レビュー

注目のエントリー向けPascal「GeForce GTX 1050 Ti」をテスト

GeForce GTX 1050 Ti

 NVIDIAは10月18日、GeForce GTX 10シリーズのエントリー向けGPUであるGeForce GTX 1050/1050 Tiを発表した。今回、上位モデルであるGeForce GTX 1050 Ti搭載ビデオカードをテストする機会が得られたので、ベンチマークテストを用いて、Pascalアーキテクチャを採用したエントリー向けGPUのパフォーマンスをチェックする。

新GPUコア「GP107」を採用するエントリー向けGPU

 GeForce GTX 1050およびGeForce GTX 1050 Tiは、NVIDIA最新のPascalアーキテクチャに基づき、16nm FinFETプロセスで製造されたGPUコア「GP107」を採用したエントリー向けGPUである。GeForce GTX 10 シリーズのラインナップにおいて、ミドルレンジGPUであるGeForce GTX 1060の下位に位置することになる。

 上位モデルのGeForce GTX 1050 Tiは、768基のCUDAコアと48基のテクスチャユニットが有効化されたGP107コアを採用。GPUは、ベースクロック1,290MHz、ブーストクロック1,392MHzで動作し、128bitのメモリバスで7Gbps動作の4GB GDDR5メモリと接続する。リファレンス仕様での消費電力は75Wで、補助電源コネクタを必要としない。

 下位モデルのGeForce GTX 1050は、640基のCUDAコアと40基のテクスチャユニットを有効化したGP107コアを採用。ベースクロック1,354MHz、ブーストクロック1,455MHzに動作する。メモリバスは128bitで、メモリ速度も7Gbpsであり、上位のGeForce GTX 1050 Tiと同等の112GB/secの帯域幅を持つが、メモリ容量は半分の2GBとなっている。消費電力は75Wで、こちらもリファレンス仕様では、補助電源コネクタを必要としない。

【表1】GeForce GTX 1050/1050 Ti/1060の主な仕様
GeForce GTX 1050GeForce GTX 1050 TiGeForce GTX 1060 3GB
アーキテクチャPascalPascalPascal
GPUコアGP107GP107GP106
製造プロセス16nm FinFET16nm FinFET16nm FinFET
ベースクロック1,354MHz1,290MHz1,506MHz
ブーストクロック1,455MHz1,392MHz1,708MHz
CUDAコア数640基768基1,152基
テクスチャユニット40基48基72基
メモリ容量2GB GDDR54GB GDDR53GB GDDR5
メモリ速度7Gbps7Gbps8Gbps
メモリインターフェイス128bit128bit192bit
ROPユニット32基32基48基
消費電力75W75W120W

 今回のテストに用いるGeForce GTX 1050 Ti搭載ビデオカードは、ASUS製のEX-GTX1050TI-4G。海外での販売が予定されている製品で、リファレンス仕様に準拠したクロックで動作するGPUに、セミファンレス機能を持つ2スロット仕様のGPUクーラーを搭載した製品で、補助電源コネクタなしでの動作を実現している。

ASUS EX-GTX1050TI-4G。GeForce GTX 1050 Tiを搭載した海外向けの製品で、国内での発売は未定
カード裏面。基板は実装工程を自動化した「AUTO-EXTREME Technology」で製造されている
画面出力端子はDisplayPort、HDMI、DVI-Dを各1系統ずつ搭載
補助電源コネクタは搭載しておらず、動作に必要な電力はPCI Expressスロットから供給される
GPUクーラーを取り外したところ。カード長は約212mm
GP107コア。ダイのサイズは実測で約11.2×12mm
VRAMには8Gbit GDDR5メモリの「SAMSUNG K4G80325FB」を4枚搭載
基板の実装部品はASUS独自の「Super Alloy Power II」に準拠したカスタムパーツを採用。実装部品の単位で、品質と耐久性を高めている

テスト機材

 今回、GeForce GTX 1050 Tiの比較対象として、AMDのエントリー向けGPUであるRadeon RX 460、上位モデルのGeForce GTX 1060 6GB、1世代前(Maxwell世代)のGeForce GTX 950とGeForce GTX 960を用意した。

 比較用のGPUを搭載したビデオカードはいずれもASUS製品で、GPUの動作クロックを独自に高めたオーバークロックモデルだ。テスト時にはASUS謹製のユーティリティツール「GPU Tweak II」を用いて、リファレンス仕様に近い動作クロックへダウンクロックしているが、GeForce GTX 950/960/1060については、リファレンスの動作クロックまで引き下げることができなかった。このため、テスト中の各GPUの動作クロックを以下の表にまとめた。

【表2】各GPUの動作クロック
ベースクロックブーストクロックVRAM
GeForce GTX 1050 Ti1,290 MHz1,392 MHz7Gbps / 4GB
Radeon RX 4601,200 MHz7Gbps / 4GB
GeForce GTX 950 OC1,061 MHz(+37MHz)1,250 MHz(+62MHz)7Gbps / 2GB
GeForce GTX 960 OC1,164 MHz(+37MHz)1,227 MHz(+49MHz)7Gbps / 2GB
GeForce GTX 1060 OC1,552 MHz(+46MHz)1,780 MHz(+72MHz)8Gbps / 6GB
Radeon RX 460 (4GB)搭載カード「ASUS STRIX-RX460-O4G-GAMING」
GeForce GTX 950 (2GB)搭載カード「ASUS STRIX-GTX950-DC2OC-2GD5-GAMING」
GeForce GTX 960 (2GB)搭載カード「ASUS STRIX-GTX960-DC2OC-2GD5」
GeForce GTX 1060 6GB搭載カード「ASUS STRIX-GTX1060-O6G-GAMING」

 ビデオカード以外のテスト機材については以下の通り。

【表3】テスト環境
GPUGeForce GTX 1050 TiGeForce GTX 950/960/1060Radeon RX 460
CPUCore i7-6700K
マザーボードASUS Z170-A
メモリDDR4-2133 8GB×2 (15-15-15-35、1.20V)
ストレージ256GB SSD (CFD CSSD-S6T256NHG6Q)
電源玄人志向 KRPW-TI700W/94+ (700W 80PLUS TITANIUM)
グラフィックスドライバGeForce Game Ready Driver 375.57GeForce Game Ready Driver 373.06Radeon Software Crimson Edition 16.10.2 Hotfix
OSWindows 10 Pro 64bit (1607)

ベンチマーク結果

 それでは、ベンチマークテストの結果を確認する。実行したテストは、3DMark(グラフ1、2、3、4、5、6)、Ashes of the Singularity(グラフ7)、アサシンクリード シンジケート(グラフ8)、The Witcher 3: Wild Hunt(グラフ9)、ダークソウルIII(グラフ10)、ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク(グラフ11)、MHFベンチマーク【大討伐】(グラフ12)、SteamVR パフォーマンステスト(グラフ13)。

 3DMarkでのGeForce GTX 1050 Tiの性能は、1世代前のミドルレンジGPUであるGeForce GTX 960とほぼ同程度となっている。GeForce GTX 960が若干オーバークロックされていることを考慮すると、リファレンスクロック同士であればGeForce GTX 1050 Tiが優勢であると推測できる。

 AMDのエントリーGPUであるRadeon RX 460に対しては、全てのテストで2~3割程度の差を付けて勝利している。一方で上位モデルのGeForce GTX 1060 6GBに対しては、負荷の重いTime SpyやFire Strikeにおいて6割弱のスコアとなっており、ミドルレンジとエントリーというレンジの違いで、かなりの性能差があることが分かる。

 なお、実施したテストのうち、4K解像度で実行するFire Strike Ultraについては、メモリ容量が2GB以下のGPU(GeForce GTX 950/960)についてメモリ容量が不足している旨の警告が表示され、実際にほかのGPUよりスコアの落ち込みが大きい。この性能低下が、単にGPU性能だけによるものではない点に注意してほしい。

【グラフ1】3DMark - Time Spy (2,560×1,440ドット)
【グラフ2】3DMark - Fire Strike (1,920×1,080ドット)
【グラフ3】3DMark - Fire Strike Extreme (2,560×1,440ドット)
【グラフ4】3DMark - Fire Strike Ultra (3,840×2,160ドット)
【グラフ5】3DMark - Sky Diver
【グラフ6】3DMark - Cloud Gate

 続いて、DirectX 12とDirectX 11でのテストを実行できるAshes of the Singularity: Benchmarkの結果だ。

 GeForce GTX 1050 Tiの性能は、描画設定Standard時にはGeForce GTX 960に次ぐ3番手で、描画設定をCrazy(最高設定)にすると全体の2番手となっている。使用するAPIの違いについては、DirectX 11時の方がDirectX 12利用時よりも高い平均フレームレートとなっている。

 なお、Ashes of the Singularity: Benchmarkはメモリ使用量の大きいベンチマークテストであり、GeForce GTX 950/960が描画設定Crazyで大きくパフォーマンスを落としているのは、メモリの不足によるものだ。

【グラフ7】 Ashes of the Singularity: Benchmark

 アサシンクリード シンジケートでは、画面解像度1,920×1,080ドットのフルHD解像度において、複数の描画設定プリセットでのフレームレートを測定した。

 GeForce GTX 1050 Tiは全体の2番手に付けるフレームレートを記録しており、AMDのRadeon RX 460には3~7割程度の差を付けた。ただし、最大フレームレートは57fps止まりとなっており、アサシンクリード シンジケートでは、フルHD解像度で60fpsを維持することはできないようだ。

 なお、メモリ使用量目安が表示されるアサシンクリード シンジケートでは、最も軽量な描画設定プリセットである「低い」を選択しても2GB以上のメモリが推奨されている。2GBのメモリしか持たないGeForce GTX 950/960の結果が振るわないのは、メモリ容量にも一因があると見て良いだろう。

【グラフ8】 アサシンクリード シンジケート

 The Witcher 3: Wild Huntでも、フルHD解像度で描画設定プリセットを変更しながら、フレームレートの測定を行なった。

 GeForce GTX 1050 TiのフレームレートはGeForce GTX 960とほぼ同等で、Radeon RX 460を2割弱程度上回った。比較製品全体の中では良好な結果だが、テストした中では軽量な「描画設定:中(後処理:中)」でも60fpsを下回り、GeForce GTX 1060 6GBの6割以下のフレームレートとなっている。

【グラフ9】 The Witcher 3: Wild Hunt

 ダークソウルIIIでは、フルHD解像度に加え、WQHD解像度(2,560×1,440ドット)でのフレームレートを測定した。

 GeForce GTX 1050 TiのパフォーマンスはGeForce GTX 960を上回り、比較製品中2番手につけるフレームレートを記録。Radeon RX 460には3~5割程度の差を付けて優位に立っている。

 ただ、このタイトルでも、今回テストした描画設定では60fpsを割り込んでいる。フルHD解像度で描画設定を引き下げれば60fps前後でのプレイは可能だが、近年のAAAクラスのゲームタイトルで、描画品質とフレームレートの両立を目指すには、力不足感が否めない。

【グラフ10】 ダークソウル3

 ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマークでは、DirectX 11の最高品質設定で、フルHD、WQHD、4K(QHD)の3解像度のベンチマークスコアを取得した。

 GeForce GTX 1050 Tiのスコアは全体の2番手に付け、フルHD解像度では最高評価基準の「7,000」を超える7,713を記録して「非常に快適」の評価を獲得した。これはRadeon RX 460を5割以上上回るスコアであり、補助電源コネクタなしのビデオカードとしては、上々の性能と言えるだろう。

【グラフ11】 ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク

 DirectX 9対応のMHFベンチマーク【大討伐】でも、フルHDから4Kまでの画面解像度でスコアを測定した。DirectX 9世代でもスコアの傾向はここまでのベンチマークテストと大差なく、1世代前のミドルレンジGPUであるGeForce GTX 960に匹敵する性能を発揮している。

【グラフ12】 MHFベンチマーク【大討伐】

 SteamVR パフォーマンステストでは、平均忠実度で2.8を記録し、評価は3段階中2番目の「VR 可能」であった。この結果はGeForce GTX 960と同等で、「VR 不可」と評価されたRadeon RX 460よりは良いものだが、VRでの性能を期待して選択する製品としては頼りない。今後登場するVRタイトルでの性能に期待するなら、1グレード上の「VR レディ」を獲得できるGeForce GTX 1060クラス以上を選びたいところだ。

【グラフ13】 SteamVR パフォーマンステスト(忠実度)

 最後に各GPUを搭載した際の消費電力を測定した結果を紹介する。

 アイドル時の消費電力は、28Wを記録したGeForce GTX 1050 Tiが最も低く、そのほかのGPUも30W前後でほぼ横並びとなっている。

 ベンチマーク実行中の消費電力では、エントリー向けGPUであるGeForce GTX 1050 TiとRadeon RX 460が100W台前半で近い数値を記録している。高負荷なベンチマークテストではGeForce GTX 1050 Tiの消費電力が低めに出ているが、これはCPUの消費電力の違いによる影響が考えられる。

 いずれにせよ、GeForce GTX 1050 TiがRadeon RX 460と同等以上の消費電力を記録している条件では、より高いスコアやフレームレートを記録しており、Radeon RX 460を凌ぐGeForce GTX 1050 Tiのワットパフォーマンスの高さが伺える。

【グラフ14】 システム全体の消費電力

省電力志向のGPUへと回帰したPascal世代の50番台GPU

 エントリー向けGPUコアであるGP107を採用したGeForce GTX 1050 Tiは、従来のミドルレンジGPUであるGeForce GTX 960に勝るとも劣らない性能を、補助電源コネクタからの給電なしで実現した省電力志向のGPUだ。

 GPUのモデルナンバー的には、前世代のGeForce GTX 950の後継となるGeForce GTX 1050 Tiだが、性能志向だったGeForce GTX 950より、2世代前のエントリー向けGPUであったGeForce GTX 750/750 Tiの流れを汲む製品と言えるだろう。

 前世代のミドルレンジGPUに匹敵する性能を持つGeForce GTX 1050 Tiだが、本格的にゲームをプレイしたいと望むユーザーにとっては、現行のミドルレンジGPUであるGeForce GTX 1060 シリーズとの大きな性能差が気になるところだろう。MoBAタイトルやMMO RPGであればこなせるが、AAAタイトルをPCならではの画質で楽しみたいというユーザーには適さない。最新鋭の画面出力機能や省電力性などに注目して選ぶべきGPUとなりそうだ。