MetaMoJiの「7notes」を試す
~iPad向けに最適化された手書きノートアプリ


 iPad用のデジタルノートアプリ「7notes(セブンノーツ)」が2月3日にリリースされた。ジャストシステムの創業者夫妻である浮川和宣氏と初子氏が新たに立ち上げた企業MetaMoJiが開発したアプリである。従来の日本語入力システムと違い、iPadのタッチ入力を用いた手書き入力に特化していることが特徴の、このアプリのファーストインプレッションをお届けする。

「7notes」。標準価格は1,500円、2月末までは期間限定で900円で販売中。開発元が前述のMetaMoJi、販売にあたるのは子会社の7knowledge「7notes」の起動画面

●「ユニット」の採用により、入力したテキストの並び替えや移動が可能

 「7notes」はiPadでテキストを入力して書き留める、いわゆるワープロソフトということになる。そんな本アプリの大きな特徴は2つ。1つは「ユニット」という概念である。

 本アプリは新規文書の上に「ユニット」と呼ばれるブロックを置き、そこにテキストを入力していく方式を採用している。このユニットはテキストを入力する以外にも、iPadのアルバム内の画像を貼り付けるなど異なる用途のユニットも存在するので、目的に合わせてそれらを組み合わせることで多種多様な文書を作成できる。実際に本アプリには、複数のユニットを組み合わせた「ドキュメントスタイル」があらかじめ用意されている。

新規作成を選択すると、空白から作成するのか、それともユニットがあらかじめ組み合わさった「ドキュメントスタイル」から作成するのかを尋ねられる1カラム文書を選択した場合。ワープロ目的で使うのであれば、これがもっともオーソドックスだろう。上部のグレー枠で囲まれているのが「ユニット」だ2カラム文書を選択した場合。授業のノートを取るといった目的であれば、余白にタイムスタンプや注釈を書き込めるこの文書が便利かもしれない。ユニットは自由に追加、移動が可能
ドキュメントスタイルから「打ち合わせノート」を選択したところ。あらかじめいくつかのユニットが組み合わさっているドキュメントスタイルから「調理ノート」を選択したところ。画像を貼り付けるユニットが組み合わさってるドキュメントスタイルから「トラベルノート」を選択したところ。以上のように複数のユニットを組み合わせたスタイルが予め用意されている

 作成したユニットは自在に並び替えができるので、作成後に順序を変更して意味を通りやすくしたり、複製を行なうこともできる。アイデアプロセッサとしても使えるのはもちろん、ニッチなところでは、会議や授業で話が本筋から脱線した際にその内容を別のユニットにまとめておき、あとから別の場所に移動させるなどの用途が考えられる。

テキストユニットのほか、イメージユニット、Webユニットなどさまざまなユニットを挿入可能ドキュメントについては詳細な書式設定が可能

●文字入力システム「mazec」による精度の高い手書き入力

 もう1つの特徴は「mazec(マゼック)」と名付けられた文字入力システムだ。おそらくこのmazecこそが、本アプリの最大の特徴ということになるだろう。mazecには以下の3つの入力方法が用意されている。

・書き流し入力モード
・交ぜ書き入力モード
・ソフトウェアキーボード

テキスト入力エリアのうえに並んだ3つのアイコンで、入力方法を切り替える。左から、書き流し入力モード、交ぜ書き入力モード、ソフトウェアキーボード

 3つ目のソフトウェアキーボードはiPad標準キーボードと同等なので除外するとして、ポイントになるのは「書き流し入力モード」と「交ぜ書き入力モード」だろう。

 まず前者の「書き流し入力モード」は、一般的な手書き入力に相当し、タッチ操作で書いた文字を縮小しつつそのままノートの行に並べていくというものだ。指先で書いた文字を縮小して並べていくというと、iPhoneアプリ「FastFinga」を思い出す人が多いかもしれないが、本アプリの特色は、入力した文字が1文字単位で分割されることだ。

 すなわち「あいうえお」と連続入力した場合、FastFingaでは「あいうえお」というブロックで縮小入力されるのに対し、本アプリでは「あ」「い」「う」「え」「お」と、きちんと分割して1文字ずつ並べられるのだ。そのため、あとから文字を修正したい場合、一文字単位で修正をすることが可能だ。FastFingaのように、BackSpaceキーを押したら5文字まとめて消えてしまった、ということがない。

「書き流し入力モード」の入力画面。下段に入力した文字が、縮小されて上部のユニット内に書き込まれる連続して入力した場合でも1文字ずつバラバラに認識されるため、BackSpaceキーで1文字ずつ消すことができるこちらはiPhoneアプリ「FastFinga」。指で書いた文字が行の高さに合わせて縮小されるという挙動はよく似ているが、こちらはまとめて書いた文字が1つのブロックとなるため、1文字ずつBackSpaceで消すことはできない

 もう1つの「交ぜ書き入力モード」は、これは手書き文字をテキストとして認識したうえで並べていくというものだ。手書きで文字を入力するところまでは前者の「書き流し入力モード」と同じなのだが、それをテキストに変換するところが異なっている。ここで生成されたテキストは、普通にコピーしてテキストエディタなどに貼り付けることができる。

「交ぜ書き入力モード」の入力画面。下段に入力した文字が、テキストデータに変換された上で、上部のユニット内に書き込まれる拡大したところ。うまく認識できなかった場合は文字右上の「...」にタッチすることで、異なる候補語が1~2つずつ表示される。1度に表示されないのは、ややわずらわしい「書き流し入力モード」と「交ぜ書き入力モード」を切り替えながら入力することで、手書き文字とテキストを混在させることもできる。ただし「書き流し入力モード」で入力した手書き文字をあとからテキストに変換することはできない

●データはクラウドサービスと同期。PDF出力してメール送付も可能

 次に作成したデータの活用方法だが、本アプリでは、同社の提供するクラウドサービス「デジタルキャビネット」と同期し、データをクラウド上に保存することができる。ファイルの作成はiPad上で行なわれ、オンラインになったタイミングでデジタルキャビネットとの同期が行なわれる。今回の試用期間では同期の傾向がいまいちつかみにくかったのだが、決してオンラインの状態でしか利用できないわけではないので安心だ。デジタルキャビネットは無料版での容量は2GBで、上位の有料プランも用意される。

 また、PDFへの書き出し機能を備えており、作成したデータをPDFで出力してほかのアプリに渡すことができる。例えばメールに添付して送ることで、Evernoteなどに保管することが可能だ。送信先のメールアドレスは登録しておけるので、メーラーを起動した際につねに同じ送信先メールアドレスが表示されているよう設定することも可能だ。

「PDFファイルに変換してメールに添付」を選ぶことでデータの受け渡しが可能メールに添付したところ。送り先をEvernoteのメールアドレスにしておけば、Evernoteに直接保存できるEvernoteに保存したPDFファイルを開き、全文を選択したところ。テキストとして認識されている部分はコピー&ペーストが可能だ

●インテリジェントな手書き入力。タッチペンは事実上必須

 さて、2週間ほど実際に使ってみたわけだが、本アプリの目玉である手書き変換機能である「mazec」、これは確かに今までなかった革新的な入力システムであると感じる。以下、動画も交えながら使い方を見ていこう。

 まずは適当なユニットを選び、新規ノートを立ち上げる。画面が表示されたら入力モードを切り替え、「交ぜ書き入力モード」を選択。あとは下段に表示されるパレットに、文字をさらさらと書いていく。ワンテンポ置いて手書き文字が認識され、テキストに変換されるので、きちんと認識されていればタップして上部のユニットに入力するという流れになる。

 この変換精度については、従来のどんな手書き変換ソフトよりもすぐれていると感じられる。例を挙げると、西暦年度の「2011」のあとにスラッシュ「/」を入力すると、そのままでは「20ツ」が候補として表示される。これは「11/」がカタカナの「ツ」に似ているがゆえに起こる症状だ。ところがその後ろに月日を入力してやると、これは年月日であると解釈し、「2011/2/18」といった具合にきちんと認識される。

「2011/」と入力すると、「11/」を「ツ」と認識してしまうしかしその後ろにつづけて月日を入力すると、年月日であることを認識して「2011/」と自動修正される任意の文字を削除したり(Delete Stroke)、スペースを挿入(Space)することも可能だ

 これは数字を中心とした例だが、実際に日本語でテキストを入力していると、こうしたインテリジェンスさが随所に感じられる。筆順があからさまに間違っていても問題ないし、足りなかった線をあとから追加すればきちんと再認識して候補語を書き直してくれる。画数の多い漢字を入力するのに向いた入力システムであると、使っていて実感させられる。

【動画】7notesを起動して1カラム文書を選択、「交ぜ書き入力モード」でテキストを入力しているところ。うまく認識されなかった文字を消して書き直したり、隣の文字とつながって認識されてしまった文字の間隔をあけて再認識させるなどしている

平仮名で「ゆううつ」と入力すると、テキスト変換されると同時に、候補語に「憂鬱」という漢字が表示される

 もちろん手書き入力である以上、誤認識はどうしても起こりうる。その場合は、文字右上に表示されている「...」というマークにタッチして他の候補語を探すのだが、この候補文字もかなり高い確率でヒットするので、かなり雑に書いた文字でも書き直さずに変換することができる。他の手書き文字入力システムを使ったことがあるユーザからすると、ちょっとしたカルチャーショックだ。このほか、平仮名で入力した手書き文字を認識時にまとめて漢字変換する仕様もなかなか興味深い。

 ちなみに、筆者の書き文字の癖かもしれないが、2文字をまとめて1文字として認識してしまうケースがかなりある。これを切り離すためには、文字と文字の間に相当する位置を長押しし、タテ線が表示された状態でドラッグして広げることができる。また逆に2つに分かれてしまった文字を結合する際も長押し→ドラッグで余白を縮めるという操作になる。操作性そのものは悪くないのだが、経験則でないと理解できない操作方法は、直感的な入力をうたうアプリとしては少々らしくないと感じる。

「デジタルキャビネット」と入力したところ。「ネ」と「ッ」がまとめて1文字として認識されてしまっているこのような場合は、文字の間を長押しし、縦線が現れたら右に向かってドラッグドラッグした幅だけ文字と文字の間に間隔が空き、「ネ」と「ッ」がそれぞれ別の文字として認識された

 余談だが、同じように手書き入力機能を持つデバイスである電子辞書においては、入力画面がマス目で仕切られており、1文字ずつ書いていくインターフェイスが定番になっている。また次のマスへの記入を始めると、手前のマスは書き終わったと判断されてテキスト化されるので、処理がバックグラウンドで行なわれるという流れだ。マス目を意識して書かなくてはいけない点で入力速度はやや落ちるが、2文字あわせて1文字と認識されてしまうミスはまず発生しない。筆者の文字の癖もあるだろうが、2文字が1文字にくっついたことによる変換ミスの発生率はそこそこ高いだけに、本アプリでもこうしたマス目表示があってもよいのではないかと思う。

【動画】電子辞書の手書き入力。マス目の中にタッチ操作で文字を入力していくことにより、テキストとして認識される。今回試用しているのはカシオの「XD-B8500」

 なお、本アプリではタッチペンは事実上必須だ。本アプリはiPadのタッチパネルを利用した手書き入力に特化しているわけだが、細かい文字を連続して書いていくと、指先がこすれて痛くなってしまう。もし手書き入力が合わなくてアプリの使用をやめてしまった人は1度はサードパーティ製のタッチペンでの入力を試してみるべきだし、指先での入力でも本アプリに満足できる人は、タッチペンを使うことでさらに満足度を高められるはずだ。

今回使用したタッチペンはプリンストン・テクノロジーの「PIP-TP2B」。このほか、先端がブラシ状になったプロテックの「PTP-PBK」というタッチペンでも問題なく動作したタッチペンを使うことで文字入力もスムーズに。本アプリの小さいアイコンも容易にタッチできる

●手書きの精度は高いものの、テキストの推敲機能と書き出しに疑問

 というわけで、これまでになかった高い変換精度を誇る本アプリなのだが、日常のテキスト入力用途にバリバリ使えるかというと、かなり賛否が分かれるのではないかと思う。少なくとも筆者個人に関して言うと、現状では「否」だ。その理由は、テキストの推敲機能がいまいちなことにある。

 入力したテキストというのは、あとから加筆修正したり、並び替えるといった作業が発生するのが常だが、本アプリはこれらの作業があまり得意ではない。例えば先に挙げた2文字を1文字と認識した際の修正作業は、操作そのものは慣れで解消できても、急いでいる時の操作としては相当わずらわしい。また、「交ぜ書き変換入力」で書いたつもりで「書き流し入力」で手書き文字を入力してしまった際、あとからテキストに再変換する方法が用意されていないなど、修正方法そのものが存在しない場合もある。

 つまり、入力と変換はそこそもスムーズでも、間違えた際の修正に多大な手間と時間を要してしまうのだ。文章の作成プロセスにおける「テキストを入力する」と「ブロック単位で並び替える」という機能は優秀なのだが、その中間にあるべき「テキストを加筆修正する」という機能が弱いのである。そのせいで、「間違えても構わないのでひたすら手書きで入力していき、あとからまとめて変換する」という使い方ができなくなってしまっている。ここを強化してくれないと、単に手書きの精度に対して「すごーい」と感心するだけのアプリで終わりかねないというのが、現時点での率直な印象だ。

 仮にそうであっても、アイデアメモや下書きといったレベルであれば使えるはず、という意見もあるだろう。ある意味ではたしかにそうなのだが、ここで問題になってくるのは書き出しのフォーマットがPDFのみであることと、PCなどに送る手段として、書き出したPDFをメールに添付して転送するしかないことだ。

 テキストと手書き文字(画像データ)が混在するが故に、書き出しフォーマットにPDFを選択したのは理解できるのだが、だからといってテキスト形式で書き出す機能がなくてよいかというと、これはまた別の話だ。手書き文字のビットマップデータをテキストに再変換するか、あるいは完全に破棄してでもテキストで書き出せればまた印象は違ったかもしれないが、現状では「いちいちPDFを生成しなければデータの受け渡しができないアプリ」という印象が強い。オンラインストレージに保存するということは、将来的には直接PCなどからアクセスして開けることを前提にしているのだと思うが、現時点でそれができないのはやはり厳しい。

●最高レベルにある文字認識の精度をいかに生かすか
入力画面右下のアイコンの数々。アイコンのマークこそオーソドックスだが、数が多すぎてやや煩雑。iPad標準の操作体系と異なるので、操作に慣れる以前に違和感を感じる人は少なくなさそうだ

 記者発表会で披露された関係者による本アプリの操作は非常にエレガントで、本アプリのポテンシャルの高さを感じさせるものであったが、同じことをすべてのユーザーができるようになるには、相当な学習コストを支払う必要があると感じる。とくにITリテラシーの低いユーザーにとっての本アプリは、アイコンなどの数が多くiPad標準の操作体系と異なること、また先に紹介した文字分割のような隠し機能的なワザが多いことから、開発側が意図している「使いこなす」レベルに到達するのは不可能ではないかと思う。こうしたユーザーの多くは取説やヘルプすら読まないことを踏まえると、なおさらだ。

 またITリテラシーが高いユーザーにとっては、慣れ親しんだキーボードのほうが使い勝手がよく、本アプリを使う必然性があまりない。文字認識の精度が高いことは理解できても、いざ実戦となると、「せっかく買ったアプリだから使わないともったいない」という動機付けを別にすれば、やはり従来の方法、つまりキーボード入力に頼ってしまうのではないだろうか。これまでなかった新しい入力システムを造ろうとする意欲は賞賛されるべきだが、すでにキーボード入力に慣れ親しんだユーザーを取り込むのは、容易なことではないと感じる。現状の出来では積極的に手を出す理由が見当たらないというのが、正直なところだ。

 筆者個人の所感として言うならば、ユニットもいらなければ、文字の装飾機能もいらない。画像やWebページの貼り付けも不要で、手書き文字とテキストの混在も不要。テキストオンリーで出力できればそれでよい。高機能を謳うよりは、もっと機能をそぎ落として分かりやすくしたほうが、「あの用途に使えば便利かも」という、ひらめきや思いつきが浮かびそうな気がする。

 というわけで、道具として評価すると現状ではまだまだという感はなきにしもあらずなのだが、まだバージョンが1.1ということで、リリースに合わせて急いで形を整えたところもあるだろうし、ここまで挙げてきたさまざまな特性については(それを問題点として捉えるかどうかは別として)開発側も把握しているはずだ。文字認識の精度は現行の手書き入力システムで最高レベルにあるのは間違いなく、未来を垣間見せてくれるアプリであることは間違いない。2月末まではキャンペーン期間ということで安く提供されているので、今後のバージョンアップによって周辺の問題点が払拭されることに期待しつつ、夢に投資するという部分も含めて試してみることをお勧めしたい。

(2011年 2月 21日)

[Reported by 山口 真弘]