レビュー

ハードウェア暗号化が魅力のWD製USB 3.0ポータブルHDD

~ロックやバックアップなどソフト機能が充実

「My Passport Ultra」

 「Western Digital」と聞くと、WD GreenやWD Redなどの内蔵HDDを思い浮かべる人がほとんどのはずだ。世界的には外付けHDDでも高いシェアを誇っているWestern Digital(以下WD)だが、日本での同社外付けHDD製品の存在感はイマイチ。国内メーカーに大きく水を空けられてしまっているのが現状だ。

 しかし、以前報道した記事にあるように、日本でのシェア拡大を目指すべく、アイ・オー・データ機器と業務提携を結ぶなど、WDは外付けHDDの市場開拓に取り組んでいく構えのようだ。

 そんな経緯もあってか、WD製USB 3.0接続のポータブルHDD「My Passport Ultra」の新製品が6月下旬より発売される。実際のところ同社の外付けHDDの使い勝手はどんなものなのか、試用する機会を得たので、使用感をレポートしていきたい。

外付けポータブルHDDとしては普通だが、ハードウェア暗号化機能を搭載

 WDは内蔵ストレージのほかに、パーソナルクラウドストレージ、NAS、そして外付けストレージと、コンシューマ向けに4ジャンルの製品群を用意している。今回レビューするのは外付けのポータブルHDDだ。そのポータブルHDDも大まかに2種類あり、下位の「WD Elements Portable」シリーズと上位の「My Passport Ultra」シリーズに分けられる。今回のレビュー対象である後者には、パスワードロック機能のほかに暗号化機能などを備えており、ソフトウェア周りが充実しているという特徴がある。

 それでは、My Passport Ultraの仕様について説明しよう。まず、本体カバー内には2.5インチサイズのHDDが入っていると思われるが、カバーを外せるようにはできていない。本体サイズは110×81.5×15.8mm(幅×奥行き×高さ)。片手に握れる大きさで、多少厚みがあるのは耐久性などを考慮してのことだろう。重量は実測で約150gほどだった。仕事用ショルダーバッグの中に入れて持ち歩いてみたが、当然サイズや重量を意識することはない。と言っても類似製品も同じような大きさで同じような重量なので特段凄いわけではないが……。

 今回使用したのは1TBのブラックモデルで、容量としては500GBと2TBも用意されている。価格はオープンプライスで、税別店頭予想価格は容量の小さい順に10,800円、13,800円、19,800円となる見込み。

 また、本体色にはホワイトも用意されているほか、量販店では取り扱わないものの、オンライン販社向けに、ブルー、ベリー(赤系)もあるようだ。

 インターフェイスはUSB 3.0で、コネクタ形状は一般的なType-Aを採用する。付属ケーブルの長さは46cmだ。持ち運び時に唯一意識してしまうのがこのケーブルで、ケーブルを繋いだままバッグに入れていると、コネクタ破損の危険があり、取り外さなければならない。ポータブルHDDにはケーブル一体型の製品もあるし、本体とケーブルをうまくまとめられる仕組みがあればよかったのだが、この点はポータビリティを損なっているなと残念に感じた。改善を期待したい。

 電源はUSBのバスパワーのみ。外装はプラスチックで作られており、表面のみサラサラとした手触りの加工が施されている。本体裏の4隅には滑り止め防止用のゴム足を装備する。

 余談だが、My Passport Ultraシリーズには、外装が金属の「Metal Edition」もラインナップされていて、外装以外の機能は通常モデルと変わらない。執筆時点ではMetal Editionの新製品は用意されていないようだ。

本体と付属のUSB 3.0ケーブル。ケーブル長は46cm
PC接続側のUSB 3.0コネクタは、一般的なType-Aを採用
本体左側面にケーブル接続用のコネクタが用意されている。本製品はバスパワー駆動だ
通電中は、コネクタ部の側にあるLEDが白く点灯し、データアクセス中は点滅する
本体の裏には滑り止め用のゴム足が付いている

 ストレージ用ベンチマークの定番ソフト「CrystalDiskMark」で転送速度を計測してみたところ、シーケンシャルの転送速度はリード/ライトともに約113MB/sec。これについては、後述する暗号化設定を行なった後でもほとんど変わらなかった。製品資料には「PCのCPUを用いないハードウェア暗号化処理により、パフォーマンスを損なわない」というような謳い文句があるのだが、凡百の類似品の中で本機が抜きん出て優れているかどうかは、暗号化処理対応の比較機が用意できなかったので不明だ。

 ちなみに、WD製の2.5インチHDDでWD Blueシリーズの最新モデル「WD10JPVX」をUSB 3.0外付けケースに接続してCrystalDiskMarkを走らせてみたところ、シーケンシャルリードは117.9MB/secで、ライトは111.8MB/secだった。外付けケースの仕様も違うので純粋な比較にはならないが、一応参考値として記しておきたい。

暗号化前。最大転送速度はリード/ライトとものに約113MB/sec
暗号化後でもスコアは大きな変動を見せなかった

 ハードウェアの説明は以上にして、次はソフトウェア面にスポットを当てていこう。本製品のセキュリティ機能については先ほど軽く触れたが、このほかにもバックアップ機能も備えている。それぞれ紹介していこう。

ユーティリティのインストーラは本体のHDDに保存されている

 本製品にはユーティリティのインストールディスクが付属しておらず、HDD内にセットアップファイルが用意されている。なお、初期状態では当然パスワードはかかっていないので、HDDの中身はすぐに確認可能。セットアップファイルをダブルクリックするだけで、インストーラが起動する。

ドライブの直下に「WD Apps Setup.exe」というインストーラが用意されているので、実行する
インストーラが起動した。全部で4つのユーティリティをインストールする。1つはタスクトレイ常駐型となる
インストール後、デスクトップ上に3つのショートカットが配置される

 それでは、デスクトップ上にショートカットが作成された3つのユーティリティについて見ていこう。

WD Security

 セキュリティ面で安心感を与えてくれるのが「WD Security」によるパスワードロックと暗号化機能だ。暗号化は基板に実装された専用チップによるハードウェアベースのもので、AES(Advanced Encryption Standard)256bit形式が採用されている。暗号鍵はチップ内に保存されるため、解読は困難。セキュリティが突破される心配はないようだ。

 最近ではデータのバックアップや参照にクラウドを使うことが一般的だし、実際に筆者もそうだ。ただ、人によっては数GBクラスの大容量ファイルのやり取りを頻繁に行なっている方もいるだろう。この場合、クラウドだとダウンロードに時間がかかり過ぎてとても使えたものじゃない。そういうシチュエーションではストレージを携帯せざるを得ず、暗号化が頼もしいことは間違いない。もし盗難などに遭っても、データ保護の面では大いに安心できるはずだ。

 なお、本製品にパスワードをかけることで、暗号化が行なわれる仕組みで、何も設定しないと意味がなく、宝の持ち腐れである。難しい手順は要らず、以下の通り簡単に行なえた。

WD Securityの初回実行時は、パスワード設定画面が表示される
パスワード設定後、ダイアログボックスが表示され、セキュリティが有効化されたことが分かる
一旦本製品を外して、再度接続するとHDDは表示されず「WD Unlocker」というドライブが表示される。WD製のユーティリティが入っていないPCに接続した場合も同様だ
WD Unlockerをダブルクリックすると、パスワードの入力を促すウィンドウが表示される。パスワードを入力し、「ドライブ ロック解除」を選択する
正しいパスワードを入力すれば、ロックが解除される
これでエクスプローラー上などからHDDを参照できるようになる
パスワードを変更するか削除したい場合も、WD Securityから行なう

 パスワード設定後に、本製品を外して再度取り付けて見たところ、若干認識に時間がかかるようになった気がするが、ストレスを感じるほどではない。ロックの解除も「WD Unlocker」をダブルクリックしてパスワードを入力するだけなので手間でもない。

WD Backup

 「WD Backup」はその名の通り、バックアップ機能だが、単にドライブ丸ごととかフォルダ丸ごとという大雑把なバックアップ方法だけでなく、ファイルやフォルダを個別に指定して差分バックアップできるため、バックアップ時間の短縮が可能だ。

 一般的に、データの保存の仕方としては、頻繁に更新するもの(フォルダ)と、滅多に更新しないものに分かれるのではないだろうか。例えば筆者なら記事データを月フォルダと日フォルダなどに分けて管理するので、当月より前の月のフォルダが更新されることはまずない。そのため、バックアップには新しいフォルダを選択するだけで済み、無駄なデータ参照や書き換えが発生しないので、短時間でバックアップを終えることができる。

 そのほか面白いと思ったのは、バックアップ先に本製品だけでなく、Dropboxを指定可能で、クラウド上にデータを退避できること。筆者としてはOneDriveをサポートして欲しいのだが、ともかくこういったソフトウェア面での高機能ぶりは国内メーカーよりも上をいっている印象を持った。

 バックアップおよびリストア(復元)の方法は以下の通り。こちらも暗号化同様に簡単に設定できる。

バックアップ

 バックアップの設定手順。

バックアップを行なうには、まずバックアッププランを追加する
本製品にバックアップするか、Dropboxでクラウドにバックアップするかを選択できる
ここでは本製品を選択した。次はスケジュールと、バックアップ場所を選択していく
バックアップ頻度をスケジュールする。「毎時」、「毎日」、「毎月」の中から選択できる
バックアップには、フォルダかファイルを指定できる
バックアップ場所の設定後は、スケジュールで実行するだけでなく、「今すぐバックアップ」を押すことで手動で即座にバックアップが始まる
バックアップ中はプログレスバーにより進行状況を確認できる

復元

 復元の方法も以下の通り、簡単に行なえる。

バックアップデータを復元するには、まず復元場所を選択する。元ある場所のほか、新しい場所を指定できる
復元するフォルダやファイルは、個別に指定できる
復元中はプログレスバーが表示される
一時的にファイルを保存するテンポラリ系のフォルダなどが含まれていると、復元に失敗してしまうようだ
こちらは情報メニュー。WD Backupのバージョンを確認できる

WD Drive Utilities

 最後の「WD Drive Utilities」はメンテナンス用のユーティリティで、HDDの故障診断やドライブのフォーマットなどを行なえる。診断には故障の確認のほか、性能に問題がないかの確認、不良セクタの検出が用意されており、ここら辺の高機能ぶりはHDDメーカーならではと言えるだろう。

「診断」メニューでは、本製品の故障チェックなどを行なえる。単純なステータスチェック、所要時間数分のクイックドライブテスト、数時間を要する完全ドライブテスト(容量によって変動)が用意されている
「スリープタイマー」メニューでは、本製品接続中に未使用状態が続いた場合、スリープモードに入る時間を設定できる。設定時間は10/15/30/45/90分の中から選択可能
「情報」メニューにはWD Drive Utilitiesの最新バージョンがアップロードされているかのチェックのほか、サポート登録を行なえる
「ドライブ消去」メニューから、本製品のHDD内データを消去できる。なお、パスワードを設定していた場合、パスワードも消去されるので注意
HDD内データ消去中の画面
消去終了後、メッセージが表示される
ドライブ消去を使うと、本製品に元々入っていたソフトウェア類も全て消えてしまうが、もしバックアップを取っていなくても、同社のWebサイトからダウンロード可能だ

重要データの持ち運びで安心感を得たいなら

 筆者は職業柄、WDの内蔵HDDを数え切れないほど使ってきたものの、思い返せば外付けHDDの方はまともに使った記憶がない。なので、今回はかなり新鮮な気持ちで「My Passport Ultra」をレビューすることができた。途中でも触れたが、普段HDDを持ち歩くようなことはまずなく、HDDの持ち運びを必須とするユーザーの目線で語れていない部分があるはずだが、その点を抜きにしても、本製品の暗号化機能は魅力的と感じた。

 日常的に話題に上るデータ流出事件をニュースで見ても、自分だけは大丈夫などと思うことはないのだが、それでもたまに仕事用のデータをUSBメモリやHDDに入れて持ち運ぶ際には、セキュリティについて強く意識しておらず、当然暗号化などせずに「まあ平気でしょ」と油断してることの方が多い。おそらくこういう時に万が一が起こり得るわけだが、これが機密資料だったら最後、もう取り返しが付かない。

 というわけで、本製品が搭載している暗号化機能は、転ばぬ先に杖として素直に良い物だなと感じるのである。レビューに際して他社のポータブルHDDもいろいろと見てみたのだが、ソフトウェア機能はWDが一歩リードしているようだった。ソフトウェアのアップデートも自動的に検出して更新してくれるし、便利でUIも分かりやすく出来も悪くない。

 もしもあなたがデータの持ち運びに不安を感じることがあるなら、本製品を検討してみてはいかがだろうか。日常の数多ある不安の1つが解消されるに違いない。私としてはそんな人たちにこそお勧めしたい。WDは外付けHDDも結構アリだなと分かったところで、今回のレビューを締めさせていただきたい。

(中村 真司)