やじうまPC Watch

ドラえもんの「望遠メガフォン」が編集部にやってきた

~ITで日本の物作りパワーを結集させた22世紀の未来道具

「望遠メガフォン」

 「ドラえもん」が長きに渡っていかに愛されてきたかについて今更ここで説明する必要はないと思われるが、こちらの記事でも取り上げた通り、3D CG化された映画「STAND BY MEドラえもん」が8月に公開されるなど、再度脚光を浴びている。また、本日9月3日は、ドラえもんの誕生日(2112年)でもある。

 そんな中、富士ゼロックスが旗振り役となって進めている「四次元ポケットPROJECT」によって作り出されたドラえもんのひみつ道具「望遠メガフォン」がPC Watch編集部に届いた。

 このプロジェクトは、“22世紀からやってきたドラえもんのひみつ道具が今実在したとしたら、どんなに楽しいか”と考え、日本を支える原動力たる中小企業が持つさまざまな得意分野を組み合わせ、現実に作ってしまおう、というコンセプトのものだ。

 革新的な製品というと、Appleや、Google、ソニーなど世界的な大企業が作っているというイメージも強いが、そこで使われているコンポーネントや技術は、日本の中小企業が開発、製造していることも少なくない。

 このプロジェクトにおいて富士ゼロックスは、物作りには直接的には関与せず、ドラえもんのひみつ道具を作る上で必要な技術を持つ企業を見つけ出し、それらの企業同士を繋ぐITソリューションを提供する。同社は、ひみつ道具という夢をテーマにしながらも、その背景では企業間連携によって新たな価値を生み出すという、現実的なビジネス上のメリットも訴求しているわけだ。

 プロジェクト第1弾の成果として、実際の将棋盤とコマを使って、人と対戦できる機械「セルフ将棋」が作られており、今回の望遠メガフォンは第2弾となる。今回は、筐体製造、メッキ加工、デザイン/設計/実装、板金パーツ製造、回路製造、スピーカー製造を行なう6社に声がかかり、富士ゼロックスのクラウドコミュニケーション環境を用い、1度も全社が一堂に介することなく、開発にあたったのだという。

開発にあたった企業のメンバー

 さて、望遠メガフォンはどんな道具なのだろう? これは、光線銃のような見かけをしており、スコープで照準を合わせた人に対してだけ、どんなに離れていても声を聞かせられるというものだ。

 実際に作られた望遠メガフォンは、本体こそややオリジナルより大きめになっているが、デザインはほぼそのまま。レーザー式距離計を備えており、対象に向けられているかが一目でわかるほか、相手との距離を測り、距離に応じて発せられる音量を調整するようになっている。

望遠メガフォンの解説(富士ゼロックスのサイトより転載)
編集部に届いた実物
本体部分がオリジナルよりちょっと大きいが、デザインはほぼ同じで、質感も良い
口を当てる部分
スコープの照準は、ボタンを押すと緑に光る
側面に貼られたプロジェクトステッカー
先端には今回独自に作られた指向性スピーカーが多数並ぶ
この中心からレーザーが出ており、測距する
結構電気を食うようで、単4電池を18本使う

 使い方は、一般的なメガフォンと同じで、グリップ部分のボタンを押しながら話すと、遠くにいる相手にも声が届くが、メガフォンの直線上にいない相手には聞こえない。

 これがどれくらいの距離が届くのかは不明だが、普通に空気の振動で音声を送っているので、さすがにどんなに離れても届くとはいかない。実際に試してみたところ、10m程度なら問題なく届いた。

 また、メガフォンの向きをずらすと、確かに声は聞こえなくなった。その仕組みは、メガフォンの先端に並べられた指向性スピーカーによるもの。望遠メガフォンのために独自に作られた指向性スピーカーは、通常のメガフォンと違い、ほぼまっすぐに音声を飛ばすようになっている。

 この道具を、PCに絡めて、どんな使い方ができるか考えてみたのだが、試用できる時間が非常に限られていたため、面白いアイディアを出せなかった。

 そこで、というわけでもないが、実際の科学技術を使って、ほかにどんなドラえもんのひみつ道具が実現できるかを、頼まれてもいないのに勝手に考えてみた。まず、お断わりしておくが、筆者は科学や技術の専門家ではないため、これから述べることには、不正確なことや誤りも含まれているかもしれない空想レベルのことであることをご了承いただきたい。

 ドラえもんのひみつ道具というと、やはり思いつくのはどこでもドアとタイムマシンだろう。つまり、テレポーテーションとタイムトラベルだ。これらは科学で成し遂げられるのか?

 テレポーテーションについては、量子テレポーテーションという技術が確立している。これは、光の粒子である光子や電子などの素粒子に備わる、「量子もつれ」という不思議な性質を利用したもので、量子もつれの状態にある1対の素粒子のうち、1つを観測し、その状態が確定すると、同時にもう1つの素粒子も同じ状態になる。2つの素粒子はどんなに離れていても、片方を観測すると、同時にもう片方の状態も決まる。

 この場合、テレポーテーションと言っても、素粒子が別の場所に移動したわけではない。言うならば、素粒子の状態という情報が瞬時に移動したことになる。そして、この仕組みを使って、3つの素粒子をうまくもつれさせると、1つの素粒子を瞬時に別の場所に移動させたのと同じ状況、つまり事実上のテレポーテーションを行なうことができる。この場合も、素粒子自体は移動していないが、1つの素粒子の状態が、別の(同種の)素粒子の状態に転移したのであれば、元の素粒子がテレポーテーションしたとみなせる。

 あとは、この技術を人体を構成する素粒子全てに適用してやれば、人体のテレポーテーションとなる。と、言うは簡単だが、人体は数十兆個の細胞でできており、その細胞1つ1つも膨大な数の原子でできている。また、原子は素粒子ではなく、原子の原子核の中性子や陽子を構成するクオークというものが素粒子だ。これらを全て、対になる素粒子ともつれさせた上で、観測を行なうというのは、途方もない作業になるのは容易に分かるだろう。また、光子での量子もつれ実験は成功しているが、クオークでできたという話は寡聞にして聞かない(そもそもクオークは光子のように単独では存在しない)。

 ということで、実現のハードルはちょっと高そうだ。

 では、タイムトラベルはどうか? 時間を行き来して、あの時の失敗をやり直せたら、などということは誰もが一度は考えたことがあるだろう。

 実はこれも素粒子レベルでは過去への移動はできる。あらゆる素粒子には、質量などは同じだが、電荷が反対になっている反粒子が存在する。例えば、電子は負の電荷を持っているが、その反粒子である陽電子は、電子と姿形は同じだが、正の電荷を持つという具合。

 そして、この反粒子は、粒子が時間を逆行していると解釈できる。ので、かなり乱暴な跳躍だが、もし、あなたの体を構成する素粒子を全て調べ上げ、その反粒子でできた反あなたを作れば、その反あなたは時間を逆行しているだろう。

 ただし、これがタイムトラベルと呼べるものかは分からない。また、反粒子は粒子と衝突すると、莫大なエネルギーを放って消滅してしまうので、例え過去に行けたとしても、何かに触れただけで、大爆発を起こしてしまう。これもちょっと難しそうだ。

 一方、未来については、冷凍睡眠によって、行くことができる。一般的に考えられる未来へのタイムトラベルとはイメージが異なるだろうが、冷凍睡眠を行なえば、その人にとっての時間は(少なくとも生物学的には)ほぼ止まる。1,000年後に行きたいのなら、1,000年後に解凍してもらえば、1,000年のタイムトラベルの完了だ。

 ただし、今の技術では、人体を冷凍すると、体内の水分の体積が膨張して毛細血管などが破裂してしまう問題がある。つまり、生きながらえられない。こちらも、大きな障壁が立ちふさがる。

 と、なけなしの知識で思いにふけってみた。戯言にお付き合い頂き恐縮だが、科学の発展は、こんな感じで、ああやったらどうだろう? こうやったらどうだろう、と模索することから始まるので、みなさんも何かをきっかけに新しいものについて考えてみてはいかがだろう。

(若杉 紀彦)