三浦優子のIT業界通信

基本性能に特化し、販売好調のeMachines


 九十九電機株式会社と石丸電気株式会社が昨年12月に販売を開始したeMachines製品の売れ行きが好調だ。BCN総研の調査によれば、「同社製品が日本に上陸した2002年12月の販売台数を100として販売指数推移をみると、12月から徐々に販売が伸び、2003年2月以降は販売指数で200~300の水準で推移し、7月には415と投入以来最大の販売実績を達成。

 当初は低価格パソコンが日本市場で受け入れられるか懸念されていたが、着実に需要をつかんだ」としている。eMachines製品が好調な要因はどこにあるのか、九十九電機の鈴木淳一社長に聞いた。


●ショップオリジナルではなく、あくまでメーカー製

九十九電機 鈴木淳一代表取締役社長
 「よく、ショップオリジナルパソコンに分類されているけど、eMachines製品はツクモというショップのオリジナルパソコンではない。あくまで、eMachinesというメーカーの製品なんだ」、九十九電機の鈴木淳一社長は、苦笑いしながらこう話す。

 九十九電機らの独占販売商品として、昨年12月に売り出したeMachines製パソコンの売れ行きが好調であることから、パソコン雑誌を開くと、「ショップオリジナルパソコン」という分類で、eMachines製品を含めた、大手ショップのオリジナルパソコンが紹介されたページが目に付く。

 「でも、決して当社のオリジナルパソコンではないんだ。そう分類されることが多いけど、それは違うんだよ」と鈴木社長は指摘するが、eMachines製品の売れ行きが好調であることが、「ショップオリジナルパソコン」に注目が集まった原因であることは紛れもない事実だろう。

 この好調ぶりを鈴木社長は、「日本のメーカー製パソコンには、基本性能だけに特化したパソコンというものがなかった」ことをあげる。

 「例えば、ソニーさんのAVパソコンのように、基本機能に加えてオーディオ機能など付加価値をつけていくというのが日本のメーカー製パソコンの特徴だとすれば、eMachinesの方針は逆に付加価値を削ぎ落とすこと。ユーザー自身が拡張できるように、あえて基本機能に絞り込んでいる」

 基本性能に絞り込み、あえて付加価値をつけないパソコン-実はパソコン専門店の首脳陣からは、「そういうパソコンをメーカーが発売してくれれば、専門店で付加価値をつけてユーザーに販売できる」という声が以前から根強く存在した。

 ある販売店のトップは、「Windows 95以降、どのメーカーもソフトを数多くバンドルし、新たにメモリやボード類を買い足す必要がない製品ばかり作るようになった。これでは専門店ならではの、店に来てくれたユーザーの声を聞きながら、好みの商品に仕立て上げるという得意技が生かせない」と話していたが、九十九電機の鈴木社長も同様に専門店の良さを生かし切れないことにジレンマを感じていたようだ。それだけに、eMachines製品を自ら日本で販売することに対し、「十分にチャンスがあるビジネスだと最初から感じていた」と自信を見せる。

 実際に米eMachinesとの商談がスタートした時点で話していた、「2003年の秋には10万台を販売したい」という目標をクリア。自信通りの実績を作っているだけに、鈴木社長のことばが自信に満ちているのも無理はない。

 1台あたりの単価が安いことから、「薄利多売ではないか?」という疑問の声も寄せられるようだが、「ディスプレイなど、追加で商品を購入してくれるユーザーもかなりの数いる」というから、ショップとしてはメリットある商材ともなっているという。「決して、本体だけを買って終わりということではない」とショップ社長らしい、したたかな自信をのぞかせる。


●デルとは違う、購入後拡張可能な仕様

 ところで、鈴木社長のいう、「基本性能に特化したパソコン」を示す単語は現在のところはない。「ナチュラルパソコン? ベーシックパソコン? なんて呼んだらいいんだろう。適当な呼び名があったら、教えて欲しい」という状況で、現在名称募集である。

 あえて提案すれば、「プレーンパソコン」とでも言おうか。プレーンとは英語のplain、「飾りのない」、「簡素な」という意味をもつ。たとえば、プレーンヨーグルトと言えば、果物や甘みを付け加えた製品に対し、余分な味付けをしないヨーグルト本来の味にこだわったという製品を指す。そのあたりがeMachines製品と共通するところだ。

 プレーンパソコンというと、デルコンピュータの製品を思い出す人も多いのではないか。デルのパソコンは、基本製品にユーザー自身がメモリの増強、バンドルソフトなどをチョイスしていく形態となっている。デルのパソコンも、eMachinesと同様、基本性能にこだわったプレーンパソコンである。

 eMachinesに先駆け、デルが日本市場でも大きな実績を伸ばしていることはあらためて紹介するまでもない。実はプレーンパソコンが支持される素地は日本市場に十分にあったということである。

 そこで九十九電機・鈴木社長に、デル製品と比べてeMachines製品の強みがどこにあるのかを聞いてみた。

 「デルのパソコンは、購入する時に拡張するものを選ばなければならない。対して、eMachinesは購入して、商品を使い続けた後に、あらためて拡張がしやすい作りとなっている」

 デルのビジネスモデルは、BTO(ビルト・トゥ・オーダー)スタイルで、購入時にプレーンパソコンにユーザー自身の手で仕様を決定するタイプ。購入時点だけでなく、購入後しばらくしてから追加拡張ができるeMachines製品とは、同じプレーンパソコンといっても狙いが異なることを鈴木社長はアピールする。

 拡張のしやすさを実現するのが、eMachinesの筐体である。eMachinesのデスクトップ機の筐体はかなり大きい。スリムでコンパクトな筐体が主流となっている最近のパソコンからすれば、無骨に見えるほど大きな筐体である。この大きな筐体だからこそ、「後からユーザー自身の手でボードを差すといった拡張がしやすい。しかも、ネジ2本で簡単に筐体を開けることができる作りになっていて、開けては困るという作りとなっている他のメーカーのパソコンとの違いがある」という。

 実際に筐体を開けてみると、ユーザーが手をつっこんでも傷などが出来ないよう、バリの角が全て丸くなっているといった細かな心遣いがあることもeMachinesの大きな特徴である。ただし、AGPスロットについては、下位機種には用意されていないので、そこは注意したい。

 実は現在のeMachinesのCEOであるウェイン・イノウエ氏は米国の大手ショップ「Best Buy」出身。鈴木社長曰く、「米国のパソコンメーカー首脳陣に会っても、パソコン専門店オーナーはあんまり歓迎されないことが多いのだが、eMachinesの幹部は大歓迎してくれた」そうだが、商品を使い続けた後に商品を買い足すことを想定した細かい気配りがなされた仕様となったというあたり、ユーザーの最前線であるショップにいたからこそ獲得したノウハウといえるのかもしれない。

デスクトップPCに加え、ワイド液晶搭載ノートPCのM5307も発売された 開けやすく余裕のある筐体


●さらなるシェア拡大にも自信

 米国の店頭市場では、eMachines製デスクトップパソコンは約25%のシェアを獲得し、メーカー別シェアでも2位という位置づけとなるまでに実績を伸ばしている。日本においても、「日本のメーカー製品のシェアを完全に奪い取るということはないだろう。しかし、選択肢のひとつとして定着していくのではないか。今の時代のニーズと合っている製品であり、まだ伸びは続くのでは」と分析する。

 eMachinesの好調ぶりから、オリジナルパソコンを製造販売する企業と提携し、オリジナル製品を販売するショップも増加した。「そういう競合を刺激するつもりはないんだが」と鈴木社長は苦笑いするものの、今後さらに、「プレーンパソコン」を巡り、熱い戦いが繰り広げられることになりそうだ。

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【1月27日】【大河原】出足好調なeMachinesは、なぜ売れたのか?
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0127/gyokai47.htm
【1月24日】【元麻布】eMachinesの低価格PCの実態
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0124/hot240.htm
【10月1日】九十九電機、eMachines製ワイド液晶搭載ノートPCなど
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1001/tsukumo.htm
【6月24日】九十九電機、低価格PC「eMachinesシリーズ」第3弾
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0624/tsukumo.htm
【4月9日】九十九電機、低価格PC eMachinesシリーズに新モデル
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0409/tsukumo.htm
【2002年12月2日】九十九電機と石丸電気、米eMachinesの低価格PCを販売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1202/tsukumo.htm

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(2003年11月7日)

[Text by 三浦優子]


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