レビュー
GPUが武器となるBroadwell-K「Core i7-5775C」の実力
~128MBのeDRAMが性能に大きく寄与
(2015/6/13 06:00)
今回は、先日ベンチマーク速報をお届けしたBroadwell-Kこと第5世代Intel Coreプロセッサについて、追加のベンチマークレポートをお届けする。なお、今回はIntel Core i7-5775Cを用いて検証を行なっている。
強力なIris Pro Graphics 6200を備えたクアッドコアCPU
Core i7-5775Cは、14nmプロセスで製造されたBroadwellアーキテクチャ採用の4コア8スレッドCPU。DDR3L-1333/1600のデュアルチャネル対応のメモリコントローラ、統合GPUのIris Pro Graphics 6200を備え、L4キャッシュとして128MBのeDRAMを搭載する。
CPUの定格クロックは3.3GHzで、Turbo Boostにより最大3.7GHzまで向上する。L3キャッシュは6MB、TDPは65W、対応CPUソケットはLGA1150。また、型番のサフィックスが「K」ではないが、CPU倍率でオーバークロックが可能なアンロックモデルとなっている。
統合GPUコアであるIris Pro Graphics 6200は、48基の実行ユニット(Execution Units/EU)を備え、300MHz~1.15GHzで動作する。Core i7-4790Kなど、Haswell世代のデスクトップ向けCPUに統合されていたIntel HD Graphics 4600の実行ユニットが20基なので、Core i7-5775CのGPUコアは従来製品の2倍以上の規模ということになる。
Core i7-5775C | Core i7-4790K | |
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製造プロセス | 14nm | 22nm |
開発コードネーム | Broadwell-K | Devil's Canyon |
コア数 | 4 | 4 |
スレッド数 | 8 | 8 |
CPUクロック(定格時) | 3.3GHZ | 4.0GHz |
CPUクロック(Turbo Boost時・最大) | 3.7GHz | 4.4GHz |
L3キャッシュ | 6MB | 8MB |
L4キャッシュ(eDRAM) | 128MB | ─ |
内蔵GPUコア | Iris Pro Graphics 6200 | Intel HD Graphics 4600 |
GPU実行ユニット | 48 | 20 |
GPUコアクロック(最大) | 1,150MHz | 1,250MHz |
TDP | 65W | 88W |
倍率アンロック | ○ | ○ |
対応ソケット | LGA1150 | LGA1150 |
製品パッケージは、従来のHaswell系Core i7プロセッサから大きな変化は見られない。付属するCPUクーラーも同等のものに見える。
ベンチマークテスト結果
それでは、ベンチマークテスト結果の紹介に移りたい。今回、Core i7-5775Cの比較対象には、Devil's CanyonことCore i7-4790Kを用意した。
また、Intelの2製品とは大きな価格差があるものの、デスクトップ向け製品として強力なGPUコアを統合しているAMD製APUの最上位モデルA10-7870Kを、Iris Graphics Pro 6200の比較対象として用意した。A10-7870Kについては、3Dベンチマーク系のアプリケーションのみの比較となっている。
CPU | Core i7-5775C Core i7-4790K | A10-7870K(3Dベンチマークのみ) |
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マザーボード | ASUS H97M-PLUS | ASUS A88XM-PLUS |
メモリ | DDR3-1600 4GB×2 (9-9-9-24、1.50V) | DDR3-2133 4GB×2 (11-11-11-31、1.65V) |
ストレージ | Transcend TS512GSSD370(512GB/SSD) | |
ビデオカード | 各統合GPU | |
グラフィックスドライバ | 10.18.14.4206 | 14.502.1028-150420a |
電源 | Antec HCP-1200(1,200W 80PLUS GOLD) | |
OS | Windows 8.1 Pro Update(64bit) |
まずはCPU系ベンチマークテストの結果から確認していく。実施したベンチマークテストは、SiSoftware Sandra 2015 21.40(グラフ1~3、7~10)、CINEBENCH R15(グラフ4)、x264 FHD Benchmark 1.01(グラフ5)、Super PI(グラフ6)、PCMark 8(グラフ11)、PCMark 7(グラフ12)。
CPUの演算性能をチェックするSandra 2015の「Processor Arithmetic」において、Core i7-5775CのスコアはCore i7-4790Kの87~95%を記録。負けていることは確かだが、一部のスコアはクロック差を超えてCore i7-4790Kに迫っている。また、暗号化テストの「Cryptography」では、Encryption/Decryption BandwidthでCore i7-4790Kとほぼ遜色ない結果を記録した。このテストはメモリ帯域が性能に大きく影響するテストであり、おそらくはL4キャッシュとしてCPUも利用できる128MBのeDRAMが効いているものと思われる。
そのほか、CINEBENCH R15ではCore i7-4790K比で89~93%、x264 FHD Benchmarkは同89%、円周率の計算時間を測定するSuper PIでは113~118%のタイムとなった。CPUとしてのCore i7-5775Cは、4.0~4.4GHzというハイクロックで動作するCore i7-4790Kに及ばないという結果である。
メモリ帯域を測定する「Memory Bandwidth」ではCore i7-4790Kと同等の結果となった。注目したいのはキャッシュの帯域を測定する「Cache Bandwidth」の結果だ。動作クロックで劣るCore i7-5775Cは、L1~L3キャッシュ領域となる2KB~8MBの範囲ではCore i7-4790Kの後塵を拝しているが、16MB~64MBでは逆にCore i7-4790Kを大きく上回っている。
この傾向は、「Cache/Memory Latency」でも確認することが可能で、同テストの16MB~64MBの範囲ではCore i7-4790Kより低いレイテンシを記録している。この結果は、Core i7-5775CがL4キャッシュとして備える128MBのeDRAMによるものだろう。
PCMark 8では、他のテストよりOpenCLテストが少ない「WORK」ではCore i7-4790Kを下回ったものの、「HOME」では16%、「Creative」では14%の差を付けてCore i7-5775Cが優位に立っている。PCMark 7でもテストによって優劣が逆転しているが、これらの結果は統合GPUの実力差によって、Core i7-5775CがCore i7-4790KとのCPU性能差を覆したものであると考えられる。
続いて、3D系のベンチマークテストの結果を紹介する。実行したベンチマークテストは、3DMark(グラフ13~16)、3DMark 11(グラフ17)、ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク(グラフ18)、MHFベンチマーク【大討伐】(グラフ19)、PSO2キャラクタークリエイト体験版 ver. 2.0(グラフ20)。
3DMarkでは、Core i7-5775CのIris Pro Graphics 6200が、GodavariことA10-7870Kを押さえ、全ての総合スコアで最高値を記録した。Core i7-4790KのIntel HD Graphics 4600に対しては、1.5~2倍の差を付けて圧倒しており、Iris Pro Graphics 6200の性能の高さを見せ付けた格好だ。また、3DMark 11でもCore i7-5775CはA10-7870Kを上回っている。
その他テストを行なった、ファイナルファンタジーXIV、MHFベンチマーク、PSO2ベンチマークのいずれも、Core i7-5775CがA10-7870Kを押さえてトップスコアを記録しており、MHFベンチマークでは1.5倍、PSO2ベンチマークに至っては2倍以上もの差をA10-7870K相手に付けている。
Core i7-5775CがA10-7870Kを圧倒したPSO2ベンチマークは、GPUのメモリ帯域がスコアに影響しやすいベンチマークテストであり、Core i7-5775Cが備える128MBのeDRAMの影響が大きいことが伺える。GPUコア自体のスペックで劣るIris Pro Graphics 6200がA10-7870Kに勝利しているのは、eDRAMの有無によるメモリ帯域の差にあると言ってもよさそうだ。
消費電力の比較
最後は消費電力の比較結果を紹介する。消費電力は、サンワサプライのワットチェッカー(TAP-TST5)を使い、ベンチマークテスト実行時にPCが消費した最大電力を測定している。
アイドル時の消費電力は3製品が26~29Wという僅差で並んでおり、それほど大きな差はないと言える。一方、CPUベンチマークのCINEBENCH R15を実行した際の消費電力は、Core i7-5775CがCore i7-4790Kを13~35W下回った。CPUに関してはだいぶ省電力化されていると言えるだろう。
少々意外な結果となったのが、3D系ベンチマークを実行した際の消費電力だ。比較3製品のうち最もTDPの低いCore i7-5775C(65W)が、88WのCore i7-4790Kや95WのA10-7870Kを上回り、最も高い消費電力を記録している。
ベンチマークスコアを見れば妥当とも言える結果だが、なぜCore i7-5775Cが最も高い消費電力を記録することになってしまったのか。単にIris Pro Graphics 6200の消費電力が大きいからなのかと言えば、それだけとは言えない。GPUに負荷を掛けるGPU-Z Render Testを実行した際の消費電力は、Core i7-4790Kの63Wに対し、Core i7-5775Cが84W。21Wの差が付いているが、3DMark実行中の最大消費電力の差ほどではない。
ではなぜCore i7-5775CがCore i7-4790Kより大幅に高い消費電力を記録してしまったのか。それはおそらく、CPU負荷の差にあると考えられる。GPU性能ではるかに劣るCore i7-4790Kの場合、3DMarkのテストはいずれもGPU性能がボトルネックとなり、CPU側は遊んでしまっている。対してCore i7-5775CはIris Pro Graphics 6200のGPU性能によってこのボトルネックが軽減されるため、CPUの仕事が増え、結果消費電力が増加するというわけだ。
強力なGPUが武器の4コア8スレッドCPU
以上の通り、Core i7-5775Cの性能をチェックした。Core i7-5775Cを純粋にCPUとして見た場合、その性能は最速の4コア8スレッドCPUであるCore i7-4790Kを超えるものではない。ビデオカードなどを追加して運用するのであれば、Core i7-5775CはCore i7-4790Kを置き換える存在にはなり得ない。
Core i7-5775Cの武器は、やはりIris Pro Graphics 6200だ。128MBのeDRAMによって広いメモリ帯域を得たGPUコアの性能は、AMD最新のAPUすら凌ぐ。Core i7-5775Cの5万円を超える価格を許容できるのであれば、コンパクトさと性能の両立を追求する自作PCユーザーにとって、最上の選択肢となるのかもしれない。