iPad向け読書ビューアのインターフェイスを比較する(前編)


●続々登場するiPad向け読書ビューア

 さまざまな用途に利用できるアップルのタブレット端末「iPad」において、発売当初からとくに注目を集めている使い道といえば、電子書籍の読書端末としての用途だろう。全画面表示であればほぼB5サイズ、横にして見開き表示にすれば単行本サイズの面積が確保できるとあって、ほとんどの本で原寸大に近い表示サイズが維持できる。App StoreのBookカテゴリにアクセスすると、単体のビューアのほか、電子書籍の販売ストアと一体化したビューア、さらにはビューアと電子書籍タイトルが合体したものまで、さまざまなアプリがラインナップされている。

iPad

 しかし、これら電子書籍ビューアの操作方法は千差万別だ。例えば画面の端をタップした際に、ページが次に送られる場合もあれば、逆に1ページ戻る場合もあるなど、本のナビゲーションでもっとも重要と思われるインターフェイスですら挙動は統一されていない。紙の本とは異なる電子書籍ならではのメリットを云々する以前に、肝心の読書に没頭しづらい場合も少なくないのが現状だ。

 そこで今回は、現在App Storeで販売されている主な読書ビューアについて、インターフェイス周りを中心に、前後編に分けて比較を行なってみたい。対象となるのは単体のビューアと、販売ストアと一体化したビューアの2種類で、日本語表示が可能なことを条件に代表的なものをリストアップした。書籍とビューアが一体化したアプリについては数が多いこともあって今回は対象外とした。

 なお、各ビューアで動作する電子書籍タイトルすべてについて挙動を試すのは物理的に不可能であるため、別のタイトルでは挙動が異なる可能性があることを、予めご容赦いただきたい。今回のレビューで試用した具体的な電子書籍タイトルについては、各ビューアおよびアプリの説明中に記した。

●iPad向け読書ビューアに求められる機能を整理する

 比較を行なうにあたり、iPad向けの読書ビューアに求められる機能を、3つに分けて考えることにする。具体的には以下の(A)(B)(C)の3つである。

(A)読書インターフェイス(利用頻度高)
(B)読書補助インターフェイス(利用頻度中)
(C)その他読書に必要となるインターフェイス(利用頻度低)

 まず(A)についてだが、「ページをめくる」という、純粋に読書のための行為を指す。物理的な操作ボタンのないiPadにおいては、画面の端をタップ、もしくはスワイプすることによってページがめくられるわけだが、たったこれだけの操作でありながらビューアごとに挙動が異なるのは、冒頭に述べた通りである。

 ページめくりが左右どちらの手でも行なえることも重要だ。iPadはハードウェア自体にそこそこの重量があり、片手であれ両手であれ長時間ホールドし続けるのは厳しい。それが故、疲れたら反対の手に持ち替えて操作を続ける場合も少なくないと考えられる。従って、めくる/戻るいずれの操作も、左右両方の手で行なえることが望ましい。余談だが、ハードウェアが289gと軽量なKindle2において、めくるボタンが両側にあるのに対し、利用頻度の低い戻るボタンが左側にしかついていないことは、こうした事情と併せて考えると興味深い。

 もう1つ「現在のページ位置を確認できる」ことも、基本的な要件として(A)に加えたい。紙の本を読む際は、本の厚みに対して半分以上を読んだとか、いまが150ページだから残りは約50ページといった具合に、残りのページ数を意識しながら読みすすめる場合が多いからだ。読書中に無意識に行なっているという意味でも、後述の(B)とはやや性質が異なるため、(A)の要件に加えるのが望ましいと考えられる。

 (B)については「しおりを挟む」、「任意のページに直接移動する」など、読書の合間に行なう行為を指す。ページをめくって本を読み進めるという純粋な読書行為とは違うが、本を開いた状態のまま実行する行為、と定義すればよいだろう。電子書籍ならではの「ページの明るさや輝度を変更する」、「文字サイズを変更する」、「メモを書き込む」、「単語を検索する」といった機能もこれに含めたい。

 これらの機能で意識しておかなくてはならないのは、常に表示されていると、かえって読書体験が阻害されかねないこと。せっかくの豊富な補助機能が、読書に集中できない要因になっては本末転倒である。よって、通常は表示オフ、思い立ったらシンプルな操作で呼び出せることが必須条件となる。

 (C)についてだが、具体的には「読んでいる本を閉じて別の本に交換する」という行為を指す。紙の本であれば書庫に足を運んで手持ちの本を書庫に戻し、新たな本を取り出すというアクションだ。前述の(B)と異なるのは、本を完全に閉じた状態で行なう点にある。

 このほか、「縦書き横書きを切り替える」「ルビを表示する」といった日本語特有の機能、さらに「音声で読み上げる」、「外部辞書と連携して語句の検索を行なう」といった付加機能も考えられるが、話が複雑になるので今回は言及しない。複数デバイスで共有する際の台数制限や課金体系といった点も含めて、機会があればまた改めて取り上げたい。

●単体ビューア4製品を比較する

 では具体的にビューアについてみていこう。前編となる今回は、単体のビューア4製品をチェックする。なお、ページめくりの操作を表す用語についてはiBooksを基準に「タップ」と「スワイプ」に統一している。

■iBooks

URL:http://itunes.apple.com/jp/app/ibooks/id364709193?mt=8
提供元:Apple
価格:無料
試用時のバージョン:1.1

 ご存知Apple純正の読書ビューア。価格は無料。本棚を模したライブラリ画面、ワンタッチで販売ストア「iBookstore」に移行できるインターフェイスが特徴。「iBookstore」に日本語タイトルがないことから日本国内ではやや影が薄かったが、先日のバージョンアップ(1.1)によりPDF表示に対応し、国内でも脚光を浴びるようになった。

 iBookstore経由で購入した電子書籍タイトルについては、本を模したページめくりや見開き表示を再現しているが、ユーザーが独自に取り込んだPDFはiPad本体を横向きにしても見開き表示にならず単ページ表示のままであるなど、挙動がかなり異なる。また、メニューなどは日本語化されているものの、綴じ方向が左綴じで固定されているため、マンガなど右綴じのタイトルとの相性は極めて悪いなど、日本語特有の環境に完全対応しているとは言い難い。

 ページめくりはタップとスワイプに両対応しており、画面中央をタップすることによって画面下部にサムネイルとページ数が表示されるなど、操作性は良好。しおり機能、輝度調整、検索機能も用意されている。(A)(C)については合格点、(B)については日本ならではの操作体系への対応が急務といったところだろうか。アプリ自体は無料であり、純正ならではの作りの丁寧さは他のビューアの一歩先を行くだけに、右綴じのサポート、PDFの見開き表示などへの対応とともに、iBookstoreへの日本語タイトルの投入が待たれる。

本棚を模したライブラリ画面。PDFについては、サムネイルの左端にバインダーを模したパーツが自動的に表示される ワンタッチでiBookstoreに移動し、電子書籍タイトルが購入できる。ただし現時点で日本語タイトルはない。今回はプリインストールされているA.A.Milneの「Winnie the Pooh」(英語版)を表示している
iBookstoreで購入した電子書籍タイトル(左)はページめくりなどの視覚効果が用意されているが、ユーザーが独自に取り込んだPDF(右)はこれら視覚効果がなく、ややそっけない印象
iBookstoreで購入した電子書籍タイトル(左)は見開き表示が可能だが、ユーザーが独自に取り込んだPDF(右)は単ページ表示のみとなる。またいずれの場合も左綴じで固定されている
iBookstoreで購入した電子書籍タイトルは、輝度調整、フォント変更、サイズ変更、セピアカラーのオンオフ、検索、しおり挿入が可能 ユーザーが独自に取り込んだPDFは、輝度調整、検索、しおり挿入が可能

■i文庫HD

URL:http://itunes.apple.com/jp/app/id369111608?mt=8
提供元:nagisa
価格:900円
試用時のバージョン:1.03

 iPad専用の読書ビューア。有料(通常価格900円)。iPadの国内発売前から有料アプリのランキング1位を獲得する人気アプリで、青空文庫など約230タイトルが予め用意されているほか、ユーザー手持ちのPDFファイルの閲覧が行なえる。データの転送にはFTP利用やiTunes経由など複数の方法が用意されており、自由度は極めて高い。

 インターフェイスの完成度は高く、他のビューアのお手本と言っても過言ではない。ページめくりはタップとスワイプの両対応で、タップに反応する面積を調節したり、タップ時の移動の向きを変更することもできる。画面に触れている状態では下部に現在のページ位置が▲印で表示されるため、全体に対してどの程度読み進めたかも分かりやすい。(A)は文句なしに満点だろう。

 画面中央部をタッチすると表示されるメニューでは、輝度調整、フォントのサイズや種類の変更、縦書き横書きの切替、背景色調整など実に多彩なカスタマイズが行なえる。左右綴じの切替も可能であるほか、見開きが1ページずれた時も設定画面から修正が可能であるなど、カユいところに手が届く設計は秀逸。ライブラリに表示する電子書籍タイトルのサムネイルをファイル名から自動生成する機能もあり、(B)(C)ともに満点に近い出来だと言える。

 残念なのは、他のビューアに比べると、写真などでモアレが発生する確率が高いこと。また、200MBを超えるような巨大なPDFを読み込ませた際に強制終了する場合もあり、安定性の面では後述のCloudReadersに一歩劣る。また、カスタマイズメニューがあまりに多彩であるがゆえ、どこから設定できるのか分からなくなることも稀にある。機能の豊富さの裏返しと言えそうだ。

本棚を模したライブラリ画面はiBooksと酷似しているが、複数のライブラリ画面を切り替えて利用できるのが大きなメリット。これは内蔵のタイトルを表示しているところ 青空文庫を中心としたおよそ230タイトルが用意されており、ダウンロードして読むことができる。探しやすさは秀逸 青空文庫を表示したところ。これは太宰治の「グッド・バイ」。ページめくり時の視覚効果も備える。また右下にわずかに見えている▲印は、全体に対する現在のページ位置を表している
横向きにすると見開き表示に対応する。左綴じと右綴じの切替にも対応する。画像はプリインストールされているポター・ビアトリクスの「あなうさピーターのはなし」 カスタマイズ項目は豊富で、およそ考えられる項目すべてが調整できるといっても過言ではない。なお、画面の左右に表示されている紫の部分は、タップに反応するエリアを表す 青空文庫においては、フォントサイズや書体、背景色、縦書き横書きの変更が可能
FTPサーバ機能を備え、PC内にある電子書籍タイトルをWi-Fi経由で高速に転送できる 本文中の単語を外部辞書で検索する機能も備える。Kindleにもある検索機能をうまくアレンジして取り入れている格好だ

■CloudReaders

URL:http://itunes.apple.com/jp/app/cloudreaders-pdf-cbz-cbr/id363484920?mt=8
提供元:Cloud Readers
価格:無料
試用時のバージョン:1.12

 iPad専用の読書ビューア。無料。PDFのほかZIP圧縮したJPEGファイルなどの閲覧に対応しており、先日iPad向けに販売された週刊ダイヤモンドなどは、このCloudReadersの利用を推奨していた。大きなファイルを読み込んだ際の安定性と高速表示が売りで、i文庫HDで表示しようとするとエラーで強制終了しがちなPDFが、こちらではきちんと表示される場合もある。購入時点で利用できるタイトルは操作マニュアルほか数冊と少なめ。

 縦方向での画面表示では、タップ、スワイプによるページめくりに対応する。ただしカスタマイズ性は高くなく、例えばタップ時の移動方向は切り替えができない。そのため、デフォルトと逆方向で使っている筆者にとってはやや使いづらく感じる。またiPad本体を横向きにすると見開き表示に切り替わるが、スワイプ操作では見開き単位でめくることができず、1ページずつスクロールしていく格好になるほか、ページ半分の位置で止まることもある。つねにページ単位で切り替わるiBookやi文庫HDとは使い勝手がかなり異なる印象だ。

 輝度調整、綴じ方向の変更は、画面右上のメニューバーから行なえる。残りページの表示は通常はオフになっており、画面中央をタップするとメニューバーとともに下段に表示される。カスタマイズ可能な項目の多いi文庫HDと比べると不自由さを感じるが、機能そのものは一通り揃っている。

 サムネイルが並ぶ本棚や本そっくりのページめくり効果で初見の人を「オッ」と言わせられるiBooksやi文庫HDに比べると、これらがない分見た目は地味だが、大きなファイルを読み込んだ際の安定性などは秀逸だ。タグをつけて管理できる点なども、ほかのビューアにはない特徴。ただ個人的には、横向き時に見開き単位でめくれないのはかなりの減点。(A)(B)(C)ともに多少気になるところが残る、といったところだろうか。

 あと、今回試した限りでは、Acrobat上で向きを回転させたページが、もとの状態のまま表示されるケースがあった。ドキュメントスキャナでページを横倒しの状態で取り込んだのち、Acrobat上で回転を行っているユーザーは注意したほうがよさそうだ。

起動時に表示される「My Bookshelf」の画面。iBooksやi文庫HDと異なり、サムネイルが並ぶ本棚のようななメニューは用意されていない。なお、各タイトルの右側に表示されている青とグレーのバーは、ページをどこまで読んだかの割合を表している 「My Bookshelf」の左下のアイコンをタップすると表示される「クラウド本棚」。フリーのタイトルがクラウド上に置かれており、My Bookshelfにダウンロードして読む仕組み フリーで用意されている「走れメロス」を表示したところ。画面は2段組になっているが、これはもともとのPDFが2段組みに整形されているためで、段組を自由に変えられるわけではない。綴じ方向は切替が可能
画面中央をタップすると、輝度調整のスライダ、綴じ方向変更ボタンのほか、ページ下部には進捗バーが表示される 横向きにすると見開き表示が可能だが、見開きの2ページ単位でめくるという概念がなく、スワイプ時に半ページめくった状態で止まることもしばしば。また背景が黒であることから、ページ間や上下に黒いマージンが入って「黒い紙の上にページが乗っている」ような見た目になり、読書に没頭しづらい

■Bookman

URL:http://itunes.apple.com/jp/app/bookman-fast-pdf-comic-reader/id369540110?mt=8
提供元:Takashi Kato
価格:無料
試用時のバージョン:1.3

 「Fast PDF/Comic Reader」という副題がついたiPad用の読書ビューア。無料。PDFのほかZIP圧縮したJPEGファイルなどの閲覧に対応している。

 縦向きでは単ページ表示、横向きでは見開き表示をサポート。画面の領域は上段、中段、下段に区切られており、上段をタップすると「閉じる」、中段は「サムネイル表示」、下段は「ページめくり」に割り当てられている。ページめくりはタップとスワイプの両対応だが、スワイプは指をスライドさせる距離に応じて複数ページを一気にめくれるという独特の仕組み。やや慣れが必要ではあるものの、複数のページを一気にめくるインターフェイスは利便性も高く、慣れてしまえば非常に快適に使える。

 しおり機能や検索機能などはなく、またページめくりの視覚効果などもないため、i文庫HDやCloudReaders、iBooksに比べると良く言えばシンプル、悪く言えば地味な印象。もっともその分動作はきびきびとしており、また先のバージョンアップで左綴じ右綴じの切替にも対応したため、マンガなど右綴じのタイトルについても快適に表示できるようになった。フォルダによる分類にも対応するので、大量のPDFファイルを突っ込んでおく用途に適している。(A)(B)(C)いずれも減点はあるものの、高い水準だといえるだろう。

 気になる点を挙げるなら、背景色が黒であるため、上下幅が異なるページを見開き表示した際に、余白の存在が強調されてしまうこと。またCloudReadersと同じく、ScanSnapで取り込んでからAcrobatで回転させたPDFは、元の向きのまま表示される場合があった。

起動時に表示されるホーム画面。「マンガ」、「雑誌」フォルダを作って電子書籍タイトルを分類することができる。ちなみに左上の「Inbox」は、GoodReaderなどから転送したファイルが保管される。並び順がアルファベット順固定なのが惜しい 縦向きの表示。ページめくり時の視覚効果などはない 画面中段をタップするとサムネイルおよび進捗バーが表示される。サムネイルのサイズは他のビューアに比べるとかなり大きく、本文の内容も確認しやすい
横向きにすると見開き表示に対応。右上のアイコンをタップすることで、綴じ方向を変更したり、単ページ表示や横幅いっぱいに拡大することも可能だ スワイプの際に指をスライドさせる距離に応じて、複数ページをまとめてめくることが可能。左上に表示されるページ番号で確認できる

●今回のまとめ

 以上、主にPDFフォーマットの電子書籍タイトルの閲覧に適した4つのビューアを比較した。現状の評価としては、純正アプリであるiBooksに不自由を感じたらCloudReadersやBookman、さらに詳細なカスタマイズを必要とするなら有料のi文庫HD、といったところだろうか。各々のビューアにしかないメリットもあるのでどれが上位というわけではないが、ともに無料であるiBooksとCloudReadersについては無条件で入れておいてよさそうだ。

 また、最後に紹介したBookmanもバージョンアップによって使い勝手が急速に向上しており、とくに複数ページを一気にめくれるインターフェイスは他にない特徴だ。見開き表示のまま高速にページをめくれる無料の読書ビューアを探している人におすすめできる。なお今回は取り上げていないが、見開き表示にこだわらないのであれば、ファイラーとしての機能に優れたGoodReaderを用いて閲覧するという選択肢もある。EPUBのタイトルが本格的に増えてきたらStanzaも候補となるはずだ。

 後編では、理想書店やマガストアなど、特定の電子書籍販売ストアに紐付けられたビューアアプリについて見ていくことにしたい。

(2010年 7月 29日)

[Reported by 山口 真弘]