特集
シャープ製手書き電子ノート「WG-N10」フォトレビュー
~紙に近い書き心地とデジタル性を組み合わせた製品
(2012/12/27 00:00)
先日シャープが発表した電子ノート端末「WG-N10」の発売に先立ち、製品を試用する機会を得たので、簡単なレビューをお届けしたい。
WG-N10は、紙のノートと同じような感覚で手書きのメモを取ることができる端末で、シャープが投入する新しいカテゴリの製品となる。発売は2013年1月。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は15,000円前後となっている。
PCやタブレット、スマートフォンが普及し、いつでもどこでもデジタルでデータを残せるようになった現代でも、手書きメモの必要性はなくなっていない。そもそもスマートフォンなどを持っていないという人もいるとは思うが、主たる理由はちょっとしたメモなら手書きの方が速いからだろう。また、アイディアをまとめる際には、記号や図を盛り込んだ方が分かりやすいとか、数学の方程式を解いたりするのも手書きでないと書きにくいという理由もあるだろう。
だが、紙のメモは、量が多いと、かさばったり、後から探す時にデジタルのように検索ができないといった問題がある。そこで、手書きのメモを写真に撮影したり、ペンの軌跡をデータとして取り込んだりするといった、一種のアナログとデジタルのハイブリッドソリューションも存在している。
電子版の手帳
WG-N10も、手書きでメモを取り、それをデジタルデータとして保存するというハイブリッドタイプの製品になる。ぱっと見は電子ペーパーの電子書籍端末のようなデジタル端末。だが、その機能はメモを取ることだけと、割り切ったものになっている。
先に見た目が電子書籍端末っぽいと書いたが、液晶が6型で、111×155×9.9mm(幅×奥行き×高さ)というサイズは、A6サイズの手帳を意識してのもので、紙の手帳の置き換えを狙う本製品の意図が見て取れる。重量は約210gだ。
ちなみに、本製品は皮革調のケースが付属するが、ケースには製品本体にあるワイヤークリップで固定されている。そのため、液晶面に金属など固いものがあたらないもので、ワイヤークリップが引っかけられる形状のもの、さらに細かく言うとペンホルダーのついたものなら、市販の手帳/ブックカバーなどを代用できる。
紙の手帳と同等の使い勝手という点では、取り出して即座に使えるという特徴も挙げられる。電源を入れるには、下面にある電源スイッチを右にずらすという一手間こそかかるが、瞬時に起動する。また、ノートを開いた状態で電源を切った後に、電源を入れると、起動画面などではなくそのノートが開かれるようになっている。本製品には、ユーザーがデータを保存するという概念もなく、書いたものは即座に記録されている。そのため、書き終わってすぐ電源を切ったり、放置しておいても大丈夫だ。
書き心地
手書き電子端末の肝となる書き心地はどうだろうか。まず精度について。感圧センサーの種類を問わず、この手の端末では、液晶上の表面の保護層やセンサー膜で光が屈折して、ペン先の位置と、ドットが表示される場所がずれることがある。短時間ながら試した限り、本製品ではそういったことは皆無で、きちんとペン先と一致した描画ができる。位置合わせのキャリブレーション機能もあるので、万が一ずれがあっても修正できる。
反応性は、若干弱いかなと感じた。個人差もあると思うが、紙にボールペンで書く時の強さでは、タッチが検出されないこともある。やや意識的に強く書く必要がある。感覚としては、普通の紙にボールペンで書くよりは強めだが、複写式の伝票に書く時ほど力まなくてもいいといったところだろうか。
追随性はすばらしい。Android端末に手書きする時のような遅延はほとんどない。また、WG-N10では、ペン先にきちっと描画がついてくるので、Android端末でありがちな、読み取りリフレッシュレートが低く筆跡が中間化されて、曲げたりしても直線的になってしまうといったことがない。これによって、1cm四方未満の小さな文字でも、きちんと書き取ることができる。
また、本製品では、手のひらが触れても反応しにくいので、手をつけてしっかり書くことができる。付属スタイラスと、画面表面の間には適度な摩擦もあり、だいぶ紙に近い書き心地を実現できてると言っていいだろう。なお、筆圧は1段階のみとなる。
デジタルならではの機能
本製品の用途はメモ書きだが、デジタルならではの付加機能もある。1つ目が豊富なノートフォーム。本製品には横罫細/中/大、横罫縦線入、縦罫、方眼、無地、スケジュール、TODOの9つのノートフォームが標準搭載。メモの内容に合わせて、好きなものを選べる。また、シャープでは今後、五線譜や顧客カードなど追加のノートフォームをダウンロード提供するとしている。ちなみに、ノートフォームはメモを書いた後でも変更できる。
2つ目が、6種類のペン先。ペン先は、通常とマーカータイプを、太さは細/中/太の3種類から選ぶことができる。通常のメモ書きなら、1つのペンがあれば十分だが、マーカーがあることで、表現力が広がり、ちょっとしたイラストなども描くことができる。おもしろいのが、ペンとマーカーはそれぞれ独自の消しゴムが用意されているので、マーカーにペンで上書きした後に、ペンだけ、あるいはマーカーだけを消すことができる。
3つ目が検索機能。本製品では、OCRは行なわれないので、手書きの文字を直接検索することはできないが、作成したノートは、日付と分類タグで検索できる。タグは、全部で10種あり(分類タグなしを入れると11種)各ノートに対して1つのタグを割り当てられる。タグの標準の名前は分類A~分類Jとなっているが、手書きで自由に変更できる。
4つ目がPCと連動させたバックアップ機能。本製品で作成したメモは、ページやノート単位、あるいは全体を書き出し/バックアップできる。バックアップを行なうと、ページとノートはBMP画像ファイルとして、全体は専用のファイル形式で、本体内のストレージに保存される。本製品をUSBでPCにつなぐと、通常のマスストレージデバイスとして保存フォルダにアクセスできるので、これをPCにコピーする。注意点として、これらのバックアップファイルは、バックアップを行なう度に上書きされる。毎回その旨、警告ダイアログが出るが、バックアップを行なったら、すぐにPCにコピーするようにしたい。
ちょっとおもしろいのが、一度書き出したページを取り込むと、新規ノートのページの背景になる点。これによって、自分で画像を用意すれば、標準のノートフォームほどの使い勝手はないが、一種のオリジナルフォームを作ることができる。
試用している中で、いくつか改善を希望したい課題点もみつかったので、ここに挙げておこう。1つ目は、起動や閲覧をロックできないこと。本製品は最大で約1,000ページまで保存できる。つまり、紙のノートより遙かに多い量の情報を保存できるわけだが、スイッチを入れると誰でも中を見ることができる。オプションでいいので、落とした時などのために、暗証番号をタッチしないと中身を見られないようにするようなセキュリティ機能があると良かった。
もう1つこれは欲しいと思ったのが、取り消し(アンドゥ)機能。これがあれば、誤って意図しないものを書き込んでしまった時に、直前の状態に戻せる。ペンにはできないデジタルならではの機能として、盛り込んで欲しい。
それから、これは課題点ではなく注意点だが、書く時はペン先がカツカツと多少の音を立てる。使っている本人は気にならないだろうが、図書館などでは抑えめに使わないと、周りの迷惑になるかもしれない。
結論
まとめると、本製品は、紙に近い書き心地と、紙のノートのようにすぐ使えるといううたい文句の点では、合格点に達していると思う。余計な機能をそぎ落とすことで、多目的なスマートフォンなどより、遙かにスムーズかつ、きれいに手書きすることができる。
その上で、検索やバックアップ機能など紙にはできない機能も搭載し、バッテリも約30日間の長時間駆動(1日2時間利用の場合)を実現しているなど、紙とデジタルの良い点をうまいバランスで取り入れてると言っていい。個人的には、展示会の会場で各ブースを周りながら取材する時に、これがあると非常に便利だと感じた。
ただ、15,000円前後という実売価格には大きな疑問が残る。後5千円出せば、最新のAndroidタブレットが買えてしまうからだ。もちろん、先にも書いたとおり、手書きメモという点においてWG-N10は、Androidより圧倒的に質が高い。しかし、手書きメモの質が落ちても、後5千円でほかに多種多様なことができると考えると、そちらの道を選ぶ人も少なくないだろう。
シャープとしては、ターゲットとしてタブレットを使うようなユーザー層は考えていないのかもしれないが、価格付けで大きく損してしまっているな、というのが率直な感想だ。