イベントレポート
AMD、Carrizoを「第6世代AMD Aシリーズ プロセッサ」として発表
(2015/6/3 11:00)
AMDは、同社がCarrizoのコードネームで開発してきたAPUを、「第6世代AMD Aシリーズプロセッサ」として発表した。
Carrizoは、新設計のExcavatorアーキテクチャのクアッドコアCPU、第3世代GCNアーキテクチャの8コアGPU、HEVC/H.265のハードウェアデコードに対応したUVD6、ARMのTrustZoneに対応したセキュリティプロセッサ、サウスブリッジなどを1チップに統合したフルSoC。CPUとGPUの設計手法を見直してダイの利用効率を改善し、従来製品と同じ製造プロセスを利用しているのにも関わらず、性能が向上しながら消費電力を削減した。
ノートPC向けのSKUとしては、FX-8800P、A10-8700P、A8-8600Pの3 SKUが用意されている。いずれもTDP(熱設計電力)は35Wになるが、cTDP(Configurable TDP)のレンジは12~35Wになっているため、IntelのCoreプロセッサのU(15W)と同じ熱設計の筐体に入れて使うことも可能になっている。
Dell、HP、ASUS、Acer、Lenovo、東芝の大手OEMメーカーなどから採用製品が登場予定とのことだ。
TrustZone対応セキュリティプロセッサも内蔵
Carrizoは、第6世代AMD Aシリーズ プロセッサというブランド名で呼ばれる製品で、2014年に発表されたKaveriの後継製品となる。Kaveriの前世代はTrinity(2012年6月発表)、さらにTrinityの前世代はLlano(2011年6月発表)なので、実際には4番目の製品となるのだが、AMDはKabini(2013年5月発表)、Beema(2014年5月発表)もAシリーズとして販売しており、これらも数えると6つ目となるため、“第6世代”という表現を使っているのだ。
もちろん、その背景にはIntelが今年後半にSkylake(スカイレイク)を第6世代Coreプロセッサとして発表する予定であることに、マーケティング的に対抗したいという狙いがあることは言うまでもない。
Carrizoは、CPU、GPU、メモリコントローラ、サウスブリッジ機能などを全て1チップに統合した、フルSoCとなる(従来のKaveriはサウスブリッジは別チップ)。IntelのCoreプロセッサは、CPU+GPU+メモリコントローラと、サウスブリッジが別チップとして製造され、パッケージ上で1チップとなる“なんちゃってSoC”なのに対し、Carrizoサウスブリッジも含めてCPUと同じプロセスで製造され、1ダイとなっている。結果的に消費電力の観点から有利になる。
CPUはExcavatorという開発コードネームを持つクアッドコアプロセッサ、GPUとして第3世代GCNを8コア、メモリコントローラはDDR3-2133まで対応している。GPU内蔵のビデオデコーダーは新世代のUVD6に進化し、新たにHEVC/H.265のハードウェアデコードに対応した。
Kaveri世代では対応していなかったARM TrustZoneに対応したセキュリティプロセッサも内蔵されており、AESの暗号化/復号化を高速に行なったり、TPM 2.0に準拠した暗号化チップとしても利用可能だ。Windows 10では、Windowsロゴの要件としてTPM 2.0の搭載が必須とされており(実際には1年近くの猶予があるが)、Kaveriではこの要件を満たすことができなかったため、OEMメーカーにとっては重要な強化点となる。
実行効率が改善したExcavatorコアと第3世代GCNのGPU
今回のCarrizoに採用されているExcavatorは、旧世代からL1データキャッシュが2倍に増やされているほか、分岐予測のターゲットバッファ(BTB)が512エントリから768エントリに50%ほど増やされるなど改良が施され、命令実行の効率が改善されている。さらに新命令セットとして、AVX2、MOVBE、SMEP、MBI1/2などへの対応も追加されている。また、Kaveriでは対応していなかった、InstantGo(Connected Standby)への対応も追加されている。
GPUに関しても強化され、同社が第3世代GCNと呼ぶ同社の最新世代のGPUが8つの実行エンジン(コア)として搭載されている。512KBのL2キャッシュと、ロスレスのデルタカラー圧縮機能を備えており、メモリ帯域が十分ではない環境でもボトルネックによる性能低下を避ける設計になっている。演算性能は819GFLOPSで、APIとしてDirectX 12 Level12というDirectX12でサポートされる新機能に対応している。
AMDではこのCarrizoを、“HSA 1.0のフル機能をサポートする初めてのAPU”とし、同社が推進するCPUとGPUを1つのハードウェアとして扱えるプログラミングモデルにフルで対応する最初のAPUだと表現している。KaveriもプログラミングモデルとしてのHSA 1.0に対応していたのだが、Carrizoに用意されているATC(Address Translation Cache、メモリアドレス変換のためのキャッシュメモリ)に対応していなかったため、こうした表現をしているとのことだった。
TDP 15Wに設定した時の消費電力もクロック周波数も最適になるように設計
AMDによれば今回のCarrizoでは省電力にこだわった設計を行なっているという。Carrizoは28nmプロセスで、従来のKaveriと同じ世代の製造プロセスを利用して製造される。このため、プロセス微細化時に得られるダイサイズの縮小や、それに伴う消費電力の削減と言ったメリットは享受できない。
しかし、AMDでは開発プロセスそのものを見直し、CPUやGPUをダイへ落とし込む際の設計手法を見直し、同じユニットであってもダイを占める面積の縮小を実現したのだという。これにより、ダイの利用効率が大幅に改善され、プロセスを微細化していないのに、微細化したのと同様にダイサイズの減少や消費電力の削減のメリットを得られたという。
具体的には、同じ28nmプロセスである前世代(Kaveri)のCPUコアであるSteamrollerに比べて23%のダイエリアの削減を実現し、かつ消費電力の削減が実現されている。また、CPUデザインそのものも、TDPが15Wの時に最適な性能を発揮するように設計し、TDPを15Wに設定した時に、クロック周波数をできるだけ上げられるようになっており、薄型のノートPCに搭載した時の性能や消費電力が最適化されている。
GPUに関しても同様の設計が施されており、やはりTDP 15W時に最適な周波数になるように設計されている。ただし、Carrizo自体はcTDPにより、12~35Wレンジに設定でき、どのぐらいのTDPでデザインするかはOEMメーカー次第になる。フル性能で実装するにはもちろん35Wで設計することになるが、Carrizoが15Wで最適な性能を発揮できるように設計されていることを考えると、OEMメーカーの中にはTDP 15Wに設定して設計するメーカーも出てきそうだ。
搭載ノートPCは6つの大手から。無風だったTDP 15Wの市場は変わるか
AMDはSKU構成に関しては、以下のような製品があると既に発表している。TDPは全てcTDPで、12~35Wの間でOEMメーカーが設定して設計することができる。
資料によれば、以下のようなGPU性能に関して、同じTDP 15W設定時には、Core i7-5500U(ベース2.4GHz、GT2=Intel HD Graphics 5500)と比較して、3DMark 11で全てのSKUで上回るとしている。
Carrizoを搭載したノートPCは今年(2015年)の後半に発売される予定で、前述の通りDell、HP、ASUS、Acer、Lenovo、東芝といったOEMメーカーから搭載ノートPCがリリースされる予定だ。日本でどのような製品が販売されるかは現時点では不明だが、従来はTDP 15WのCPUで製造されるハイエンド、メインストリームノートPCの市場はほぼIntelのCPUだけが選択肢となっていた。このCarrizoの登場によりその状況が変わる可能性があると言えるだけに、今後の動向に注目したいところだ。