AMDは6月22日、28nmプロセス世代のシングルGPU最上位モデルとなるハイエンドGPU「Radeon HD 7970 GHz Edition」を発表した。今回、AMDから借用した同GPU搭載リファレンスボードのベンチマークレポートをお届けする。
●Radeon HD 7970ベースの新ハイエンドGPURadeon HD 7970 GHz Edition(以下HD 7970 GHz Edition)は、2011年12月23日にAMD初の28nm世代GPUとして登場したRadeon HD 7970をベースに、動作クロックの向上と機能を拡張した新ハイエンドGPUだ。HD 7970 GHz EditionはHD 7970に比べ、GPUコアは925MHzから1GHz、メモリは1,375MHz(5.5GHz相当)から1,500MHz(6.0GHz相当)へと、それぞれ動作クロックが向上した。
機能面では、GPUクロックと電圧の管理機能である「AMD Power Tune Technology」に「Boost P-State」を追加した、「AMD PowerTune Technology with Boost」を新たにサポートした。この機能の追加により、HD 7970 GHz Editionの動作クロックは負荷状況に応じて1GHzから1.05GHz(1,050MHz)まで向上する。その他、動作クロックとAMD PowerTune Technology with Boost以外のスペックについては、ベースとなったHD 7970に準じている。
HD 7970の概要 | AMD PowerTune Technology with Boostの動作イメージ |
【表1】Radeon HD 7900シリーズの主な仕様
CPU | HD 7970 GHz Edition | HD 7970 | HD 7950 |
アーキテクチャ | Graphics Core Next | Graphics Core Next | Graphics Core Next |
プロセスルール | 28nm | 28nm | 28nm |
コアクロック | 1,000MHz | 925MHz | 800MHz |
コアクロック(Boost時) | 1,050MHz | ─ | ─ |
SP | 2,048基 | 2,048基 | 1,792基 |
テクスチャユニット | 128基 | 128基 | 112基 |
メモリ容量 | 3GB GDDR5 | 3GB GDDR5 | 3GB GDDR5 |
メモリクロック(データレート) | 6.0GHz | 5.5GHz | 5.0GHz |
メモリインターフェイス | 384bit | 384bit | 384bit |
ROPユニット | 32基 | 32基 | 32基 |
最大消費電力 | ─ | 250W | 200W |
Typical Board Power | ~250W | ─ | ─ |
今回AMDより借用したHD 7970 GHz Edtionのリファレンスボードは、見た目の上ではHD 7970のリファレンスボードとほぼ同じ外観をしている。ボードサイズや各種ポートの数も同数で、搭載クーラーについても見た目の上では同じものに見える。細かい変更が行なわれている可能性は否定できないが、おそらくHD 7970の仕様をそのまま流用したものと思われる。
Radeon HD 7970 GHz Edition リファレンスボード | ブラケット部には、2系統のMiniDisplayPortと、DVI、HDMIを各1系統備える | 補助電源端子は8ピン+6ピン構成 |
左がHD 7970 GHz Edition、右がHD 7970。外観に目立った差異は見受けられない | HD 7970 GHz EditionのGPU-Z実行画面 |
●テスト機材
それではベンチマーク結果の紹介に移りたい。今回、HD 7970 GHz Editionの比較対象として、HD 7970搭載のリファレンスボードのほか、競合製品となるNVIDIA製GPUから、GeForce GTX 680(以下GTX 680)、GeForce GTX 670(以下GTX 670)搭載製品を用意した。
なお、比較製品のうち、HD 7970とGTX 680については、メーカーのリファレンスボードを借用しているのだが、GTX 670についてはASUS「GTX670-DC2T-2GD5」でテストを行なっている。このビデオカードは、リファレンスデザインのGTX 670より動作クロックの高いオーバークロックモデルであるため、リファレンスクロック相当までダウンクロックしてベンチマークを実行している。また、今回GTX 680を借用する際、合わせてZOTAC製のオーバークロックモデルを借用できたので、参考までに「GTX 680 OC」として結果を併記した。
グラフィックスドライバについては、HD 7970 GHz EditionとHD 7970は「AMD Catalyst 12.7 Beta」を利用し、NVIDIA製GPUには「GeForce 304.48 Driver BETA」を使用した上で、Intel X79環境下でPCI Express 3.0動作を有効化するパッチを適用している。
【表2】テスト環境GPU | HD 7970 GHz Edition HD 7970 | GTX 680 GTX 670 GTX 680 OC |
CPU | Intel Core i7-3820 | |
マザーボード | ASUS SABERTOOTH X79 (BIOS:1203) | |
メモリ | DDR3-1333 4GB×4 (9-9-9-24、1.5V) | |
ストレージ | Western Digital WD5000AAKX | |
電源 | Silver Stone SST-ST75F-P | |
ディスプレイ解像度 | 1,920×1,080ドット | |
グラフィックスドライバ | Catalyst 12.7 Beta | GeForce 304.48 Driver BETA |
OS | Windows 7 Ultimate SP1 64bit |
GTX 680搭載のリファレンスボード | GTX 670搭載のASUS「GTX670-DC2T-2GD5」。テスト時はリファレンス相当のクロックにダウンクロックしている | GTX 680搭載のZOTAC「ZOTAC GeForceR GTX 680 AMP! Edition」。GTX 680 OCとしてスコアを掲載している |
●DirectX 11対応ベンチマークテスト
まずはDirectX 11対応ベンチマークテストの結果から紹介する。実施したテストは「3DMark 11」(グラフ1、2、3)、「Unigine Heaven Benchmark 3.0」(グラフ4、5)、「Lost Planet 2 Benchmark DX11」(グラフ6)、「Stone Giant DX11 Benchmark」(グラフ7、8)、「Alien vs. Predator DX11 Benchmark」(グラフ9、10)、「Tom Clancy's H.A.W.X 2 Benchmark」(グラフ11、12)だ。
HD 7970 GHz Editionは、ほとんどのテストでHD 7970より1割程度高いスコアを記録しており、GPUとメモリのクロック差に応じたスコアアップを果たしていることが確認できる。このスコアアップにより、Unigine Heaven Benchmark 3.0など、一部のテストで、NVIDIAのシングルGPU最上位モデルであるGTX 680とのスコア差を大きく縮めている。
ただ、テッセレーションを多用するテストでは、HD 7970より4倍高速なテッセレータを備えるというGTX 680/670に対して分が悪いという傾向は相変わらずで、Stone Giantのように極端なケースではGTX 670に1割以上のスコア差をつけられているテスト項目も存在する。そんな中、Unigine Heaven Benchmark 3.0ではアンチエイリアシング(8倍)と異方性フィルタリング(16倍)を適用した条件では、テッセレータの性能差を逆転している結果が見られる。メモリ帯域が約192.26GB/secのGTX 680に対し、6.0GHz動作のGDDR5メモリと384bitのメモリインターフェイスによる288GB/secものメモリ帯域を持つHD 7970 GHz Editionの優位性が反映された結果と思われる。
なお、H.A.W.X 2におけるGTX 600シリーズのスコアが過去の検証結果に比べて低い数値となっていることについては、PCI Express 3.0有効化パッチの影響であるかとも考えたが、パッチの有効化とドライバの入れ替えを行なって検証した結果、どうやらGeForce 304.48 Driver BETAが原因のようだ。
●DirectX 9/10対応ベンチマークテスト
続いて、DirectX 9世代とDirectX 10世代のベンチマークテストの結果を紹介する。実施したテストは「3DMark Vantage」(グラフ13、14)、Unigine Heaven Benchmark 3.0(DX10)」(グラフ15)、「3DMark06 Build 1.2.0」(グラフ16、17)、「MHFベンチマーク 【大討伐】」(グラフ18)、「ファイナルファンタジーXIV オフィシャルベンチマーク」(グラフ19)、「Unigine Heaven Benchmark 3.0(DX9)」(グラフ20)、「Lost Planet 2 Benchmark DX9」(グラフ21)だ。
DirectX 11対応ベンチマークテストではGTX 680に押され気味な印象だったHD 7970 GHz Editionだが、DirectX 9/10対応ベンチマークテストではGTX 680に対して優位に立っているスコアが目立つ結果となった。全てのテストに当てはまるわけではないが、Unigine Heaven Benchmark 3.0で見られたように、高解像度かつ負荷の高い条件になるとHD 7970 GHz Editionが優位に立つという傾向がみてとれる。
●消費電力テスト
最後に消費電力の測定結果を紹介する。消費電力はサンワサプライのワットチェッカー(TAP-TST5)を利用して、各テスト実行中の最大消費電力を測定した。なお、今回からEISTやC1EをはじめとするCPUの省電力機能を全て無効にしたことにより、過去のデータに比べアイドル時消費電力が高い傾向にある点にご留意いただきたい。
システム全体の消費電力 |
結果はご覧のとおりで、HD 7970 GHz Editionの消費電力はアイドル時を除くすべてのテストにおいて、比較製品中最も高い数値を記録した。HD 7970から9~26Wの増加となるHD 7970 GHz Editionの消費電力は、競合製品であるGTX 680より26~63W高い。向上したパフォーマンスからすれば妥当なところだが、GTX 680とワットパフォーマンスで比較すると分が悪い結果となった。
なお、GTX 670の消費電力がGTX 680とほとんど差の無い結果になっている点については、使用しているASUSがオリジナル基板採用のオーバークロックモデルであり、それをダウンクロックして利用しているためであると思われる。過去の検証結果からすれば、GTX 670の消費電力はより低い数値のはずなので、今回の検証におけるGTX 670の消費電力については、リファレンス仕様のGTX 670とは別物であるとお考えいただきたい。
●パフォーマンスではGTX 680の好敵手となりうるHD 7970 GHz Edition後発のNVIDIA GTX 600シリーズに対し、3D描画性能についてはGTX 670のライバルに甘んじていたHD 7970だが、そこから1割程度高いパフォーマンスを発揮するHD 7970 GHz Editionは、GTX 680の競合製品に相応しいパフォーマンスを実現している。パフォーマンス向上に伴い、消費電力も増加しているが、AMDのシングルGPU最上位製品となるHD 7970 GHz Editionには、ワットパフォーマンスより性能面で競合製品に対する優位性が存在する事の方が重要だろう。
既に各カードベンダーから発売されているHD 7970のオーバークロックモデルと比較しても高いスペックを誇るHD 7970 GHz Editionだが、今回のテストで使用したリファレンスボードについては、クーラーが発する騒音と電源回路のコイル鳴きが無視できないレベルであった。コイル鳴きについては個体の問題である可能性も考えられるが、HD 7970 GHz Editionのスペックを考えると、HD 7970と同じように見えるリファレンスボードの設計はやや心もとない。
新機能「AMD PowerTune Technology with Boost」を備えた新製品として投入されるHD 7970 GHz Editionだが、実質的にはHD 7970のオーバークロックモデルと言っていい製品だ。既に発売されているHD 7970のオーバークロックモデルに対し、魅力ある価格でHD 7970 GHz Edition搭載製品が発売されることを期待すると共に、冷却機構や電源回路を強化したオリジナル仕様のHD 7970 GHz Editionの登場にも期待したい。
(2012年 6月 25日)
[Reported by 三門 修太]