Android用読書ビューワ「i文庫 for Android」試用レポート
~青空文庫のほかPDF/ZIP圧縮JPEGビューワとしても利用可能



「i文庫 for Android」。開発元は渚技研(NagisaWorks)、提供元はACCESS。これはJコミで配布されている赤松健氏「ラブひな」をホーム画面に並べた状態

 iPhoneやiPadの読書ビューアアプリとして有名な「i文庫」のAndroid対応版、その名も「i文庫 for Android」が18日にACCESSからリリースされた。対応OSはAndroid OS 2.1以上、解像度は480×800ドット以上とされ、公開されている動作確認機種の中には、 Galaxy SやGalaxy Tab、IS03やXperiaなど人気のAndroid端末が名を連ねている。

 今回は、筆者所有のサムスン製Android端末「GALAXY Tab」との組み合わせで、リリースされたばかりの本アプリの最初のバージョン(1.00)のファーストインプレッションをお届けする。


●「i文庫HD」をベースにした機能および使い勝手

 これまでi文庫といえば、iPhone用の「i文庫」と、iPad用の「i文庫HD」の2つの製品があったが、i文庫というアプリ名が世間に広く知られるきっかけになったのは、後者の「i文庫HD」だろう。青空文庫が読めることに加え、手持ちのPDFおよびZIP圧縮済JPEGデータの閲覧に対応していることから、読書好きのユーザーはもちろん自炊派の間でも根強い人気を誇っている。iPadとほぼ同時期に発表されたタイムリーさもあって、App Storeの有料アプリの人気ランキングでは発表から数カ月経った現在でもいまだにベスト10圏内の常連だ。

iPad用の「i文庫HD」。2010年度グッドデザイン賞を受賞するなど、洗練されたデザインと操作性には定評がある左からiPhone 3GS、GALAXY Tab、iPadの各機種でi文庫アプリを表示した状態

 さて、今回リリースされた「i文庫 for Android」は、iPad版である「i文庫HD」の機能をベースにしている。つまるところ、本棚ライクなホーム画面を基点に、青空文庫のビューアとしての機能と、PDFおよびZIP圧縮JPEGのファイルが読めるという機能を兼ね備えたアプリに仕上がっている。

 基本的なインターフェイスとしては、ホーム画面に相当する「本棚」のほか、青空文庫のライブラリを表示する「青空文庫」画面、フォルダ内のデータを表示する「フォルダ」画面、さらに「設定」画面の計4つに分かれる。まんま「i文庫HD」だ。本棚ライクなホーム画面は、一覧性に優れるのはもちろんのこと、ユーザーの所有欲をも満たしてくれるデザインである。

ホーム画面。コンテンツが3列×4段で表示される。数が多い場合は上下方向にスクロールすることで残りのコンテンツを表示できるホーム画面はリスト表示に切り替えることもできるホーム画面左上のアイコンをタップするとほかの本棚に切り替えることができる。ジャンル別に本棚を分けたい場合は追加も可能
青空文庫が著者名で一覧表示されている。タップすると詳細が表示され、ダウンロードや本棚への登録といった操作を選択できるSDカード内のコンテンツや、Dropboxから取り込んだデータを表示できる。ちなみにi文庫やi文庫HDにあったFTP転送機能は用意されていないようだ

 操作性についても、ざっと使った限りではi文庫HDのそれをほぼ踏襲している。タップやスワイプによるページめくり、ダブルタップおよびピンチイン・アウトによる拡大/縮小はもちろんのこと、ページめくり時のエフェクト、さらには本体を90度回転させた際に見開きになる点も同じだ。動きについてもiPad並みになめらかだが、これはハードウェアのスペックに依存する可能性もあるので、ひとまず「GALAXY TabであればiPadと同じくらいヌルヌル動く」とだけコメントしておく。実際に動作している様子については、動画でご確認いただきたい。

【動画】i文庫を起動して青空文庫を表示してページをスワイプおよびタップでめくり、縦横を切り替えて表示したのち、本体を90度回転させて見開き表示になる様子。ワイド画面のデバイスで見開き表示というのは比率的にややアンバランスな感があるが、これはあくまで端末側の問題

●i文庫HDの操作性をそのまま移植した青空文庫ビューア

 i文庫シリーズでは、青空文庫の著名作品があらかじめショートカットとして本棚に並べられており、クリックするだけでダウンロードして開けるようになっている。また残りの作品についても著者別や履歴といったインデックスを辿ることによって簡単に本棚に追加し、ダウンロードして読むことができる。

青空文庫151作品が本棚に並べられており、クリックするとダウンロードして読むことができる

 今回の「i文庫 for Android」でもこれら従来と同じ仕組みが踏襲されており、「おすすめ1」~「おすすめ4」の計4つの本棚に、計151の青空文庫作品が収納されている。この数は「i文庫」のそれとまったく同数だ。「i文庫HD」の収納数である230冊よりも少ないのは、ざっと見た限りでは「あなうさピーターのはなし」など絵本系のコンテンツが省かれているためだと思われる。ちなみに開発元のACCESSでは、トータルで約10,000冊を超える青空文庫が利用できるとしている。

 作品を本棚から選択するとダウンロードが開始され、完了すると起動して1ページモードで表示される。画面サイズが7型のGALAXY Tabで表示した場合、文庫本のほぼ原寸大のサイズなので読みやすい。3.5~4型のスマートフォンなどで表示する場合は、文字サイズの変更などを行なって読みやすくするとよいだろう。

青空文庫を表示したところ。ページめくりのエフェクトも用意されている。必要なければオフにすることも可能だ画面中央上部を1回タップすると下部に進捗バーが表示され、任意のページに移動しやすくなる。また画面右上からは設定の変更や、輝度の調整、しおりの追加などが行なえる。ちなみにAndroid端末本体のメニューボタンを押してもやはり設定画面が表示されるなど、やや冗長な作り
90度回転させると見開き表示になる。ワイド画面だとこのようにやや間延びするが、4:3比率のタブレットなどであれば違和感なく表示できるだろうフォントは、i文庫HDでは明朝とゴシックそれぞれに細字と太字が用意されていたが、今回はリュウミンRのみ

 このほか、i文庫HDなどと同様に、綴じ方向の切り替えや操作方法の調整、マージン設定、背景画像の変更といったカスタマイズが行なえる。こうした好みに合わせた細かいカスタマイズが可能なのは、i文庫ならではだ。

右綴じと左綴じの切り替えに対応。青空文庫で左綴じにした場合は、本文が自動的に横書きに切り替わるページめくりの操作も細かい調整が可能。アニメーションが不要な場合はオフにしておくとよいだろうページめくり時に下部に表示される、既読の割合を示す▲マーク(ページナビゲータ)が省かれている。もっとも画面をタップすれば現在位置が進捗バーで確認できるので、大きな問題にはならないだろう
行間の調整やルビサイズの変更など、細かいカスタマイズ項目はi文庫ならでは背景画像は複数のパターンから選択できるGoogleやWikipedia、Yahoo!辞書などと連携して語句の意味を調べることも可能

 青空文庫を読めるAndroidアプリは「青空読手」や「縦書きビューワ」などいくつかあるが、画面の見た目、および操作性のカスタマイズやコンテンツの追加のしやすさについては、実際に使ってみるとi文庫に分があると感じる。もっとも本アプリは有料ということもあり、使い勝手にどこまでこだわるかによっても、評価は変わってくるだろう。

●PDFとZIP圧縮JPEGの両方が表示でき、右綴じも対応。画質はいま一歩

 競合アプリがそこそこある青空文庫ビューア機能と異なり、他のアプリをごぼう抜きして一気に本命となりそうなのが、PDFおよびZIP圧縮JPEGデータのビューア機能だ。本の自炊データをたくさん保有しているユーザーにとっては、むしろこちらの機能が大本命といえるに違いない。

 いまAndroidでPDFおよびZIP圧縮JPEGを見られるビューアには、PDFビューワとしては本家の「Adobe Reader」や有料アプリの「ezPDFReader」、ZIP圧縮JPEGのビューワでは「Perfect Viewer」「jjcomics Viewer」などが存在しているが、どのアプリも操作性は若干のクセがあったり、綴じ方向の切り替えに対応していないといった問題点がある。また、少なくともここに挙げたアプリについては、PDFとZIP圧縮JPEGの両方を見ることはできず、それぞれの形式のデータを読むためにビューアそのものを切り替えてやる必要があった

 今回の「i文庫 for Android」は、PDFおよびZIP圧縮JPEGの両方に対応しており、また右綴じにもきちんと対応している。また本体を回転させた際の見開き表示にも対応するので、タブレットサイズの端末であれば、漫画などをほぼ原寸で見開き表示することも可能だ。ページめくりのエフェクトなども美しく、また不要であればオフにして切り替えをすばやく見せることもできる。

Jコミで配布されている赤松健氏「ラブひな」第1巻を表示したところ。GALAXY Tabであれば単行本とほぼ変わらないサイズなので、台詞などの視認性も高い画面を1回タップするとステータスバーなどが表示できる本体を回転させた際の見開き表示にも対応する。スマートフォンではサイズ的に厳しいがタブレットサイズの端末であれば(iPadと同じく)原寸での単行本の見開き表示が可能だ
【動画】アプリを起動、本棚から「ラブひな」第1巻を選んでスワイプとタップでページをめくり、ダブルタップによる拡大縮小を試したのち、進捗バーを表示してページを移動、その後表紙に戻って見開き表示に切り替える様子。なお、見開き表示が1ページずれた際に調整する方法が分からなかったため、今回は本来見開きであるページがずれた状態で表示されている
上が本アプリ、下が「ezPDFReader」で表示した状態。モアレの具合や細部のジャギーは明らかに「ezPDFReader」のほうがクオリティが高い。縮小画像だと分かりづらいと思われるので、リンク先の拡大画像を見て確認してほしい

 ところで、実際に使ってみてやや気になったのは、画像に若干のジャギーがあることだ。もともとi文庫HDは画質がとびきり美しいわけではなく、他のビューアと比較すると若干のギザギザ感がみられるのだが、本アプリでもこの傾向は変わっていない。例えば前述の「Perfect Viewer」であれば、画像平滑化方法として最近傍法/平均画素法/平均画素法v2/バイリニア補間/バイキュービック補間/Lanczos3という6つの選択肢から選べるようになっており、縮小画像のジャギーが気になる場合はこれらを切り替えて最適化ができる。また「i文庫HD」でも設定画面内に「画像補間処理」というメニューがあり、default、none、low、highの4段階で調整が可能だった。

 しかし本アプリではこれがないため、基本的にジャギーが発生していても手の打ちようがない。内部の処理速度などにも影響してくると思われるので難しいのかもしれないが、文章中心のデータならいざ知らず、スクリーントーンによる表現が多い漫画では、これを切り替えることでモアレの低減につながることも多いため、実装を希望したいところだ。


「パブー」で販売されている、うめ氏の「東京トイボックス」第1巻を表示したところ。縦横比が正しく表示できていない

 もう1つ、しばらく使っていて若干気になったのは、ページを高速でめくっていった場合に「読み込み中」の表示が出たり、場合によってはハングアップするケースがあること。通常の読書時は1ページずつ時間を開けてめくっていくので実用上の問題はないと思われるが、iPadではこうした動きにも対応していただけにやや気にはなる。また、これまで製品レビューで表示サンプルとして使用してきた、うめ氏の「東京トイボックス」第1巻を表示したところ、横の倍率が正しく表示されなかった。「パブー」で販売されているほかのPDFをいくつか試した限りでは問題なく、やや気になるところではある。

 ともあれ、漫画などの日本語コンテンツを正しく右開きで、またPDFおよびZIP圧縮JPEGの両形式をオールインワンで見られるメリットは大きい。現時点ではページ内のリンクが機能しないため、PDF内のジャンプやJコミの広告リンクには対応しないが、将来的にリンクが使えるようになることが開発元のサイトで表明されているので、こちらも期待できる。

 なお、データの取り込み方法については、今回利用したGALAXY TabのようにmicroSDが使える機種であれば、大量のデータを読み込ませるのも容易だ。このほか、Dropbox経由で取り込んだデータについては、「sdcard/dropbox」フォルダ内に保存されているので、こちらから参照することもできる。

●定番として購入して損はないアプリ

 今筆者にとってのメインの読書端末は、これまでのiPadから、今回本アプリをインストールしたGALAXY Tabへと徐々に移りつつある。ただしその理由は「サイズが手頃だから」という理由が主であり、読書ビューワアプリの出来がよかったためでは決してなかった。いつiPadに戻ってもおかしくない状況だったと言える。

 ところが今回試用した「i文庫 for Android」は、iPad版である「i文庫HD」の操作性をほぼ完全に移植することに成功しており、これまでのAndroid向け読書ビューワアプリにあった問題点をほぼ完全に解消してしまっている。ページの連続めくりでハングアップしたり、一部のPDFの縦横比率が誤って表示されるなどバグとみられる挙動はなくはないが、初回のリリースでここまでの完成度に仕上がっていることは秀逸だと感じる。このまま完全にGALAXY Tabに乗り換えてしまってもよいと思える出来だ。

 ただ、iPhone/iPad版の操作性を完全に移植しようとしたあまり、Androidならではの操作方法に準拠していない部分もある。例えば戻るボタンを押して前の画面に戻ったつもりがアプリそのものが終了してしまったり、メニューボタンと同じ機能を持つボタンが画面内にもう1つあるといった具合だ。つまりAndroidならではのボタンをうまく操作体系の中に取り込めていないのだ。従って、iPhoneで本アプリに慣れているユーザーにとっては同一の操作性で使いやすいと感じるだろうが、Androidの操作性にガチガチに慣れてしまっているユーザーにとっては、やや不親切に感じるかもしれない。

 もっとも、このあたりは考え方次第であり、まずはiPhoneの操作性を移植することを念頭に置いたと考えれば納得がいくし、iPhoneからAndroidに移行したか、または併用しているユーザーからすると、現行のインターフェイスは使い勝手がよいと感じるだろう。筆者のようにメインはGALAXY Tabながら従来のiPadも併用するというユーザーにとっては非常に使いやすいアプリである。こうした互換性を取るかAndroidらしさを取るか、将来的に選択を迫られることがあるのかもしれない。

 アプリの価格は通常価格が7.99ドル、キャンペーン価格が5.99ドルとのことで、実質500円程度。無料が多い読書アプリの中に混じると若干高額な印象はあるが、それだけの価値はじゅうぶんにある。将来的にはEPUBに対応することも表明されており、定番として購入して損はないアプリだといえそうだ。

(2011年 1月 21日)

[Reported by 山口 真弘]