ここ2カ月ほど、シャープのザウルス SL-C750をメインのPDAとして使っている。この機種に心惹かれたのは、OSがLinuxなのでプログラムが比較的簡単に作れるという点。標準的なアプリケーションの作成にはLinuxをインストールしたPCと、C++が必要だ。が、ザウルス上で動くいくつかのインタープリタ言語があり、SL-C750の上で簡単にプログラムが作ることもできる、という点が気に入ったのである。 もちろん、Palm OSやWindows CEにも、PC上のコンパイラによる開発と、PDA上で動くインタプリタ言語による開発が可能だ。プログラムを作るという点から見ると、Palm OSはメモリ管理が面倒だ。初期のWindowsのように、メモリを確保したのち、使うときにロックし、ハンドルを介してアクセスしなければならない。 この点、Windows CEは現在のWindowsに近いのだが、コンソールを標準で持っていないので、プログラムはすべてGUI形式となってしまう。また、開発にVisual Studioがいるのもちょっと面倒なところ。ところがザウルスでは、ちょっとした処理ならコンソール上で動作させることができるし、標準のGUIシステムであるQtを使ったGUIプログラムもできる。 ヒマなときに、ちょっとしたプログラミングをRubyででも、と思って購入したのだが、なかなか忙しくてプログラムもままならないのが実情。しかし、実用に使うために、ある程度環境を整備し、いろいろと使い込んでみた。今回は、前の機種であるSL-C700との違いを含めて、このSL-C750をレポートすることにしよう。 なお、SL-C700については、新しいROMイメージが公開されており、今回の評価は、SL-C700を新しいVer.1.50-JPというROMイメージにアップデートして行なった。 ●高級になったところと、安っぽくなったところ 外観上の違いは、SL-C750の液晶部分が黒になったこと。かなりの光沢と、それなりの高級感があるのだが、手で触った跡がはっきりと見えてしまう。手垢がついていると、かえって高級感がなさそうな感じがしてしまう。昭和30年代の、ポマード全盛時の山手線の窓ガラスを思い出す。
もう1つは、付属のスタイラスがプラスティックの一体形成品になったこと。SL-C700では軸の部分が金属、両端がプラスティックという作りで、適度な重さがあり、それなりの書き味があった。が、SL-C750に付属するものは軽く、安っぽい感じがする。せめて、SL-C700用のスタイラスでもオプションで用意してくれればと思う。 ただし、スタイラスは抜けにくくなっており、間違って落とすことはなさそうだ(これはC700も同じだが)。ソニーのクリエ PEG-NZ90では、スタイラスを3本も無くしてしまったが、SL-C750をネックストラップで首からかけて2カ月ほど使っても、自然落下するようなことはなかった。そのうちの1カ月は、大容量バッテリを付けた関係で、スタイラス穴が下を向くような方向で使っていた。スタイラス先端の窪みにはまる部品が本体内側にあり、これが落下を抑えている。 キーボード部分は、SL-C700が文字部分を黒くしているのに対して、SL-C750は、キーが白、地の部分は銀となっている。そのせいか、SL-C750のほうがキーが大きいような印象を受ける。 配列などはほとんど同一だが、Homeキーの横に「Power On」という印刷がある。実際には、SL-C700のときから、左下の4つのキーはどれも電源オンと割り当てた機能の実行が行えるようになっていて、なぜ、ここに「Power On」と書かれたのかちょっと不思議ではある。
●メモリ増量でパフォーマンス改善 スペック上のSL-C700とSL-C750の違いは、メモリとCPUにある。CPUはPXA-250からPXA-255に変更されている。ただし、クロックは同じで400MHzである。メインメモリは、SL-C700が32MBだったのに対して、SL-C750では、64MBになった。このため、アプリケーションの起動速度などがかなり改善された。 また、消費電力が違っており、SL-C700の3.8Wに対し、SL-C750は2.7Wになっている。稼働時間も、標準のバッテリ(SL-C700、SL-C750は、EA-BL6というリチウムイオンバッテリが付属)で、SL-C700が4時間50分、SL-C750が約5時間となる(バックライト輝度最小で連続表示の場合)。 しかし、バックライトの輝度を最大にした場合の動作時間は変わっておらず、どうもバックライト関連のハードウェアが変更されたようである。実際、バックライトの輝度設定は、SL-C700が5段階であるのに対して、SL-C750は6段階になっている。輝度最小にしたときにSL-C700とSL-C750の画面を見比べても明るさの違いはほとんど感じられない。並べてみれば、僅かにSL-C750のほうが暗いかなという程度。SLシリーズでは、設定により、一定時間経過するとバックライトの輝度を最小に落とすようになっており、最小輝度時の消費電力が小さくなれば、その分、全体の平均消費電力が小さくなると思われる。
●中身はどうなった? SL-C750に実際に触ってみると、SL-C700に比べて反応がよくなったのを感じる。SL-C700では起動がもたもたしていたHancomSheetの起動も、速くなっている。SL-C700では起動までに約7秒必要(スワップファイルを作らなかった場合)だったが、SL-C750では4秒程度だ。 初期の頃頻繁に見かけた「メモリ不足」のメッセージは、SL-C700のアップデートによりほとんど見なくなった。しかし、並べて触ってみると、SL-C750のほうが格段に反応がよくなっている。CPUの差やメモリの差が大きく効いているようである。 では、中身はどれぐらい変わったのだろうか? 気になったので、開けてみることにした。
メインの基板は、本体側のネジを外すと簡単に見ることができる。本体の電池収納部分を除いたところがすべて基板になっており、本体下側にCFやSDカードスロットなどが配置され、基板の上側(キーボード側)にCPUなどの主要部品が配置されている。CPUやディスプレイコントローラー部分には、電波対策と思われる銅箔を使ったシールのようなものが貼られており、片側がはんだ付けしてあるので、剥がすときには注意が必要だった。 細かい違いはあるものの、メイン基板はほとんど同じ。メインメモリ、CPUが違うのみで、あとの主要部品は同一である。この点だけを見れば、SL-C750はハードウェアのマイナーチェンジ版といえるだろう。 CPUは電池の左側、キーボードでいえばカーソルキーの下あたりにある。そのすぐそばにはメインメモリがあり、SL-C700とSL-C750で違っている。
SLシリーズ専用と思われるデバイスは2つあり、1つは、CFインターフェース用のもので、もう1つはフラッシュメモリの制御用である。 電池のそば、キーボード側から見て左上側にあるのは、ディスプレイコントローラーであるATIのIMAGEON 100(W100という型番がついている)と、外部メモリ(Etron TechnologyのEM636165。1MB×16bitメモリ)である。これも、電波対策と思われる銅箔のシールが上に貼られている。IMAGEON 100は、2DグラフィックスエンジンやMPEG/JPEGデコーダなどが組み込まれ、640×480ドット 16bpp(65,536色)までをサポートするハンドヘルド機器用のディスプレイコントローラだ。
基板の中程にあるのは、フラッシュメモリとシャープ製のコントローラである。シャープが公開しているSL-C700のブロックダイアグラムによれば、512Mbit(64MB)のNand Flashメモリが、コントローラを介してCPUバスに接続されている。 フラッシュメモリは、読み書き時にちょっとした制御が必要なので、これをハードウェアで行なっているのだと思われる。ちなみにフラッシュメモリは東芝のTC58512FTである。 ざっと見た感じでは、CPUとメインメモリ以外はほとんど同じだ。PXA255は、製品登場以前には、PXA250のリビジョンCとして紹介されていて、実質は同じプロセッサだ。ただし、ライトバックキャッシュのバグフィックスなどが行なわれていて、より高速に動作できる。メモリはスペック変更などを考慮して、容量の大きなものも利用できるようにしておくことが多く、SL-C750のメイン基板も最初の設計そのままだと思われる。
●WWWブラウザが高速起動に対応
ソフトウェアの違いだが、SL-C700ではMP3/MPEG-1の再生をMedia Playerで行なっていたのに対し、SL-C750では、音楽再生のMusic Playerと、動画再生のMovie Playerの2つのプログラムに分離されている。また、SL-C700のMedia Playerでは、再生可能な動画形式がMPEG-1だったのに対し、SL-C750のMovie Playerは、MPEG-4となっている。 もう1つ、SL-C750には、PowerPointのデータを表示する「プレゼンテーション」が標準で付属している。これは、SL-C700では別売だった。 SLシリーズでは、頻度の高いアプリケーションを高速に起動する設定がある。これは、プログラムをメモリに常駐させることで行なわれる。ただし、対応できるのは、高速起動に対応したソフトウェアのみである(表1)。これらは、ユーザーがGUIでプログラムを終了させても実際には終了しないような作りになっている。この機能を使うためには、個々のプログラムの設定で、高速起動を有効にする必要がある。標準で内蔵しているカレンダーやアドレス帳などのソフトウェアは高速起動に対応している。 SL-C700のWWWブラウザ「NetFront」は高速起動に未対応だったが、SL-C750では標準で高速起動するようになっている。このため、WWWブラウザはSL-C700に比べてはるかに早く起動する。SL-C700では、アイコンをタップしてからNetFrontの画面が表示されるまで5秒程度かかっていたのに対し、SL-C750では1秒程度で画面が表示される。 ●Javaが削除可能に
SLシリーズに標準で組み込まれているアプリケーションは、保護されたフラッシュメモリ領域に置かれているものと、ユーザー用のファイル領域に置かれているものの2種類ある。ハードウェア上は、1つのフラッシュメモリ(SL-C700/750は64MB)だが、カーネルや標準プログラムなどは保護された領域に格納してあり、OS側からはファイルとして見えるのものの、削除などができないようになっている。 残りの部分(約30MB)は、ユーザーがファイルを置ける領域となっているが、一部の標準アプリケーションやサンプルデータはこちら側に配置されており、ユーザーが削除することも可能だ。ただしこの部分は、フルリセットにより消えてしまうので、必要なアプリケーションやデータなどは再インストールする必要がある。 付属のCD-ROMには、これらのソフトウェアと、必要に応じて追加するソフトウェアが収録されているのだが、その構成がSL-C700とSL-C750では違っている(表2)。一番の違いは、従来保護された領域に置かれて削除が不可能だったJavaが削除可能となり、CD-ROMにインストールイメージが入っていること。これにより、Javaを使わないユーザーは、削除してファイル領域を大きくすることが可能になった。 またSL-C750には、MPEG-4のムービーサンプルが標準でインストールされている。画像はかなりきれいなものなのだが、これが11MBもある。一度見れば十分なので、筆者はさっさと削除してしまったが、これもCD-ROMにインストールイメージがあるので、復活は可能だ。 【お詫びと訂正】初出時に表2においてC700とC750の記載が入れ替わっておりました。お詫びして訂正いたします。
●付属ソフトには大きな変化なし 標準で組み込まれているアプリケーションには、大きな変化はない。カレンダーでToDo表示が可能になったり、MediaPlayerが2つに別れたといった違いはあるが、大きな変更があったプログラムはない。もっとも、SL-C700の初期版では頻繁にメモリ不足が表示されたが、アップデートで減っていることから、内部的なブラッシュアップは行われていると考えられる。 カレンダーでToDo表示が可能になったのは進歩だが、1週間表示がグラフ形式のみというのはもう少し改善してほしいところだ。せっかくVGA表示ができるのだから、画面を7分割して1日ごとのスケジュールを1週間分表示することぐらい簡単にできるはず。160×160ドットのPalm OSのDateBookと同じではちょっと情けない。 メールソフトは、相変わらずIMAP4でフォルダ位置の指定ができないし、POPではメモリに残っているメールを基準に取り込みが行なわれている。筆者の環境では、IMAP4を使っており、サーバーのメールを消さない設定であれば、POP3でもアクセスができる。IMAPサーバーのINBOXが、POPサーバーのメールボックスとなっており、ここには状況にもよるがいつも数十から2~300通のメールが置かれたままになっている。POP3を使って1度メールをすべて読み込んだ後、読み込まれたメールをすべて削除すると、次回接続時にはまたメールをすべて読んでしまう。なので、どうも筆者の環境とこのメールソフトは相性が悪いようである。 また、大量のメールを読み込むと、削除もできなくなることがある。削除しようとするとメモリ不足と言われてしまう。一応、メールに対してサイズ制限をかけると、メモリ使用量が抑えられ、エラーが出なくなる。が、どの程度までサイズ制限をかけるかはメール本数によるから、大量のメールがあるならかなり小さな値を設定する必要があるようだ。 次回は、続きとして実行速度やバッテリ寿命を比較してみたい。
□関連記事 (2003年10月15日)
[Text by 塩田紳二]
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