会場:Las Vegas Convention Center、Las Vegas Hilton、Alexis Park 一般消費者向け電子機器の展示会であるInternational CESが、今年もアメリカ合衆国ネバダ州ラスベガスにおいて、明日より開催される。 前日となる本日は、出展メーカーによる記者説明会が行なわれたほか、夕方には恒例となっているMicrosoftの会長兼CSA(最高ソフトウェア開発責任者)のビル・ゲイツ氏による開幕基調講演が行なわれ、実質的にスタートした。本レポートでは、ゲイツ氏の基調講演の中から、注目されているSPOTの概要などについて説明していきたい。 ●携帯型メディアプレイヤーの“Media2Go”構想を発表 ゲイツ氏はMicrosoftのビジョンを、Smart Device(使いやすい機器)、Smart Connectivity(優れた接続性)、Smart Service(使いやすいサービス)の3つの要素に分け、それぞれ語っていった。 Smart Deviceの項目では、コードネーム“Mira”として昨年発表したSmart Display、Smart Phone、Pocket PCなど、MicrosoftのOSを採用した機器を紹介していった。 基本的に、すでに発表ずみのものが多いが、今回新たに発表されたものもあった。それが“Media2Go”と呼ばれる、個人向けメディアプレイヤーだ。これまでの携帯向けプレイヤーと言えば、主にMP3などの音楽ファイルを再生するものが多かったが、このMedia2Goでは音楽に加え、動画、静止画なども再生することが可能で、様々な形式のメディアファイルを再生できる。Windows Media Playerがポータブル機器になったようなもの、と考えるとわかりやすいだろう。 こうした機器は、Media2Goが初めてではなく、すでにIntelはSONICblueなどと共同で、音楽、動画、静止画が再生可能な機器を発表しており、実際にSONICblueが製品化する見通しとなっている。 しかし、Intelの製品ではOSが独自OSになっているのに対し、Media2GoのOSは、もちろんMicrosoftのWindows CEベースとなっており、その点が大きな違いであると言える。 Microsoftによれば、典型的なMedia2Goの機器は、内蔵しているハードディスクに8,000曲のCD品質の音楽ファイルを内蔵可能で、他に様々な形式の動画ファイル、静止画などが再生できるという。 インターフェイスにはUSB 2.0、IEEE 1394などを備え、ホストとなるPCとデータのやり取りを行なうことも可能になっている。 Media2GoはIntel、Samsung、ViewSonic、三洋電機などのパートナー企業により開発されており、2003年末のクリスマス商戦までには実際の製品として投入されることになるという見通しも明らかにされた。
●Smart Device、Smart Connectivity、Smart Serviceの3要素をより小さなフォームファクタで実現 引き続きゲイツ氏は、Smart Connectivity(優れた接続性)についての話に移った。そのなかでも特に無線LANについて時間を割き、無線LANが普及することの重要性を訴えた。 その後、Smart Service(使いやすいサービス)の話に移り、同社が米国で展開しているサービスのMSN8について時間を割いて説明した。 それらのあとで、ゲイツ氏は「我々のビジョンは、Smart Device、Smart Connectivity、Smart Serviceの3つの要素を、より小さなフォームファクタで実現することだ」と述べ、前述の3要素を誰もが身につけられるように、小型のデバイスへ入れていくことが大事であると強調した。 そこで、ゲイツ氏が持ち出したのが、COMDEX/Fallでさわりだけ紹介されたSPOT(Smart Personal Objects Technology)だ。 COMDEX/Fallでは、SPOTはより高度な機能がついたアラーム付きの時計とだけ紹介され、具体的にどのような製品であるかは紹介されなかったが、今回はより具体的な内容が明らかにされた。 Microsoftは、OSやサービスをSPOTのOEMベンダとなる時計メーカーに提供する。今回はパートナーとなる時計メーカーとして、シチズン時計、Fossil(米国)、Suunto(フィンランド)の3社が紹介されており、基調講演ではそれぞれのメーカーのSPOT対応腕時計が紹介された。
●SPOTの正体はFMデータ放送により実現される超小型“.NET端末” 気になるSPOTの正体だが、ひとことで言ってしまえばFMデータ放送により実現される超小型の.NET端末であるということだ。 SPOTはNational Semiconductorから提供される28MHzのARM7コアのCPUとチップセット、そして512KBのROMおよびRAMを内蔵しており、100MHzのRFチップを内蔵してFM多重放送で流されるデータを受信して動作する。各端末にはユニークなIDが振られており、そのIDによって各端末を認識し、動作することとなる。 SPOTの端末は、FM放送のサブ帯域で流されるデータを受信して動作する。従って、基本的には受信のみの、一方通行な通信となる。具体的には、FMのサブ帯域に流される様々なデータの中から、あらかじめユーザーが自分で選択しておいたデータのみを受信して動作することになる。 SPOTにはスケジューラ機能なども含まれるので、基本的にはネットワークに各端末用のスケジュールデータが流され、どのデータを受信するかは端末に内蔵されるIDにより認識され、許可された端末でのみ受信できるような仕組みになっていると想像される。 実際、SPOTを説明するMicrosoftのWebサイトでは、スケジュールの入力などはPCを利用して行なうとされているので、PCなどでWebサイトに接続してスケジュールを作成し、それをSPOTの端末で受信するという形になる。 なお、SPOTではFM放送を経由してソフトウェアをダウンロードして利用することも可能だ。これにより、SPOT端末はプリセットの機能だけでなく、機能を追加していくことが可能となる。このため、超小型の.NET端末ということが言えるわけだ。 ゲイツ氏の基調講演では、SPOTの使い方などについても説明された。例えば、株価情報を受信する設定にしておけば、株価が上がったり下がったりした時、タイムリーに腕時計へ情報がポップアップする。あるいは、メッセンジャー機能のように利用する設定にしておけば、例えば他の人が連絡したい思ったとき、そうしたメッセージが時計に表示されるようにすることもできる。このように、これまでとは違った、新しい使い方ができる時計、それがSPOTだというわけだ。
●PCのモデルを持ち込んだSPOTのビジネスモデル ゲイツ氏はSPOTについて「SPOTは新しいプラットフォームで、パートナーとの協力を欠かすことができない」と述べ、シチズン時計、Fossil、Suuntoという当初のパートナーと協力してSPOTの普及を計っていくということを強調した。 実際、MicrosoftはSPOTにおいて、OSとサービスのみを提供する。ハードウェアはOEMベンダとなる前出の3社に任せ、それぞれ特色のあるハードウェアを提供していくというものだ。 また、そのビルディングブロックとなる半導体は、National Semiconductorより提供される。こうした各社が各階層で協力し合って製品を作っていく仕組みは、言うまでもなくPCのビジネスモデルそのものだ。つまり、SPOTはPCのビジネスモデルを時計に持ち込み、拡大をねらっていくというビジネスモデルなのだ。 この戦略は、時計ベンダの事情とも合致している。携帯電話の急速な普及で、腕時計の需要は以前に比べて落ちてきているとされている。そこで、SPOTのような新しい種類の機能を時計に搭載することで、古くから時間だけを刻んできた時計が、一気にデジタルガジェットにジャンプすることができる可能性がある。 時計ベンダの時計を作るノウハウと、Microsoftのデジタル機器に対するソフトウェアの作成能力が相まって魅力的な市場を作っていこうというのがSPOTの正体だ。 なお、ゲイツ氏によれば、今後市場においてフィールドテストが行なわれていき、今年の秋には実際の製品として製品化されていくことになるという。特にFM放送という公共の電波を利用するだけに、厳密なテストは必須といえ、果たして安定したプラットフォームになるかどうか、Microsoftのお手並み拝見というところだろう。 なお、今回は特に米国外におけるサービスの提供に関しては何のアナウンスもなかった。許認可権が絡む電波を利用するだけに、日本でSPOTが利用できるようになるかどうかは不透明と言える。そうした米国外でのサービスをどうするかもSPOTの課題の1つとなるだろう。 ●未来のコンピュータは親子のコミュニケーションツールになる? 最後にゲイツ氏は、将来のビジョンを聴衆に対して提示して見せた。それはMSNの将来のサービスを使ったもので、たとえば、子供がコンピュータを利用してXboxのゲームをやろうとすると、宿題をやってからだと表示させてみたり、逆に子供が親にメッセージを送り宿題を手伝ってもらったりというのが、すべてSmartDisplay上でできるというものだ。アニメやSFの世界ではよく見かける光景と言えるが、XMLによるWebサービスとSmartDisplayのようなSmart Deviceを利用することで、こうした使い方が可能になるはずだというのがゲイツ氏のメッセージだ。 実際にいつ頃できるようになるかなどは明らかにされなかったのだが、Microsoftが今後目指しているのはこういう方向性なのだということを説明するのに、非常に直感的でわかりやすく、明るい未来を提示することができたと言える。ビジョンはわかった、あとはそれをどう実現していくか、それが次のステップということになるだろう。
□2003 International CESのホームページ(英文) (2003年1月10日) [Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]
【PC Watchホームページ】
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