やじうまPC Watch
【懐パーツ】3Dグラフィックス界の風雲児、「Intel 740」搭載ビデオカード
2016年11月15日 06:00
今回は、Intelとしては最初で最後となったディスクリートビデオチップ「Intel 740」を搭載したAGPカードを紹介したい。基板上に「i740 Ver1.0」という刻印はあるものの、ブランドや正式な製品名は不明だ。
Intel 740は1998年2月13日に発表された3Dグラフィックアクセラレータである。AGP(Accelerated Grahipcs Port)に最適化されたアーキテクチャを採用し、初のAGP対応ビデオチップとして名を上げた。
AGPはIntelが考案した規格で、Pentium II用チップセットのIntel 440LXで初めて実装された。PCIバスのプロトコルなどをベースとしながら、8bit幅のアドレスバスを別途用意するほか、DME(Direct Memory Execute)と呼ばれる機能を実装。テクスチャをメインメモリ上に直接置くことで、ビデオカード側に実装するビデオメモリ量を削減し、ひいてはビデオカードの低価格化を実現させるものであった。
こうした時代背景もあって、初のAGP対応ビデオチップとなったIntel 740は、Intelの3Dグラフィックス市場に対する本格参入の姿勢を見せるとともに、AGPコンセプトを普及させる役目を担っていた。開発に当たって、Intelは初のファブレス企業でビデオチップなどを手掛けたChips & Technologiesを1997年に買収。セガのアーケードグラフィックスを手掛けたReal3D(これも後にIntelが買収)と共同開発を行なった。
当時Voodooシリーズをはじめとする3Dビデオカードは、テクスチャをメモリ上に展開するため、8MB~16MB程度のビデオメモリを搭載するのも珍しくなかったが、Intel 740は2MBからスタートし、最大でも8MBまでしかサポートしなかった。これは、ビデオメモリから溢れたテクスチャデータなどは、AGPを介してメインメモリ上に置け、というIntelからのメッセージであるほかない。
Intel 740は発表時に「i740ショック」が起きると言われるほどインパクトを持った製品であった。実際の製品は確かに3D性能は悪くなかったが、残念ながら言われるほどではなかった。また、32bitカラーをサポートせず24bitカラーの対応に留まり、その速度も16bitカラー時と比較して遅い点が仇となった。
もっとも、当時Voodooも32bitでの3Dをサポートしていなかったし、RIVA TNTも決して32bitモードで速いカードではなかったと記憶しているので、バリュー~ミドルレンジ市場において、Intel 740は十分にインパクトのある製品だった。特にAGPバス(そしてPentium II)を普及させるという意味では、その役割を完全に果たしたと言えるだろう。
Intel 740は元々バリュー~ミドルレンジを狙っていたこともあり、今回入手したビデオカードも非常に質素な作りである。カードの中心は当然Intel 740(FW82740)である。メモリはSiemens製のSDRAM「HYB39S16160AT-10」。第2世代の16Mbit品で、これを4枚搭載することで容量8MBを実現。動作クロックは100MHzである。Intel 740自体メモリバス幅が64bitなので、転送速度は800MB/sと見られる。
このほか、Fairchild製の10bit高速バススイッチ「FST3384」や、National Semiconductor製の可変型高精度ツェナー・シャント・レギュレータ「LM431」の搭載が見える。残念ながら今回入手したカードにはBIOS ROMが抜き取られており、このままでは起動できないと思われる。
筆者的はIntel 740を抜きにしてビデオカードを語れないと思っているほどなのだが、残念ながらIntelは後継のIntel 752を発表するも製品をキャンセル。「Intel 810」以降、チップセット(今ではCPU)に内包するという道を選んだ。そのためIntel 740はIntelにとって最初で最後のディスクリート3Dビデオチップとなった。その遍歴はまさに風雲児と言うに相応しい。
ちなみに、元麻布氏が最初にPC Watchで執筆していただいたコラムの予言通り、今やディスクリート3Dグラフィックスを製造するメーカーは2社しか残っていないのは周知の通りである。