株式会社アスクから、ZOTAC製のIntel Z68 Express(以下Z68)搭載Mini-ITXマザーボード「Z68ITX-WiFi」、「Z68 GT430 ITX-WiFi」が発売された。価格はオープンプライスで、実売価格は前者が19,800円前後、後者が23,980円前後だ。今回、2製品ともに短期間借りることができたので、ハードウェアの写真をメインにレポートをお届けする。
ZOTACは、NVIDIA製ビデオカードなどで有名だが、ユニークなMini-ITXマザーボード製品を製造するメーカーとしても知られている。今回の2製品も、Mini-ITXという小型フォームファクタに、LGA1155向けのハイエンドチップセットであるZ68を搭載した、異色の製品だと言えよう。
Z68の特徴については改めて紹介するまでもないと思うが、改めて軽く復習しておこう。Z68は、Kシリーズの倍率ロックフリーによるオーバークロックをサポートするIntel P67 Express、内蔵ビデオ出力およびIntel Quick Sync Videoに対応したIntel H67 Expressのそれぞれの特徴を持ち合わせつつ、SSDをHDDのキャッシュとして利用することで性能を向上させられるIntel Smart Response Technology(Intel SRT)と、内蔵GPUとディスクリートGPUをソフトウェアで切り替えられるLucidLogixの「Virtu GPU Virtulization Software」を新たにサポートしたチップセットだ。
今回の2製品はともにこのZ68を搭載することで、Mini-ITXという限られたスペースのフォームファクタでありながら、Sandy Bridgeが持つ機能を最大に利用できることが特徴だと言えるだろう。
●Z68ITX-WiFiまずは比較的スタンダードなZ68ITX-WiFiを見ていこう。
パッケージはZOTAC独特のイエローをベースとしたコンパクトなもの。付属品は非常に豊富だ。マニュアル、ドライバDVD、SATAケーブルが4本、I/Oシールド、12V補助用8ピン延長ケーブル、無線LANアンテナ2本、USB 3.0×2の拡張スロットブラケットに加えて、mini DisplayPort→DisplayPort変換ケーブル、通常サイズのmini PCI Express取り付け用フレームなどが付属し、Mini-ITXマザーボードとはとても思えない付属品の数だ。
次にマザーボードに目を向けてみよう。CPUはチップセットの仕様通り、LGA1155のCore iシリーズなどをサポートする。TDPの制限は特にない。メモリはDDR3に対応したスロットを2基備えており、容量は最大16GBまでをサポートしている。
拡張スロットはPCI Express x16×1に加えて、mini PCI Express/mSATA×1を1基備える。このmini PCI Expressコネクタにはあらかじめハーフサイズの無線LANモジュールが備え付けられているが、これを取り外して、先述の付属のフレームに交換することで、通常サイズの拡張カードもサポートできるようになる。mSATA対応なので、すでに発売されている、Intel SRTに最適化したという「SSDMAESC020G201」などのSSDを取り付けて、HDDのキャッシュとして高速化を狙えるなど、なかなか面白いと言えよう。
SATAは4基備えており、このうち2基は6Gbps、2基は3Gbps対応。また、VLI製のUSB 3.0コントローラも備えており、バックパネルで2基、ピンヘッダで2基サポートしている。バックパネルインターフェイスはこのほか、USB 2.0×4、Gigabit Ethernet×2、HDMI×2、mini DisplayPort、S/PDIF出力、音声入出力などを備える。また、CMOSクリアボタンを備えていることも特徴的だ。なおGigabit EthernetコントローラとオーディオコーデックはともにRealtek製だ。
Z68ITX-WiFiのパッケージと内容物 | Z68ITX-WiFi本体 | マザーボード裏面。タンタルコンデンサなどが実装されている |
バックパネルインターフェイスは非常に豊富 | USB 3.0コントローラはVLI製 | 無線LANモジュールはAzureWave製だ |
さて、機能面でも十分に満足できる本機だが、マザーボードのシルク印刷で「SUPER OVERCLOCK」とも書かれている通り、オーバークロックに向いたハードウェア実装も特徴的だ。
まず、基板上に電源とリセットボタン、それにPOSTコード表示用の7セグメントLED、動作状況/ストレージのアクセスを示す緑色LEDなどを備えている。オーバークロックはバラック状態で行なうので、その時の操作を想定した実装と言えよう。
また、VRMはルネサス製の「DrMOS」を8フェーズ搭載。ATXマザーボードでも多フェーズのDrMOS実装は珍しい。もともと発熱の少ないZ68チップセットとDrMOSだが、それぞれに大きなヒートシンクを備えており、さらにヒートパイプも装備するなど、オーバークロック時の安定性も重視している。VRMの2次側のコンデンサも長寿命のタンタルコンデンサで、その実装は裏面までに及ぶ。
とにかく、Mini-ITXに詰められる機能と性能はできるだけ詰め込んだといった感じで、ハードウェア面では好感が持てる仕様だ。むしろこれだけ積んでいて19,800円では安く感じられるかもしれない。
ヒートシンクを取り外したところ | このサイズで8フェーズのDrMOSは圧巻だ | VRMとチップセットヒートシンクはヒートパイプで繋がれている |
電源スイッチとリセットスイッチ、7セグメントLEDも装備 | 起動中はPOSTコードを表示する | マザーボードとしては珍しい緑色のLEDも実装。かなり高輝度なエメラルドグリーンだ |
実際にCore i7-2600K(3.40GHz)を装着して、UEFI BIOSを立ち上げてオーバークロックに関する設定を覗いてみたが、Z68系としては比較的少なく、ベースクロック、CPUコア倍率とコア電圧、許容電流量、Turbo Boost時の最大パワーなど、必要最低限のものしか備えていない。ノースブリッジやPLLの電圧など、細かい設定で突き詰めることは不可能だ。メモリもクロック/タイミングが設定可能だが、こちらも必要最低限の項目があるといった感じだ。
いずれにしても、「SUPER OVERCLOCK」というシルク印刷や8フェーズのDrMOSをはじめとするハードウェア実装に見合うほど、オーバークロックに向いているとはとても言えず、ライトなオーバークロック程度なら、といった印象。付属のDVDも覗いてみたところ、ユーティリティは一切収録されておらず、ドライバのみだった。
ハードウェアは値段相応の価値があるが、ソフトウェアの完成度が低いためあまり活かされていない、というのが正直な感想。以前に紹介した8,000円前後のBIOSTARのLlano対応マザー「TA75」シリーズはBIOSの完成度もそこそこなうえ、ユーティリティが豊富だったので、それとは対照的と言えよう。今後の改善を望みたいところだ。
UEFI BIOSの画面。基本的にBIOSを高解像度化しただけの印象だ | CPUに関する設定。オーバークロック向けとしては必要最小限の項目しか用意されていない | CPU内蔵のGPUに関してもオーバークロック可能 |
メモリのタイミングに関する設定 | メモリの電圧設定 |
PCHの電圧設定 | 温度に基づいたファンコントロールも可能 |
●Z68 GT430 ITX-WiFi
次にZ68 GT430 ITX-WiFiを見ていこう。
パッケージはZ68ITX-WiFiとほぼ同じデザインを踏襲。付属品は同様に豊富で。マニュアル、ドライバDVD、SATAケーブルが4本、I/Oシールド、12V補助用4ピン延長ケーブル、無線LANアンテナ2本、USB 3.0×2の拡張スロットブラケット、DVI→ミニD-Sub15ピン変換コネクタが付属する。
本製品の最大の特徴はなんといってもGeForce GT 430をオンボードで搭載していることだろう。これにより、CPU内蔵のIntel HD Graphicsとの性能比較云々はともかくとして、バックパネルI/OにDVI-I×2、HDMI、DisplayPortと、4基のディスプレイインターフェイスを備えているので、4画面の同時出力が可能だ。追加投資なしでこれだけのグラフィックス環境が手に入るわけなので、よほどグラフィックス性能も極めたいというニーズでもなければ、Z68ITX-WiFiと比較してお買い得感は高いと言えるだろう。
ただし、元々実装スペースが限られているMini-ITXフォームファクタに、GeForce GT 430を搭載したということもあって、そのほかの実装はZ68ITX-WiFiと比較して簡略化されている。
まず、メモリスロットは通常のDIMMではなくノートPCと同じSO-DIMMになっているので、一般的な自作PCからメモリを流用するといったことは難しくなる。さらに、PCI Expressスロットも4レーンに限られる(ただしエッジフリーではあるため、ビデオカードは装着できると思われる)。また、VRM部はZ68ITX-WiFiと同じDrMOSではあるが、8フェーズから6フェーズへ減らされている。
基板レイアウトもやや窮屈になり、ビデオメモリやコイルなど、一部部品は裏面に実装されている。ただし、こちらは底面にMini PCI Expressカードスロットを1基備えており、無線LANモジュールを外すことなく対応拡張カードを装着できるようになっている(ただしmSATAへの対応は特に謳われていない)。
SATAやUSB 3.0ポートの構成はZ68ITX-WiFiに準じるが、バックパネルインターフェイスでディスプレイ周りの実装が充実した分、USB 2.0は2基、Gigabit Ethernetは1基となった。CMOSリセットスイッチは健在。また、eSATAを1基装備するのは特徴的だと言えるだろう。
Z68 GT430 ITX-WiFiの本体 | バックパネルインターフェイスはディスプレイ関連が充実している | 裏面。多くの部品が実装されている |
ビデオメモリも裏面に実装されている | 実装スペースの関係上、メモリはSO-DIMMとなっている |
PCI Expressスロットはx4レーンで、エッジフリー仕様だ | VRMは6フェーズに減らされている。USB 3.0はVLI製 | 無線LANモジュールはヒートシンクの横に立てられており、排気が気になるところだ |
●コンパクトでパワフルなマシンを自作したい人向け
さて、ハードウェアを中心にZOTACのMini-ITX対応Z68マザーボード2モデル見てきたが、いずれも製品コンセプトの通り、コンパクトでパワフル、なおかつ多機能なPCを自作したいという人向けの製品だと言えるだろう。
このうちZ68ITX-WiFiは、美しいハードウェア実装が魅力的。バラック状態でも使えるので、Lian Liの「PC-T1」やAntecの「Mini Skeleton-90」などと組み合わせて“遊べるハイエンドMini-ITX”として面白い。一方Z68 GT430 ITX-WiFiはマルチディスプレイ環境などに向いた、実用的な製品として仕上がっている。
(2011年 7月 25日)
[Reported by 劉 尭]