米国で8日~11日まで開催されたデジタル機器関連の展示会「2004 International CES」。その開幕前夜の基調講演で、Microsoftのビル・ゲイツ会長兼CSAは、一昨年のCOMDEXで発表した「SPOT」こと「Smart Watch」が、その日に発売になったと述べた。実際、ラスベガスの市内にあるFossilのショップには、製品が入荷していた。 ●Dick Tracyモデルを購入! SPOTは、FMラジオの電波で情報を送り、時計などの形をしたSmart Watchでこれを受信し、利用するもの。電波を使った情報転送のサービスは「MSN Direct」と呼ばれている。 Fossilの製品は「WRIST NET」といい、3モデルある。そのうち2つは、デザインが違うだけで、価格はどちらも179ドル。もう1つは、懐かしいDick Tracyをあしらったキャラクターものである。 お若い方のために解説しておくと、Dick Tracyとは、米国のコミックのタイトルで、無線機になる腕時計を持つDick Tracyが、悪人と戦うもの。コミックのほうは'31年に連載が始まったが、'60年代にアニメーションが作られ、日本でも放映されたため、40代以上の方には懐かしい番組だろう。何度か映画化もされ、最後に作られた'90年の映画は、マドンナなどが出演していたので、こちらをご記憶の方もいらっしゃるかもしれない。 Dick Tracyの腕時計無線機と、無線で情報を配信するMSN Directを引っかけたこの製品、アニメのように話すことはできないが、ニュースや天気予報といった情報が無線で自動的にやってくる。ただし、このDick Tracyモデルだけは199ドルと、20ドルほど高くなっている。 基本的な性能は3モデルとも同じで、違いはデザインのみ。ただ、Dick Tracyモデルは、時計モードでテレビ電話のように画面が流れたあと、登場人物たちのイラストを配した時刻表示が行なわれるなど、表示にちょっとした違いがある。 懐かしさもあって、どうせ買うならとDick Tracyモデルを購入することにした。なおこの機種のみ、上部にカメラやインジケータのようなものがあるが、これはまったくの飾りである。 購入したのは、ラスベガスのALADDINホテルにあるFossilの直営店。同社は、デパートなどにもショップを出しており、全米で広く入手が可能だ。また、店内には、ノートPCが置かれ、そこでアクティベーションもできるようになっていた。 昨年のCESでは、SPOT技術に対応するメーカーとしてFossil、Sunto、シチズン時計の3社が挙げられていたが、今回製品を発表したのはFossilとSuntoの2社のみ。
●厚く巨大な時計 WRIST NETは、時計としてはかなり大型だ。縦48mm、横40mm、厚さに至っては、最も厚いところで16mmもある。関係者の話だと、この半分はバッテリだという。1回のフル充電で4日程度は動作可能とすることがMicrosoftから要求されたらしく、このためにバッテリ部分が巨大になってしまったとのこと。 本体には、左側に2つ、右側に3つのボタンがある。Fossilの3モデルとも、この配置とボタンの意味は同じである。 左上のボタンはバックライト、左下は「チャンネル」と呼ばれるMSN Directおよび時計機能の切り替え用、右上と右下はそれぞれNext、Prevと呼ばれる前進、後退を意味するキーで、右側中央のキーが決定キーとなる。 使い方としては、左下キーでチャンネルを切り替え、右真ん中ボタンで決定、さらにサブ画面などの切り替えをNext/Prevキーで行ない、左真ん中ボタンで決定していくという形を取る。特に取り消し機能はなく、決定キーを押す前に左下のチャンネルキーを押せば、機能を実行することなく別のチャンネルに切り替わる。
●バンドはアンテナに また、付属のバンドが厚さ3mmもある。これは、バンド内部に受信用のアンテナが入っているからである。 ベルトは、一般的な金属ベルトのように、留め金を外しても折りたたまれた金属部品でつながっている、左右に分かれないタイプ。WRIST NETは、時計自体に重量があるので、落下を心配してこの形式が選択されたのだと思われる。ただこの留め金は、一般的な時計と逆だ。普通の金属時計バンドは、腕にしたときに手前側が開くようになっているが、WRIST NETは反対側が開くようになっている。このため、上下逆に付けてしまいやすい。 ベルトの内側には金色のアンテナとなる金属部分が見えており、留め金をかけたときに、ベルトの反対側と接触してループを作るようになっている。FM放送電波(87~108MHz)を使う関係で、アンテナは大きいほうが有利だ。そこで、時計内部にアンテナを入れずに、ベルトを使ったループアンテナを採用しているようだ。 留め金をかけることでループアンテナとなるので、時計を外している間も情報を受信して更新しておくために、留め金をかけておいたほうがいい。後述する付属の充電台は、留め金をかけておかないと、ベルトが下の部分にあたって、ちゃんと置けないようになっている。
●4日はもちそうなバッテリ WRIST NETは充電可能な2次電池を電源として使うため、定期的に充電する必要がある。充電機構は磁気誘導を使ったもので、接点のないタイプ。電動歯ブラシや電気カミソリなど防水の電気機器でよく見かける構造のもの。取説によれば、フル充電には最大で6~8時間必要である。 実際に使ってみるとバッテリは、1日で100%から80~78%ぐらいまで減る。これからすると4~5日はバッテリがもつ計算になる。 バッテリは、残りが20%になると、省電力モードに移行する。ラジオ機能がオフになり、どのチャンネルを表示していても5分後には、バッテリを最も消費しない時計表示に切り替わるようになる。また残り10%では時計自体の表示も止まり、電力消費を抑え、電力をメモリバックアップと、内部時計などだけで使うようになる。ということは、MSN Directサービスが利用できるのは、4日間程度となる。 週末に泊まりがけで遊びに行くとか、短い出張に行くとか、4日以内であれば、充電器を持って行く必要はなさそうだ。
●なぜか曜日が表示されない 時計としては、以下の機能がある。これは、MSN Directを契約しなくても使える。
なお、FACEの1つに2つのタイムゾーンを表示させる機能があり、いわゆるデュアルクロックとして利用できる。 しかし、不思議なことに、日付の表示は実行ボタンで行なえても、どのFaceも曜日を表示する機能がない。米国外での利用を考えたのか、米国人は、時計に曜日がなくても困らないのか? 理由は不明だが、ちょっと不便。 また時計自体は、電波を受信している間は、電波経由で原子時計との同期が行なわれるため時刻設定は必要ないし、することもできない(エリア外では手動で時刻合わせが可能)。またタイムゾーンも、電波を使って地域を判別して自動設定することもできるし、手動で設定することもできる。 自動時刻合わせでは、常に5分時計を進めておきたいといった使い方ができずに不便だと思ったのか、5分刻みで、5~15分程度、常に時刻をずらすOffset機能がある。世の中には、そんなに時計を進めておきたい人が多いんでしょうか?
●MSN Direcftをアクティベーション MSN Directのアクティベーションを行なわなければ、WRIST NETはただの時計である。 購入直後は、時計とカレンダー、メッセージが可能で、アクティベーションを促すチャンネルが表示される。メッセージが表示可能な状態になっているのは、アクティベーションが完了するとWelcomeメッセージが到着するので、最初からチャンネルが組み込まれている必要があるためだ。あるいは、いつまでもアクティベーションしないと「アクティベーションしてくれ」メッセージがやってくるのかもしれない。 MSN Directのサービス料金は、9.99ドル/月もしくは、59.99ドル/年のどちらかを選ぶ、1年分前払いすると半額になるというわけである。 アクティベーションは、PCでMSN Directのサイトにアクセスし、時計が表示するIDを入力することで行なう。SPOTでは、すべてのデバイスに個別の番号がついており、これで個々の時計を区別している。 アクティベーションすると、電波の受信状態がよければ、15分ぐらいで登録が完了したことを示すメッセージが送られてきて、チャンネルが順次使えるようになる。また、アクティベーションを促すチャンネルは、この時点で表示が行なわれなくなる。 機器自体の設定は、TimeチャンネルにあるSettingページで行なう。ここには、ラジオ機能のオンオフや受信状態の表示(Watch Info)などがある。また、単位系をメートル系(Metric)にするか、フィート系(US)にするかの切替もある。これを切り替えることで、天気情報の温度や風速の表示単位が切り替わる。 時計側でのMSN Directサービスに関わる設定は、ラジオ機能のオンオフぐらいしかなく、あとはすべてMSN Directサイトのページへ.NET Passportでログインして行なう。 ●MSN Direct サービスのしくみ 現在のところMSN Directでは、
といったチャンネルが用意されている。アクティベーションされた状態では、表1のようなチャンネルや画面が利用できるようになる。 各チャンネルの設定や表示順といったカスタマイズは、MSN DirectのサイトにPCでアクセスして行なう。その設定は、電波経由でSmart Watchへ送られ、Smart Watchのチャンネルがカスタマイズされることになる。 SPOTでは、機器側にCLR(Common Language Runtime)のサブセットとなる仮想マシンが組み込まれており、小さなプログラムを実行させることができる。チャンネルは、対応するプログラムと、更新されるデータからなっている。MSN Directで新チャンネルを開発すれば、機器側はなんら変更することなく新しいチャンネルが使えるようになるという。 プログラムらしい機能としては、指定したチャンネルの情報をNEXT/PREVボタンで順次送って表示できるGLANCEチャネルがある。このチャンネル自体は、専用の情報は送られてこないが、天気や株価、ニュースの表示をNEXT/PREVボタンだけで表示できるようにする。何を表示するのかは、MSN Directのページから指定可能で、このGLANCEチャンネル自体を使わないようにすることも可能だ。 MSN Directでは、FMラジオの電波にデジタル情報を入れて送信し、各Smart Watchは、必要な情報のみを取り出して機器内のメモリに保存、これを使って情報を表示する。送信されるデータには、全ての機器向けのBroadcastと、特定の機器にのみ送られるPersonalの2種類がある。 Personalのデータパケットには、時計のIDが付加されており、対応する機器のみがこれを受信する。また、このデータパケットは暗号化されており、特定のIDを持つ機器でなければ解読できないようになっているという。このPersonalにあたるのが、カレンダー機能の予定(Outlookの予定表データがSmart Watchに転送されてくる)、MSN Messengerからのメッセージなどがある。 Broadcastでは天気やニュースといった情報を送り、個々のSmart Watchはその中から必要なものだけを取り出す。たとえば株価情報などは、MSN Directのサイトでユーザーが15銘柄を指定できる。電波で送信される株価情報は現在では1,500銘柄程度あるが、Smart Watchは受信した株価カスタマイズ情報に基づいて、そのうちの必要なものだけを受信するようになっている。 FM電波では必要な情報が常にくり返し流されており、現在では約3分周期となっているとのこと。まったく同じものを3分周期で流すのではなく、優先度の高いものは毎回、個人宛やデータ量の多いものは、何周期かに1回といった感じで送信されている。また、全国で内容がまったく同一なのではなく、地域ごとの天気などは、送信元のFMラジオ局のサービス範囲を考慮して、各地域で違ったものになる。 MSNのサイトでは、時計の所在地を登録することができ、個人宛メッセージなども、時計の所在地をカバーするFM放送局からのみ送信することになっているようだ。 このため、MSN Directのサイトには、日付を指定して行き先地域を登録しておく機能がある。たとえばシアトルに住んでいて、来週ニューヨークへ行くのなら、予めこの機能で設定をしておけば、行き先でMSN Directのサイトへアクセスして所在地を変更する必要がない。ちょっと面倒だが、出先でインターネットにアクセスするまでは、予定表などが受信できないというよりはマシである。 Personalメッセージ以外ならば、FMラジオのサービスエリアが切り替われば、自動的に切り替わる。筆者はCESからの帰り、飛行機でラスベガスからロサンゼルスへ移動したが、移動後にラジオ受信が始まると、Local Weatherは、Las VegasからLos Angelesへ切り替わった。 ●予定表同期サービス MSN Directでは、Outlookの予定表とSmart Watchのカレンダー機能を同期させるサービスがある。これは、Outlookに同期用のモジュールを組み込み、ユーザーが、同期を手動/自動で行なわせることで、MSN Direct経由で予定データがSmart Watchへ送られるもの。 時刻が登録されているOutlook「予定」では、Outlook側で指定したアラーム時刻に音が鳴り、予定が表示される。以後、該当の予定を表示する画面は時刻のカウントダウンを始める。これは時計機能のアラームとは別になっている。 表示される情報としては、Outlookの「件名」、「場所」、「開始時刻」、「終了時刻」と、「名前」(予定作成者の名前。自分で入れた予定は、Outlookの規定のメールアカウントに登録した名前が使われる)である。テキストはASCIIコードのみで、日本語は、化けて表示されてしまう。 同期は、当日を含めて1週間のイベントと予定について行なわれる。データ自体は、前日のものは残っているが、それ以前のものは自動的に消去されてしまう。 同期用モジュールは、MSN Directのサイトにあり、組み込むとOutlookにツールバーに時計の絵をしたアイコンが組み込まれる。これをクリックして同期するわけだ。 また同期を行なう場合には、Outlookが稼動しているマシンが、Smart Watchを登録してある所在地のタイムゾーンと一致している必要があるようだ。当初筆者は、日本のタイムゾーンのままノートPCを使っており、それで送信された予定データは、時間がずれてしまっていた。しかしノートPCのタイムゾーンをWRIST NETの所在地と同じ米国の太平洋側時間帯に合わせたところ、Outlookの時刻表示とWRIST NETの予定表示が一致するようになった。 一度Smart Watchへ送られた予定表データは、タイムゾーンとともに管理されているらしい。WRIST NETのタイムゾーンを日本に変えると、予定表の時刻もそれに合わせて変更された。つまり、PCからの同期作業のときのみ、タイムゾーンが一致していればいいようである。筆者は、移動してもノートPCのタイムゾーンを変えない主義だ(面倒なので)。どちらにしても、PCもOutlookもタイムゾーンを管理しているのだから、設定にかかわらず、正しい時間を設定するようにして欲しいところ。 実際の同期作業は、OutlookとMSN Direct側のサーバーとをインターネット経由で同期させ、そのあとで、MSN Direct側がSmart Watchへデータを送るようになっているようだ。また、一度にすべてのデータをSmart Watchへ送るのではなく、時間をかけて何回かに分けてSmart Watchへの転送が行なわれる。このため、1週間分すべてがSmart Watchへ送られるまでには2時間程度が必要だった。
●メッセンジャーサービスは動作せず MSN Directには、MSNメッセンジャー経由でSmart Watchへテキストメッセージを送信する機能がある。これはMSNメッセンジャー6.0以降を使い、ユーザーがMSN Directに加入すれば、最大100メッセージ/月までは、メッセージの受信ができるというサービス。 説明によれば、MSN Directに加入しているユーザーには、「操作」メニューにMSN Direct経由で「Send a Message to an MSN Direct Watch...」という項目がされて、Smart Watchへメッセージの送信が可能になるという。が、実際にこれを使うことはできなかった。使っていたMSNメッセンジャーでは、この項目が表示されないのである。別のアカウントから、WRIST NETの登録に使ったアカウントに対してメッセージを送ろうとしても、送信のための項目が表示されない。 MSNメッセンジャーを英語版に変更してみても、該当のメニューが現れず、メッセージを送信することができないのである。 Passportの住所登録を米国などに変えてみてもダメで、いまのところ原因は不明。来週にはニューヨークへ取材に行くので、この件についてはさらに追求してみたい。 ●電波の受信状態は? 米国にはFMラジオ局が数千局あり、1つの地域でも複数の放送局が利用可能。MSN Directでは、人口密度などに合わせて、1つの地域を複数のラジオ局でカバーするようになっているという。これは、万一、どこかの放送局で事故が起こってもサービスに影響がでないようにするため。 ただ、実際に使ってみると、電波の受信受信状態は、かなり周囲の影響を受けやすいようだ。しかも、あまり予想可能なことではないので苦労した。たとえばホテルの部屋では、窓際だからといって電波の受信状態がよくなるわけではなく、部屋の奥のほうが受信状態が良かったりする。まあ、100MHzだと波長としては、3m程度。部屋の中では電波の強い場所や弱い場所ができてしまう。 そのほか、机などの上に直接置くよりも、充電台などに載せて机などから浮かせたほうが受信状態が良かった。これはアンテナの構造などに影響されているのかもしれない。 また、地域間の移動では、新しい地域のラジオ局を捕まえるのにすこし時間がかかった。ラスベガスからロサンゼルスへの移動では、飛行機がロサンゼルスに到着して、40分ほどで受信が可能になり、Local Weatherが切り替わった。まあ、飛行機で到着してホテルに到着する頃には、切り替わっているという感じだろうか。 米国では、日本ほどインターネット機能を持つ携帯電話がないので、受信のみで済むこうした情報の提供は便利なのかもしれない。また携帯電話と違って、PUSH型で、向こうから勝手に情報がやってきて、受信側では操作がほとんど要らないというのもメリットの1つだ。 Outlookの予定表の同期が簡単に行なえるという点だけを見ても、使うメリットはあるのだが、月に約10ドル、あるいは年60ドルという価格をどう見るかはその人次第だろう。我々のようにたまにしか米国に行かないユーザーにとっては、高いサービスとなるのは間違いないが、米国に居住していてもこの程度の価格だとどうか? 米国在住の知人の1人は、高いという評価だった。 日本でのサービスだが、現状では、FMラジオ局の局数とカバー範囲、そして放送と通信が分離している行政/法律の関係で、現時点では、サービス開始の予定はない。マイクロソフト関係者の話では、ビル・ゲイツが日本でのサービスを要望しているとか。検討はしているものの、すぐにサービスを始められるという状態ではないようだ。
□関連記事 (2004年1月20日)
[Text by 塩田紳二]
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