レビュー
Mac用OSの次期バージョン「macOS Sierra」の主要機能をプレビュー
2016年7月14日 13:12
AppleのMac用OSの次期バージョン「macOS Sierra」が今年(2016年)の秋に正式リリースされる。2001年にリリースされた「OS X Cheetah v10.0」から「OS X El Capitan v10.11」まで、「OS X+コードネーム+バージョン」というルールで正式名称となっていたが、次期バージョンより「iOS」、「watchOS」、「tvOS」に並ぶ体裁で「macOS」に名称が変更された。
ちなみにv10.8まではネコ科の動物から、v10.9~10.11まではカリフォルニア州の地名からコードネームが付けられていたが、今回のバージョンのv10.12ではカリフォルニア州にそびえる山脈「Sierra Nevada」の名前の一部がコードネームとして採用されている。
前述の通り今年の秋に正式リリースが予定されているmacOS Sierraだが、既に6月14日からデベロッパープレビューが、7月8日からパブリックベータの提供が開始されている。パブリックベータはApple Beta Software ProgramにApple IDでサインインしたうえで、インストールする端末を登録すれば、一般ユーザーでもmacOS Sierraの新機能の数々をいち早く体験できる。
Apple Beta Software Programには、ここから申し込める。macOS Sierraだけでなく「iOS 10」のパブリックベータにも参加可能だ。
しかし、パブリックベータは入念な動作確認は実施されておらず、特にサードパーティー製アプリなどで相性問題による不具合が起きる可能性が高い。メインマシンにインストールするのは不安だという人が多いことだろう。そこで今回の記事では皆さんの代わりにmacOS Sierraにアップデートして、新しく搭載、または大きな変更が施された主要機能について解説していこう。
Siri~Macに最適化された音声デジタルアシスタント
6月14日の開発者向けイベント「WWDC 2016」のmacOS Sierraの紹介で最も時間が割かれたのが音声デジタルアシスタント「Siri」のデモンストレーションだ。多くのユーザーが一日千秋の思いで待ち望んでいたMacへのSiriの搭載だが、単にiOS版を移植するだけではなく、Macの生産性を向上させるための最適化が施されている。
macOS Sierra版Siriならではの機能が検索結果の引用機能。Web上から、テキスト、画像、動画などを検索し、検索結果をSiriのウィンドウからドキュメントに対してドラッグ&ドロップ、またはコピー&ペースト可能だ。動画をドラッグ&ドロップした場合には、動画タイトルがペーストされ、そのテキストにURLが埋め込まれる。
Siriの画像検索からのドラッグ&ドロップ機能は、個人的な用途の文書作成時に便利だ。ただしSiriのウィンドウでは二次利用の可否や条件を確認できない。不特定多数に公開する文書での利用は避けるべきだ。
また、Siriの検索結果はピン留めすることが可能だ。検索結果の右上の「+」マークをクリックすれば、通知センターに埋め込まれるという仕様となっている。ピン留めは、スポーツの結果、株式情報、天気情報、Wikipedia、WolframAlpha、Finderなどに対して行なえる。
さらに、macOS SierraのSiriはシステム環境設定を変更できる。例えば「ボリュームを最小に設定」、「画面の明るさを最大に設定」、「音声入力を有効に設定」、「コンピューターをスリープに」、「スクリーンセーバーを起動」と指示すると、即座にその設定が反映される。ただし「Wi-Fiを切る」の場合は、「Wi-Fiをオフにすると私はお手伝いできなくなります。よろしいですか?」と問いかけてきてくれる。Macを操作しながら、音声で設定を変更できるのは非常に快適だ。
Macのシステム情報をSiriに確認してもらうことも可能だ。例えば、「私のコンピューターはどのくらい速いですか?」、「私のコンピューターはどのくらいメモリを搭載していますか?」、「私のコンピューターのシリアル番号を教えてください」、「私のコンピューターのストレージの空き容量を教えてください」などのコマンドを利用できる。
Auto Unlock~Apple Watchを身につけていれば生体認証すら不要
Apple Watchを身につけている時に利用できるのがロック解除機能「Auto Unlock」。Apple Watchを装着していれば、MacBookの上蓋を開けるか、任意のキーをワンプッシュすれば、パスワードを入力しなくてもロックが解除される。ロックを解除するためには、Apple Watchが3m以内に存在することと、そのApple Watchがロック解除されている必要がある。つまりApple Watchを机の上に置き忘れていたとしても、ユーザーが席を離れているのであれば、Macを勝手に解除される心配はない。
Universal Clipboard~Apple端末間で自由にコピー&ペースト
OS XやiOSには「AirDrop」という写真、ビデオ、Webサイト、位置情報を共有する機能があったが、MacとiOS端末の間でテキスト、画像、写真、ビデオをより直感的にコピー&ペーストするために導入された機能が「Universal Clipboard」だ。操作方法はこれまでのコピー&ペーストと変わらず、コピーしたデータが近接するMac、iOS端末間で共有される。同じApple IDでログインしていれば、ほかにセットアップの必要はない。
Apple Pay on the Web~MacでのWeb通販が安心&手軽に
モバイル決済システム「Apple Pay」がmacOS Sierraでも利用可能になった。と言ってもmacOS Sierra単独で利用できるわけではなく、Macのブラウザ上でApple Payの支払いボタンをクリックしたあと、iPhoneの指紋認証システム「Touch ID」で支払いを認証するという仕組みだ。しかし6月14日の開発者向けイベント「WWDC 2016」で、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、中国、シンガポールに続くApple Payのサービス対象国として発表されたのは、スイス、フランス、香港。残念ながら日本へのApple Payのサービスインは今回も見送られた。
iCloud Desktop and Documents~どのアップル端末からも最新のファイルにアクセス
「OS X Yosemite v10.10」と「iOS 8」以降から「iCloud Drive」が実装され、iCloudは汎用的なオンラインストレージとして利用できるようになっている。macOS Sierraではさらに、「デスクトップ」と「書類」を同期フォルダーとして指定できるようになり、ほかのMacや、iOS、WindowsのiCloud Driveアプリ、そしてWebサイトの「iCloud.com」からすべてのファイルを閲覧、編集することが可能になった。
Optimized Storage~使っていないファイルをクラウドに待避
限られたストレージ容量を有効活用するための仕組みが「Optimized Storage」。macOS Sierraは長期間使われていない書類、写真、見終わったiTunesの映画を見つけると、自動的にクラウド上に避難させ、空き容量を確保する。待避したファイルが再び必要になった際には、ファイルにアクセスすれば自動的にクラウドからダウンロードされて、そのままファイルが開かれる。ファイルをダウンロードするぶん時間はかかるが、ファイルがストレージにあるのか、クラウド上に待避されているのかをユーザーが意識する必要はない。
「システム情報→ストレージ→詳細」の中には、すべての写真とビデオをiCloudフォトライブラリーに保存し、空き容量の少ないときにストレージ容量に合わせたサイズの写真とビデオのみを残す「iCloudに保存」、視聴済みのiTunesコンテンツや古いメールの添付ファイルを自動的に削除する「ストレージを最適化」、30日後にゴミ箱内の項目を自動的に消去する「ゴミ箱を自動的に空にする」、古い書類の内容を確認しながら削除できる「不要なファイルを削除」などの機能が用意されている。最後の「不要なファイルを削除」以外は、すぐに有効に設定してもいいだろう。
ほかにも、Safariで同じファイルをダウンロードした際に自動削除する機能や、アプリインストール後にインストーラの削除を促す機能、キャッシュ/古いログ/一時ファイル/中断したダウンロードファイル/SafariのWebサイトデータなどの自動削除機能も搭載されている。
Tabs~ブラウザ以外でもタブを利用可能に
Webブラウザでは不可欠な存在になった「タブ」を、macOS Sierraでは「Finder」、「マップ」、「テキストエディット」、「Pages」、「Numbers」、「Keynote」で利用できる。例えば「Finder」であれば右上の「+」マークからタブを増やしていけるが、「新規Finderウインドウ」で作成した複数のFinderウィンドウがあるのなら、「ウインドウ→すべてのウインドウを結合」から一気にまとめられる。
なお、ドキュメントベースのアプリであれば、プログラムを作り直さなくてもタブを利用できるとのこと。筆者の環境では「iText Express」で「ウインドウ」メニューの中に「すべてのウインドウを結合」と「タブバーを表示」の項目が表示され、正常に動作することを確認できた。
Picture in Picture~必ず最前面に表示されるビデオ用ウィンドウ
ルーチンワークを淡々とこなしているときには暇つぶしにビデオでも見たいもの。その要望を叶えてくれるのが「Picture in Picture」。映像だけがフローティングウィンドウで表示されるので最小限の面積で配置でき、ほかのウィンドウに隠れることもない。サイズは自由に変更可能だが、位置は画面の4隅に限定されている。
パブリックベータの段階で対応しているのは、iTunesのビデオコンテンツと、動画サイト「Vimeo」のみのようだ。Picture in Pictureを実現する開発者向けAPIは既に公開されているので、「YouTube」や「Hulu」、「Netflix」などの対応を強く望みたい。
Photos~高度なコンピュータービジョン技術で想い出を掘り起こす
スマートフォンで写真を撮影するようになってから加速度的に写真の枚数が増えている人が多いことだろう。macOS Sierraに搭載される「写真」アプリは、高度なコンピュータービジョン技術によって膨大な過去の写真から想い出を掘り起こすのを手助けしてくれる「メモリー」機能を搭載。写っている人、撮影地、訪れた旅行地に基づいて、スライドショーやWebに共有できるコレクションを自動で作成してくれる。
このメモリ機能に利用されている画像分析技術は、画像の中の被写体とシーンを識別している。検索ボックスに「草原」、「海岸」、「車」、「パスタ」、「動物」などのキーワードを入力すれば、目当ての画像を抽出して表示する「インテリジェント検索」機能も実装されている。
iTunes~Apple Musicで新しい音楽に出会えるようにデザイン一新
総合コンテンツプレーヤー「iTunes」では、Apple Musicの「For You」セクションからプレイリストや音楽をより容易に見つけられるようにデザインが大きく変更された。「Browse」セクションは、「新着ミュージック」、「プレイリスト」、「ランキング」、「ジャンル」に細分化されており、Apple Musicのキュレーターの助けを得て最新の音楽に出会える。
Messages~iOS 10の新しいメッセージを受信可能
「メッセージ」アプリは着実に進化している。3倍の大きさの絵文字機能、相手から届いたメッセージの上にハートやサムズアップを乗せて返信する「Tapbacks」機能、メッセージウィンドウ内で動画を再生したりリンク先をプレビューする機能も実装されている。また、iOS 10に新搭載された「The stickers(ステッカー)」、「Digital Touch(描いた絵をアニメで送信)」、「invisible ink(見えないインク)」、「handwritten messages(手書きメッセージ)」なども受信可能だ。iOS端末同士でやり取りしたほうが表現力は高いが、忙しいときに素早く返信するならmacOS Sierra版メッセージアプリでも十分事足りるだろう。
iOSとの連携にこれまで以上に注力したmacOS Sierra
今回macOS Sierraに搭載された新機能は、単体での生産性向上を目指すのではなく、iOS端末との連携性により注力したものが多い。単独のクライアントPCのOSとしては、Windows 10と同様に進化の余地がほとんどない段階に来ているのだろう。いずれにしてもmacOS SierraはOS Xから改名するにふさわしいだけの大幅な進化を遂げている。対象機種であるLate 2009年モデル以降のMacBook、iMac、2010年モデル以降のMacBook Air、MacBook Pro、Mac mini、Mac Proを現在使っているのであれば移行しない理由はない。