イベントレポート

Qualcomm、450MbpsのLTEや7GbpsのWiGigをデモ

~Quick Charge 2.0対応機器も拡大中

LTEーAdvanced CAT9による20MHz×3を束ねて450Mbps(下り)の通信速度を実現しているデモ。セルラー通信で450Mbpsとは、下手な無線LANよりよっぽど高速だ

 Qualcommは、International CESで同社のソリューションを多数展示した。基調講演に関しては別記事でお伝えした通り、昨年(2014年)発表済みのSnapdragon 810が実際の製品に搭載されたこと、スマートホーム関連のソリューションが引き続き拡大していることなどがアピールされた。

 それを受けてブースでは、Snapdragon 810のデモや、スマートホーム関連製品、自動車、さらにはIEEE 802.11ad(WiGig)のデモなどが行なわれている。中でも注目を集めたのは、Snapdragon 810に内蔵されているLTEモデムのLTE-Advanced CAT9下り450Mbpsのデータ通信のデモで、実際に450Mbpsの通信速度を確認できた。

LTEーAdvanced CAT9で下り450Mbpsを実現したデモ

 ブースの中でも技術的に最も注目を集めたのは、昨年の後半から出荷を開始しているSnapdragon 810に内蔵されているLTEモデムを利用した、LTE-Advanced CAT9で規定されている下り450Mbpsでのデータ通信のデモだ。

 LTE-Advanced CAT9は、20MHz帯域を3つ束ねる(キャリアアグリゲーションという)通信が可能で、その場合最大で下り450Mbpsでデータ通信が可能になる。元々、Snapdragon 810の発表時には、LTE-Advanced CAT6という20MHz帯域を2つ束ねて下り300Mbpsの通信速度を実現するキャリアアグリゲーションに対応する予定となっていたのだが、昨年の後半にそれがCAT9にアップグレードされ、今回そのデモが行なわれた。

 もちろん、これはSnapdragon 810を搭載しているすべてのスマートフォンやタブレットでできるようになるということではなく、スペック的にに可能だと言うことで、実際に通信できるかどうかは、端末メーカーがそれを有効にするかどうかによるし、キャリア側の基地局も対応する必要がある。日本でもキャリアアグリゲーションの導入に向けて準備が進められている段階だが、Snapdragon 810で端末側の準備が整っていることになるので、キャリア側の対応に期待したいところだ。

LTEーAdvanced CAT9の仕組み、20MHzの帯域を3つ束ねて通信することが特徴
デモに利用されたのはSnapdragon 810を搭載した試作機

WiGigのデモで、アクセスポイントとPC間を1Gbpsを超える速度で通信するデモ

Qualcommが行なったIEEE 802.11ad(WiGig)のデモ

 記者会見でも予告された通り、Qualcommはブースにおいて、IEEE 802.11ad(WiGig)のデモを行なった。WiGigは60GHz帯という免許なしで仕える帯域を利用して通信する方式で、最大で7Gbpsでの通信が可能。60GHz帯の電波は高速なデータ転送が可能だが、その代わりに壁など障害物があると電波がそこを通過することができないため、見通しが良い場所でしか使えないというのが弱点となる。このため、机の上のケーブルをワイヤレス化するなどの用途が主になる。

 なお、IEEE 802.11adは、IEEEという標準化団体で決めている規格名で、WiGigはWi-Fi Allianceという業界団体が定めているブランド名となる。現在の2.4/5GHz帯の無線LANがIEEE 802.11acとWi-Fiの両方の名前で呼ばれるのと同じようなものだと考えれば良い。

 Qualcommの無線LANと言えば、同社が買収したAtheros Communicationsの流れを汲む製品(子会社のQualcomm Atherosが現在はリリースしている)がよく知られているが、WiGigに関してはAtherosの製品ではなく、Wilocityという昨年買収しQualcomm Atherosに統合されたイスラエルの企業の製品がベースになっている。今回のデモもそのWilocityが開発したWiGigコントローラを利用して行なわれている。

 デモで利用されていたのは、WiGigの通信モジュールが内蔵されているPC、およびWiGigのコントローラが内蔵されているSnapdragon 810内蔵タブレットと、WiGigのアクセスポイント。実際にデータ転送レートを見てみると、1Gbpsを超える数字を叩き出しており、従来のWi-Fi接続では不可能な転送速度が実現されていた。

 なお、Qualcomm製品では、Snapdragon 810に、WiGig対応のMACが内蔵されており、PHYと呼ばれる物理層やアンテナを接続するだけで安価にWiGigを実装可能になる。このため、今後登場するSnapdragon 810搭載スマートフォンやタブレットに実装される可能性があり、さらにQualcommによれば、対応のアクセスポイントも今年(2015年)後半に市場に投入される見通しということだ。

実効通信速度で1~1.5Gbpsの速度で通信が行なわれていた
PCに実装されているモジュール。Qualcommが買収したイスラエルのWilocity社(現在はQualcomm Atheros社)が試作している
こちらがアクセスポイント、なお、Qualcommの記者会見ではWiGigに対応したアクセスポイントは今年の後半に登場する見通しであることが明らかにされた
こちらはSnapdragon 810に標準で搭載されているWiGigコントローラを利用したデモ。やはり1~1.5Gbpsで程度で通信できていた

AllJoin対応機器、Android搭載IVIやV2Pの先進運転支援システムも

 このほか、AllSeen Allianceで規定されているプロトコル「AllJoin」に準拠した製品を、家庭を模した展示ルームでデモした。

 AllJoinは、IoT機器同士の通信プロトコルを定めた規格で、このAllJoinに対応したデバイスであれば、どのOSでも、どのアーキテクチャのSoCでも相互に通信してやりとりを行なえる。もともとこのAllJoinはQualcommが作成した規格だが、現在は業界団体のAllSeen Allianceに寄贈されており、オープンな規格として利用できるようになっている。

 幹事企業にはQualcommに加え、Microsoft、パナソニック、ソニーなどが参加している。参加企業は増え続けており、CESではそれが100社を超えたことが明らかにされた。展示ルーム内では、各種のAllJoin対応のデバイスなどが多数展示されており、スマートフォンから電灯を消したり、あらかじめプログラミングしておいたようにデバイスが動く様子などがデモされた。

 また、Qualcommが近年力を入れている自動車向けのソリューションも展示。1つはSnapdragonとAndroidを組み合わせたIVI(車載情報システム)のデモだ。現在自動車メーカーはIVIのOSとしてAndroidを選択することが増えており、研究開発が進められている。Androidスマートフォン向けのSoCとしてはトップシェアを誇るQualcommはAndroidとの組み合わせで実績が充分あることもあり、自動車メーカーからも注目されているのだ。

 今回展示されていたのは、あくまでQualcommが作ったデモカーで、自動車メーカーの具体的な製品ではないが、こうした製品が作れますよという自動車メーカーやティア1(一次下請けの部品メーカーのこと、デンソーやBOSCHなど)へのアピールとして行なわれていた。

 また、IEEE 802.11p(5.9GHz帯の無線規格)を利用した車車間通信(V2V)の仕組みが欧米では検討されているのだが、それを車と人に拡張したV2Pの仕組みのデモも行なった。これは自動車と歩行者が持つスマートフォンが、5.9GHzの無線LANを利用して自動で通信し、歩行者が気がつかずに自動車に接近した時に、自動車側に通知されるというデモ。これはQualcommが以前から自動車業界に提案しているものだ。これは既にスマートフォンには標準で搭載されているWi-Fiコントローラにちょっと手を加えるだけで実現可能であるので、歩行者の側の安全を高めるという意味で意義がある技術と言える。

AllJoin規格に対応した機器を展示する展示ルーム。中に入るために行列ができていた
リビングの部屋のイメージで、さまざまな情報機器を利用して家電を操作できる。ここではランプの色を変える設定にしている。スマートTVに状況が変化した情報が表示されている
今後登場する製品にはこのようにAllSeen Allianceに対応した製品だと言うことが明示される予定
Qualcommが試作しているAndroid搭載IVI。同社のSnapdragonビジネスでの経験がカーナビの世界にも活かされることになる
V2Pのデモ。説明員が手に持っているのが歩行者が持っているスマートフォンのイメージで、歩行者が自動車に近づくと、歩行者にもアラートが表示されるし、自動車にも歩行者が近づいていることがアラートで表示される

Quick Charge 2.0に対応した機器の勢力拡大中、日本では端末が発売済み

 このほか、同社が提唱するQuick Charge 2.0の規格についての展示が行なわれていた。Quick Charge 2.0は、NTTドコモからは「急速充電2」、KDDIからはそのままの名前で提供されている技術で、スマートフォンやタブレットの充電をより高速に行なう仕様だ。

 一般的にスマートフォンやタブレットではUSBケーブルを利用して充電するが、よく知られている通り、USBの電圧は5Vで、標準の電流はUSB 2.0が0.5A、USB 3.0が0.9A。電力は電流×電圧決まるので、USB 2.0では2.5W、USB 3.0では4.5Wの電力を供給できる。

 例えば、スマートフォンの電池が11.5Wh(3,000mAh×3.85V)で、USB 2.0で充電する場合、電力量を充電できる電力で割れば充電にかかる時間を計算できるので、

11.5Wh÷2.5W=4.6時間

と、そのままでは満充電までに4.6時間かかる計算になる。なお、厳密に言えば、充電する場合には電圧変換機でロスが必ず発生するので、この通りにはならない。論理値を計算すると、という話しだ。

 これでは、結構な時間がかかることになるので、現在ではUSBのACアダプタなどで電流を増やして、より高速に充電できるようにしている製品がある。USBの規定以上にはなるが、端末側も最近ではそうした大電流に対応できるようにしている製品が増えているのだ。例えば、1Aの電力を流せるようにすれば、5Wとなり、先ほどの計算に当てはめると2.3時間となる。

 Quick Charge 2.0ではこうした電流に加えて、電圧も調整する仕様にしているのが大きな特徴で、5Vだけでなく、9V、12Vという2つのモードが用意されている。5/9V時には1.8A、12V時には1.35Aの電力を流せるようになっており、どちらも16.2Wの電力を供給できる計算だ。先ほどの11.5Whのスマートフォンのバッテリ充電時間を計算してみると

11.5Wh÷16.2=0.7時間

と、非常に高速で充電できるようになる。ただ、実際には端末側の充電回路がバッテリを傷めないように、満充電に近くなってくるとバッテリに流し込む電力を絞るので、こうした計算通りにはならないことが多いが、それでも従来よりは高速に充電できるようになるのだ。

 このQuick Charge 2.0を利用するには、端末側と、ACアダプタの側の両方にQucik Charge 2.0に対応する必要になる。というのも、本来こうした急速充電の仕組みは、USBの仕様にはないので、端末側、充電器側のお互いがQuick Charge 2.0に対応している機器だと認識する仕組み(具体的にはQualcommが提供するIC)が必要となる。現在NTTドコモやKDDIが販売しているスマートフォンのいくつかのモデルにこの仕組みが入っているほか、両社やサードパーティから対応ACアダプタが販売されており、端末と充電器が揃った場合にQuick Charge 2.0が利用できる。

 今回Qualcommブースでは、そうしたQuick Charge 2.0機器のデモのほか、新しいQuick Charge 2.0の機器が展示されていた。1つはいわゆるモバイルバッテリで、3,000mAhの容量を持ち、自分自身の充電時にも、ほかのデバイスを充電する時にもQuick Charge 2.0が利用できる製品。もう1つは、自動車のシガーソケット用のQuick Charge 2.0対応充電器で、自動車の中でQuick Charge 2.0が利用可能になる。

 日本の市場ではNTTドコモとKDDIがサポートを決めたことで、Quick Charge 2.0に対応した機器が増えつつあり、今後登場する機器でも対応する可能性が高いので、こうした新しい機器が登場することはユーザーにとってメリットがあると言え、日本市場での発売に期待したいところだ。

Quick Charge 2.0のデモ。といっても、この電力計の先に繋がっているのはQualcommのデモ機ではなく、筆者手持ちのNTTドコモ SC-01G(Galaxy Note Edge)。Quick Charger 2.0に関しては日本が世界で最初に本格的に導入されている市場になっている
Qualcommブースに展示されていた自動車のシガーソケット用Quick Charge 2.0に対応した充電器
Quick Charge 2.0に対応したモバイルバッテリ

(笠原 一輝)