イベントレポート
オリンパス、可視光と赤外光の観察像を同時に撮影するCMOSイメージセンサー
(2015/12/14 11:52)
オリンパスは、可視光の観察像と赤外光の観察像を同時に撮影するCMOSイメージセンサーを開発した。米国ワシントンD.C.で開催された電子デバイス技術の国際学会IEDM 2015で、12月9日に開発技術の概要を発表した(講演番号30.1)。
CMOSイメージセンサーのセンサー部(光電変換素子)であるフォトダイオードは、光の明暗に応じた強度の電気信号しか出さない。つまり色を判別できない。そのままでは、白黒画像しか得られない。このためCMOSイメージセンサーは、撮像画素(フォトダイオード)ごとに異なる色のカラーフィルタ(色選択フィルタ)を搭載することにより、可視光のカラー画像を得ている。普通は光の三原色に対応する、赤色(R)を選択するフィルタと青色(B)を選択するフィルタ、緑色(G)を選択するフィルタを撮影画素ごとに一定の法則で配列する。
可視光のカラー画像を撮影するCMOSイメージセンサーではカラーフィルタのほかに、赤外光を遮蔽するフィルタ(赤外フィルタ)を受光部全体にかぶせるのが普通である。一般的なカラーフィルタは赤外光を透過するからだ。赤外光をフォトダイオードが受光すると、撮影画像の色彩が不自然なものに変化してしまう。この色劣化を避けるために、赤外フィルタが必要となる。
オリンパスが開発したイメージセンサーは、一般的なカラーフィルタが赤外光を透過する特性を利用した。イメージセンサーのフォトダイオードアレイを、トップ層とボトム層の2層式にしたのだ。入射光をまず、赤外フィルタを備えていない可視光イメージセンサー(トップ層)で受光する。受光した光の一部、主に赤外光は、トップ層を貫通する。貫通した光を、ボトム層のフォトダイオーアレイで受光する。ボトム層で受光した信号からは、赤外光の撮影画像が得られる。トップ層で受光した信号から、ボトム層で受光した信号を差し引くことで、可視光の撮影画像を再構成する。
ウェハの貼り合わせ技術を駆使
イメージセンサーの製造にあたっては、シリコンウェハの貼り合わせ技術を採用した。厚いボトム層のシリコンと、薄いトップ層のシリコンを貼り合わせる。貼り合わせる時、トップ層の画素とボトム層の画素が正確に重なるように、位置を合わせることが重要だとする。
試作したイメージセンサーの画素数は4,224×240画素と横に長い。画素寸法は3.8μm角である。製造技術は0.18μmのCMOS、1層多結晶シリコン、6層金属配線。
個人の認証から内蔵疾患の観察など、幅広い用途を期待
実験では中心波長が900nm(帯域幅60nm)の赤外光LEDを観察対象に照射し、3種類の撮影画像を同時に取得できることを示した。2つは可視光の画像で、1つは赤外光の信号を取り除いたもの。もう1つは赤外光の撮影画像である。赤外光は皮膚の下に隠れている静脈の観察に適しており、静脈のパターンを利用した個人認証などに活用できる。
開発したイメージセンサーは、色選択フィルタの分光特性を調整したり、トップ層の厚みを制御したりすることで、ボトム層のセンサーの分光特性を制御できる。分光特性の異なる6種類の画素(トップ層とボトム層で3画素ずつ)が存在するので、用途に応じてイメージセンサーの特性を調整可能である。
例えば内視鏡検査で特定の波長の光を被観察対象に照射することで、悪性腫瘍による病変が見つけやすくなる。オリンパスは既に、帯域幅の狭い特定の可視光を患部に照射することで、内視鏡を通じて癌などの病変を把握しやすくする技術「NBI(Narrow Band Imaging)」を開発し、NBI技術を搭載した内視鏡システムを商品化済みである。開発したイメージセンサーは、こういったシステムに適用できる可能性がある。