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2万円を切る「Ryzen 3」の実力を見る

 AMDは7月27日、エントリー向けCPUの「Ryzen 3」製品を発表した。今回、Ryzen 3の発売に先立って、同シリーズのRyzen 3 1300XとRyzen 3 1200をテストする機会が得られたので、ベンチマークテストでその実力を探ってみた。

エントリー向けの4コア4スレッドCPU「Ryzen 3」

 AMD Ryzen 3は、ZENマイクロアーキテクチャを採用したエントリー向けCPUで、既存のRyzen 5の下位ブランドである。

 今回テストするRyzen 3 1300XとRyzen 3 1200は、どちらも4つのCPUコアが有効化されたCPUで、上位モデルがサポートしているSMT(Simultaneous Multithreading)には非対応であるため、1コアあたり1スレッドを実行する4コア4スレッドCPUである。L3キャッシュ容量は8MBで、TDPは65W。

【表1】Ryzen 3 シリーズとRyzen 5 1400の主なスペック
モデルナンバーRyzen 3 1200Ryzen 3 1300XRyzen 5 1400
製造プロセス14nm FinFET
マイクロアーキテクチャZEN
コア数44
スレッド数48
CCX構成2 + 2
L3キャッシュ8 MB
ベースクロック3.1GHz3.4GHz3.2GHz
ブーストクロック3.4GHz3.7GHz3.4GHz
XFR クロック3.45GHz3.9GHz3.45GHz
対応メモリ最大DDR4-2666
TDP65 W
対応ソケットSocket AM4
価格(税別)13,800円16,500円21,000円
Ryzen 3 1300X
Ryzen 3 1300XのCPU-Z実行結果
Ryzen 3 1200
Ryzen 3 1200のCPU-Z実行結果

 Ryzen 3のCPUコアは、ZENマイクロアーキテクチャの基本モジュールであるCCX(Core Complex)を2基備えている。これは上位のRyzen 7やRyzen 5と同規模であり、2基のCCXが備える4基のCPUコアと8MBのL3キャッシュをそれぞれ半分ずつ無効化することで、4コア4スレッドCPUとしている。

 メモリは最大でDDR4-2666動作をサポートしているが、搭載するメモリの枚数やメモリランクに応じてサポートするメモリクロックが変化する。これは、既存のRyzen シリーズと同様の仕様だ。

Ryzen 3 1300XのCoreinfo実行結果。「(2コア+4MB L3)×2」という構成であることが確認できる
Ryzen 3 シリーズの対応メモリクロック

テスト機材

 今回、Ryzen 3をテストするにあたっては、X370チップセット搭載マザーボードの「ASUS CROSSHAIR VI HERO」、DDR4-3000対応の16GBメモリキット「Corsair CMK16GX4M2B3000C15」、比較用の4コア8スレッドCPU「Ryzen 5 1400」をAMDから借用した。

 また、AMDのレビュアーズガイドの推奨設定に基づき、DDR4メモリの動作設定を「DDR4-2933」、Windowsの電源プロファイルを「AMD Ryzen Balanced」に設定した。なお、メモリのDDR4-2933動作については、CPUとメモリの製品仕様外の動作であるため、すべてのロットで動作する保証はない。

 その他、今回のテストではGPUにGeForce GTX 1080を使用しているが、テスト実施時点での最新ドライバの「GEFORCE GAME READY DRIVER 384.76」に、Watch Dogs 2が正常に起動できない不具合があったため、同不具合を解消したHotfix版ドライバを使用している。

【表2】テスト機材一覧
CPURyzen 3 1200Ryzen 3 1300XRyzen 5 1400
マザーボードASUS CROSSHAIR VI HERO (UEFI: 1403)
メモリDDR4-2933 8GB×2 (2ch、16-18-18-36、1.35V)
GPUGeForce GTX 1080 8GB (FOUNDERS EDITION)
システム用ストレージPlextor PX-128M8PeG (128GB SSD/M.2-PCIe 3.0 x4)
アプリケーション用ストレージOCZ VTR180-25SAT3-480G (480GB SSD/SATA 6Gbps)
電源玄人志向 KRPW-TI700W/94+ (700W 80PLUS Titanium)
CPUクーラーサイズ 風魔 (SCFM-1000) ※ファン制御80%(約1,200rpm)
グラフィックスドライバGeForce Hotfix Driver version 384.80
OSWindows 10 Pro 64bit (Ver 1703/Build 15063.483)
電源プロファイルAMD Ryzen Balanced
室温約28℃
ASUS CROSSHAIR VI HERO。X370チップセットを搭載したATXマザーボード
Corsair CMK16GX4M2B3000C15。本来はDDR4-3000動作の16GBメモリキットだが、今回はDDR4-2933設定で使用している
GeForce GTX 1080 FOUNDERS EDITION。GPU温度上昇による性能低下を防ぐため、テスト中はファン制御を80%に引き上げている
CPUクーラーのサイズ 風魔 (SCFM-1000)。冷却性能を一定にするため、テスト中はファン制御を80%で固定している

ベンチマーク結果

 今回、実行したベンチマークテストは、「CINEBENCH R15 (グラフ1)」、「x264 FHD Benchmark (グラフ2)」、「HandBrake 1.0.7 (グラフ3)」、「TMPGEnc Video Mastering Works 6 (グラフ4)」、「PCMark 8 (グラフ5)」、「PCMark 10 (グラフ6)」、「SiSoftware Sandra Platinum (グラフ7~13)」、「3DMark (グラフ14~16)」、「VRMark (グラフ17~18)」「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク (グラフ19)」、「Ashes of the Singularity: Escalation (グラフ20)」、「オーバーウォッチ (グラフ21)」、「The Witcher 3 (グラフ22)」、「Ghost Recon Wildlands (グラフ23)」、「Watch Dogs 2 (グラフ24)」。

 CINEBENCH R15では、1スレッドで処理を実行する「Single Core」において、動作クロックの仕様が近いRyzen 3 1200とRyzen 5 1400が全く同じスコアを記録する一方で、最大3.9GHzで動作するRyzen 3 1300Xは、両CPUより1割ほど高いスコアを記録した。

 一方、CPUが持つ全てのCPUコア/スレッドで処理した「All Core」では、4コア8スレッドCPUであるRyzen 5 1400の強みが発揮され、Ryzen 3 1300Xに約26%、Ryzen 3 1200に約46%の差をつけている。

【グラフ01】CINEBENCH R15

 動画エンコード系のテストでは、SMTに対応するRyzen 5 1400のスレッド数の多さが力を発揮し、いずれのテストでも最速の結果を記録している。ただし、Ryzen 3 1300Xとの差は1~2割弱、Ryzen 3 1200とは3~4割弱の差となっており、CINEBENCH R15のAll Coreテストほどの差はついていない。

【グラフ02】x264 FHD Benchmark v1.0.1
【グラフ03】HandBrake 1.0.7
【グラフ04】TMPGEnc Video Mastering Works 6(v6.2.2.29)

 PCの総合力を測定するPCMarkでは、PCMark10の「Gaming」以外のテストにおいて、Ryzen 3 1300XがRyzen 5 1400を上回って最高スコアを記録している。

 PCMarkはCPUのマルチスレッド性能よりシングルスレッド性能がスコアに好影響を与えやすい傾向があるため、比較製品の中で最も動作クロックが高いRyzen 3 1300Xが有利だったようだ。

【グラフ05】PCMark 8 (v2.7.613)
【グラフ06】PCMark 10 (v1.0.1275)

 CPUの演算性能を測定するSandra Platinumの「Processor Arithmetic」では、整数演算テストの「Dhrystone」でRyzen 3 1300XがRyzen 5 1400を1~3%ほど上回ったが、浮動小数点演算テストの「Whetstone」では逆にRyzen 5 1400に60%弱の大差をつけられている。基本的にこのテストはスレッド数の多いCPUが有利だが、実行する演算によってSMTの効果に差が生じているようだ。

 マルチメディア性能を測る「Processor Multi-Media」では、Ryzen 5 1400が整数演算でも浮動小数点演算でも最高のスコアを記録しているが、倍精度演算になるとRyzen 3 1300Xとの差は4~5%程度まで縮んでいる。なお、Ryzen 3同士の比較では、Ryzen 3 1300Xが12~17%ほどリードしている。

 暗号化処理性能を測る「Processor Cryptography」でも、順当にRyzen 5 1400が最高スコアを記録。ハッシュ処理ではRyzen 3 1300Xの1.5倍以上のパフォーマンスを発揮しており、SMTが効果を発揮する処理での強さを見せている。

【グラフ07】Sandra Platinum (24.27) - Processor Arithmetic
【グラフ08】Sandra Platinum (24.27) - Processor Multi-Media
【グラフ09】Sandra Platinum (24.27) - Processor Cryptography

 メインメモリの帯域幅を測定する「Memory Bandwidth」の結果は35GB/sec前後でほぼ横並びとなっている。一方、キャッシュ帯域を測定する「Cache Bandwidth」では動作クロックの差からRyzen 3 1300XがほかのCPUよりも高速な結果となっている。

【グラフ10】Sandra Platinum (24.27) - Memory Bandwidth
【グラフ11】Sandra Platinum (24.27) - Cache Bandwidth
【グラフ12】Sandra Platinum (24.27) - Cache & Memory Latency(nsec)
【グラフ13】Sandra Platinum (24.27) - Cache & Memory Latency(Clock)

 3DMarkでは、Time Spy、Fire Strike Ultra、Fire Strikeの3種類のテストを実行した。マルチスレッドへの最適化が進んでいる3DMarkでは、Ryzen 5 1400が最高スコアを記録。以下、Ryzen 3 1300X、Ryzen 3 1200の順で続いている。

 基本的に、GPU負荷が低くなるほどCPU性能の差がスコアに反映されており、最もGPU負荷の高いFire Strike Ultraでは約4%のRyzen 5 1400とRyzen 3 1200のスコア差は、もっともGPU負荷の低いFire Strikeでは約11%になっている。

【グラフ14】3DMark - Time Spy v1.0
【グラフ15】3DMark - Fire Strike Ultra v1.1
【グラフ16】3DMark - Fire Strike v1.1

 VRMarkでは、現状のVRゲームを想定した描画負荷の「Orange Room」と、5k解像度(5,120×2,880ドット)で実行する「Blue Room」を実行した。

 GPU負荷が極めて高いBlue Roomでは、CPUの違いによる差がほぼついていない一方、GPU負荷が低めで高フレームレートでの動作を狙うOrange Roomでは、Ryzen 3 1300Xが比較製品中最高のスコアを記録した。Ryzen 5 1400は、Ryzen 3 1200に約4%の差をつけてスレッド数で勝ることのメリットを示しているものの、ここではRyzen 3 1300Xのクロックの高さが効いた格好だ。

【グラフ17】VRMark スコア
【グラフ18】VRMark 平均フレームレート

 ファイナルファンタジーXIVベンチマークでは、フルHD解像度ではRyzen 3 1300XとRyzen 5 1400がほぼ同じスコアを記録し、Ryzen 3 1200が両CPUから約6%程度低いスコアとなっている。一方で、GPU負荷の高い4k解像度でのスコアは横並びだ。

【グラフ19】ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク

 そのほかのゲームでの性能をみてみると、特にマルチスレッド処理への最適化が進んでいるAshes of the Singularity: EscalationやWatch Dogs 2でRyzen 5 1400が強さを見せる一方、オーバーウォッチやThe Witcher 3のようにRyzen 3 1300XがRyzen 5 1400と同程度の性能を発揮しているタイトルも少なくない。

 また、Ryzen 5 1400が比較的優秀な結果を残しているとは言っても、Watch Dogs 2ほどCPUへの負荷が高いゲームでは、画面解像度を上げてGPU負荷を高めてもフレームレートがほとんど低下していないことから、CPU性能がボトルネックとなってフレームレートが頭打ちになっていることが分かる。Ryzen 5 1400のマルチスレッド性能が強みとなるほどCPU負荷の高いゲームは、そもそもこのクラスのCPUには荷が重いようだ。

【グラフ20】Ashes of the Singularity: Escalation (v2.30.27172)
【グラフ21】オーバーウォッチ (v1.12.0.2.38058)
【グラフ22】The Witcher 3 (v1.31)
【グラフ23】Ghost Recon Wildlands (v2355883)
【グラフ24】Watch Dogs 2 (v1.016.189.1088394)

 ワットチェッカーを用いて、ベンチマーク実行中のピーク消費電力とアイドル時の消費電力を測定した結果が以下のグラフだ。

 アイドル時の消費電力については、45Wを記録したRyzen 3 1200が最も低く、Ryzen 3 1300XとRyzen 5 1400は2W高い47Wで横並びだった。

 ベンチマーク実行中の消費電力をみてみると、最も高い消費電力を記録しているのはRyzen 3 1300Xだ。高クロック動作実現のために他の2製品よりもCPU電圧がやや高いため、それが消費電力の増加につながっているようだ。

 なお、3D系ベンチマークやゲームではGPUが消費する電力の影響が大きくなるため、VRMarkのOrange RoomやWatch Dogs 2のようにCPU性能がGPUのボトルネックとなっているテストでは、消費電力の差がCPU系ベンチマークテストよりも大きくなっている。

【グラフ25】システムの消費電力

 以下のグラフは、CPU系ベンチマークテスト実行中のピークCPU温度について、Core Tempを用いて測定した結果をまとめたもの。なお、Core TempはCPU固有の温度センサーで温度を取得しているため、これらのデータは横並びにして比較できるものではない点に注意して欲しい。

 Ryzen 5 1400を含め、これまでに登場したRyzen シリーズの許容温度は95℃であり、Ryzen 3についても同程度の温度であると思われる。CPUクーラーにサイズの風魔を用いた今回のテストでは、いずれのCPUも95℃からは相当な余裕を確保できており、CPUクーラーに要求する冷却性能がそれほど高くないようだ。

【グラフ26】CPU温度 (Core Temp v1.9)

良好なコストパフォーマンスが魅力のRyzen 3

 4コア8スレッドCPUであるRyzen 5に対し、Ryzen 3はSMTに対応しない4コア4スレッドCPUとなったため、CINEBENCH R15や動画のエンコードのようなマルチスレッド性能が問われるテストでは、Ryzen 5 1400が上位CPUらしい性能を発揮している。

 一方で、PCMarkやThe Witcher 3などでは、Ryzen 3 1300XがRyzen 5 1400を逆転している。下位モデルのRyzen 3 1200についても、シングルスレッド性能ではRyzen 5 1400とほぼ同等で、マルチスレッド性能でも約75%程度の性能を実現しており、コストパフォーマンスは良好だ。

 動画やCG制作がPCのメイン用途であるならマルチスレッド性能に優れるRyzen 5以上の魅力が大きいが、エントリーからミドルレンジ程度のGPUと組み合わせ、安価でゲームも遊べる汎用的なPCを構築するならRyzen 3シリーズは魅力的な選択肢となるだろう。