。 また、Carbonado(カボナド)というコードネームで呼ばれるリファレンスデザインのPDAも紹介した。Carbonadoでは、3Dグラフィックスのコプロセッサを接続可能で、VGAで3Dゲームを楽しむことができる。CarbonadoはPDAと携帯電話の機能を持っており、これを元にした製品を今年の後半にDellがAXIMシリーズの製品として出荷する予定であることを明らかにした。 ●DTCP/IPの普及でプレミアムコンテンツのデジタルホームへの配信を目指す 最後に、オッテリーニ氏は、スペシャルゲストとして、俳優のモーガン・フリーマン氏を紹介した。フリーマン氏は、“ディープインパクト”、“スパイダーマン”などに出演している俳優で、映画制作会社Digital Revelationsの創始者でCEOでもある。ハリウッドを代表する1人だと言ってよい。 フリーマン氏は、Intelがハリウッドなどと協力して推進している著作権保護の仕組みであるDTCP over IP(Digital Transmission Content Protection over IP)により、プレミアムコンテンツの著作権を守りながら、ユーザーがホームネットワークでコンテンツを共有することが可能になる仕組みに賛意を示した。 同氏は「コンテンツ所有者の権利を守りながら、ユーザーが自宅でコンテンツを利用できるようになることはすばらしいことだ」と述べ、DTCPを利用することで2005年に同氏が制作を予定している映画は、映画館だけでなく同時にインターネットでの配信に挑戦することを明らかにし、来場者から拍手喝采を浴びていた。 講演の最後にオッテリーニ氏は「ムーアの法則をデジタル家電にも拡張することで、家電の世界も変わっていく」とまとめ、今後も同社がムーアの法則を武器にデジタル機器の普及につとめていくという意気込みを語り講演を終えた。
□2004 International CESのホームページ(英文) (2004年1月9日) [Reported by 笠原一輝]
【PC Watchホームページ】
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