レビュー
ScanSnapの新機能「ScanSnap Cloud」を試す
~書類の種類に応じて適切なオンラインストレージに自動保存。PCレスで動作
(2015/12/3 06:00)
PFUのドキュメントスキャナ「ScanSnap」に新機能「ScanSnap Cloud」が追加された。これはスキャンしたデータを同社のクラウドにアップロードした後、「レシート」、「名刺」、「文書」、「写真」という4つのカテゴリに自動分類し、EvernoteやDropbox、OneDriveなど、指定したオンラインサービスに振り分けて保存するという機能だ。
これまでもスキャンデータの保存先に、EvernoteやDropboxなどのオンラインサービスを選択することはできたが、この場合はスキャンの度に任意のオンラインサービスを選択し、ローカルにいったん保存した後データを転送する仕組みだった。つまりScanSnap→PC、そしてPC→各オンラインサービス、という流れである。
今回の「ScanSnap Cloud」では、PFUが用意するクラウドに対し、スキャナから直接データがアップロードされた後、書類の内容に応じてEvernoteやDropboxなどのオンラインサービスに自動的に振り分けられるようになった。流れとしてはScanSnap→クラウド→各オンラインサービスとなり、PCやタブレットは一切経由しない。機器のSCANボタンを押すだけで、各オンラインサービスへの保存まで済んでしまう。
単なるアップデートと呼ぶには大規模すぎる機能追加であり、実際に使ってみても従来のScanSnapの使い勝手とはかなり異なることから、むしろ既存のScanSnapユーザーのほうが戸惑いも大きいと考えられる。今回はこの機能のアウトラインを紹介しつつ、実際に使って明らかになった制限や、従来との挙動の違いなどをまとめてお届けする。
PCやタブレットは不要、スキャナからWi-Fi経由で直接アップロード
ScanSnap Cloudに対応するのはScanSnapシリーズのうち「iX500」と「iX100」の2機種で、ともにファームウェアのバージョンアップが必要になるほか、PCもしくはタブレットの側に同名のユーティリティを新規インストールする必要がある。スキャン実行時はPCやタブレットに電源が入っていなくても問題ないが、クラウド上でどのカテゴリをどのオンラインサービスに振り分けるか、また画質やカラーモードを指定するにあたり、PCまたはタブレットを利用するというわけだ。
具体的な設定手順としては、まずは新しくインストールしたユーティリティを起動して「ScanSnap Cloud」のアカウントを作成した後、「iX500」または「iX100」をUSBケーブルで有線接続してファームウェアをアップデート。続いて「レシート」、「名刺」、「文書」、「写真」という4つのカテゴリそれぞれの保存先となるオンラインサービスを指定し、最後にUSBケーブルを抜いてテストスキャンを実行するという流れだ。主要な流れは以下のスクリーンショットで確認していただきたい。
今回は保存先のオンラインサービスとして「Evernote」、「Dropbox」、「Googleドライブ」、「OneDrive」を指定した。いずれもアカウントは作成済みだったので新規アカウント登録の時間はかかっていないが、それでも「ScanSnap Cloud」のアカウント作成画面から最初のスキャン実行まで、トータルで32分もの時間がかかった。これだけ長いと途中でくじけそうになるが、最初の1回だけなので我慢するしかない。
ちなみに上記のプロセスで(おそらく意図的に)省かれているのが、ファイル形式やカラーモード、画質などの読取設定だ。これらは各オンラインサービスごとに指定できるのだが、セットアップ中に確認する画面はないため、何もしなければ初回のスキャンではデフォルトの設定(カラーモードと画質は自動判別)が適用される。これらをカスタマイズする場合は、ユーティリティのオプションを開いて「スキャン設定」の項目から変更を行なう。
内容に合ったタイトルが自動付与。読取設定の項目は従来と一部異なる
では実際にスキャンしてみよう。スキャンの手順は従来と同じく「原稿をセット」→「SCANボタンを押す」だけ。ただしローカルでスキャンする場合に表示されていたスキャン中のプレビューは、例えPCの電源が入っていても一切表示されない。給紙と排紙だけが淡々と続くことになる。
スキャンが終わり、オンラインサービスへの保存が完了すると、その旨を知らせるメッセージがPCもしくはタブレットなどに表示される。スキャンに当たってPCやタブレットが不要なのは述べた通りだが、完了の通知を受け取るためには、少なくともタブレット(もしくはスマートフォン)に「ScanSnap Cloud」アプリをインストールし、プッシュ通知を受け取れるようにしておいた方が良い。でないときちんと保存されたかどうか判断が付かないからだ。
保存完了までの時間はかなり短く、待たされることは少ない。ローカル環境であまり性能が高くないNASを保存先に指定している場合の方が、かえって時間がかかるほどだ。大量の原稿をスキャンした場合は待たされることもあるようだが(ヘルプによると、データの転送に時間がかかる場合に読み込みが一時中断する場合があるとのこと)、回線速度さえネックにならなければ、一般的な利用において何分も待たされることはまずないだろう。
面白いのは、書類の振り分け時にその書類に合ったタイトルが自動的に追加されることだ。例えば見積書をスキャンした場合、「20151201_見積書.pdf」といった具合に日付の後にタイトルが付く。これは書類の先頭ページをOCR処理して得られるテキストの中からふさわしい文字列が自動的に抽出されるとのことで、従来の日時だけのタイトルと比べて非常に分かりやすい。海外製のスマートフォン向けスキャナアプリなどではよく見かける機能だが、実用性は高く、既存のユーティリティにもこの機能が欲しいと感じる。
なお読み取り設定の項目は、従来とはやや異なっている。例えば画質の「エクセレント」、つまりカラー600dpiのモードは省略されているので、どうしてもエクセレントを使いたい場合はPCを使って従来の方法で読み取った後アップロードする必要がある。またカラーモードはカラー/グレー/白黒の3択だが、「自動判別」を選んだ場合はカラー/グレーの2択になるのも、従来との相違点だ。
このほか、傾き補正、長尺モードなどのように、項目としては用意されていないものの自動的に適用される機能もあれば、裏写り除去のように機能自体がなくなっている場合もある。今回は細部までチェックできていないが、使い込んでいくにつれ「そう言えばあの機能がない」と、気付くことがありそうだ。
ScanSnap Cloudにまつわるさまざまな疑問点をチェック
主な使い方は上記の通りなのだが、これまでとは全く違う仕組みだけに、むしろ従来のScanSnapの挙動に慣れているユーザーのほうが、戸惑いが大きいように感じられる。また全てがクラウドで処理されるだけに挙動が見えにくく、設定次第ではスキャンの失敗を見落とす可能性もある。考えうる疑問点について、実験して分かった結果をFAQの形式でまとめたので、利用にあたっての参考にして欲しい。
振り分け先のサービスは自分で決定できるのか
答えは「Yes」。各カテゴリごと、つまり名刺なら名刺、レシートならレシートといった具合に、振り分け先のオンラインサービス(もちろんScanSnap Cloudが対応しているサービスに限る)を設定しておくことで、自動的に振り分けられる。1つのオンラインサービスを複数のカテゴリにまたがって保存先として指定することもできる。
ちなみに同社ホームページではレシート=「会計・個人資産管理」、名刺=「名刺管理」、文書=「ドキュメント管理」、写真=「写真管理」の4カテゴリごとにオンラインサービスの一覧が記載してあり、例えばEvernoteは「ドキュメント管理」に分類されているのだが、これはEvernoteには文書しか保存できないという意味ではなく、名刺や写真の保存先に指定することももちろん可能だ。
振り分けのカテゴリは新しく作成できるのか
答えは「No」。カテゴリは「レシート」、「名刺」、「文書」、「写真」という4つのカテゴリで固定されており、自分で新しいカテゴリを作って追加することはできない。個人的には「ハガキ」などのカテゴリはあってもおかしくないと感じるが、現状では用意されておらず追加もできない。あまりカテゴリが多すぎるのも考えものだろうが、個人的にはこれから年賀状シーズンを迎えることもあり、写真などよりもこちらのほうがニーズがあるように感じる。
正しくないオンラインサービスに振り分けられた場合は移動できるのか
答えは「Yes」。4つのカテゴリへの振り分けは原稿サイズなどの条件によってインテリジェントに行なわれるが、当然ながら完璧ではない。例えば名刺をスキャンしたのに写真とみなされ、写真の振り分け先のオンラインサービスに保存されてしまうことも起こりうる。
この問題を解消するため、ほかのオンラインサービスに再送信する機能が用意されている。わざわざスキャンし直したり、ローカルにダウンロードしたあと再アップロードするなどの手間を掛けなくても、ユーティリティの画面上で右クリックメニューで保存先を選ぶだけで済む。
実はこの機能は、クラウドに保存されているコピー(時系列的にはこちらがオリジナルだが)を、改めて正しいサービスに送信する仕組みになっている。つまり正確には「転送」ではなく「再送信」という表現が正しいわけだ。オンラインサービス間で直接データを転送しているのではないので、誤って送信されたオンラインサービスからデータが自動削除されることはなく、削除は手動で行なわなくてはいけない点は注意したい。
クラウドに保存されているデータはいつまで保存されるのか
同社のクラウドに保存されているデータは、2週間経つと自動削除される。つまりボタン1つで正しいサービスへ送信する機能は、スキャンから2週間限定で使える機能ということになる。ちなみにこの2週間という期間は変更できないが、手動での削除は行なえる。
クラウドに保存できる容量に制限はあるのか
同社の説明によると答えは「No」。つまり無制限だ。逆に言うと、それが故に最大2週間という期間制限が設けられているものと考えられる。エクセレントモード(カラー600dpi)が用意されていないのも、同じ理由なのかもしれない。
クラウドでファイル名を変更した場合、送信先に反映されるのか
答えは「Yes」。PCもしくはiOS/Androidアプリを用い、クラウド上にあるファイルの名前を手動で変更した場合、送信先のオンラインサービス上のファイルにも反映される。なお手動入力のほかに、OCRの認識結果からほかの候補語を選択することもできる。
テキストを含まない書類ではファイル名はどうなるのか
OCR処理で抽出されたテキストからファイル名が生成されるのは述べた通りだが、写真などのように元々テキストを含まない書類では、単純な連番がファイル名に使われる。具体的には「20151201_001.jpg」といった具合になる。なお抽出できる文字列は横書きのみで、縦書きには対応していない。
カテゴリが混在した書類の束を一度にスキャンするとどうなるか
カテゴリが混在した状態、例えば文書、名刺、レシート、写真の4種類を重ねた状態でスキャンすると、4つのオンラインサービスに分けて保存される。それぞれでカラーモードや画質の設定が異なっていた場合は、それらの設定が適用される。
では「文書4ページ+名刺1枚+文書4ページ」といった具合に、同じ種類の書類の真ん中に異なる種類が紛れ込んでいた場合はどうか。ファイル形式でPDFを指定していた場合、名刺だけが別のオンラインサービスに保存され、最初の4ページと最後の4ページが別のPDFとして保存される。同じカテゴリだからといって、自動的に8ページに合体することはない。逆に言うと書類の重ね順によって生成されるファイル数が変わるので、書類をセットする際にある程度配慮してやった方が良いだろう。
1つのPDFファイルの中から1ページだけを別のオンラインサービスに送信できるか
答えは「No」。例えばさきほどの「文書4ページ+名刺1枚+文書4ページ」で、真ん中の名刺もほかの文書と合体して1つのPDFとして生成された場合、抜き出すのは不可能だ。その場合は文書と名刺を別々にセットしてスキャンを実行し、それでもなお意図しないオンラインサービスに保存されてしまうようなら手動で再送信を行なう……といった具合に、運用の側で工夫をする必要がある。
スキャンデータをローカルに保存することはできるのか
答えは「Yes」。方法は2つあり、1つはScanSnap Cloudを経由せず、従来のスキャンユーティリティ「ScanSnap Manager」でスキャンする方法。クラウドにアップロードする必要のないデータ、例えば自炊データなどは、この方法を使うのが良いだろう。アップロード前に編集する必要があるデータも、従来通りのこの方法でスキャンするのがよさそうだ。ちなみに両者が使える環境ではScanSnap Managerが優先されるので、どうしてもScanSnap Cloudがうまくつながらない場合は、ScanSnap Managerに接続に行っていないかチェックしてやるとよい。
もう1つは、いったんScanSnap Cloudでアップロードした後、クラウドに一時保存されているコピーをダウンロードする方法。こちらは単発でローカルに保存したい場合に向いている。ただしスキャンの度に自動的にローカルにダウンロードする設定はなく、全て手動での対応となる。また本稿執筆時点のバージョンでは保存先としてネットワークドライブを指定できない不具合があるようで、改善が待たれる。
OCR処理したテキストをPDFに埋め込めるのか
同社によると答えは「No」。タイトルを生成するためのOCR処理は行なわれるが、書類全体のOCR処理を行なってPDFに埋め込む機能は用意されていない。従ってOCR処理したテキストをPDFに埋め込みたければ、従来の方法でスキャン時にOCRをオンにしてローカルに保存するか、ScanSnap Cloudにアップロードしたデータをローカルにダウンロードしたのち「ScanSnap Organizer」を使って処理するか、いずれかになる。OCR処理をデフォルトにしている人は気を付けた方がが良さそうだ。
実用的で操作性も上々だが、初心者にはハードルが高い?
このサービスがどのような過程を経てでき上がったかは筆者は知る立場にないが、「各オンラインサービスに自動的に振り分けて保存する」というゴールが先にあり、それを実現するためのゲートウェイとして同社のクラウドが用意されたと考えるのが自然だろう。ローカルで振り分けを行なうには相応のマシンパワーが必要だし、オンラインサービスが増えるたびにエンジンのアップデートが必要になる。それならば独自クラウドにその仕組みを用意してハブの役目を持たせる……という形に落ち着いたと考えれば辻褄は合うし、機能にも納得がいく。
その結果としておそろしく大掛かりな、これまでのScanSnapのフローとはまったく異なる機能が追加されるに至ったわけだが、実際に使った限りではなかなか合理的に感じる。筆者はもともとScanSnapの自動化重視の方向性は歓迎しておらず、現在もカラーモードや解像度は全て異なる読取設定を用意して手動で切り替えているくらいなのだが、今回の「ScanSnap Cloud」は自動処理が間違っていた時にリカバリする機能が用意されているほか、保存先のオンラインサービスごとに読取設定をカスタマイズできるので、違和感は少ない。書類の振り分けというそもそも自動化が難しい作業をかなり強引に行なっている割に、あまりそれを感じさせないのだ。明らかに「ScanSnap Cloud」向けではない自炊データも従来の方法でスキャンすれば済むので、こちらも支障はない。
というわけで、十分に実用的で操作性も上々なのだが、現時点で欲しいと感じる機能が2つある。1つはクラウドへの保存期間を指定できる機能だ。クラウドの基盤にMicrosoft Azureを採用しているとは言え、プライベートなデータのコピーが2週間にも渡って外部サーバーに置かれているのは、あまりいい気がしない。もし保存期間に「24時間」という選択肢があれば、間違いなくそこにチェックを入れることだろう。またメールアドレスとパスワードが万一漏れた場合、クラウド上の過去2週間のデータが見られる危険性はあるわけで、2段階認証などの仕組みも欲しいところだ。
もっとも、本サービスの今後を考えた上で最大の懸念となるのは、「Evernoteって何?」「Dropboxってどうやって使うの?」というレベルのユーザーにとって、難易度のハードルがかなり高いと考えられることだ。今回見てきた設定およびスキャンの流れは、ScanSnapおよび各オンラインサービスをある程度使いこなしていて初めて理解できるものであり、初心者にとっては何から何まで分からないことだらけのはずだ。初心者層に今後アピールしていくのであれば、従来のローカルスキャンを「基本機能」、今回のScanSnap Cloudを「拡張機能」とするなど、位置付けを明確化した上で、さらなるシームレスさが求められることになりそうだ。