レビュー
パナソニック初の無線LAN接続SDカードリーダを試す
~PC専用アプリやWebDAVでデータアクセス可能
(2014/6/7 06:00)
パナソニック株式会社は、無線LAN接続のSDカードリーダ「Wi-Fi SDカードリーダーライター」(型番:BN-SDWBP3)を5月23日に発売した。スマートフォンからのデータアクセスが主目的の製品だが、PCからは“SDカード単位で同期をとる”というユニークな使い勝手を持つ。同社の厚意により本製品を試すことができたので、主にPCと組み合わせた際の使い勝手についてレポートしたい。
まず本製品の外観周りを確認しておきたい。本体は56×90×9.7mm(幅×奥行き×高さ)、重量47gで、名刺サイズほどのフットプリント。筆者は5型のスマートフォンを利用しているが、それに比べると同じぐらいの厚さで、大きさは3分の2ほどの感覚となる。
本体は、上面にWPSボタンと各種インジケータ、左側面にMicro USBと電源スイッチ、右側面にSDカードスロットとストラップホールと、必要なものを最低限装備したシンプルな仕様。SDカードは最大128GBのSDXCカードまでに対応する。
上面のスイッチを本体電源と勘違いしてしまいそうだが、これはWPS設定用のボタン。ここまで大きくする必要はなかったのではないかとは思うものの、押しやすいことは確かだ。電源は側面にスライド式のスイッチを備えておりWPSボタンに比べると目立っていないのだが、カバンなどに入れておいても勝手にオン/オフが切り替わりにくい利点があり、製品の性質に合った好印象を受ける設計だ。
なお、左側面のMicro USBは充電専用で、PCなどとUSB接続してもUSB接続カードリーダとしては機能はしない。充電のためのインターフェイスは必須のものとはいえ、シンプルなデザインの中でMicro USBは浮いた存在に映ってしまい、充電という単機能のために搭載するというのは少々惜しい。他方で、ストラップホールを搭載する点は好印象で、クリップ付きのストラップを付けるなど、カバンやポケットなどに入れておいた時の紛失防止に一役買いそうだ。
バッテリは3.6V/690mAhのリチウムイオン。連続使用時間は約1時間40分とされている。デジタルカメラ内蔵の無線LAN機能のように、頻繁に転送を行なう性質のデバイスではないので運用の工夫で何とかなるだろう。ただし後述するようにPCで、ミニサーバー風に活用しようと考える場合には、給電しながら利用した方が良さそうだ。
PCからは自動的にローカルと同期してアクセス
冒頭でも述べた通り、本製品が無線LAN接続SDカードリーダ/ライタとして独特なのは、PC向けに専用のアプリケーションが用意され、製品に装着したSDカードの中身を、PCのローカルストレージと“同期をとる”点にある。
もう少しかみ砕くと、PCのローカルストレージ上にはSDカードの個体ごとに固有のフォルダが作成される。そして、本製品に装着したSDカードの内容が、そのフォルダの内容と同期される。SDカード側に変更があればローカル側へ読み込まれるし、ローカル側に変更があればSDカードへ書き戻される。こうした仕組みはクラウドストレージに似たもので、SDカードリーダ/ライタでは珍しい。
逆に、(原則として)PCを用いてSDカード内のファイルへユーザーが直接アクセスすることをしない。これも珍しい点で、PCのシステムからはSDカードを読み書きしているものの、ユーザーの視点に立つとあくまでローカルストレージ上のファイル/フォルダへアクセスするだけだ。原則として……としたのは、一応直接SDカードへアクセスすることができるからだが、詳しくは後ほど触れる。
さて、その実際の使い方をまとめてみたい。専用アプリケーションとなる「同期ユーティリティ」は本体に同梱されていないので、まずは同社のダウンロードページから入手する必要がある。対応OSはWindows 7/8/8.1またはMac OS X 10.7~10.9で、それぞれのバイナリが用意されている。ダウンロード時に“お使いのPCのシリアルナンバー”を入力するよう求められるが、これは本製品(SDカードリーダ/ライタ)の背面に書かれているシリアルナンバー(S/N)を入力すればOKだ。そして、これをPCにインストールしておく。
PCと本製品とは、本製品をアクセスポイントとしてPCから直接接続することが可能なほか、本製品も無線LANのクライアントデバイスとなって同一ネットワーク内の無線LANルーターへ接続することもできる。ただし、PC用のアプリケーションからは本製品のネットワーク設定を変更できないため、初期設定であるアクセスポイントモードから変更する場合にはAndroidまたはiOSデバイスが必要となる。
今回は転送速度のテストも行なうので、本製品をアクセスポイントとして機能させて、PCから直接接続させている。SSIDおよびセキュリティキーは本体背面に書かれているほか、WPSによる設定も可能なので難易度は低い。ただし、本製品にはブリッジ機能などは搭載されていないので、当然ながら本製品に接続した段階でほかの無線LAN機器への接続は切断される。
アプリケーションはタスクトレイに常駐され、アイコンをクリック(左右は問わない)すると、メニューが表示される。ここから接続対象となるSDカードリーダ/ライタを選択する。2台以上所有している場合でも、ここで接続する個体を切り替えることができるわけだ。
気になるのは、接続先のカードリーダ/ライタの電源がオフの場合や、電波到達範囲から外れてしまっている場合で、接続できないことに対する警告が定期的にポップアップ表示される。必要な時にだけ電源を入れてデータを転送するような使い方だと少々わずらわしい。もちろんタスクトレイのアイコンからソフトを終了することはできるが、必要な時にソフトを起動する作業が発生するというもスマートではない。設定でPC起動時の自動常駐を停止するオプションを設けるなど、なんらかの回避策が欲しいところだ。
その設定画面は、設定を施すというよりは、主に設定(ステータス)やログを表示するための機能となっている。
ここまでの通り、PCへの専用アプリケーションのインストール、PCと本製品の無線LAN接続の確立、対象となるSDカードリーダ/ライタの選択で本製品を利用する準備は完了となる。
さて、実際にSDカードを本製品に装着し接続を確立させると、「同期をとるか」の確認ダイヤログが表示される。この際、初めて利用するSDカードだった場合には、同期をとるローカルストレージ上のフォルダ名を指定するダイヤログが表示される。
ローカルストレージ上では、個人フォルダの下に「Wi-Fiカードリーダー」というフォルダが作成され、その下にSDカード個体別にフォルダが生成されていく。カードの識別はSDカードが固有で持っているIDを参照していると推測されるが、生成されるフォルダ名の初期設定はシンプルなものとなっている。SDカードは容量のバリエーションが多いわけではないので、同容量を複数枚持っている人も多いと思う。できればカードのメーカー名や製品名などを付与した、自分なりのルールを作った方がいいだろう。
同期そのものは待つだけでOKだ。SDカード側とローカルストレージ側を比較し、常に双方が最新の状態で同期されることになる。注意が必要なのは、どちらかの内容が全削除(フォーマット含む)された場合にデータが完全に消える可能性があることだが、こうした場合には警告ダイヤログが表示されるよう配慮されている。
WebDAV対応のHTTPサーバーを搭載
このように、SDカード上へのファイルへは直接アクセスせず、ローカルストレージ上に同期されたファイルへアクセスするのが原則的な使い方なのだが、実は直接アクセスすることもできる。以下は公式に示されている使い方を試行しているのではなく、“実験的に試してみたらできた”という結果を示したものなので、その点はご留意いただきたい。
先に載せた本体背面の写真に、(一部ボカシを入れているが)「URL:http://(IPアドレス)/sdcard」といった記述がある。ここへWebブラウザでアクセスすると、SDカードの中身を参照できる。マニュアルにこのアクセス方法の記載はなく、画面もいかにもHTTPサーバーそのままで、当然ながら書き込みもできない。現時点では“イレギュラーな方法”と表現しておいた方が適切だと思うが、今後ファームウェアアップデートなどでユーザーインターフェイスが進化すると面白いのではないかと思う。例えば、SDカード内を写真を表示するためのフォトビューワなどがWebブラウザ上から利用できると汎用的で便利だろう。
また、本製品はモバイルデバイスのWebDAV対応アプリと連携できることを公式に謳っている。つまり、SDカードリーダ/ライタ内部ではWebDAVに対応したHTTPサーバーが動作していると推測できる。ということで、PCからWebDAVでのアクセスを試して見たところ、あっさり繋がった。もちろんPCからSDカードへの書き込みもできるし、エクスプローラーから利用できるので使い勝手もいい。
このアクセス方法を行なう際に専用アプリケーションが起動している必要はなく、無線LANで接続が確立されていればOKだ。ルーター経由で複数台が同一ネットワークに存在する場合には、IPアドレスで接続先を分けることになる。
SDカードの読み出し速度は約2.3MB/secで頭打ち?
さて、最後に無線LAN経由でのアクセス速度を調べておきたい。テストに当たっては、3種類のSDカードを用意。全てのSDカードに同じデータを書き込んで、その同期に要した時間を測定した。所要時間は専用アプリケーションが記録しているログの開始時刻と終了時刻から算出している。転送するデータはデジカメで撮影した写真900枚で、合計容量は約5.83GB(約5972.13MB)である。
用意したSDカードはTranscendのSDHC/16GB/Class 10の「TS16GSDHC10」、東芝のSDHC/32GB/Class 10の「SD-BX32GWF」、そしてパナソニックが4月に発売したSDHC/32GB/Class 10/UHSスピードクラス3対応の「RP-SDUC32GJK」で、パナソニックの1枚のみ同社よりお借りしてのテストとなる。
結果は下記の通り。表中では転送データ量と所要時間から割り出した転送レートも記載した
所要時間 | 転送レート | |
Transcend 「TS16GSDHC10」 | 58分56秒 | 1.69MB/sec |
東芝 「SD-BX32GWF」 | 43分34秒 | 2.28MB/sec |
パナソニック 「RP-SDUC32GJK」 | 43分41秒 | 2.28MB/sec |
これを見ると、SDカードによってアクセス速度に影響があることが分かるが、東芝32GBとパナソニック32GBの結果が2.28MB/secで揃った。小数点第3位以下にズレはあるものの、ほぼ同等の速度で頭打ちになった結果だ。
そもそも、6GB弱のデータに40数分かかるということは、32GBのデータを転送しようとすると4時間近く要することになる。同期の際には、変更があったファイルのみ転送が行なわれるので、一気に大量のデータを転送するケースは少ないかも知れないが、動画など大容量のデータ転送には多少覚悟が必要そうだ。
スマートフォンは必須だがPCでも便利な無線LAN接続カードリーダ
本稿では、独特の使い方ができることからPCでの利用にフォーカスして使い勝手を紹介した。しかし、文中でも述べた通り、AndroidおよびiOS向けに提供されているアプリでしか本体に対する設定は行なえない。例えば、本製品を無線LANルーターに接続して、同一ネットワーク内のデバイスとして接続したい場合には、必ずAndroid/iOSデバイスが必要になる。
このカテゴリの製品は、ストレージ容量が不足しがちなモバイルデバイスの外部ストレージ用途や、外出先でSDカード内のコンテンツを共有するといった使い方を想定していることが多く、モバイルデバイス向けのアプリの方が高機能になるのは致し方ない面はある。これらのモバイルデバイスを一切所有していないPC使用者は少ないだろうし、現実に、本製品の設定変更ができなくて困ることもないだろう。
しかしながら、ここまでPCで便利に使えると、PCで本製品のネットワーク設定までできたら便利だろう、と欲も出てくる。このあたりが改善されると、メインデバイスがPCという人にも、より好まれる製品になると思う。
とは言え、現状の機能でも、PCで柔軟に使える無線LAN接続SDカードリーダ/ライタとしてユニークな製品と言える。先述の通り、PCからのWebDAVアクセスについては公式には特に謳われていないが、これができることが分かり活用の幅は広がった。
実は筆者は、専用アプリケーションを含めた本製品の説明を受けた時に「(PCで使うことを前提とした場合)この製品はSDカードリーダ/ライタではなく、SDカードを記憶媒体にしたNASを作るための製品ではないか」という印象を持った。つまり、無線LANで接続できるポータブルなNAS(ストレージ)として使うための製品であって、リムーバブルメディア上のデータを読み書きするための製品とは言えないのではないかと思ったのだ。
だが、実際に試してみると、ポータブルなNASとして使いたいなら専用アプリケーション、(従来的な)SDカードリーダ/ライタとして使いたいならWebDAVアクセス、といったように使い分けることができた。もちろん、後者のような使い方であっても、クラウドストレージでインターネット接続が切れた時のごとく本製品のバッテリが切れた時などの事態に備え、ローカルにも最新の状態に保たれたファイルがあることが重要な場面もあるだろう。むしろ、そのことを重視する消費者も少なからずいるだろうし、さまざまなニーズを満たせることは大きな意味がある。
パナソニックでは、スマートフォンとPCの双方を本製品とネットワークで繋いでおき、PCとモバイルデバイスのデータハブのような使い方を例示しているが、使い手次第でさまざまに活用できる非常に柔軟な製品と言える。ほかにない使い方ができる製品だけに、1台持っておくと便利ではないだろうか。