レビュー

自作PC初のソケット式SoC、Athlon 5350をテスト

Athlon 5350
4月9日 発表

 AMDから、エントリー向けのソケット型SoCプラットフォーム「AM1」、および対応SoC「Athlon」と「Sempron」が発売となった。今回はAMDからお借りした評価機を元に、ベンチマークを含めた試用レポートをお届けする。

正体はソケット型のKabini、改めて仕様をおさらい

 AM1はAMDが3月4日に発表したプラットフォームで、これまでKabiniで知られていた省電力アーキテクチャSoCをデスクトップ向けにアレンジし、ソケットによる換装を実現した。ブランドとして、しばらく鳴りを潜めていたAthlonとSempronを用いたのが最大の特徴だ。

AM1プラットフォームの概要
AthlonとSempronブランドが付けられた
AM1プラットフォームの特徴
AM1の現時点のSKU

 CPUコアはPlayStation 4などにも採用されている「Jaguar」コア。従来の「Bobcat」から命令デコーダやデータキャッシュロードストアキュー、共有キャッシュユニットを改良しIPC(クロックあたりの性能)を向上させるとともに、新たに256bitのAVX命令をサポート。IPC向上、動作クロックの向上と相まって性能を向上させた。

 同社が示したデータによると、ほぼ同クロックのBobcatコアと比較してIPCが17%向上。最上位のAthlon 5350とBobcat登場時最上位のE-350の比較では、シングルコアで約2倍、マルチコアで約4倍の性能を実現したという。

 一方GPUコアはGCNアーキテクチャで、「Radeon R3」とブランドが付けられている。DirectX 11.2やOpenGL 4.3などの最新グラフィックスAPI、OpenCL 1.2やDirectCompute、C++ AMPなどのGPGPU APIをサポートする。コア数は128。また、4基のROPを備える。こちらもAthlon 5350と旧世代のE-350の比較では、約2倍の性能を実現しているという。

 このほか、KabiniはKaveriなどのメインストリーム向けAPUとは異なり、SoCとなっており、メモリコントローラやPCI Expressなどの汎用バスのみならず、SATAコントローラやUSB 3.0/2.0コントローラなども内包している。このためマザーボードなどのシステム設計をシンプルにできるのが特徴だ。これについては後述する。

KabiniのCPUコア。ダイ専有面積はSteamroller(Kaveri内蔵CPU)の1モジュール/2コアと同等で、4コアを搭載
Bobcatからの設計の改善
E-350との比較では、IPCが17%向上
Athlon 5350とE-350の性能比較
GPUはGCNアーキテクチャを採用
グラフィックス性能は2倍
CPUとGPUが隣接し、お互いヒートシンクの役割をすることで熱密度を下げる

 Kabiniはこれまで、モバイル向けSKUとして「A6-5200」、「A6-1450」などを用意していた。もちろんこれをこのままデスクトップ向けに用意してもなんら不思議ではなく、実際ECSも搭載マザーボード「KBN-I/5200」をリリースしていた。しかし本来モバイル向けに設計されているため、OEMメーカーが自作向けの各種規格に符合するよう再設計する必要がある。

 このためどうしても値段が高くなりがちで、実際KBN-I/5200は実売2万円前後と、正直Intel H81 ExpressとCeleron G1820(いずれも5,000円を切る)を組み合わせたほうがコストパフォーマンス的に優位だった。もちろん、消費電力の違いによる電気代の差も考慮しなければならないと思うが、PCを自作するユーザーは買い替えサイクルも短いため、やはりランニングコストよりもイニシャルコストが重視されがちである。

 Kabini版AthlonとSemrponはこの状況を打破するものであり、AMDが公式で自作向けに設計を行ない、アップグレードに対応することで、モバイル版Kabiniのコストの問題と将来性の問題を解決したものだと言える。アーキテクチャ、性能や機能などはモバイル向けのKabiniそのものであり、“まったく新しい製品”というわけではない。

SoC化によって、マザーボードの役割がシンプルに

 今回AMDからお借りしたSoCは最上位のAthlon 5350(2.05GHz)、マザーボードは、GIGABYTEの「AM1M-S2H」だった。AM1M-S2HネジこそmicroATX互換だが、一回り小型なマザーボードだ。

 まずはAthlont 5350を見ていこう。形状としてはK8系のAthlonから最新のFX-9370/A10-7850まで続いた、同じ大きさのパッケージではなく、一回り小型のタイプとなっている。ただしヒートスプレッダはしっかり装備されており、このあたりは自作におけるダイ欠け事故防止をしっかり意識していると言えよう。

 プラットフォーム名はAM1だが、対応ソケットは「Socket FS1b」とされている。ソケットのピン数は公開されていないが、数えてみたところ721ピンであった(28×28列-四隅の13ピンなし-中央の50ピンなし)。ディスプレイインターフェイスを内蔵したためそれ関連のピン数は少なくなさそうだが、PCI Expressを8レーン、SATAポートを2つに抑えた点、チップセットとHyperTransport通信をしなくて済む点、メモリがシングルチャネルになっている点などを考慮すれば、SoCとしては妥当なところだろう。

Athlon 5350
Socket FM1対応のA6-3600との大きさ比較
ピン数は大幅に少なく、721ピンだった
CPU-Z結果

 今回テストしたAthlon 5350のCPU-Zの結果も掲載しておくと、ベースクロックは約100MHzで、20.5倍で約2.05GHzで動作していることがわかる。命令セットとしては、MMXから最新のAES、AVXをしっかりサポートしており、メインストリームと比較しても遜色ないことが分かる。

 マザーボードは先述のように、Kabiniはこれまで「ノースブリッジ」や「サウスブリッジ」と呼ばれた機能をすべて内包したSoCのため、チップセットがなくなり、基板設計が至極シンプルになった。

 電源回路は2フェーズで、消費電力の少なさを物語っている。PWMコントローラはIntersilの「ISL62771」で、AMD SVI 2.0シリアルデータバスインターフェイスのAMD FusionモバイルCPU向けとされている。

 リファレンスのクーラーは、K8時代から続いたフック+レバー式のリテンションモジュール装着方式から、マザーボードに2つの穴が開いてそこにプッシュピンで留めるシンプルな方式となった。今回の検証機に予め装着されていたクーラーは非常に小型で、50mm角ファンを採用していた。

 ただしIntelのプッシュピンと比較すると留めにくいのは気になった。具体的に言えば、Intelのリファレンスクーラーは、爪が穴を通ってから抜け防止のピンが突き抜ける仕組みだが、AM1のクーラーは爪を戻す力を持つバネが付いているため、そのまま装着すると、抜け防止ピンのほうが先に突き抜けてしまう。

 うまく装着するためには、まずバネの上のカバーを押さえて、爪を両方留めてから、抜け防止ピンを突く必要がある。また、Intelのマザーボードほどたわまず、爪の出っ張りもやや大きいので、机の上ではなくやや浮かせた状態で装着する必要がある。これにはかなりコツが必要だ。

検証機に添付していたリファレンスのクーラー。プッシュピン式
設置面は小さく、ヒートスプレッダの中央しか完全接触しない
50mm角のファンを装備
2つのホールを通してクーラーを固定する
爪の固定にはややコツが必要だ
クーラーを装着したところ

 話をマザーボードに戻そう。PCI Express x16形状のスロットの下には、あたかもチップセットが装着されているかのようにヒートシンクを備えているが、この下はPS/2やパラレルポート(ピンヘッダ)などのレガシーデバイスを提供するためのスーパーI/O「IT8620E」が実装されていた。当然発熱があるわけでもなく、ヒートシンクは単なる飾りである。とは言え、Kabiniにとってみれば、機能としては立派な「チップセット」なのかもしれない。

 KabiniがSoCのため、マザーボードとして機能を提供するチップが大幅に少なくなった。IT8620Eのほかに、Realtek製Gigabit Ethernetコントローラ「RTL8111F」、オーディオコーデック「ALC887」が実装されている程度で、メインストリーム向けと比較するとその少なさが良く分かる。

 よってマザーボードの役目は、「機能を提供する」ことから、「SoCに(の)I/O」を提供する色合いが濃くなったと言える。拡張スロットはPCI Express x16(x4動作)、PCI Express x1×2を搭載。ストレージインターフェイスはSATA 6Gbps×2。バックパネルI/OはUSB 3.0×2、USB 2.0×2、Gigabit Ethernet、HDMI、ミニD-Sub15ピン、PS/2×2、音声入出力。また、マザーボード上にUSB 2.0×6基分とシリアルポート、パラレルポートのピンヘッダがある。

 いずれにしても、Kabini時代のマザーボードの役割は「コネクタの集大成」になりつつあると言えるだろう。

AM1M-S2Hのパッケージ
AM1M-S2H本体
電源は2フェーズとシンプル
PWMコントローラはISL62771
Gigabit EthernetコントローラのRTL8111F
オーディオコーデックのALC887
BIOSが格納されたチップ。2基分のパターンが用意されているが、1基しか実装されておらず、GIGABYTEお得意のデュアルBIOSではない
拡張スロットは、PCI Express x4×1、PCI Express x1×2
チップセットのようなヒートシンクの下には、スーパーI/OのIT8620Eが実装されていた
バックパネルインターフェイス
USB 2.0のピンヘッダを6基分備える
フロントパネルやシリアルポートのピンヘッダ
本体背面

 なお、Athlon 5350は最大クロック倍率固定なので、UEFI BIOS上からは20.5倍以上に変更することができない。ただしGPUのクロックは変更可能であった。このほかの設定項目は、メインストリーム向けマザーボードと大差ない。

UEFI BIOSの動作クロック確認画面
クロックの設定画面
GPUのクロックのみ変更可能。ノースブリッジとCPUクロック倍率も変更するフィールドが用意されているが、規定クロック以上には設定できない
メモリのタイミングなどは自由に設定できる
一応、電圧設定なども用意されているが、あまり意味ないだろう
ブートの順番などの設定画面
I/O関連の設定画面
電源関連の設定画面

性能はモバイル版のA6-5200と同傾向

 それでは最後にAthlon 5350の性能を見ていこうと思う。AMDは、同価格帯で競合の対抗となるPentium J2900以外との比較は控えて欲しい……とのことだが、そもそも日本国内ではPentium J2900を搭載したマザーボードやPCが販売されていないので、その比較は公式資料などを参考にしていただきたい。ここはモバイル向けKabiniであるA6-5200を搭載した、日本HPの「HP Pavilion 15-n200(AMDモデル)」のデータと、A6-1450を搭載した日本エイサーの「Aspire V5」(性能としてはAthlon 5150とSempron 3850の間になる)を参考として掲載しておく。

競合のPentium J2900とのベンチマーク比較
暗号化などにおいても優位性を発揮
グラフィックス性能は大幅に高い
3Dゲームの比較。Celeron G1610+GeForce 210よりも高速で、Pentium J2900はそもそも1080pで動作しなかったという
ビデオ画質補正機能の搭載
OpenCLによる独自のJPEGデコーダで高速化
価格はPentium J2900より安い(ただし日本では発売されていない)

 今回AMDから提供された機材には、「Radeon Memory」ブランドのDDR3-1600メモリが含まれていたので、これを利用した。残りのテスト環境を記しておくと、120GB SSD(OCZ Vertex 2)、Corsair製電源「AX1200」(1,200W/80PLUS GOLD)、OSがWindows 7 Ultimate(64bit)などである。Vertex 2はSATA 3Gbps転送の古いSSDだし、電源も1,200Wとスペックに見合わない設定だが、今回は検証時間が限られていたためご了承いただきたい。

 ベンチマークはPCMark 7によるシステム総合性能、SiSoftware SandraによるCPU演算/GPU描画性能、ファイナルファンタジーXIオフィシャルベンチマーク3による軽量3Dゲーム性能、そして3DMarkによる3D性能計測である。

検証機Pavilion 15(内蔵GPU)Aspire V5
CPUAthlon 5350A6-5200A6-1450
メモリ4GB4GB4GB
ストレージ120GB SSD1TB HDD500GB HDD
OSWindows 7Windows 8.1Windows 8
PCMark 7
Score260617651225
Lightweight28681358679
Productivity2419964355
Entertainment208518831241
Creative444627622877
Computation329337123855
System storage458214751515
ファイナルファンタジーXIオフィシャルベンチマーク3
Low537251393196
High382737572206
Sisoftware Sandra
Dhrystone35.83 GIPS38.51GIPS18.21GIPS
Whetstone19.14 GFLOPS22GFLOPS12GFLOPS
Graphics Rendering Float189.35Mpixel/sec136.46Mpixel/sec115.34Mpixel/sec
Graphics Rendering Double11.91Mpixel/sec10.5Mpixel/sec7.46Mpixel/sec
3DMark
Ice Storm score301953144818546
Graphics score322923575022196
Physics score246052212911755
Cloud Gate score273625891577
Graphics score298428531942
Physics score21211958952
Fire Strike score404367221
Graphics score418400257
Physics score299327831329

 PCMark 7はSSDとHDDの違いで、スコアに大きく差が開くため、HDD搭載のPavilion 15のスコアが低いのは致し方ないし、SiSoftware SandraもOSの違いやBIOSによるチューニングの差、ビデオドライバによる性能差が見られるが、ファイナルファンタジーと3DMarkの結果からは、ほぼ同じ性能傾向だと見ることができる。CPUクロックが50MHz高く、熱設計にも余裕があることから、Athlon 5350は、A6-5200と比較してやや高いスコアとなった。

 本来APUが得意とするPCMark 8や、OpenCLを利用した独自のJPEGデコーダなども評価すべきだが、今回も時間の都合で検証機に推奨環境であるWindows 8.1が用意できず、比較対象もないため、今後環境が整い次第、改めて評価したいところである。とは言え、全体の性能としては超低電圧版のIvy Bridgeプラットフォームに肉薄、もしくはそれを上回るものであり、AMDが想定している利用方法で不満を覚えることはまずないだろう。

 動作中の消費電力は、アイドル時で30W、負荷時で33W程度だった。先述のように今回検証に用いた電源が今回の構成に見合わない1,200Wタイプであるため、消費電力に見合った、つまり45W~65WのACアダプタを用いれば、特にアイドル時の結果はもっと低くなるだろう。省電力PCを考えているユーザーにはうってつけだろう。

 今回温度を監視できなかったが、3DMark動作中にヒートシンクを触ってもほぼ常温に近い温度だった。またファンも非常に静かで、静音重視のユーザーでも換装する必要はないだろう。ただ省電力ともなれば必然的にファンレスへのニーズもあると思うが、冷却機構の固定方法が新しいため、今のところは難しいと思われる。

テキストとグラフィックスという現代のニーズを満たす低価格プラットフォーム

AMDが示したデスクトップPCの利用に関するアンケート

 AMDが示したアンケート調査によれば、デスクトップPCの用途の多くは、メールの送受信、インターネットサーフィン、音楽のダウンロード/ストリーミング、簡単な文書作成、ソーシャルネットワーク、ソーシャルゲームのプレイ、写真の整理や閲覧、写真の編集、学習や教育、ビデオのストリーミングなど、意外にもライトなユースが多くを占めるという。

 正直なところ、これらはスマートフォンでもこなせる作業なので、デスクトップPCの場合、2~3万円で100W前後の高性能CPUや、4~5万円の200W前後の高性能GPUを積むのは明らかに「過剰」だ。

 ではなぜそれでもユーザーがデスクトップPCでこれらの作業をこなすのかと言えば、やはり大画面やキーボード/マウス操作による快適性が主な目的だろう。ただ、動画を見る、ソーシャルゲームをプレイする、写真を編集するといった用途では、AMDの強みであるGPUとGPGPUが活きる。10万円のハードウェアが過剰なら、2万円がちょうどいい、というのが今回AMDが導き出した答えだろう。

(劉 尭)