レビュー

趣味のバンドで宅録した曲をiTunesやLINE Musicで販売してみた

~TuneCore Japanの配信登録代理サービスを利用。ボカロPにもうってつけ

 筆者は趣味でバンドをやっており、たまにライブもやっている。現在は、好きなバンドのコピーがメインだが、オリジナル曲も作っている。以前、オリジナル曲をDAWソフトを活用して制作、編集した時は、動画にしてYouTubeに上げ、知人に紹介していた。だが、そんな個人が趣味で作ったような楽曲も、iTunes Storeを初めとしたメジャーな配信サービスで販売するための代行登録してくれるTuneCore Japanというサービスがあることを知った。

 ちなみに、TuneCore Japanを知るきっかけとなったのは、Facebookに掲載されていた広告でだった。オンライン広告は、ともすればコンテンツだけを見たいユーザーには邪険にされるものだが、なるほどこうして個人の趣向を基にして本当に知りたい広告が出る時もあるのだななどと思った。

楽器をPCに繋げて録音

 さて、先ほどさらっと「DAWソフト」と書いたが、それが何かを知らない方もいると思うので、説明しておくと、DAWとはDigital Audio Workstationの略で、一言で言うとPCで音楽制作を行なうソフトだ。DTM(Desktop Music)と言った方が分かる人もいるかもしれない。DTMが主にMIDI機器を繋いで曲作りをするのに対し、DAWは打ち込みもできるが、マイクや楽器を繋いで録音するという点で位置付けは異なるが、PCで音楽を創る点では同じだ。プロの音楽制作のシーンでもDAWは幅広く使われている。

 筆者のバンドは、ギター、ベース、ドラムの3人構成で、ボーカルは曲によって担当が変わる。今回作ったオリジナル曲はギターが作詞、作曲したもので、ボーカルも担当している。現在のバンドでは9月に初めてライブで披露した。ライブ後にきちっとした音源を作りたいねという話を以前からしていたので、10月のある日、メンバー2人を筆者宅に招き、録音を行なった。

筆者宅のPC環境

 ちなみに、ここからのDAWソフトの使い方などは、その方面では素人の筆者が見よう見まねでやっているもので、プロや経験者から見ると、おかしな点もあるかもしれないが、こんな感じでPCで音楽を作れると言うことだけ知ってもらえればと思う。

 まずは、ベースがえげつない二日酔いで寝坊し、大幅に遅刻したこともあり、ドラマーの筆者とギターとで仮の音源を作った。

Steinbergの「UR-242」。これにマイクやギターを繋げる

 筆者は、Steinbergの「UR-242」というオーディオインターフェイスを所有している。PCとUSBで接続し、その先にギターやマイクを繋いで音を取り込むことができる。楽器用の入力は2系統しかないので、ボーカルマイク、ギター、ベースを同時に繋ぐことはできず、ある意味ベースが遅刻したのは仮音源作りにはちょうど良かったのかもしれない。

 ドラムについては、ローランドの電子ドラム「TD-4」を所有しており、UR-242にはMIDI経由で接続されている。UR-242には標準でSteinbergのDAWソフト「Cubase AI 7」が付属している(購入当時。現在はCubase AI 8が付属)。その後、Cubase Elements 8へとアップグレードしているが、今回紹介する範囲では、機能的に大きな差はない。Cubaseには標準でドラム音源が搭載されているが、より高品位なドラム音を再現できる「BFD3」をCubaseのプラグインとして利用した。CubaseやBFD3については、こちらの記事でオーディオライターの藤本氏が紹介しているので、もう少し詳しくはそちらも参考にして欲しい。

ローランドの電子ドラム「TD-4」。UR-242とはMIDIで繋がっており、DAWソフト上でMIDI機器として扱える

 これでPCにマイクとギターとドラムが繋がった。Cubaseで曲のテンポを設定し、そのテンポでクリック音を鳴らしながら、3つのパートで同時に演奏して仮録音をした。UR-242には全ての機材を同時に繋げられないということを考えなければ、バンドの録音方法には全員で同時に演奏する一発録りもある。この場合、誰か1人がミスをすると、全員やり直しなので、技量が高くないとOKテイクが出るまでどえらい時間がかかる可能性もあるので、我々の場合、本番は個別録音することにした。

 先ほどの仮の音源を再生しながら、まずはギターが本番録りを行なった。仮音源では、全てのパートは別のトラックに録音されている。これらは個別にミュート(消音)できるので、ギター録音の際は、ギターを抜いたボーカルとドラムだけの音を聞きながら演奏、録音する。

 一般的にはまずドラムから完成させる場合が多いそうだが、我々の場合、1日で録音を完了するというスケジュールの都合上、ドラム以外をまず完成させておいて、筆者は自宅なのでその後からゆっくりドラムの本番を録音するという手順を選んだ。

 と言うことで、ギターに続いて、ボーカルを録音し、その頃には到着していたベースも録音を行なった。DAWの良いところは、1カ所失敗しても、その小節だけ重ね録りしたり、何回か演奏して、いい部分だけを切り貼りして繋げるといった事が簡単にできる点だ。実際、通しの演奏ではうまくいかなかった部分が何カ所かあったので、その部分だけを演奏し直して、完成させた。

Cubase Elements 8の画面。PCが4Kノートなので、このようにトラック数が増えても広々扱える

 さらにDAWソフトのメリットは、ギターのアンプシミュレータや、ロック特有の歪ませた音を作るディストーションなどのエフェクタ機能を搭載している点だ。オーディオインターフェイスを使うことでPCにギターを繋げられるが、そのままではクリーントーンしか鳴らない。バカでかい上に、個人宅で鳴らすと迷惑きわまりないギターアンプ経由の音も、DAWを使えば実物を用意せず再現し、かつヘッドフォンを通じて聴くことができるのだ。オーディオインターフェイスについては、ギタリストは録音をせずとも自宅での練習用に持っておいても重宝するだろう。ギターとベースについては、こうしてCubaseのアンプシミュレータを使って、ギュンギュン響くロックな音を作った。

 ボーカルについては、Cubaseのノイズゲート機能を使い、環境騒音を消すという荒技を使った。普通、ボーカルの録音は、騒音のないボーカルブースなどでやるものだが、趣味のバンドだし、ボーカルだけわざわざボーカルブースで録ってきてもらうのも時間がもったいないので、自宅で録音した。そのため、録音したままの音源には、筆者宅付近を走る車のエンジン音などが混ざっているのだが、ノイズゲート機能によって、ボーカルに影響を与えない範囲の小さな音を強制的にカットした。

 メンバーの録音が終わり、自宅近辺の飲み屋で打ち上げをやった後、筆者はドラムの本番を録音した。それぞれの録音にかかった時間は5分~30分ほどで、合計2時間程度で終わったと思う。

大変なのは録音より編集

 録音が終わって完成というわけにはいかない。例えそれぞれのパートが完璧な演奏をこなしたとしても(我々の場合、完璧からはほど遠いのだが)、それらを重ねてみると、音量が不揃いだったり、音域が互いに邪魔し合ったりするものだ。そこで、音量を整えたり、イコライザーでギターの不要な低音を抑えたり、ギターとベースでステレオのバランスを変えたりという調整を行なった。

 こう書くと簡単そうに聞こえるが、2時間程度の録音時間に対し、筆者が作った音源をGoogle Driveに上げ、それに対するメンバーの意見をLINEで聞きながら進めてという具合で、編集作業は2時間程度×7日間ほどかかってしまった。筆者の知識や経験が不足していて、色々調べつつ行なったというのも大きいが、実際、録音よりも編集の方が時間がかかる。

細かい調整についてはLINEで話ながら詰めていった

 ドラムについては、BFD3の音が素晴らしいので、特に音作りはしなかったが、標準状態では全ての楽器が左右のスピーカーから均等に鳴るので、全ての出力をばらして、左にあるハイハットは左から、右にあるライドシンバルは右から、中心にあるスネアドラムは中心から聞こえるようにした。

 こうして完成した音源は、演奏面でも音響面でも拙い部分は多いが、それっぽく聞こえる。当初の音源作成の目的は、知人に聞いてもらうことのほかに、ライブに出る際の審査で提出が求められることがあるためだった。そこで、静止画に歌詞を載せただけの映像を30分ほどかけて動画編集ソフトで作り、音源を加え、ライブ主催者が簡単に聴けるようYouTubeにアップロードした。

公開した動画。いろいろ拙いのは、趣味のバンドということで、ご容赦いただきたい

30を超える配信サービスに登録してくれるTuneCore Japan

 そこまでで今回の音源作成については全ての工程が完了する予定だった。しかし、冒頭に書いた通り、素人でもiTunesなどで販売してもらえるサービスがあることをたまたま目にした。しかも、10日間の期間限定で1曲だけなら無料で登録してくれるキャンペーンがちょうど実施されていたのだ。プロでもなんでもないし、音楽で儲けを出すつもり(そしてそれだけの技能も、多くの人が買ってくれるだなんて甘い考えも)はさらさらないのだが、「自分たちの曲がiTunesでも売ってる」と言うと、なんとなくハクも付くかなという気持ちでこのサービスを利用してみることにした。

 TuneCore Japanでは、1曲なら1,410円、アルバム1枚なら4,750円(いずれも1年分)を支払うことで、配信サービス業者への登録を代行してくれる。10月末時点での対応事業者は下記の通り30を超えており、大手を網羅していると言っても過言ではない。iTunes StoreやAmazon Prime Music、Spotifyなどについては、国内だけでなく海外にも配信を行なってくれる。また、こうして記事を書いている間にもdwango.jpも追加されており、今後も増えていくだろう。

TuneCore Japanが配信登録代行を行なっているストア一覧

 先にも書いたが、10月21日~30日までの期間限定で、4周年記念キャンペーンとしてシングルを1年間1回のみだが無料で登録できる。個人的には、「ハクをつける」とか「話のネタになる」というノリでやっているので、一種のマーケティング費用として年1,410円を払ってもペイできると思っているが、今なら一切身銭を切らず配信できる。オリジナル曲を作っている人なら軽い気持ちで登録しても全く損しない。

 配信業者/サービスには、ダウンロード販売のものとストリーミング販売のものがあるが、それぞれ購入・利用に応じた収益がTuneCore Japanを通じて支払われる。説明を読む限り、各配信事業者は一定の割合の利用料を徴収するが、TuneCore Japanではその部分については手数料を取っていない。例えば、iTunesの場合、1曲の販売価格は200円で、売れるとその内、Appleが規定する収益額118円がアーティストにそのまま支払われる。

TuneCore Japanのサイト上で、どのストアでどれだけ売れたかも分かる

 筆者の場合、儲けを出すつもりはないので、1曲10円とかでもいいかと思ったのだが、多くの配信業者は価格を200円に固定していた。我々素人の曲もいっぱしの200円という価格付けとなっているのは、そのためだ。

 TuneCore Japanでは、VOCALOIDを利用した曲の配信登録も行なっている。また自分で作成したキャラクターの二次創作物をジャケットとして使うこともできる。ただし、VOCALOIDを使用しない場合と違い、販売収益の20%がVOCALOID利用料としてTuneCore Japanから徴収される。

 なお、当然のことだが、配信できるのは原則として自分が著作権を持っている(オリジナル)曲ということになる。ただし、著作権管理事業者から許諾を得ている場合は、カバー曲でも配信できる。とは言え、書類の提出が必要になるので、ハードルは上がる。

実際に登録してみた

 実際に登録してみたので、その手順を簡単に説明しよう。まず、TuneCore Japanでアカウントを作成する。これは無料でできる。その際、収益を受け取るために、銀行口座情報も登録する。

 続いて、配信する曲を登録する。シングル・アルバム・リングトーンに応じた登録のリンクがあるので、今回はシングルを選択。曲の配信エリアとして、「国内」と「海外」をそれぞれ選べる。理由がなければ、両方を選択しておいていいだろう。

 次に、アーティスト選択画面が出る。新規の場合は「アーティストを追加」を選ぶが、VOCALOIDの場合はそちらをクリックする。アーティストを追加の場合は、ここでアーティスト名やジャンル、アーティスト写真、ホームページやSNSのURLなどの情報を必要に応じて入力する。この情報はそのまま配信サービスにも転送されるものなので、アーティスト名などは間違えないようにしよう。

配信エリア(国内/海外)の選択
アーティスト情報の登録を行なう

 次に曲の登録。曲名やジャンルなどの情報とともに、ジャケット画像と楽曲のファイルをアップロードする。ジャケット画像は20MB以内で1,600×1,600ドットのJPG/PNG画像と決まっている。楽曲はWAV形式のみだが、通常の16bit/44.1kHzのほか、最大24bit/192kHzの音源もe-onkyo musicなどのハイレゾ配信用に登録できる。

曲の情報、ジャケット画像、そして曲ファイルを登録する

 次に、配信を行なう業者/サービスを選択する。これも特に理由がなければ、選べるだけ選んでおいていいだろう。

 最後に、決済だが、4周年シングル無料キャンペーンを利用すれば、合計金額は0円となっているので、その状態で決済する。決済するとTuneCore Japanでの審査に入る。機械処理なのか人力なのかは分からないが、日曜の13時30分に登録を行ない、16時48分には審査完了のメールが届いた。

 これで、順次各業者/サービスでの配信が開始される。機械的な処理や、審査などある場合もあるが、最短で登録から2日後から配信が開始されるとしている。ただし、各ストアで販売が開始されても個別には通知されない。各シングル/アルバムのページには配信先のアイコンが表示されており、取り扱いが開始されるとリンクが有効になる形で配信されたことが分かる。ただし、一部のストアは曲の販売ページの直接リンクがないので、その場合は各ストアで自分で検索してみないと、販売されているかは分からない。

シングル/アルバムのページに配信先のアイコンがあり、取り扱い開始されるとそれらをクリックできるようになる

 筆者の場合、10月23日に登録して、24日にはGoogle Play MusicとKKBOXでの配信を確認できたので、1日で行ける場合もあるようだ。iTunes Storeは最短2日間で配信されると記載されていたが、確かに2日後の25日にiTunes Storeで取り扱われていたが、最初は海外での配信扱いとなっており、そこから半日ほど遅れて日本でも配信開始された。そのほか、Amazon(日米)とレコチョクでも25日には購入できるようになっていた。ストリーミング系は、AWAとSpotifyについて26日に販売を確認できたが、LINE Musicでは9日程度待たないと販売されないようだ。

自分たちの曲がiTunes Storeで販売開始になった!
Google Play Storeでの販売
レコチョクでの販売
Amazonでは日米で販売を確認できた
Spotify(左)とAWA(右)での配信も確認

 TuneCore Japanのサイトでは、収益レポートの表示や、売上の引き出しなども行なうことができる。ただし、売上は1,000円単位でしか引き出せないので、シングルだと10回くらい買ってもらえないと実際の利益を得ることはできない。なお、0円で配信できるのは1年間のみだ。

PC 1つで自分の音楽を手軽に販売できる時代に

 以上、駆け足でTuneCore Japanでの楽曲配信体験談をお届けした。配信サービスごとの利用条件や収益の差異など細かな点は、利用する際に確認して欲しいが、簡単で手軽に登録ができ、あとは待っていれば順次各サービスへ登録が行なわれ、運が(そして曲も)良ければ、売上がチャリンチャリンと積み上がっていく。もちろん、筆者のような日曜バンドの曲がジャンジャン売れるとはつゆほどにも思っていないが、「俺の曲、iTunesで買えるんだぜ!」って言えるだけで、年甲斐もなくちょっとワクワクしてしまう。

 もう1つ伝えたいのは、今回の我々の曲の制作から販売まで、ギター、ベース、電子ドラムという楽器を除けば、全ての作業が自宅に居ながらにしてPCだけで完結しているという点だ。VOCALOIDなら楽器も不要だ。デジタル時代になり、コンテンツの作成だけでなく、それを共有、販売する方法も従来から大幅にハードルが下がり、素人にすら門戸が開かれた。音楽だけでなくとも、デジタル化の恩恵を積極的に活用していきたいところだ。

Amazon.co.jpで購入
iTunesで購入