さてLinuxザウルス「SL-C700」の第2回は、ソフトウェアを中心に詳細なレポートをお届けする。 このSL-C700、シャープとしては普通のPDAとして販売しており、これをLinuxマシンとして見ることは、メーカーが考える商品の位置づけとはちょっと違っている。しかし普通のPDAなら世の中にゴロゴロしているし、プログラマなどから見れば、内部がある程度オープンなLinuxを使っているところこそが魅力ともいえる。そこで、ここではシャープの企画意図とは違ってしまうが、ある程度はLinuxマシンとしてSL-C700を見てみることにする。 ●SL-A300より改善されたパフォーマンス SL-C700は、OSにLinuxを搭載、GUIには、TrollTechのQt/EmbeddedとQtopiaを内蔵している。簡単にいうとQt/Embeddedは、組み込み機器向けのGUIライブラリで、Qtopiaは、PDA向けのアプリケーションやそのベースになるライブラリなどからなるもの。 標準で内蔵されているアプリケーションの多くは、Qtopiaに含まれているものをベースにしているが、ほとんどシャープの手が入っている。SLシリーズの最初の機種であるSL-A300のものよりもカーネルや内蔵ソフトウェアのバージョンは上がっており、パフォーマンスの改善が見られる(なお、SL-A300のほうはパフォーマンスなどを改善するシステムのアップデートが提供されている)。 インターネットへの接続は、CFスロットにPHSカード、Ethernetカード、無線LANカードなどを挿して行なえる。あらかじめ設定しておけば、カードを装着するとダイアログが自動的に表示され、接続を簡単に開始できる。カードの種類別に接続先を指定できるので、P-inならMopera、無線LANならHotspotといった使い分けも可能。無線LANなら、自動的に接続することもできて、「快適な通信環境」というカタログの謳い文句通りである。また、SL-C700を使ったモバイルVoIP実験も行なわれている。 無線LANを使い、自宅のADSL経由でインターネット接続してみたが、220kbps程度の転送スピードが出る。プロセッサのクロックがたかだか400MHzなので、ネックは回線よりもプロセッサの処理スピード。外出先でホットスポットを使ってこの程度出れば問題はないだろう。また、PHSの128kbps接続は十分カバーできると思われる。 ●メールソフトはIMAP4への対応が不十分
ただ、ちょっと困ったことに、SL-C700のメールソフトは、筆者が日常的に利用しているIMAP4(受信したメールをサーバーに保存、管理するプロトコル)を使ったメールサーバーでは、どうもうまく使えない。サーバーに接続すると、すべてのフォルダにあるメールを読み出してしまうようで、延々と読み込み続け、最後にはエラーで止まってしまう(ただ、この最中にもターミナルなどに切り替えて動作できるのはさすがLinuxというところなのだが)。 うちのサーバーには過去10年ぐらいのメールが1GB程度たまっている。必要なところだけを通信で取り出して見る、というのがIMAP4の基本的な考え方なので、すべてのメールを読み込むのはやめて、フォルダをタップしたときだけそこを開くようにしてほしい。さらにいえば、フォルダはIMAP4と同じく階層管理してほしいし、メールが実際に格納されているフォルダを指定する機能(ワシントン大学で開発されたUW-IMAP4では、この機能が必須)も対応してほしいところ。 WWWブラウザであるNetFrontとVGA液晶の組合せは、PCなみの快適度だ。このPC Watchのホームページなども難なく表示する。外出先でインターネットから情報を収集、という用途には十分な機能と思われる。 ●データベースエンジンが変更され、進歩したPIM アプリケーションは、次の表のようなものが内蔵されれている。
このうち、特徴的なのは、カレンダーである。一見、普通のスケジュールソフトだが、画像ファイルなどの日付を取り出して、日付別に表示する機能がある。この動作はどうも、ファイルシステムのタイムスタンプをベースにしている。コピー動作にもよるのだが、簡単にいえばザウルス内に読み込まれたり、SDやCFメモリカードにコピーされた日が使われる。付属のザウルスショット経由の場合には、取り込んだ日にその画像などが登録されるわけだ。 Palm搭載機でもPocketPC搭載機でも、標準装備のアプリケーションは最低限のもので、サードパーティソフトなどを使わないとちょっと不便に感じるのだが、さすがはザウルスシリーズのシャープ。スケジューラー自体は単純ながら、工夫がしてある。 なお、SL-A300のものと見かけは変わらないが、SL-C700/B500のPIM系アプリケーションは、シャープ開発のデータベースエンジンを利用しているという(ひょっとするとA300もシステムのアップデートで同様のものになっているのかもしれないが)。これはMIシリーズのザウルスで使っていたものの移植版。SL-A300では、Qtopiaの推奨形式であるXMLを使うものだったのだが、これが起動時にデータを読み込むために、データが多くなると起動に時間がかかり、メモリの消費も少なくなかった。このあたりも進歩しているようである。 また多くのソフトで、キーボードから主要な操作が可能になっているのも便利な点。スケジュールなどの新規登録や閲覧であれば、スタイラスを使う必要がない。キーボードで操作している最中に1カ所か2カ所でも画面タップが必要なことがあると、かなり面倒な感じがしてしまうが、ザウルスは、このあたりも注意が行き届いている感じがする。 今回のバージョンから、PC側で動作するザウルスショットは、Windowsのプリンタドライバを使って、アプリケーションの印刷出力を取り込むことができるようになった。これなら、特殊なアプリケーションのデータも取り込める。ちょっと気になったのは、ザウルスショットを使うときには、先にSL-C700をPCに接続しておかねばならないことだ。PCを使っているときに常にザウルスが接続状態というのならいいのだが、何か別の作業をしている途中で、「おっ、これはザウルスに取り込んでおこう」と思ったときに、いちいちザウルスを接続してから作業するのはちょっと面倒に感じることがある。 PCはHDDにも余裕があるのだから、ザウルスが非接続状態のときにはファイルにでも入れておいて、接続されたときに転送してくれてもいいのではないかと思う。 入力は、キーボードとソフトウェアキーボード、手書き文字認識などがある。まず、カナ漢字変換だが、これはさすがに高い水準にあるようだ。細かい動作は不明だが、いちおう単語の関係を見て変換を制御するAI変換などを使っているようだ。たとえば、「くみこみきき」を単体で変換すると「久美子見聞き」となってしまうが、「くみこみききよう」とするとちゃんと「組み込み機器用」と変換される。有名な「きしゃのきしゃはきしゃできしゃ」とか「すもももももももものうち」もちゃんと変換できた。 手書き文字入力は、書き込む場所は固定ながら、文字枠なしの入力も可能になっている。ただし、全体のレスポンスとしては、文字枠を使ったほうがいいようだ。枠無しは短い文節ならいいのだが、長い文節は枠に入りきらず、へんなところでちょっと休みが入ってしまう。文字枠を使う方法では、次々に文字を入れていくことができ、入力のリズムが狂わない。 ●使い込んだときに気になるのはメモリ SL-C700は64MBのフラッシュメモリを内蔵している。半分程度がシステム用、残りがユーザーデータ用となっている。これは、OSからはHDDのように見えるが、シャープの資料によると、フラッシュメモリは8bitバス接続で、データ転送速度は大変遅い。非常におおまかな調査だが、ファイルの書き込みでは、内蔵のフラッシュメモリはSDやCFに比べると1桁ぐらいスピードが違うようだ。この部分は、標準アプリケーションやインストールするアプリケーションで使うなどして、ちょっと大きめのデータなどは、CFやSDカードにでも置くのがいいかもしれない。 そのほかに、SL-C700はSDとCFスロットを持つ。ちょっと使った感じでは、SDをファイル用として、CFは、無線LANやPHSカード用に空けておくのがいいようだ。 もし、この内蔵メモリが足りない場合は、標準でインストールされているシャープスペースタウン入会案内やブンコビューアーをアンインストールして削除することができる(郵便番号辞書も削除可能)。アンインストールしても、これらは、付属CDにファイルがあるために削除後も回復できるので心配はない。 実際に使って気になるのはメモリである。PIM系アプリケーション(カレンダやアドレス帳、TODOなど)やメールソフトは、システム起動時に自動的にメモリに読み込まれ、すばやく起動するようになっている(この設定は、ホーム画面からカレンダーなどのアイコンをタップしつづけると表示される)。また、起動後にユーザーが動かすアプリケーションより先に動くため、これらがメモリ不足になることはあまりない。 しかし、逆にいうと、他のアプリケーションではメモリ不足になることがある。特に、SL-C700をLinuxマシンとして使うユーザーは、メモリが不足しがちではないかと思われる。SL-C700には、32MBのSDRAMが搭載されていて、これがメインメモリになる。 ●メモリ不足解消の裏ワザ そこで、SDメモリーカード上などにスワップファイルを作成して、スワップを行なわせることでメモリ不足はある程度解消が可能だ。スワップを使うとメモリに関してはかなり快適になり、メモリ不足の警告をほとんど見なくなった。 ただし、スワップファイルをリムーバブルメディアであるSDメモリーカード上に置くのは、かなり危険だ。動作中にSDカードを抜いてしまうと、それだけでシステムがクラッシュしてしまう(筆者はSDカードが抜けないようにセロハンテープ貼ってます)。なので「スワップって何?」というような初心者の方にはおすすめできる方法ではない。本体内蔵のフラッシュメモリ上にスワップを取ることもできるが、容量的に厳しい(また、前述のように内蔵フラッシュメモリの速度はそれほど速くない)。 設定方法はLinuxのコマンドが使えるならそんなに難しくないが、Windowsしか使ったことがない方にはかなり危険な作業である。特に起動スクリプトに手を入れるなら、きちんと理解した上で作業しなければならない。どうしてもやりたい方は、ここで方法を説明しているのでお読みいただきたい。 ●全体として悪くない出来だが 付属ソフトは、機能という点では及第点をもらえるだろう。ただ、全体として切り替えのスムースさに欠ける部分は気になる点である。だから、普通のPDAとして内蔵ソフトを評価すると「まあまあ」ということになる。 前回の記事で述べたようにバッテリ駆動時間が短い点は気になる。バッテリを交換できるのはいいのだが、そのときにシステムが再起動してしまうのは痛い。再起動時には「3分程度お待ちください」とインスタント食品のようなメッセージが表示されてしまう。ウルトラマンなら電池交換できないに違いない。 さらに、いくら高性能とはいっても、PCの完全な置き換えは難しい。やはり小さい機器なりの制限があるからだ。たとえば、付属のメールソフトは添付ファイルを含めて最大800KBまでしか対応していない。おそらくユーザー領域などとの関係から、無制限に大きなファイルを受信できないようにしてあるのだと思われるが、microdriveや大容量のSDメモリーカードを付けるなどしても、この制限はソフトウェアの仕様なので依然として残ってしまう。この手の機器では、内蔵ソフトは標準状態ですべて動作することが必要条件だからだ。 制限はあるとはいえ、Linuxマシン。Linuxに手慣れたユーザーや、プログラミングで楽しめるユーザーなら、かなり遊び甲斐のあるマシンといえるだろう。メールソフトだって、ほかのものに置き換えてしまえばいいのだから。 □製品情報 (2002年12月27日)
[Text by 塩田紳二]
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