塩田紳二のPDAレポート

ザウルス SL-C750はどう変わったのか
~ベンチマーク編



SL-C700(左)とSL-C750

 前回はザウルスSL-C750の内部やソフトウェアなどの違いについて解説したが、実際の処理速度やバッテリの寿命などについてはどうだろうか。ベンチマークなどを行なったので、その結果を報告することにしたい。

●どれくらい速くなったのか

 やはり気になるのが、SL-C750とSL-C700の性能的な違いだろう。実際に体感速度的にも違いを感じるが、ここでは、ベンチマークソフトを使って確かめてみた。

 使ったのはSatoshi氏が開発した「Zbench」というソフトで、整数演算、小数点演算、テキスト、グラフィック描画などを行なって、その実行時間を計るもの。

 グラフィック描画は、SL-C700/750のビュースタイル、インプットスタイルによって解像度が違うので、両方でためしてみた(表1)。

【表1】 単位:秒
製品ROMバージョンビュースタイルインプットスタイル
整数小数点テキストグラフィック整数小数点テキストグラフィック
SL-C7001.20JP9.68 8.94 17.70 17.18 9.57 8.87 27.90 17.93
SL-C7001.50JP8.66 9.27 16.46 14.55 8.66 8.89 19.62 14.47
SL-C7501.10JP5.26 7.25 10.36 11.12 5.26 7.24 13.05 10.69

 まずSL-C700のROMバージョン1.20JPと最新の1.50JPだが、テキスト/グラフィックの描画速度が向上しているのがわかる。整数、小数点演算にも多少の違いが見られるが、こちらは誤差の範囲内ともいえ、ほとんど差はないと見るべきだろう。

 次にSL-C750(ROMバージョン1.10JP)とSL-C700(ROMバージョン1.50JP)では、整数、小数点演算、グラフィック/テキスト描画のどれも性能が向上しているのがわかる。これは、CPUの違いが大きく効いているようである。

 SL-C700のROMバージョン1.50JPは、SL-C750出荷後の8月25日にリリースされたので、ROMバージョン1.5JPは、SL-C750のROMとほぼ同等のレベルに達していると思われる。大きな違いとして、PXA250では、Write Backキャッシュがオフにされている点があり、このあたりが計算速度などに影響しているのではないかと思われる。

●大容量バッテリを導入

 9月のIDF Fall 2003取材では、SL-C750に無線LANカードを付けて、メインのPDAとして使ってみた。IDFの会場は無線LAN環境が整備されており、会場内はどこでも無線LANが利用できる。セッションの最中にWebサイトから関連資料をダウンロードして見る、なんてことも可能である。  このような環境で使うと、無線LANがオフにならないために、電池の消耗が速い。無線LANを接続状態にしたまま電源をオフにしても、再度電源を入れたときにはまた接続が回復してしまう。通信中は、オートパワーオフも働かない。つまり無線LANが常に使える環境で、無線LANカードを挿したままで使っていると、無線LANカードが電力を消費し続けることになる。

 そこで、オプションの大容量リチウムイオン充電池EA-BL08Kを購入することにした。大容量バッテリは、専用のカバーとともに販売されている。このカバーは、SL-C750の裏面全体を覆うようになっており、標準の電池カバーの代わりに利用する。大容量バッテリは標準のバッテリよりも厚くなっていて、標準のカバーが使えないからである。底面の厚さなどが異なるため、市販のSL-C700/750用ケースなどが使えなくなる可能性がある。

 また、大容量バッテリの端子側の形状が違うためにSL-C700には装着できない。

大容量リチウムイオン充電池(EA-BL08K)を装着したSL-C750。本来SL-C750の底面は、SL-C700と同じ形状である。黒い部分がバッテリに付属するカバー 大容量リチウムイオン充電池は、このようにかなりはみ出してしまう 大容量リチウムイオン充電池の背面カバーは、本体のストラップホールの1つにプラスティック製のパーツをはめ込み、これを使って固定する。このためストラップホールは、反対側の1つしか使えなくなる

 SL-C750に元々付属していた電池を使うときには、本来の電池カバーを使うべきなのだろうが、いちいちカバーを換えるのも面倒なので、手元にあった固めのスポンジを薄く切って標準バッテリの上に置き、大容量バッテリのカバーを使っても電池がガタつかないようにした。これで、標準バッテリを持ち歩いて、交換して利用できるようになった。

 ちなみに、電池カバーのロックを切り替えるとリセットがかかってしまうという問題は回避され、電池が入ったままなら、FNキーとHomeキーを同時に押しながらロックスイッチを操作しないとリセットがかからないようになった。また、AC電源を繋いでいる最中であれば、リセットがかかることなく、電池を交換できる。

 この大容量バッテリ、無線LANを使わなければ、なかなか減らない。日に何回かスケジュールを確認するだけなら、1週間は充電しないでも大丈夫だった。たびたび行なうシンクロ時にACをつないでいれば、まったく減らない感じがする。

 外出先の喫茶店で無線LANを使って1時間程度使ってみたが、この場合も半分ぐらいしか減らなかった。標準のバッテリに比べるとかなり持つ。

●バッテリ寿命のベンチマーク

 では、大容量バッテリは、どれぐらい持つのだろうか?バッテリ寿命を調べるためのベンチマークソフトがなさそうなので、自分で環境を設定して調べることにした。

 前述のように通信中はオートパワーオフしないので、30秒ごとにapmコマンドを使ってバッテリの容量を出力させるシェルスクリプトを作った(リスト01)。負荷によって実行間隔に1~2秒程度の誤差が出るが、まあ、これはよしとした。

 なお、apmコマンドのバッテリ残量は、100、75、25、5%の4段階でしかなく、細かく容量が測定できるわけではない。このコマンドは、/proc/apmというカーネル内情報を読み出して動作しており、元々の表示がこの4段階しかない。おそらく、GUIのバッテリツールの表示も同じ/proc/apmを読み出して表示していると思われる。

【リスト1 計測スクリプト】
#!/bin/bash
while true
do
echo `date '+%x %X'` , `/usr/local/bin/apm | /usr/bin/cut -f 2 -d ':'`
/bin/sleep 30
done

 通信のほうは、ftpコマンドを使い、サーバーからファイルをダウンロードさせるようにした。こちらもシェルスクリプトとして、マシンが動いている間くり返しファイルをダウンロードする(リスト02)。

【リスト2 通信スクリプト】
#!/bin/sh
while true
do
echo Loop
ftp <<!TEST!
open server
get bf2.bin /dev/null
close
!TEST!
done
※ユーザー名、パスワードは、.netrcファイルにて設定。詳しくはftpのコマンド解説を参照のこと。
※.netrcは以下のような内容のテキストファイル。「サーバー名」、「ユーザー名」、「パスワード」は接続先に応じて具体的な名前などを入れる。
machine サーバー名
login ユーザー名
password パスワード

 なお、できるだけ通信時間が長くなるように、ファイルは巨大なサイズ(約80MB)としておき、受信したファイルはフラッシュメモリに格納しないように/dev/nullという仮想デバイスに書き込んだ。これは、データを読み捨てするためのデバイスだ。実際に書き込みをすれば、消費電力などが違ってくる可能性はあるが、そうなるとメモリの空き領域でダウンロードできるサイズが限られてしまう。ファイルサイズを小さくすると、今度は通信していない時間が相対的に増えてしまう。そこで、ファイルは受信するものの、保存しないこととした。

 NetFrontなどでWebにアクセスすると、キャッシュなどに書き込みが発生するので、このベンチマークとは違った値が出てくる。しかし、実環境と同じアクセスパターンを作るのは困難で、さすがにベンチマーク中に手動での操作を毎回正確に繰り返すのは不可能なので、寿命の絶対値を計ることは断念した。なので、今回の測定は、バッテリや条件の違い(バックライトの明るさ)による相対的な違いを示すものと理解いただきたい。実際、今回のベンチマークの結果は、カタログやマニュアルなどに掲載されている値よりも長めになっている。

 測定時にはバッテリを十分に充電し、充電ランプが消えた後で電源を入れ、測定プログラム、通信プログラムをそれぞれ別のtelnet接続を使って実行した。プログラムが起動した後、ACアダプタを抜いてバッテリ駆動を開始する。2つのtelnet接続を使ったのは、それぞれのプログラムの動作を監視するためである。通信には、無線LANカードであるメルコ(現バッファロー)のWLI-CF-S11Gを利用した。結果は、測定プログラムを動かしたtelnet接続の出力をファイルに記録し、それをExcelで処理した。

 このような状態で、SL-C750の標準バッテリ、大容量バッテリと、SL-C700の標準バッテリで、バックライト輝度最小(実線)、最大(点線)で測定を行なった。その結果がグラフ1である。

グラフ1

 グラフでは、バッテリ寿命が5%段階になったところの時刻を示しており、また、この結果を元に、バッテリ寿命が50%であるところに菱形のマークを付けてある。

 これを見る限り、同じ標準バッテリであっても、輝度が最低の場合には、SL-C700とSL-C750では、寿命が確実に違う(どちらも同じバッテリを使って行なった)。ただし、輝度が最大の場合、5%段階に到達するまでの時間は、SL-C700のほうが10分ほど長いという結果となった。もっとも、マシンの反応が無くなるまでの時間は、SL-C750のほうが僅かに長くなっている。

 後述するように、5%になった段階でバックライト輝度が自動的に下がるが、SL-C700とSL-C750では、バックライトの輝度段階が違うため、この結果を持ってバッテリ寿命を判定することはできそうもない。やはりカタログにあるように、輝度最大では、SL-C700/C750は、ほとんど差がないと見るべきだろう(仕様あるいは個体差により、SL-C750の最大輝度がSL-C700よりも大きいとも考えられる)。

 大容量バッテリは、ベンチマークの結果から計算すると、標準バッテリの約1.75倍の寿命があり、その効果はかなり大きい。スペック上、標準バッテリは、950mA/h、大容量バッテリ(EA-BL08K)は、1,700mA/hであり、その差は1.78倍となっており、計算上の寿命ともほぼ一致している。通信中心にSL-C750を使うのなら、導入しても損はないだろう。

 また、バックライトの明るさによっても寿命は大きく違う。ただし、最大輝度の場合、バッテリ残量が5%になると、自動的に明るさが調整され下から3段目の明るさとなった。このため、残量が5%の状態の寿命が長くなっている。こうしたことがあったため、寿命の測定は5%になったところまでとした。輝度が変化しなければ、おそらく最小輝度のときと同じく5%の期間はごく僅かになったはずである。なお、SL-C700/C750ともに、残量が5%になった段階で、「ACアダプタを接続して充電してください」というメッセージが出る。このメッセージが出たら、もはや残りは僅かしかないと見るべきだ。

 またテストの結果を見ると、消費電力的にはバックライト輝度を落としたほうが断然有利だ。SL-C750の標準バッテリでは、ほぼ1時間、SL-C700でも40分ぐらいの差がある。これから明かなように、バックライトは最低の明るさで使い、必要なときのみ輝度を上げるようにしたほうがいいだろう。

 なお、このグラフを見てもわかるように、実際のバッテリ寿命とバッテリの容量表示は、結構ずれている。

 これは、リチウムイオンバッテリの放電量と電圧降下の関係が、放電電流によって変わってくるためだと思われる。SL-C750/700では、仮定した平均的な放電電流の場合の電圧変化を前提にして、バッテリ電圧から残量を求めているのだと思われる。そのため、想定とは違う放電電流の場合には、電圧降下とバッテリ残量の食い違いが大きくなるからと思われる。

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【10月15日】【塩田】ザウルス SL-C750はどう変わったのか
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【2002年12月16日】【塩田】キーボードが付いたLinuxザウルス「SL-C700」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1216/pda08.htm
【2002年12月27日】【塩田】Linuxザウルス「SL-C700」詳細レビュー
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1227/pda09.htm

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(2003年10月20日)

[Text by 塩田紳二]


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