レビュー
自作PC初のソケット式SoC、Athlon 5350をテスト
(2014/4/9 21:00)
AMDから、エントリー向けのソケット型SoCプラットフォーム「AM1」、および対応SoC「Athlon」と「Sempron」が発売となった。今回はAMDからお借りした評価機を元に、ベンチマークを含めた試用レポートをお届けする。
正体はソケット型のKabini、改めて仕様をおさらい
AM1はAMDが3月4日に発表したプラットフォームで、これまでKabiniで知られていた省電力アーキテクチャSoCをデスクトップ向けにアレンジし、ソケットによる換装を実現した。ブランドとして、しばらく鳴りを潜めていたAthlonとSempronを用いたのが最大の特徴だ。
CPUコアはPlayStation 4などにも採用されている「Jaguar」コア。従来の「Bobcat」から命令デコーダやデータキャッシュロードストアキュー、共有キャッシュユニットを改良しIPC(クロックあたりの性能)を向上させるとともに、新たに256bitのAVX命令をサポート。IPC向上、動作クロックの向上と相まって性能を向上させた。
同社が示したデータによると、ほぼ同クロックのBobcatコアと比較してIPCが17%向上。最上位のAthlon 5350とBobcat登場時最上位のE-350の比較では、シングルコアで約2倍、マルチコアで約4倍の性能を実現したという。
一方GPUコアはGCNアーキテクチャで、「Radeon R3」とブランドが付けられている。DirectX 11.2やOpenGL 4.3などの最新グラフィックスAPI、OpenCL 1.2やDirectCompute、C++ AMPなどのGPGPU APIをサポートする。コア数は128。また、4基のROPを備える。こちらもAthlon 5350と旧世代のE-350の比較では、約2倍の性能を実現しているという。
このほか、KabiniはKaveriなどのメインストリーム向けAPUとは異なり、SoCとなっており、メモリコントローラやPCI Expressなどの汎用バスのみならず、SATAコントローラやUSB 3.0/2.0コントローラなども内包している。このためマザーボードなどのシステム設計をシンプルにできるのが特徴だ。これについては後述する。
Kabiniはこれまで、モバイル向けSKUとして「A6-5200」、「A6-1450」などを用意していた。もちろんこれをこのままデスクトップ向けに用意してもなんら不思議ではなく、実際ECSも搭載マザーボード「KBN-I/5200」をリリースしていた。しかし本来モバイル向けに設計されているため、OEMメーカーが自作向けの各種規格に符合するよう再設計する必要がある。
このためどうしても値段が高くなりがちで、実際KBN-I/5200は実売2万円前後と、正直Intel H81 ExpressとCeleron G1820(いずれも5,000円を切る)を組み合わせたほうがコストパフォーマンス的に優位だった。もちろん、消費電力の違いによる電気代の差も考慮しなければならないと思うが、PCを自作するユーザーは買い替えサイクルも短いため、やはりランニングコストよりもイニシャルコストが重視されがちである。
Kabini版AthlonとSemrponはこの状況を打破するものであり、AMDが公式で自作向けに設計を行ない、アップグレードに対応することで、モバイル版Kabiniのコストの問題と将来性の問題を解決したものだと言える。アーキテクチャ、性能や機能などはモバイル向けのKabiniそのものであり、“まったく新しい製品”というわけではない。
SoC化によって、マザーボードの役割がシンプルに
今回AMDからお借りしたSoCは最上位のAthlon 5350(2.05GHz)、マザーボードは、GIGABYTEの「AM1M-S2H」だった。AM1M-S2HネジこそmicroATX互換だが、一回り小型なマザーボードだ。
まずはAthlont 5350を見ていこう。形状としてはK8系のAthlonから最新のFX-9370/A10-7850まで続いた、同じ大きさのパッケージではなく、一回り小型のタイプとなっている。ただしヒートスプレッダはしっかり装備されており、このあたりは自作におけるダイ欠け事故防止をしっかり意識していると言えよう。
プラットフォーム名はAM1だが、対応ソケットは「Socket FS1b」とされている。ソケットのピン数は公開されていないが、数えてみたところ721ピンであった(28×28列-四隅の13ピンなし-中央の50ピンなし)。ディスプレイインターフェイスを内蔵したためそれ関連のピン数は少なくなさそうだが、PCI Expressを8レーン、SATAポートを2つに抑えた点、チップセットとHyperTransport通信をしなくて済む点、メモリがシングルチャネルになっている点などを考慮すれば、SoCとしては妥当なところだろう。
今回テストしたAthlon 5350のCPU-Zの結果も掲載しておくと、ベースクロックは約100MHzで、20.5倍で約2.05GHzで動作していることがわかる。命令セットとしては、MMXから最新のAES、AVXをしっかりサポートしており、メインストリームと比較しても遜色ないことが分かる。
マザーボードは先述のように、Kabiniはこれまで「ノースブリッジ」や「サウスブリッジ」と呼ばれた機能をすべて内包したSoCのため、チップセットがなくなり、基板設計が至極シンプルになった。
電源回路は2フェーズで、消費電力の少なさを物語っている。PWMコントローラはIntersilの「ISL62771」で、AMD SVI 2.0シリアルデータバスインターフェイスのAMD FusionモバイルCPU向けとされている。
リファレンスのクーラーは、K8時代から続いたフック+レバー式のリテンションモジュール装着方式から、マザーボードに2つの穴が開いてそこにプッシュピンで留めるシンプルな方式となった。今回の検証機に予め装着されていたクーラーは非常に小型で、50mm角ファンを採用していた。
ただしIntelのプッシュピンと比較すると留めにくいのは気になった。具体的に言えば、Intelのリファレンスクーラーは、爪が穴を通ってから抜け防止のピンが突き抜ける仕組みだが、AM1のクーラーは爪を戻す力を持つバネが付いているため、そのまま装着すると、抜け防止ピンのほうが先に突き抜けてしまう。
うまく装着するためには、まずバネの上のカバーを押さえて、爪を両方留めてから、抜け防止ピンを突く必要がある。また、Intelのマザーボードほどたわまず、爪の出っ張りもやや大きいので、机の上ではなくやや浮かせた状態で装着する必要がある。これにはかなりコツが必要だ。
話をマザーボードに戻そう。PCI Express x16形状のスロットの下には、あたかもチップセットが装着されているかのようにヒートシンクを備えているが、この下はPS/2やパラレルポート(ピンヘッダ)などのレガシーデバイスを提供するためのスーパーI/O「IT8620E」が実装されていた。当然発熱があるわけでもなく、ヒートシンクは単なる飾りである。とは言え、Kabiniにとってみれば、機能としては立派な「チップセット」なのかもしれない。
KabiniがSoCのため、マザーボードとして機能を提供するチップが大幅に少なくなった。IT8620Eのほかに、Realtek製Gigabit Ethernetコントローラ「RTL8111F」、オーディオコーデック「ALC887」が実装されている程度で、メインストリーム向けと比較するとその少なさが良く分かる。
よってマザーボードの役目は、「機能を提供する」ことから、「SoCに(の)I/O」を提供する色合いが濃くなったと言える。拡張スロットはPCI Express x16(x4動作)、PCI Express x1×2を搭載。ストレージインターフェイスはSATA 6Gbps×2。バックパネルI/OはUSB 3.0×2、USB 2.0×2、Gigabit Ethernet、HDMI、ミニD-Sub15ピン、PS/2×2、音声入出力。また、マザーボード上にUSB 2.0×6基分とシリアルポート、パラレルポートのピンヘッダがある。
いずれにしても、Kabini時代のマザーボードの役割は「コネクタの集大成」になりつつあると言えるだろう。
なお、Athlon 5350は最大クロック倍率固定なので、UEFI BIOS上からは20.5倍以上に変更することができない。ただしGPUのクロックは変更可能であった。このほかの設定項目は、メインストリーム向けマザーボードと大差ない。
性能はモバイル版のA6-5200と同傾向
それでは最後にAthlon 5350の性能を見ていこうと思う。AMDは、同価格帯で競合の対抗となるPentium J2900以外との比較は控えて欲しい……とのことだが、そもそも日本国内ではPentium J2900を搭載したマザーボードやPCが販売されていないので、その比較は公式資料などを参考にしていただきたい。ここはモバイル向けKabiniであるA6-5200を搭載した、日本HPの「HP Pavilion 15-n200(AMDモデル)」のデータと、A6-1450を搭載した日本エイサーの「Aspire V5」(性能としてはAthlon 5150とSempron 3850の間になる)を参考として掲載しておく。
今回AMDから提供された機材には、「Radeon Memory」ブランドのDDR3-1600メモリが含まれていたので、これを利用した。残りのテスト環境を記しておくと、120GB SSD(OCZ Vertex 2)、Corsair製電源「AX1200」(1,200W/80PLUS GOLD)、OSがWindows 7 Ultimate(64bit)などである。Vertex 2はSATA 3Gbps転送の古いSSDだし、電源も1,200Wとスペックに見合わない設定だが、今回は検証時間が限られていたためご了承いただきたい。
ベンチマークはPCMark 7によるシステム総合性能、SiSoftware SandraによるCPU演算/GPU描画性能、ファイナルファンタジーXIオフィシャルベンチマーク3による軽量3Dゲーム性能、そして3DMarkによる3D性能計測である。
検証機 | Pavilion 15(内蔵GPU) | Aspire V5 | |
---|---|---|---|
CPU | Athlon 5350 | A6-5200 | A6-1450 |
メモリ | 4GB | 4GB | 4GB |
ストレージ | 120GB SSD | 1TB HDD | 500GB HDD |
OS | Windows 7 | Windows 8.1 | Windows 8 |
PCMark 7 | |||
Score | 2606 | 1765 | 1225 |
Lightweight | 2868 | 1358 | 679 |
Productivity | 2419 | 964 | 355 |
Entertainment | 2085 | 1883 | 1241 |
Creative | 4446 | 2762 | 2877 |
Computation | 3293 | 3712 | 3855 |
System storage | 4582 | 1475 | 1515 |
ファイナルファンタジーXIオフィシャルベンチマーク3 | |||
Low | 5372 | 5139 | 3196 |
High | 3827 | 3757 | 2206 |
Sisoftware Sandra | |||
Dhrystone | 35.83 GIPS | 38.51GIPS | 18.21GIPS |
Whetstone | 19.14 GFLOPS | 22GFLOPS | 12GFLOPS |
Graphics Rendering Float | 189.35Mpixel/sec | 136.46Mpixel/sec | 115.34Mpixel/sec |
Graphics Rendering Double | 11.91Mpixel/sec | 10.5Mpixel/sec | 7.46Mpixel/sec |
3DMark | |||
Ice Storm score | 30195 | 31448 | 18546 |
Graphics score | 32292 | 35750 | 22196 |
Physics score | 24605 | 22129 | 11755 |
Cloud Gate score | 2736 | 2589 | 1577 |
Graphics score | 2984 | 2853 | 1942 |
Physics score | 2121 | 1958 | 952 |
Fire Strike score | 404 | 367 | 221 |
Graphics score | 418 | 400 | 257 |
Physics score | 2993 | 2783 | 1329 |
PCMark 7はSSDとHDDの違いで、スコアに大きく差が開くため、HDD搭載のPavilion 15のスコアが低いのは致し方ないし、SiSoftware SandraもOSの違いやBIOSによるチューニングの差、ビデオドライバによる性能差が見られるが、ファイナルファンタジーと3DMarkの結果からは、ほぼ同じ性能傾向だと見ることができる。CPUクロックが50MHz高く、熱設計にも余裕があることから、Athlon 5350は、A6-5200と比較してやや高いスコアとなった。
本来APUが得意とするPCMark 8や、OpenCLを利用した独自のJPEGデコーダなども評価すべきだが、今回も時間の都合で検証機に推奨環境であるWindows 8.1が用意できず、比較対象もないため、今後環境が整い次第、改めて評価したいところである。とは言え、全体の性能としては超低電圧版のIvy Bridgeプラットフォームに肉薄、もしくはそれを上回るものであり、AMDが想定している利用方法で不満を覚えることはまずないだろう。
動作中の消費電力は、アイドル時で30W、負荷時で33W程度だった。先述のように今回検証に用いた電源が今回の構成に見合わない1,200Wタイプであるため、消費電力に見合った、つまり45W~65WのACアダプタを用いれば、特にアイドル時の結果はもっと低くなるだろう。省電力PCを考えているユーザーにはうってつけだろう。
今回温度を監視できなかったが、3DMark動作中にヒートシンクを触ってもほぼ常温に近い温度だった。またファンも非常に静かで、静音重視のユーザーでも換装する必要はないだろう。ただ省電力ともなれば必然的にファンレスへのニーズもあると思うが、冷却機構の固定方法が新しいため、今のところは難しいと思われる。
テキストとグラフィックスという現代のニーズを満たす低価格プラットフォーム
AMDが示したアンケート調査によれば、デスクトップPCの用途の多くは、メールの送受信、インターネットサーフィン、音楽のダウンロード/ストリーミング、簡単な文書作成、ソーシャルネットワーク、ソーシャルゲームのプレイ、写真の整理や閲覧、写真の編集、学習や教育、ビデオのストリーミングなど、意外にもライトなユースが多くを占めるという。
正直なところ、これらはスマートフォンでもこなせる作業なので、デスクトップPCの場合、2~3万円で100W前後の高性能CPUや、4~5万円の200W前後の高性能GPUを積むのは明らかに「過剰」だ。
ではなぜそれでもユーザーがデスクトップPCでこれらの作業をこなすのかと言えば、やはり大画面やキーボード/マウス操作による快適性が主な目的だろう。ただ、動画を見る、ソーシャルゲームをプレイする、写真を編集するといった用途では、AMDの強みであるGPUとGPGPUが活きる。10万円のハードウェアが過剰なら、2万円がちょうどいい、というのが今回AMDが導き出した答えだろう。