コンシューマ向けCPUとして、はじめて4GHzを超える定格動作クロックを実現したAMD FX-4170。発売されてからずいぶんと間が開いてしまったものの、今回は約13,000円で購入できるこの4GHz超えクアッドコアCPUの実力を、ベンチマークテストで確認してみた。
●TDP上昇を対価に4GHz超の動作クロックを実現FX-4170は、先に登場したFX-4100同様、Zambeziコアが備える4基のモジュールのうち、2基を有効化した4コアCPUだ。計4MBのL2キャッシュと、8MBのL3キャッシュを備えている。FX-4100との違いは、動作クロックとTDPのスペックだ。FX-4170の動作クロックは定格で4.2GHz、Turbo CORE時は最大で4.3GHzに達する。TDPについては、動作クロックの向上に伴い125Wに引き上げられた。
また、FX-4170はほかのAMD FX同様CPU倍率アンロックのBlack Editionであり、マザーボードが対応していればベースクロックまたはCPU倍率を変更してオーバークロックが行なえる。
【表1】主な仕様CPU | FX-4170 | FX-4100 | A8-3870K |
Bulldozerモジュール数 | 2 | 2 | ─ |
コア数 | 4 | 4 | 4 |
CPU動作クロック | 4.2GHz | 3.6GHz | 3.0GHz |
TurboCORE (Max Turbo) | 4.3GHz | 3.8GHz | ─ |
L2キャッシュ | 4MB | 4MB | 4MB |
L3キャッシュ | 8MB | 8MB | ─ |
内蔵GPU | ─ | ─ | Radeon HD 6550D |
TDP | 125W | 95W | 100W |
対応ソケット | Socket AM3+ | Socket AM3+ | Socket FM1 |
●テスト機材
それでは早速、ベンチマーク結果の紹介に移りたい。今回、FX-4170の比較対象として、同じAMD FXの4コアCPU「FX-4100」、4コアAPUの「A8-3870K」、価格の近いIntelの2コア4スレッドCPU「Core i3-2120」(以下、i3-2120)を用意した。
そのほか、検証に利用した機材は以下の通り。
【表2】テスト環境CPU | FX-4170 FX-4100 | A8-3870K | Core i3-2120 |
マザーボード | ASUS Crosshair V Formula | ASUS F1A75-V PRO | ASUS P8P68 REV3.0 |
メモリ | DDR3-1866 4GB×2 (9-10-9-28、1.5V) | DDR3-1333 4GB×2 (9-9-9-24、1.5V) | |
GPU | ASUS ENGTX570 DCII/2DIS/1280MD5 (GeForce GTX 570) | ||
ストレージ | Western Digital WD5000AAKX | ||
電源 | Silver Stone SST-ST75F-P | ||
グラフィックスドライバ | GeForce Driver 296.10 | ||
OS | Windows 7 Ultimate 64bit SP1 |
AMD FX-4170 | GeForce GTX 570搭載ビデオカード「ASUS ENGTX570 DCII/2DIS/1280MD5」 |
●CPU中心のベンチマークテスト
まずはCPUベンチマークのテスト結果から見ていく。テストは「Sandra 2012.SP3 18.40」(グラフ1、2、13、14、15、16)、「PCMark05」(グラフ3、4)、「CINEBENCH R10」(グラフ5)、「CINEBENCH R11.5」(グラフ6)、「x264 FHD Benchmark 1.01」(グラフ7)、「Super PI」(グラフ8)、「PiFast 4.3」(グラフ9)、「wPrime 2.05」(グラフ10)、「PCMark Vantage」(グラフ11)、「PCMark 7」(グラフ12)だ。
テストの結果を見ていくと、マルチスレッド対応のベンチマークテストのスコアは良好で、テストによっては同じ4コアCPUであるA8-3870Kに抜かれる場合もあるものの、概ね比較製品中上位のスコアを記録した。
また、AMD FXが暗号化処理を高速化する拡張命令AES-NIをサポートしていることにより、Sandraの「Cryptography」ではFX-4100と共に突出したスコアを記録している。一般のPCユーザーにとってを利用機会はそう多くないかもしれないが、IntelのCore i3をはじめ、同価格帯のCPUがサポートしていないAES-NIは、AMD FXを選択する理由にはなり得るだろう。
一方、CINEBENCHやPCMark05のシングルスレッドテストをはじめ、1コアあたりの性能が問われるマルチスレッド非対応のテストにおいて、ほとんどの項目で最も高いスコアを記録したのは、FX-4170ではなく3.3GHz動作のi3-2120だった。Turbo CORE動作時のFX-4170とi3-2120では、動作クロックに1GHzもの差が生じるが、i3-2120にこのクロック差を逆転された形だ。
●3Dゲーム系ベンチマークテスト
続いて、3Dゲーム系のベンチマークテストの結果を確認していく。
検証したテストは「3DMark06」(グラフ17)、「ファイナルファンタジーXIV オフィシャルベンチマーク」(グラフ18)、「MHFベンチマーク【大討伐】」(グラフ19)、「Lost Planet 2 Benchmark DX9」(グラフ20)、「3DMark Vantage」(グラフ21、22、23)、「3DMark 11」(グラフ24、25、26)、「Lost Planet 2 Benchmark DX11」(グラフ27)、「Unigine Heaven Benchmark 2.5」(グラフ28)だ。
今回、FX-4170がラインナップされる価格帯のCPUとは、不釣り合いとも言えるハイエンドGPUのGeForce GTX 570を使ったことで、テストによってはCPU性能がボトルネックとなってスコアが伸び悩むという状況が発生している。いずれのCPUもGeForce GTX 570の実力を引き出しきれていない感はあるが、それぞれのベンチマークスコアを比較することで、各CPUのゲームへの適性をある程度確認できる。
FX-4170の結果は、テストによってA8-3870Kと勝ち負けが分かれており、項目数だけで言えばFX-4170がやや優勢だ。i3-2120との比較では、3DMark 11など一部のテストでFX-4170がi3-2120を僅差で上回っているものの、i3-2120の後塵を拝する結果の方が多い。FX-4100からは、向上したクロック分だけパフォーマンスが向上している印象のFX-4170だが、ゲーム用途で利用するのにベストなCPUには成り得なかったようだ。
さて、概ね上述のような結果となった3Dゲーム系ベンチマークテストだが、今回実施したベンチマーク結果の中で異質な結果を示したのがファイナルファンタジーXIVの結果だ。このベンチマークでは、AMD FXのスコアが、A8-3870Kやi3-2120に比べ57~65%程度という著しく悪い結果となっている。再試してもスコアは変わらず、他のテストでは妥当なスコアが出ていることを考えると、このベンチマークテストとAMD FXの相性的なものであると見た方がよさそうだ。
●消費電力の比較テスト
最後にシステム全体の消費電力を測定した結果を紹介する。消費電力の測定は、サンワサプライのワットチェッカー「TAP-TST5」を利用して行なった。
アイドル時の消費電力については、FX-4100と同等という結果となったFX-4170だが、負荷時の消費電力についてはFX-4100より最大で31W高く、比較製品中唯一200Wに達するなど大きく上昇している。TDP枠の引き上げにより、4GHzを超えるハイクロックでの動作を実現し、FX-4100からのパフォーマンスアップを果たしたFX-4170だが、その分だけ消費電力も上昇していることがこの結果からは伺える。
【グラフ29】システム全体の消費電力 |
●性能は上位ながらも悩ましい消費電力
ベンチマーク結果を総合的に見ると、1万円前半の価格帯において、FX-4170のCPU性能自体は上位であると言えるが、1コアあたりの性能では、同価格帯のCore i3に及ばない。4GHzを超える動作クロックから、用途によっては、高額なCPUを上回るパフォーマンスを発揮するという働きを期待したいところだが、今回実施したベンチマークテストでは、そのような結果は確認できなかった。
また、同価格帯において上位の性能ながらも、突出した性能を実現できていない一方で、FX-4170の消費電力は突出して高い。ワットパフォーマンスという視点でみると、厳しい印象を受ける結果となった。
スペック通りのFX-4170は、1万円前半の価格帯におけるベストな選択肢とは言い難い製品だが、CPU倍率を変更可能なAMD FXの特性を活かし、オーバークロックでの利用を前提としているユーザーにとっては、FX-4170はFX-4100よりハイクロックで動作するダイが選別された製品であるという見方もできる。また、コンシューマレベルで手に入るCPUとして初めて4GHzを超えたというのも1つの価値と言えるだろう。こうした、自作ユーザーならではの観点で魅力を見いだせるか否かが、購入に際しての判断基準となりそうだ。
(2012年 4月 26日)
[Reported by 三門 修太]