レビュー

1万円台のビデオカードで3Dゲームプレイの実用性を検証

~CPU内蔵グラフィックから買い足す価値を見出す

 AMDから「Radeon RX 550」、NVIDIAからは「GeForce GT 1030」が登場し、ローエンドGPU市場にも最新のGPUアーキテクチャがもたらされた。今夏以降、IntelとAMDが内蔵GPUを持たないハイエンドCPUを順次投入予定ということもあり、安価で最新のディスプレイインターフェイスを持つ両GPUは、画面出力用ビデオカードを求めるユーザーの需要に応えるものとなるだろう。

 さて、安価な画面出力用GPUとしての役割が期待される新ローエンドGPUだが、これで3Dゲームをプレイしようとした場合どの程度のパフォーマンスが得られるのだろうか。今回はこの疑問を解消すべく、主流のディスプレイ解像度であるフルHD解像度(1,920×1,080ドット)でどの程度ゲームを楽しむことができるのかという視点で、Radeon RX 550とGeForce GT 1030をテストしてみた。

ASUS製のローエンドGPU搭載ビデオカードを用意

 ゲームでのテスト結果を紹介する前に、各ローエンドGPUの仕様とテストに用いたビデオカードを紹介する。

 AMDのRadeon RX 550は、Polarisアーキテクチャを採用する「Polaris 12」コアをベースとしたGPUだ。GPUコアは512基のストリームプロセッサを備え、ビデオメモリには7Gbps動作のGDDR5メモリを最大で4GB搭載する。Typical Board Powerは50W。

 今回テストするRadeon RX 550搭載カードはASUSの「RX550-4G」。ローエンドGPUを採用した低価格製品だが、GPUクーラーに防塵規格である「IP5X」に対応した防塵ファンを採用や、ASUS独自のSuper Alloy Power IIに基づく高耐久部品の実装など、長期運用に耐えられるよう設計されている。

ASUS RX550-4G
ASUS RX550-4GのGPU-Z実行画面
基板表面。補助電源コネクタは非搭載で、PCI Expressスロットからの給電のみで動作する
基板裏面。PCI Express x16形状コネクタを備えるが、接続はPCI Express 3.0 x8となる
側面。GPUクーラーは2スロットを占有する
画面出力端子はDisplayPort、HDMI 2.0、DVI-D
【表1】ASUS RX550-4GとRadeon RX 550の標準仕様
ASUS RX550-4GRadeon RX 550 標準仕様
アーキテクチャPolaris (第4世代GCN)
製造プロセス14nm FinFET
ストリームプロセッサー512 基
テクスチャユニット32基
ベースクロック非公表1,100MHz
ブーストクロック1,183MHz1,183MHz
メモリ容量4GB GDDR5最大4GB GDDR5
メモリスピード7Gbps
メモリインターフェイス128bit
メモリ帯域112GB/sec
Board Power非公表50W

 NVIDIAのローエンドGPUであるGeForce GT 1030は、Pascalアーキテクチャを採用するGP108コアをベースとしたGPUだ。GPUが備えるCUDAコアは384基、ビデオメモリは6Gbps動作のGDDR5メモリを最大2GB搭載。消費電力は30Wとかなり低く抑えられている。

 今回用意したGeForce GT 1030搭載カードはASUSの「GT1030-SL-2G-BRK」。ロープロファイル対応の小型基板に、ファンレス仕様のGPUクーラーを搭載するという、低消費電力かつ低発熱なGeForce GT 1030の特性を活かして設計されたビデオカードだ。

ASUS GT1030-SL-2G-BRK
ASUS GT1030-SL-2G-BRKのGPU-Z実行画面
基板表面。GPUクーラーは冷却ファンを使わないファンレス仕様
基板裏面。PCI Express x16形状コネクタを備えるが、接続はPCI Express 3.0 x4となる
側面。ファンレスクーラーは2スロットを占有する
画面出力端子はHDMI 2.0、Single-Link DVI-D
【表2】ASUS GT1030-SL-2G-BRKとGeForce GT 1030の標準仕様
ASUS GT1030-SL-2G-BRKGeForce GT 1030 標準仕様
アーキテクチャPascal
製造プロセス14nm FinFET
CUDAコア384基
テクスチャユニット24基
ベースクロック1,228MHz1,227MHz
ブーストクロック1,468MHz1,468MHz
メモリ容量2GB GDDR52GB GDDR5
メモリスピード6Gbps
メモリインターフェイス64bit
メモリ帯域48GB/sec
Board Power非公表30W

テスト機材

 今回のテストは、Core i7-7700KとASRock Z270M Extremeを用いたLGA1151環境を用いて行なう。また、CPUのCore i7-7700KはCPU内蔵GPUとしてIntel HD Graphics 630を備えているため、参考データとして同GPUを利用したさいの性能についても測定した。

【表3】テスト環境
GPUIntel HD Graphics 630Radeon RX 550 (ASUS RX550-4G)GeForce GT 1030 (ASUS GT1030-SL-2G-BRK)
CPUIntel Core i7-7700K
マザーボードASRock Z270M Extreme4 (UEFI: P2.10)
メモリDDR4-2400 8GB×2 (2ch、17-17-17-39、1.2V)
システム用ストレージPlextor PX-128M8PeG (128GB SSD/M.2-PCIe 3.0 x4)
アプリケーション用ストレージOCZ VTR180-25SAT3-480G (480GB SSD/SATA 6Gbps)
電源玄人志向 KRPW-TI700W/94+ (700W 80PLUS Titanium)
グラフィックスドライバRadeon Software Crimson ReLive Edition 17.6.221.20.16.4678GEFORCE GAME READY DRIVER 384.76
OSWindows 10 Pro 64bit (Ver.1703/build 15063.413)
電源設定高パフォーマンス
室温約27℃

ゲームでのパフォーマンスをチェック

 実際のゲームにおける性能をチェックする前に、まずはメジャーなベンチマークソフトでのスコアを取得してみた。実行したのは「3DMark (Time Spy、Fire Strike、Sky Diver)」と「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク」。なお、今回はフルHD解像度でのテストを基本としているが、3DMarkについては各テストの標準解像度で実行している。

 ベンチマークテストの結果では、AMDとNVIDIAのローエンドGPUがIntelのCPU内蔵GPUに対して2.5~3倍程度の差をつけて圧倒した。ローエンドとは言っても、CPU内蔵GPUとは一線を画す性能を持っていることが伺える結果だ。

 Radeon RX 550とGeForce GT 1030の比較では、テストや描画設定により多少の差はあるものの、おおよそ1割程度Radeon RX 550の方が高いスコアとなっている。

【グラフ01】3DMark - Time Spy (v1.0)
【グラフ02】3DMark - Fire Strike (v1.1)
【グラフ03】3DMark - Sky Diver (v1.0)
【グラフ04】ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク

 続いて、実ゲームで測定したフレームレートを比較していこう。まずはMoBAゲームである「Leage of Legend」と「Dota 2」での測定結果だ。

 Leage of Legendは描画品質を最大限引き上げた状態であっても、CPU内蔵GPUであるIntel HD Graphics 630で60fpsの維持が可能だった。一方、Radeon RX 550は285fps、GeForce GT 1030は176fpsを記録しており、リフレッシュレートが120Hzや144Hzの高速駆動ディスプレイとの組み合わせで、より滑らかな画面描画でのプレイが可能となる。

 Dota 2はLeage of Legendよりも描画負荷は高めで、レンダリング設定「Best Looking」では、Radeon RX 550やGeForce GT 1030でも60fps前後までフレームレートが低下する。レンダリング設定を「最速」まで落とせばIntel HD Graphics 630でも60fps以上で動作可能だが、描画品質はかなり劣悪なものとなる。

【グラフ05】League of Legends (ver 7.13)
【グラフ06】Dota 2 (ver 7.06E)

 MMORPGからは「ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン」と「ファイナルファンタジーXIV」の2タイトルをチェックした。

 比較的描画負荷の低いタイトルであるドラゴンクエストXでは、Radeon RX 550とGeForce GT 1030はフレームレートの上限値である60fpsをほぼ維持できている。フレームレートのわずかな振れが影響して60fpsぴったりにはなっていないが、「最高品質」でのテスト中でもGPUの使用率は50%前後と低く、フレームレートの振れはGPU性能が不足してのものではないと言える。

 なお、Intel HD Graphics 630が「標準品質」以上で30fpsに張り付いているのは、実フレームレートが60fpsを割り込む状況では、垂直同期の設定に関わらず最大フレームレートが30fpsに制限されるゲームの仕様によるものだ。

 ファイナルファンタジーXIVでは3段階の描画品質でテストした結果、Radeon RX 550とGeForce GT 1030が60fpsを超えることができたのは「標準品質」のみだった。ただ、「高品質」設定では30fpsをわずかに上回っており、フレームレートを30fpsに妥協すれば多少画質を上げることは可能だ。一方、CPU内蔵GPUであるIntel HD Graphics 630は、「標準品質」でも30fpsを大きく割り込む厳しい結果となった。

【グラフ07】ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン
【グラフ08】ファイナルファンタジーXIV

 PCではインディーズゲームと呼ばれる独立系メーカーのユニークなゲームをプレイできるのも魅力だ。今回はSteamで配信されているインディーズゲームから、ヤギをシミュレーションする「Goat Simulator」、パンになる「I am Bread」、宇宙開発シミュレーター「Kerbal Space Program」の3本をテストした。

 Radeon RX 550とGeForce GT 1030は、最高品質設定で60fps以上を維持できるわけではないものの、画質を調整すれば60fps以上でのプレイが可能だ。Goat SimulatorではRadeon RX 550が明らかに優位だが、I am BreadやKerbal Space ProgramではGeForce GT 1030が逆転するなど、得手不得手がはっきり分かれているのが興味深いところだ。

【グラフ09】Goat Simulator
【グラフ10】I am Bread
【グラフ11】Kerbal Space Program

 最後は、マルチプラットフォームで展開されているゲームでの性能を紹介する。テストしたのは、「オーバーウォッチ」、「Fallout 4」、「ダークソウル3」、「Tom Clancy's Ghost Recon Wildlands」、「The Witcher 3: Wild Hunt」、「ニーア オートマタ」の6タイトル。

 Radeon RX 550やGeForce GT 1030でこれらのゲームをプレイする場合、フルHD解像度では描画品質を設定可能な下限付近に設定することが基本となるが、60fps以上が狙えるオーバーウォッチや、50~60fpsで動作するFallout 4は意外と快適にプレイできる。ダークソウル3やThe Witcher 3などもフレームレートを30fpsに妥協すればプレイ可能だろう。ただ、家庭用ゲーム機でも60fps動作を基本としているニーア オートマタをプレイするのはかなり厳しい。

【グラフ12】オーバーウォッチ (v1.12.0.2b)
【グラフ13】Fallout 4 (ver 1.9.4.0)
【グラフ14】ダークソウル3 (ver 1.14)
【グラフ15】Tom Clancy's Ghost Recon Wildlands (ver 2327814)
【グラフ16】The Witcher 3: Wild Hunt (ver 1.31)
【グラフ17】ニーア オートマタ (build 1787043)

消費電力とGPU温度

 今回のテスト環境で、アイドル時の消費電力とテスト中のピーク消費電力を測定した結果が以下のグラフだ。

 テスト中の負荷がGPUに偏重する3DMark実行時の消費電力では、GeForce GT 1030がIntel HD Graphics 630より9~12W高く、Radeon RX 550はそのGeForce GT 1030より22~25W高い消費電力となっている。この消費電力差は両ローエンドGPUの標準仕様(Board Power)の差に近いものとなっている。実際のゲームではGPU負荷やCPU側に掛かる負荷がタイトルや描画品質によってマチマチであるため、消費電力の差はバラついているが、基本的にRadeon RX 550の方が消費電力が高めであるという点は変わらない。

【グラフ18】システムの消費電力

 以下のグラフは「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク」を最高品質設定で実行したさいのGPU温度を「GPU-Z v2.2.0」で測定したものだ。測定時の室温は約27℃で、ケースに収めていない状態で測定している。

 Radeon RX 550を搭載するASUS RX550-4Gのピーク温度は67℃、GeForce GT 1030を冷却するASUS GT1030-SL-2G-BRKのピーク温度は75℃となっており、いずれもGPUの動作に問題のない温度となっている。ただ、ファンレスクーラーを搭載するASUS GT1030-SL-2G-BRKのGPU温度は、テスト終了まで右肩上がりに上昇しているように見える。

 この点については、3DMarkのストレステストなどで長時間GPUに負荷をかけ続けてもASUS GT1030-SL-2G-BRKのGPU温度が80℃を超えることはなかったため、過度な心配は不要だ。ただ、小型のPCケースなどに組み込む場合は、ケース内の換気やケースファンの風で冷却するなどの対策をとった方が良いだろう。

【グラフ19】Radeon RX 550 (ASUS RX550-4G) のGPU温度推移
【グラフ20】GeForce GT 1030 (ASUS GT1030-SL-2G-BRK) のGPU温度推移

性能と機能で勝るRadeon RX 550と、省電力かつ高効率なGeForce GT 1030

 今回のテストでは、Radeon RX 550とGeForce GT 1030はメインストリーム向けCPUに内蔵されたGPUの3倍前後の性能を持っており、フルHD解像度であってもある程度ゲームが遊べる性能を持っていることがわかった。

 3D描画性能より価格と画面出力機能が重視されがちなローエンドGPUだが、最新鋭の製品を選んでおけば、ちょっとした息抜きにゲームをプレイすることが可能となる。

 さて、ではRadeon RX 550とGeForce GT 1030のどちらを選ぶべきか? となると悩ましい所だ。3D描画性能はRadeon RX 550が有利だが、今回の検証を通してみればわかるように、その差が描画の質に大きく影響するゲームはわずかだ。そうなると、同程度のプレイ環境をより省電力で実現できるGeForce GT 1030が魅力的に見える。

 しかし、Radeon RX 550では、ゲーム録画機能を提供する「Radeon ReLive」や、動的リフレッシュレート同期技術「FreeSync」などをサポートする一方、GeForce GT 1030はNVIDIAの同種技術である「シェア」や「G-SYNC」に非対応であり、機能面ではRadeon RX 550に軍配が上がる。

 性能と機能のRadeon RX 550か、電力効率に優れ省電力なGeForce GT 1030か、どちらの要素を重視するかが判断の基準となりそうだ。